「え……」
「私、神楽坂明日菜よ」

 アスカと明日菜の2人を中心に沈黙が走る。

「ほ、ほら、同じ苗字の人なんて、日本にはたくさんいるじゃないか。君たちもあまり気にすることないんじゃないかな?」
「う、うん……そうだよね」

 少し冷や汗を流しつつ、タカミチは大手を振って説得を試みた。
 明日菜はといえば、じーっとアスカを凝視している。
 なにを言われるのかと、アスカはただただ肩をすくめていた。
 すると。

「そうですよね。名前も似てるのもきっと何かの縁よ、きっと。だから、仲良くしよっ、ね?」

 明日菜はにんまりと笑うと、アスカの両手をつかんでぶんぶんと振りはじめた。
 握手のつもりらしい。
 アスカはその勢いに圧倒されて、女の子に振り回されるなど我ながら女々しいな、などと思いつつ、されるがままになっていた。

「もぉ〜っ、仲間ハズレはひどいんとちゃう?ウチも仲間に入れてーな」
「よ、よろしくね。えと……」
「近衛木乃香や。このかでええよ」
「うん。よろしくね、このかさん」

 明日菜と同様に木乃香とも握手を敢行。
 こちらは力任せにぶんぶんと振り回さず、互いに手を握って普通の握手。
 彼女もアスナさんと同じだったらどうしよう、と本気で考えていたアスカは、内心で安堵の息を吐き出していた。

「アスカくんは、君たちのクラスに転入予定だから。ネギ君、よろしく頼むよ」
「あ、はいっ。よろしくお願いします。ボク、担任のネギ・スプリングフィールドです」
「か、神楽坂アスカです」

 よろしくお願いします、とお互いに頭を下げた。




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
転校前夜と初登校




 3人と別れ、アスカはタカミチとともに帰路についていた。
 空はすでに暗く、月が顔を見せている。
 肩を並べて歩く2人は、それぞれがまったく違う表情をしていた。

 タカミチは苦笑顔で。
 アスカは疲れを前面に。

「しかし、ネギ君もニブいねぇ」
「てっきり気付くかと思ったけどね」

 今この場では、アスカのことを知っているのはタカミチのみ。
 寮の前で会った3人のうち、知り合いなのはネギだけだったにもかかわらず、彼はアスカの正体に気付くことなく別れてしまっていた。




「さて、着いたよ」

 タカミチが歩みを止めたのは一件のアパートの前。
 特に小汚いわけでもなく、無駄に綺麗なわけもなく。
 アパートというよりもマンションといったほうがしっくりくるような建物だった。


「汚くて悪いけど、今晩だけは我慢な」
「別にいいよ。ウェールズの僕の部屋だって、かなり汚いし」

 気になんてしないよ、とアスカは笑みを見せたのだった。
















「なに、どうしたのよ?」
「あ、アスナさん。実は、さっきの人のことなんですけど……」

 さっきの人、とはアスカのことである。
 明日菜もネギの考えていることに気付いたのか、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「名前のことなんて気にしてないわよ。っていうか、気にするほどのことでもないし」
「いえ、違うんです。ボク、前に彼女に会ったことあるような気がして……」
「え、でも……さっきのネギ君、あの子のこと知らないみたいな顔してたやん」
「そうなんですけど……」

 ソファの上にあぐらをかき、昔へと記憶を手繰りよせる。
 しかし、彼女のような女の子に出会ったことなどあるわけがない。






 ……あれ?






 ある考えにたどり着き、ネギは眉を寄せる。

 そういえば、お姉ちゃんが

「1週間くらいしたら、援軍をそっちに送るからねv」

 なんて言ってたっけ。
 それから、名前……神楽坂アスカさん……アスカさん……

「あぁっ!!」
「なに、ネギ君どうしたん?」

 勢いよく立ち上がると、視線を天井へ。
 その後でさらに1つの疑問を思いつき、目を丸める明日菜と木乃香を尻目に再びソファへと身体を預けた。

 ……なんで女の子の格好、してたんだろう?

 アスカを知っている人間なら誰でも思いつくもっともな疑問であった。
























「うわっ!ね、ネカっ、ヤメテーッ!!……っ!?」

 ばさぁっと勢いをつけて上体を起こすと、見知らぬ部屋にいた。
 荒い息を整えながら、寝ぼけ眼で部屋を見回して、昨日へと記憶を巡らす。


 …

 ……

 ………


「そうだ、麻帆良学園に転入させられたんだっけ」

 不本意ながら女子中等部の制服を着て、スカートの中が見えないようにとネカネに持たされた黒いスパッツをはく。
 正直な話、足にぴったりくっついて気持ち悪いのだが、はかなければ男であることがバレる恐れがあるために、はかざるをえない。
 洗面所を探し当てると、寝ぼけ気味の顔を洗った。

「あぁ、ヤな夢見た……」

 今更になって思い出す。
 本気で死んでしまうかと思うような夢を見てしまった。
 アスカは、乱れた髪を梳かしながらため息を吐いた。

 ちなみに、夢の内容はご想像にお任せしますv(by 管理人)。



「おはよう、アスカ君。よく眠れたかい?」

 洗面所から戻れば、タカミチはすでにスーツを着込んでいた。

「うん、もう学校行くの?」
「僕は先生だからね。生徒たちよりは早く行かないと、なっ」

 言葉の途中でネクタイを首元までしめると、やんわりと微笑んだ。

「ゴハンは?」

 朝は朝ゴハンを食べるもの。
 ウェールズでは毎日きっちり食べることが日課になっていた。
 日課といっても、毎日が休日のようなものだったから、環境が変わっても食べれるものだと思っていたのだが。

