「ふぉっふぉっふぉ……やっかいな仕事を引き受けたものじゃのう、アスカくん」
「引き受けたんじゃないですよ、無理やりやらされてるんです」

 ここは麻帆良学園の学園長室。
 この場にいるのは現在3人。
 1人は学園長の近衛近右衛門。
 もう1人は広域指導員である高畑.T.タカミチ先生。
 そして、もう1人はアスカと呼ばれた少女であった。

「しかし、アスカくん。その格好……」
「タカミチ。そういうことは思ってても言わないの」
「いや、ゴメンゴメン。あまりに似合ってるものだから、つい……ね」

 そう。
 先ほど少女だと述べたが、本名は神楽坂 飛鳥。

 少年……のハズなのだが、現在は女子中等部の制服を来ているのだ。
 元々、中性的な顔立ちであったため、着ている制服が似合いすぎていたのだが。
 さらに、腰まである濃い茶色の髪が赤を基調とした服に映え、余計に目立ってしまっている。
 端から見れば、女子中学生と間違われてしまうのではないかというほど、彼は女らしい風体をしていたのだった。
 極めつけは、声変わりは終わっているはずなのに男にしては高めの声。
 もはや彼が男だと言っても、信じる者はいないだろう。
 タカミチは羞恥心丸出しの彼を見て、噴出してしまっていたのだった。


 なぜこんなことになってしまったのだろう……
 アスカは遠くウェールズにいる今回の事の元凶を思い、遠い目をしていたのだった。

 なぜ彼が麻帆良学園にいるのかといえば―――





魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
始まりはウェールズで






「アスカ〜っ!」
「?」

 ここはウェールズの山奥。
 綺麗な金髪をなびかせて近づいてくる声に、アスカは周囲を見回した。

「……なんだ、ネカネじゃん。どしたの?」
「なんだ、はないでしょう?……って、そうじゃなくて」

 ずいぶんと長いこと走っていたのか、ネカネと呼ばれた女性は軽く息を乱したままアスカと向かい合っていた。

 ネカネ・スプリングフィールド。
 かの有名なサウザンドマスターであるナギ・スプリングフィールドの娘である。
 もちろん、魔法使いだ。
 そして、アスカのパートナーでもある女性だった。

「ネギが魔法学校を卒業して、修行に出たのを知ってるでしょ?」
「うん、知ってるよ。お父さんを探すんだー、ってずいぶんと意気込んでたもんね」

 ネギとはネカネの弟で、今年魔法学校を卒業して立派な魔法使い<マギステル・マギ>になるための修行の旅に出たのは1週間ほど前の話のこと。
 修行先が日本の女子中学校だと聞いて、幼馴染のアーニャと2人して学校長に抗議しに行っていたことはまだ記憶に新しい。

「それで私、ネギのことが心配なのよ」
「……まぁ、気持ちはわからんでもないけど」

 姉1人弟1人で生きてきた2人だからこそ、心配だという彼女の気持ちはアスカも痛いほどにわかっていた。
 自分がいても、どこか無理をしていた部分もあったから、余計に。

 彼女と仮契約を結んだのだって、6年前の事件で戦えるようにと無理を言ったのだ。
 2人を守るために。

 仮契約を結んだところで、役には立たなかったのだけれど。

「だから……貴方にネギのこと、見守っていてもらいたいのv」
「どうやってさ?」

 とある事故により海を漂流していたところを彼女の父、ナギに助けてもらったのは10年も前のこと。
 それこそ、彼に足を向けて眠れないほど感謝している。
 アスカ自身に事故当時の記憶はまったく綺麗さっぱり消えてしまっているのだが、それは仕方のないことである。

 ネカネとは、ウェールズに初めて来たときからの付き合いで、仲はかなり良かった。


 ……だからだろうか?


