「みんなみんな、大ニュース!今日ウチのクラスに転入生が来るんだって!」
「え、ホント!?どんな子、どんな子?」

 報道部の朝倉和美は、登校して早々声を荒げていた。
 内容はもちろん、アスカのことである。
 情報源はまほらチアリーディングの3人組。

 曰く、「とにかくスッゴイカワイイんだから!」
 曰く、「あの可愛さは反則よぉ」
 曰く、「あの笑顔はネギ君とタメ張ってるよ、きっと」

 とのこと。
 麻帆良パパラッチの異名を持つ和美の情報は信憑性が高いと評判ではあるが、10歳であるネギの可愛さに勝る人間などいるのだろうかと、数人を除いた全員が疑惑に満ちた表情を浮かべていた。
 数人とは、昨日すでに会っている明日菜と木乃香。初めから興味を持っていないのは長谷川千雨とエヴァンジェリンと絡繰茶々丸。桜咲刹那に龍宮真名の7人である。
 明日菜と木乃香は、すでに会っていることもあり、周囲と同じように騒ぐことはなく、ニコニコと表情を緩めていたのだった。

 ちなみに、ネギが作ったホレ薬の一件は3人組が和美に報告をした後、教室で起こっていたことをココに記しておこう。


 エヴァンジェリンから後の4人は、ここへ来るであろう人間の力を後々に知り、驚愕することになるがそれはまた追々。


 和美の話に乗ってくるのは鳴滝姉妹や春日美空。
 2−Aの中でもいたずら好きの3人組である。
 委員長でありショタコンとの噂もある雪広あやかは、委員長として興味を抱いているようだが真意は不明だった。

 いたずら好き3人衆は、お決まりのトラップを仕掛けようかと相談していたのだが、ネギ先生が先に入ってくることはわかりきっているため、断念したのだった。




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
初登校と初戦闘




「はい、みなさん。席についてくださーい!!」

 扉を開けて入ってくるのは担任であるネギだった。担任とは言ったものの、彼はまだ教育実習生である。
 彼は教壇に立ち、全員が席に座ったのを確認すると、号令がかかる。

「起立〜。気をつけ、礼ぃ〜」
『おはよーございますっ!!』

 27番、宮崎のどかの控えめな声の後に、大きな声が教室に響き渡った。
 その迫力に未だ慣れることができないのか、ネギは少したじろいだ。

「皆さん、おはようございます。えっと、HRを始める前に転入生を紹介しますね」

 教室がワッとざわめく。
 先ほどまでの話題の中心だったのだから、無理はない。

「アスカさん、どうぞー」
「し、失礼します……」

 少し扉を開けてから、おずおずと教室へ入り込んでくる人間が1人。扉を閉めたところで、教室を見回すと顔を赤く染めた。

 教壇まで距離はそれほどないのだが、アスカにはとても長く感じたがここまで来てしまったからにはもう腹をくくるしかない。
 腰まである茶色い髪がなびかせ、ゆっくりと歩を進めていく。

 注目を浴びるのは、苦手。

 それを知っているのか、ネギは苦笑いを浮かべていた。
 ゆっくりと教壇に立つと、正面を見据える。
 室内を映すその目は現在の顔色と同じ、紅い色をしていた。

 この目の色によって表情が変化したのはエヴァンジェリンと刹那、真名に長瀬楓の4人。
 しかしそれも一瞬のこと。
 次の瞬間にはアスカを凝視していたそれぞれが何事もなかったかのような表情に戻っていた。

「えっと、今日から皆さんの仲間になる、神楽坂アスカさんです」
「ぼ、僕……か、神楽坂アスカです。どうぞよろしくです」

 顔を赤く染めたままゆっくりと頭を下げると、神楽坂というファミリーネームに反応したのか、教室がざわめいた。
 「アスナと同じ苗字だ」とか、「アスナと一文字違いだ……」といったセリフが飛び交う中で、結局最終的には、

