「なにやってんだ!!!」 私はただ、自分に出来ることをしただけだった。 そのために必死になって訓練して、才能だらけの中で必死についてきたのに。 私の放った魔力弾が、ウイングロードを走るスバルに向かっていた。 当然、狙ったつもりは毛の先ほどもない。 狙ったのはガジェットだったはず。 「無茶やった上に味方狙ってどーすんだ!」 私を置いて逝ってしまった兄の代わりに執務官として、管理局見せ付けてやりたかった。 私の銃は……ランスターの弾丸は、狙ったものを必ず撃ち抜く。 その、たった1つの真実を。 なのに、放った弾丸は狙いを大きく反れて。たまたま、その先にスバルがいた。 それだけのはず。 当たる前に、ヴィータ副隊長が弾丸を打ち落としてくれたけれど、鋭く吊り上げられた目には怒りをはらみ、私は、射抜かんばかりににらみつけられていた。 「後はあたしがやる……」 でも、その道は果てしなく遠かった。 その真実にたどり着くには、果てしなく、どれだけ手を伸ばしても届かない。 環境と、状況と、自分自身が招いた現実は。 「2人まとめて、すっこんでろっ!!」 突き刺さる言葉の刃となって深く、深く突き刺さる。 状況は今も逼迫している。 ヴィータ副隊長は自身の相棒を振るい、ガジェットを1体、2体と破壊の限りを尽くして、それでもなお止まらない。 私がやったことに対しての怒りに任せているわけじゃないだろう。 より迅速にガジェットを対処しなければならなくなったからだ。 自分たちのせいで。 「やべっ!」 ガジェット3体がヴィータ副隊長の猛攻を潜り抜けて、アグスタへと一直線に向かっていく。 ウインドは当然のこと、ライトニングの2人も近くにはいない。もちろん、私たちが今から行っても間に合うわけもない。 しかし。 「ふぁ……」 『ほら、マスター。あくびなんかしている場合ではないでしょう?』 その先には1人、ガジェットたちにとっての最後の大ボスが待ち構えていた。 「わかってるよアストライア……なんせ」 肩口の大剣を水平に振りかぶり、グリーンの光を纏う。 ガジェットたちが展開し始めたAMFなど気にも留めずに。 彼はただ。 『Aerial Emission』 「っ!!」 大剣をただ水平に振り抜いた。 斬り裂かれたガジェットの爆発を間近で眺めながら、 「目の前にいるんだもんねえ」 大剣を再び肩口へ戻しながら、「めんどくさ」といわんばかりに、部隊長の呼びかけに応えた隊長が小さくため息。 放たれた魔法は1つ。風を斬撃に変えて飛ばす。それだけの魔法を、綿密な魔力運用によってその場にとどめ、即興の大剣を超える巨大な剣を作り上げる。 AMFにより解除し切れなかった、密度の濃い魔力で編まれた風の刃が、3体を真っ二つに斬り裂いたのだ。 そんな光景にヴィータ副隊長は小さく息をつくと。 「てめーら! すっこんでろっつったろ!!」 さっさと戻っとけ!! 怒気だけを自分たちに向けて放つと、再びガジェットの掃討へと飛んでいった。 「ティア……」 しょんぼりした表情のスバルを横目に。 やっぱり、と思う。 私のまわりは、才能という塊ばかりがひしめく、けして凡人には届かない場所なのだと。 魔法少女リリカルなのは The Another StrikerS #17 結局、オークションは何の問題もなく開催された。 ガジェットはほぼ全機撃墜。任務の成果としては上々。 唯一の気がかりである召喚士の足跡は追うことが出来ないまま、開催を迎えていた。 そんな報告を受けたはやては、一番の目的であったオークション会場の守備はまったく持って問題もなく果たされたと判断した。 近隣の観測隊に通達を出したから移動の軌跡位は追いかけることはできる、というルキノのフォローによろしくと伝えて、通信を切断。 さて、と。 「そこのお嬢さん、オークションはもう始まってるよ。」 声をかけてきたナンパ男の相手でもしてやるか。 ● ガジェットは全機撃墜。 会場、および場内の参加客にも被害ゼロ。予想外だったアンノウン、ガジェット・スコーピオン3体もウインド分隊の活躍で撃破。 結果だけならば上々だった。 「えと、報告は以上かな。現場検証は調査班がしてくれるけど、みんなもサポートしてあげようか」 なのはとフェイトと、。 新人6人を目の前に、なのはは今後の予定を告げる。 自分たちの仕事はオークション会場の警備にある。それが終わった今、自分たちがここにいる必要はないのだから。 今回もハードな任務だった。体力的に。はやく帰って寝たい。 大きくあくびしつつ、は視線を新人たちへ向けると。 新人たちはまだまだ元気そうだった。 『新人たちはまじめですね………………貴方と違って』 「そうだねどうせ俺はふまじめですからねー」 はいはいはい、とアストライアのお小言を聞き流しながら、視線はただ一点に止まっていた。 新人の中で唯一、うかない表情のティアナに。 「ティアナは、ちょっとお散歩しようか」 なのはも気づいていたのだろう。 受けた報告の通り、落ち込むティアナにそんな言葉をかけていた。 使用カートリッジ4発。生成した魔力弾は13個。技術が進歩してカートリッジの使用も一般的になってきたとはいえ、4発も使えば身体への負担は大きいはず。 そして、そんな身を削ってまで作り出した魔力弾のうちの1つが目標を反れ、味方であるスバルに飛んでいった。それは、彼女自身が無茶をした反動とも言えるだろう。 朝から晩まで死ぬほど訓練して、それを本番で生かせなかったのは残念だが、まだまだ発展途上なのだからそこまで落ち込むことでもないだろうに。 