「はい、コレv」

 生徒としてネギを見ていて頂戴、と言われても断ることができなかったのは。
 渡されたのは、ネギの修行の地である麻帆良学園の制服。
 なお、なぜ彼女が制服を所持しているのかという質問は却下します。

「僕、男ですけど?」
「本当なら先生として行ってもらうのが一番なんだけど……ね」

 ネカネはにっこりと笑うと、首を傾げた。
 アスカは元来、中性的な顔立ちであったため、ネカネと彼女の友人とでアスカに女装をさせまくっていたので、彼自身も驚くことはない。

「これ、着るの?」
「そうvv」
「だから僕、おと……」
「な・に・か……?」
「わかりました」
「それじゃ、いってらっしゃ〜いvv」


 黒いオーラを背後に感じ、二つ返事で了承してしまったが最後。

 この後アスカは着の身着のまま、チケットと彼が貯めこんだポケットマネーだけを持たされ、飛行機に乗せられ、今に至るというわけだった。




 回想終了。









「しかし、キミはそれでいいのかね?」
「え?」

 学園長は長いあごひげを撫でつつ尋ねれば、アスカはなにがですか?といわんばかりの顔をして見せた。

「キミはそれでいいのか、ということじゃよ」
「えぇ。僕もう15になりますが、学校ってトコロにいったことなかったんですよね」

 不本意ではあるのですが、これはまたとない機会なんですよ、とアスカは笑った。
 彼は魔力は多少なり持っているものの、使える魔法といえばネカネに教わった風を媒介とした扉<ゲート>くらいで、攻撃や治癒といった魔法が使えるわけではない。だから、ウェールズでも魔法学校に行くことはなかった。
 さらに、住んでいたのが山奥であったことから、学校というところに彼は通ったことがなかったのだ。

「一応日本語はしゃべれますし、勉強の基本的な部分はネカネから戯れ代わりに教わってましたから、問題はないかと」

 彼はニッコリと微笑んだ。




 そんなこんなで、彼は見事に麻帆良学園に入学を果たしたのだった。
 クラスは2−A。担任はもちろん、ネギ・スプリングフィールドである。
 通うのはいつからかとたずねれば、

「まぁ、明日からでも問題ないじゃろう」

 ふぉっふぉっふぉ、と学園長は先ほどと同様に髭を撫でつつ老人特有の笑い声を上げたのだった。

「詳しいことは高畑君から聞きたまえ……高畑君、よろしく頼むぞい」
「わかりました」




 書類に関してはワシの方でやっておくから心配は無用じゃ。

ということで、アスカはタカミチとともに学園長室を出てきていた。
 廊下に出たところで、アスカはうなだれてため息を吐く。

「大丈夫かい?」
「大丈夫だけど、ああいう雰囲気は苦手でさ……」

 タカミチはうなだれるアスカに、軽く笑みを見せた。

「それじゃあ、説明をしようか。詳しいことと言っても、学校の案内くらいしかできないけどな」
「あ、それならいいよ。通ってれば自然と覚えるだろうし。それより……」

 僕、今日からどこで生活すればいいの?

 衣食住のうち、衣と食はなんとかなる。では住はというと、学園長はそんなこと一言も言っていなかった。

「どうしよう……」

 野宿か?
 正直な話、かなり疲れがたまっている。
 アスカの承諾とともに、日本への飛行機へと強行したのだから当然ではあるのだが。

「今日は僕の部屋に泊まればいいけど、明日から寮に入ることになると思うから場所だけ教えておくよ」
「うん。助かるよ」

 というわけで、2人は学生寮へと足を向けたのだった。







 道中。


「ねぇ、高畑センセと一緒にいるコ、誰かな?」
「カワイイ子だね〜」
「どこのクラスかな?」


 部活中の生徒たちに注目されていたアスカは、肩をすくめ縮こまっていた。
 前を歩くタカミチは、挨拶をした生徒たちに挨拶で返して、繰り返している。

「なんか……視線が僕に向いてない?」
「そりゃ、そうだろうね。キミ、背が高いだけで男に見えないからね」

 タカミチの言うとおり、アスカの身長は、当たり前だが同年代の女子の一般的な身長よりも高い。
 170を超えた身長に中性的で整った顔立ちとくれば、注目されることは間違いなかった。