『カワイイーッ!!』

 ほぼ全員からそんな言葉が出ていた。

 ネギは再び息を吸い込んだところで凍りついた。アスカも同様である。
 それをなぜかと問うならば。
 ネギが初めてクラスに挨拶したときと同じように、クラスのほぼ全員の人間がつっこんできたからである。

「うわぁっ!?」
「ねぇ、どこから来たの?」
「うぇ、ウェールズで……」
「え、じゃあネギ君とは知り合いなの!?」
「はいぃ、一応〜」

 目をぐるぐるさせたアスカの悲鳴はネギに聞こえることはなく、生徒たちはすでにアスカへの質問タイムに突入していた。

「はっ、みみみみなさん!戻ってくださいぃ〜!!」

 我に返ったネギは、両手を振り回して生徒たちを止めようと奮闘している。

 彼の苦労は、数十分後に報われたのだった。

「質問タイムは、休み時間にお願いしますね。あ、アスカさんはあそこの席に座ってくださいね。それじゃあ、授業始めますよ〜」

 というわけで、ようやく1時間目の授業が始まったのだった。
 彼が座った席は出席番号2番である明石裕奈の後ろ、26番エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの隣だった。


 ちなみに。


 1時間目は残り10分で。
 始めた途端に終わってしまったためネギが床に手をついて涙していたのは、また別の話。












 アスカは休み時間のたびに質問攻めにされていた。
 休み時間には机の周囲に人だかりができ、昼食になれば「一緒に行こう」と誘われて。
 男であるアスカから見ればそれは天国と地獄。
 飛び交う質問に1つ1つ答えながらも、思考は理性と壮絶な戦闘を繰り広げていた。

 しかも、授業中であるにもかかわらず隣からはひしひしと伝わってくる人を射殺すような視線や魔力などにより、授業の始まりと同時にぐったりと机に突っ伏したのだった。






 本日のカリキュラムも終わり、現在は放課後。
 部活にいった生徒もいれば、教室でおしゃべりをしている生徒もいる。
 そんな中、度重なる質問攻めと何気に難しかった授業から開放されたアスカは席を立つと、教室の出口を目指していた。

「あれ、アスカ帰るん?」
「うん。また明日ね。このか」
「ほかほか。また明日な〜」

 木乃香と言葉を交わすと、さらに数人と挨拶をしつつ教室を出た。
 時刻はすでに夕方。
 周りに生徒たちがたくさんいるために疲れを前面に出すわけにはいかない。
 一刻も早く部屋に行こう、と校舎から外へ出たときだった。


「アスカ殿」
「え、あ……」
「長瀬楓でござるよ、アスカ殿」

 声をかけたのは、部活だと言って教室を出ていったはずの楓だった。
 「帰るでござるか?」と問われて「そうですよ」と答えるのは普通のこと。
 彼女の本題は、ココからだった。

「お疲れのところ申し訳ないでござるが、拙者についてきてはもらえないでござるか?」
「(ござる?)うん、いいですよ」

 楓はくるりとアスカに背を向け、ピョンピョンと飛び跳ねながらどこかへと消えていった。
 突然の行動に呆けること数秒。

「あ、追いかけなくちゃ」

 カバンを抱え、慌てて楓の後を追ったのだった。
















「よく来てくれたでござるよ、アスカ殿」

 楓は大きな木の根元に立っていた。
 さきほどからもそうだったのだが、服装が制服ではなくなにか装束のような服装をしている。
 細目で笑みを浮かべたまま、巷で世界樹と呼ばれる木の根の上で微動だにすることなくアスカを待っていたのだった。

「……それで、なにか用事ですか?」
「なに、簡単なことでござる」

 懐から何かを取り出し、投擲。
 その何かは、アスカの顔の横を通過すると、地面へと突き刺さった。
 背後へ向き直り、目を凝らす。
 楓が投擲したのは、黒光りする金属……一般的には手裏剣とよばれる忍具だった。