ともあれ。 「2人ともお疲れさん」 「もーダメかと思いました!」 「死んだかと思ったッスよ!!」 自分の部下をねぎらってやることにしよう。 散歩から戻ってきたティアナの顔は少しばかり晴れ晴れとしていたので、それほど気にすることもないのだろうけど。 「面倒だけどさ。スコーピオンの件、検証班が早く来いってうるっさいんだよ……だから、ちょい付き合ってな」 『はいっ!』 とりあえず、まずは事後処理から。 にとっては面倒この上ないことだが、やらねばピンクの悪魔が襲ってくるからちゃんとやらないと。 大きくため息を吐き出しながら、 「なんか聞かれたらテキトーに答えときゃいいからさ」 道中、不真面目発言をし続けた。 今回の一件で一番がんばったのは、間違いなくウインド分隊であろう。 フォルテとエミリアにとっては初任務。にしては、とんでもなくハードであったことはまず間違いないのだが、“忍耐”の象徴であるデュアルデバイスを扱い始めてまだ1ヶ月も満たない彼らが、手負いとはいえあのサソリの化け物をきっちり倒してみせたのだから、訓練成果も充分といったところだろうか。 「そういえばさん」 「うん?」 訓練らしい訓練なんか少しもしていないくせに、満足げにうなずくに、エミリアは声をかける。 それは任務中も、死にそうな目に遭っている間も、ずっと気になっていた疑問。 はじめて見たときからずっと、気になっていたことだった。 「さんと一緒にいた人、一体誰なんですか?」 それは、スコーピオンとの交戦中に現れた1人の男性のことだった。 褐色痩躯、獣耳。 両腕を包み込むように装備された白銀のデバイス。獣耳。 凛とした精悍な顔つきに、獣耳。 隊舎では見たことのない人であるにも関わらず、はまるで知った風な口を利いていた。 自分たちの知らない誰かが、機動六課にはいる。 自分の所属している部隊の謎は深まるばかりなのだから、無理もない。 「よ、ここにいたか」 「あー、ちょうどいいところに」 そんなときだった。 まるで示し合わせたかのように現れたのは、フォルテもエミリアも良く知った存在であった。 蒼い体毛に覆われた、大きな狼。 「フォルテ、エミリア。紹介するよ……こちら、ザフィーラさん」 「へ?」 「いやいやさん。いくらなんでもバカにしすぎだと思うんスけど」 ザフィーラのことは、2人ともよく知っていた。 隊舎を住まいとし、はやてかシャマルとよく一緒にいることを見かけることの多い賢い狼さん。 おおきくて、ふわふわで、可愛い物好きであるエミリアにとってはご馳走のような存在。前に、抱きつこうと思って追い掛け回したことはナイショである。 そんな2人は、次のの一言で大いに硬直することになる。 「バカになんかしてないって。ねぇ、ウインド分隊副隊長さん?」 副隊長。 それは、隊長の補佐であり、自分たちの上司であり。 「「………………」」 「さっきのおにーさんは、ザフィーラさんの人間モードだよ。言うの忘れてたけど」 わるいねー。 あははと笑うに対して、一抹の殺意を覚えたのは無理もない。 前々から気になっていた副隊長不在の理由がようやくわかった上に、自分たちを助けてくれた、自分たちが知らない誰かが実は、副隊長ご本人だったのだから。 これって、結構大事なことなんじゃなかろうか。 副隊長の存在自体はしっかりと、六課発足当時からずっとあったにも関わらず、今の今まで知らなかった。その存在をいまさら伝えてくるの適当さは、実に腹立たしい。 だからこそ。 「どぉしてもっとはやく教えてくれないんですかーっ!!」 「なに考えてんだ、アンタはぁぁぁっ!?!?」 声を上げないはずもなかった。 ● 「あ、くんくん」 「んあー?」 部下2人からの説教もそこそこに、検証班の依頼の元、破壊したスコーピオンの残骸を集めていたところ。 なのはと、ダークグリーンのスーツの身を包んだ、つい今さっき会話した優男がやってきた。 破壊した機械の残骸なんか集めてどーすんだとか、飛び散った破片集めるのめんどくさいとか、内心でそんなことを考えていたからか、やる気のない返事を彼女に返していたのだが。 「なのはちゃんと…………?」 「ユーノくんだよ、ユーノくん」 忘れちゃったの? 年甲斐もなく、かわいらしい仕草で首を傾げるなのはを見て、その視線をユーノと呼ばれた優男へ向ける。 彼は、なのはの仕草にか自分の態度にか、苦笑いを浮かべていた。 ユーイといえば、いつかの事件から10年間、ほとんど会うことのなかった友人の名前だ。 が首都防衛隊に配属されてから会ったのはたったの1度だけ。大怪我して入院してたときに、見舞いに来たくらいだったような。 そんなおぼろげだったからこそ、完全に記憶から抜け落ちていた。 記憶の奥底に埋もれた記憶を引き出そうとして…… 「……めんどくさ」 やめた。 10年間ほとんど会ってないということは、さほど印象にも残らなかったのだろうから。 思い出してもまた忘れるに決まってる。 ということで。 「2人してこんなところまでご苦労さん。まだ作業残ってるから、またあとでな〜」 「あ、くん!?」 とっとと退散。 作業に戻った。疲れたので、早く帰って、寝たいのだ。 「もー、くんてば……ひさしぶりのユーノくんなのに」 「相変わらずみたいだね、も」 10年たっても変わってないね。 ユーノは貼り付けた苦笑をそのまま、気だるげに作業を続けているにそんなコメントを残したのだった。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||