 尋ねた問いに返ってきた答えは

「学園で何か食べるからいらないよ」

 とのこと。

「そんなんじゃ、身体に良くないよ。ちょっと待ってて」

 アスカが台所に消えて5分少々。
 台所から出てきたと思ったら、手にもったプラスチック製の箱をタカミチに手渡した。

「はい、おにぎり作ったから。これ食べて」
「あぁ、ありがとう。悪いね」
「いいよ。泊めてくれたお礼だと思えば」

 いそいそと箱をカバンにしまうと、腕時計をのぞいた。
 現在は7時30分。
 靴を履くと、

「アスカくん、とりあえず用意してくれるかな。家の鍵、閉めちゃうからさ」
「……………」

 どうやら、自分も早く出ないといけないらしい。
 それを聞いて、アスカは自分のカバンを手にとり、抱える。
 靴を履いて外へ出ると朝日が差し込み、その眩しさに手で顔を覆い隠した。
 背後ではガチャン、という金属音が聞こえる。

「さぁ、行くよ。君はこれから学園長室に行かないといけないんだからね」
「ま、また行くの?」
「そりゃそうだよ。寮の部屋番号だって聞かなきゃいけないだろ?」

 そう言って歩き出す。
 アスカはその後について学園を目指すのだった。

 朝御飯を食べ忘れたことで、後悔したのはアパートを出た後でのこと。
 環境の変化とは本当に恐ろしいものである。









 道中。

 ここでもかといえばそこまでなのだが。

 学園長室までに部活の朝練に出ていた生徒たちの視線がアスカに向いていたのは言うまでもないだろう。











「昨日は良く眠れたかな、アスカ君?」
「朝、怖い夢を見ましたよ」

 聞くや否や学園長はふぉっふぉと笑うと、机の引出しから1つの鍵を取り出し、アスカに手渡す。

「寮のカギじゃよ。本当なら2人部屋なのじゃが、君にはなにかと不便じゃろうからな。……部屋は651号室じゃ」

 ネギくんたちの部屋の隣じゃよ。

 彼はそう言うと、再び笑った。
 確かに、見守るならば近いほうが都合がいい。
 学園長のさりげない気配りに、アスカは深く頭を下げたのだった。

「さて。君も知ってのとおり、2−Aの担任はネギ君じゃ。教室まで一緒に行ってもらうからの」
「……はい」

 後ろに控えるタカミチを見やり、うなずく。
 彼は学園長の意を汲み取ってか、学園長室の扉を開けた。

「……失礼します」
「おぉ、ネギ君。この子が、転入生の神楽坂……」
「はい、昨日ご挨拶しましたから。ね、アスカさん?」
「え、あ、はい」
「そうかそうか。では、行きなさい」

 失礼しました、と一言述べて、ネギとともに学園長室を出た。
 昨日に続いて再び、出たところでうなだれ大きく息を吐きだす。

 周りに誰がいようと、苦手なものは苦手らしい。














「どうかね、彼は?」
「えぇ、彼はいい子ですよ。とても『白き舞姫』なんて二つ名がついているとは思えませんよ」

 朝ご飯の代わりにおにぎりも持たせてくれましたし。

 タカミチは笑みを浮かべて答えた。
 彼はアスカとは知り合いだが、学園長にとっては彼は得体の知れない人物であるわけで。
 一晩、彼の調査をタカミチに依頼していたのだった。

「それならば、安全だと考えてよさそうじゃな」
「ええ。むしろ彼の性格からして、僕たちの手伝いを買って出てくれますよ、きっと」

 そう言葉を交わして、2人は互いに笑い合ったのだった。












「昨日はどうでした?」
「ええ、ヤな夢を見ましたけど、概ね問題はありませんよ」
「ヤな夢って……どんな夢だったか聞いてもいいですか?」
「いいですよ。そう、あれはネカネが……っ!?」

 慌てて口を両手で抑える。
 しかし、ネギはこぼした言葉をしっかりと聞いていたようで。
 勝ち誇ったように笑みを浮かべると、アスカに向けてブイサインを作っていた。

「やっぱり、アスカだったんだね?」
「……バレちゃったか」

 ネギはアスカの服装を見て、

「なんでこの学校に?」
「……わかって聞いてないか?」

 じとりとネギを見つめると、彼はニコニコとした表情を崩さずに「よく似合ってるよ」とつぶやくものだから、アスカは顔を赤く染め、片手を振り上げるとネギの脳天へ向けて軽くチョップを繰り出していた。

「僕だって、こんなの不本意なんだから。そういうことは言わないの」
「でも、ホントに似合ってるから……」

 ビシィッ!

「……たっ!?」

 頭を抑え、うずくまること数秒。
 暴力はやめて、といわんばかりの涙目をアスカに向けるが、そんな表情はすぐに消えていた。

「ネギ。ここでは僕のこと、しゃべっちゃダメだからね?」
「うん。わかってるよ」

 こんどはネギの頭に手を置くと、あやすようにポンポンと叩いたのだった。









第2話でした。
始めの部分、かなりあっさりしすぎではないかと思われますが、勘弁してくだされ。
私の文章力の限界です。
そして、初日で正体バレました。



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