「拙者たちと、戦って欲しいのでござるよ」

 その言葉を待っていたかのように、茂みからがさがさと音を立てて2つの人影が姿を現した。

「あれ、えっと……?」
「桜咲刹那」
「龍宮真名だ。よろしくな」

 その名のとおり、2つの人影は刹那と真名の2人だった。
 2人とも、手には野太刀と大きな銃をそれぞれ持っているところを見ると、戦う気満々といった感じだ。

「あなたは『こちら側』の人間でしょう?」
「っ!?」

 はじめて見たときから気なっていました、と言い放たれた刹那からの突然の問い。

 アスカの目が見開かれ、紅い目が3人を射抜いた。
 目の前の少女を取り巻く雰囲気ががらりと変化したことに目を見開くと、ゾクリと背筋を冷たいものが走る。
 冷や汗が、頬を伝った。

「刹那さんも、真名さんも、楓さんも。『こちら側』の人間なんですね?」

 アスカの問いに、3人は小さくうなずく。

「なぜ、戦うんですか?」

 問うた。

「あなたは敵なのか、味方なのか。それをはっきりさせておきたいのです」

 抑揚のない口調で、淡々としゃべるのは刹那だけ。
 楓と真名は、言葉を発さずにアスカをただ凝視しているだけだった。

「そうですね……立場上、味方ということになるかと思いますけど」

 僕の仕事はネギ先生を見守ることですから。

 相手が『こちら側』の人間だとわかると、アスカは自分がここに来た理由を何の気なくしゃべっていた。
 普通は隠すものだろう?
 真名も楓も、そんなことを考えていた。

「木乃香お嬢様に、危害を加えるつもりは?」
「ありませんよ……って、お嬢様?」
「あー……今のを気にする必要はないぞ」

 間髪入れずに、刹那の問いに答えていく。
 お嬢様、という言葉に首を傾げれば、真名が額を抑えつつ言葉を発した。

「……ならば、それを証明してください。私たちと戦うことで」
「…………」

 アスカは、ゆっくりと目を閉じた。
 懐へ手を入れると、取り出したのは一枚のカードと白く細い布。
 それらを持って、頭の後ろへ手を回す。
 白い布は、長い髪が邪魔にならないようにと1つに束ねると強く結ぶためのものだったのである。

「本当は戦いたくはないのですが、どうしてもと言うなら仕方がないですね……わかりました。お相手しましょう」

 キュッと布で髪を縛ると、カードを顔の前へ。
 絵の描かれた面を3人に向けると、目を開く。
 紅い目が現れると同時に、強い風が3人を吹き付けた。

「これは……ちょっと、拙者たちでは勝ち目が薄いのではござらんか?」
「おい刹那。これは……」
「わかってるっ!!」

 格が違う、と言おうとした真名を言葉で止め、歯を立てた。



「来れ<アデアット>!!」



 アスカが手にもったカードとは、仮契約の証。 
 携帯していれば、自分専用の武器をいつでも喚びだせるスグレモノだ。

 白い光が放たれ、1つの形を成そうとアスカの手に収束していく。
 やがて、手には一振りの大剣が握られていた。
 刀身は片刃で、雪のように白い。
 柄から包帯のような白い布が伸び、吹き付ける風になびいていた。

 手にした大剣は、華奢な少女が扱うにはあまりに無骨なのだが。
 持ち主の身長以上はあるだろう刀身を持つ大剣を、まるで羽でも振っているかのように。
 2,3回宙を踊らせた。


「アーティファクト『バンショウノツルギ(万象の剣)』です。……準備は、いいですか?」




 3人一緒でも構いませんよ?




 自己紹介をしたときのものとは違った笑みを見せ、アスカはそう3人に言い放ったのだった。





第3話です。
始めの部分、今度は強引すぎやしないかと思われます。
大目に見てやってください。
そして、次回本格的に戦闘になります。



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