 首を回してちらちらと周囲をうかがえば、3人の女子生徒が視線に気付いてか元気良く手を振ってきている。
 それが誰かと言うならば、

 まず2−A・17番、椎名桜子。
 同じく2−A・7番、柿崎美砂。
 そして2−A・11番、釘宮円。

 の3人であった。

 女装した姿で公の場を歩いたことなどもちろん一度もない。羞恥心により顔を赤くしていたが、手を振られたからには返さねばなるまい。というのが、彼の心情であるからして。
 顔は赤いままで、眉の端を下げたまま笑みを浮かべると、ひらひらと小さく手を振った。
 もちろん、アスカは彼女たちの名前を知るわけもないのだが。

 すると。

「「「……っ!!」」」

 ぼぼぼ。

 顔を真っ赤にして、アスカの視界から消えていった。




「(ちょっとちょっと、あのコカワイイよっ!)」
「(は、反則よ。あの笑顔は……)」
「(アレはネギ君とタメか、それ以上ね……)」

 この会話は、3人組がアスカの視界から消えた後のひそひそ会話である。
 彼女らはすっくと立ち上がり、互いにうなずくと部活そっちのけで走り出した。

 目的地はもちろん、報道部。





「今の子たち、どうしたんだろう?」
「うーん……なんて言えばいいのか……」

 3人組の消えた方向に顔を向けたまま頭上にハテナマークを浮かべたアスカに、男のはずがしっかりと女として見られている彼にかける言葉がみつからず、タカミチは頭を掻いていた。





「さぁ、ついたよ。ここが学生寮だ」
「お、大きいね……」

 時刻はすでに夕方を過ぎ、暗くなり始めている。
 そんな中で、アスカは建物をほえ〜っと見上げながら言葉をこぼした。

「部屋番号は後で学園長から教えてもらえると思うから。明日、聞きにいくといい」
「わかったよ……」

 つぶやくアスカに苦笑いをすると、タカミチの視線は背後へ。




「もっとしっかりしなさいよ、先生!!」
「は、ひゃいっ」

 彼の目に映っているのは、ツインテールの女の子と、黒く長い髪の女の子。
 そして、アスカが見守る対象であるネギ・スプリングフィールドの3人である。

「アスカ君、ネギ君たちだよ」
「え?」

 寮へ向けていた視線をタカミチへ、さらに自分の背後へと視線を移す。

「あの2人、ネギ君とずいぶん仲良くなったみたいだね」

 確かに。
 ネギを真ん中に2人が囲むようにしてこちらへと歩いてくる。
 笑っているところを見ると、彼が2人に受け入れられていることがアスカでなくともわかる。

 そして、初めにこちらに気付いたのはツインテールの女の子だった。

「あ、高畑先生っvv」
「やあ、明日菜くん」

 明日菜と呼ばれた女の子は、目を輝かせてこちらへと走って来ていた。目当てはもちろん、タカミチである。

「こんばんは、高畑先生」
「木乃香くんも、こんばんは」

 木乃香と呼ばれた黒髪の女の子もにっこり笑って会釈をする。

「どうしたんですか、こんなところで……」
「あぁ。この子に学校の案内をしてたんだよ」
「タカミチ、その人は……」

 全員の視線がアスカへと注がれる。

「紹介しよう。さ、アスカくん」
「か、神楽坂……アスカです……」
『えぇ……っ?』

 タカミチに背中を押し出され、3人の前へと踊り出た。
 神楽坂、というファミリーネームは、アスカがナギに拾われる前のものである。
 日本では珍しいファミリーネームであるため多少は戸惑うと思っていたのだが、目の前の3人の考えていることは別のことで。



「あ、アスナさんと……同じ苗字……」
「ちょっ、わ、私、姉妹なんていないからね!!」
「え……」



 今度はアスカが驚く番だった。





はじまりました。第1話です。
時間軸としては、第1巻の2時間目部分になりますね。


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