まずは、ガジェット同士の距離を離さないと。 が考えた最初の思考がそれであった。スターズ、ライトニングの面々と見ていたときの2体がまるで示し合わせたかのように連携していたように見えたからだ。 片方が尻尾を振り下ろしたあと、その隙を与えないようにもう片方が腕を振り回す。 間髪入れずの猛攻に、後ろの2人は苦労していたのだから、3体目までまとめられて乱戦にでもなっちゃったんじゃ話にならない。 『考え込んでいるヒマなどないはずですが』 「わかってるよ。まずはこいつらをどうするか、それが問題だってことくらい」 今は2体がまとまっている状況に、こっちは背後にウインド新人の2人。 先の猛攻を耐えて耐えての現在だから、疲労もきっとつみあがっていることだろう。 だからこそ、2人にはなるべく楽をさせるべき。本当なら自分が楽したいところだけど、悲しいかなさっきまでの爆睡のおかげで気分爽快だ。 「まったく、あのまま寝て終わるはずだったのに・・・」 鋭い尻尾がを襲う。 背後の2人が動いていないので、躱すことはできない。 だったら。 「反らすまで、ってな」 『Solid Protection!!』 左手を突き出して、尻尾の軌道に沿うように、かつ自分たちから照準が外れるように展開された盾を動かす。 火花を散らし、ぎゃりぎゃりと音を立てつつもその軌道は3人の横スレスレを通過していった。 同時に、地面を蹴る。 「2人とも!」 『Fatal form set!』 携えていた片手剣は、一瞬にして突撃槍へ。 展開された環状魔法陣を潜り抜けて、その身体はトップスピードへと加速する。 「あとよろしくううぅぅぅぅっ!」 そして、は背後でデバイスを構えた2人に残りの1体を丸投げ。 突撃槍は尻尾が健在な1体と共に木々を薙ぎ倒しつつ、ドップラー効果よろしく姿をけしたのだった。 残ったのは2人を助けるために彼が尻尾を斬り落とした1体のみ。 ぼやぼやしている暇はない。いくら当たれば即死の鋭い尻尾がなくなったとはいえ、自分たちにとって強敵であることは間違いじゃないのだから。 「とにかく、やるよフォルテ!」 「わかってるって!」 今までずっと煮え湯を飲まさされてきたのだ。そろそろ、溜まりに溜まったフラストレーションを発散させないだろう。 「暴れるぞドレッドキャリバー!」 『・・・了解』 「サポートお願いね、セイファートハーツ」 『お任せを。貴女は自分に出来ることを精一杯やってください』 目の前の巨大な影を前に、相棒と声をかけあう。 それは、それぞれの信頼の証であり、短い期間で培った、でも強く結ばれた絆そのもの。 2人の戦いは今、佳境を迎えた。 魔法少女リリカルなのは The Another StrikerS #15 「ぬうんっ!」 魔力を込めた渾身の一撃。 それを顔面に受けてなお表面が少々へこむ程度という高い耐久性に、ザフィーラは表情に険を宿す。 言い換えれば打撃攻撃はほとんど効かないということになるのだから、当然といえば当然なのだが。 そして、斬撃は有効であることもがそれを実証している。 『主殿』 自分に剣は扱えない。己の武器はこの拳のみなのだから。 スコーピオンの尻尾による攻撃をあしらいながら、どうしたものかと思考をこらすが。 『主殿』 打撃が有効な攻撃手段でない以上、自分に打つ手がなかったりするのだが。 『主殿!』 「ぬ?」 『小生に考えがあるであります!』 ようやく気がついてくれたとばかりに、フェンリルはその考えを提示する。 外部からの打撃攻撃が有効でないならば、内側から滅殺してやればいい。硬い殻の内側は、例外なく軟らかいものというのが通説だからと。 ザフィーラは、まだ自身の相棒の全てを知っているわけではない。だからこそ『内側から』という言葉の意味がわからなかった。 『第97管理外世界の武術に……』 「こまい薀蓄などどうでもいい! 要点だけを簡潔にしろ!」 『了解であります! 魔力をヤツの内側へ通し、中から爆発させるであります!』 「どうすればいい!?」 尻尾を弾き飛ばし、ザフィーラは声を張り上げる。 今必要なのは現状を打破することだ。吹き飛ばすことは出来ても破壊できないこの状況で、のんびりしている暇などないのだから。 そんな主の要望を聞き入れて、フェンリルはその基本的な動作を逐次説明していくことになる。 吹き飛ばした尻尾が襲ってくることはない。なぜなら、尻尾を頭上でくるくると回転させ、遠心力と共にザフィーラを薙ぎ払おうとしているのだから。 『拳を強く握って!』 正拳を繰り出すように、右腕を引く。 『魔力を腕に集中!』 循環する魔力を意図的に拳へむける。 ここまでは普段の打撃と何ら変わりはないが。 『“力”は極力抑えて……』 普通の正拳と違うのは、ここからだった。 力任せ殴るのではなく、あくまで触れるだけに留める。溜められた魔力は触れている面から内側に流れ、爆発させる。 つまり、通常の正拳とは違い、ただ触れるだけでよいのだ。 『主殿! 来るであります!』 それは、尻尾による薙ぎ払い。 遠心力をこれでもかと溜めこんだ一撃は、展開した盾の上からでも落とされるだろう。 ならば躱すか? 答えは否。躱す時間など微塵もない。 だったら。 「おおおおっ!!」 『Penetrate……』 どんっ!! 渾身の力と魔力をもって、フェンリルの提案に従って動くだけ―――!! 突き出された拳は尻尾と激突した。 当然、純粋な力は相手の方が明らかに上。みしみしと腕に負荷がかかり、今にも吹き飛ばされそうだ。 だが、真骨頂はこれからであった。 拳の先を通して尻尾に流れ込む魔力は、衝撃と同時に。 『Impact』 パァンッッッッ!! 弾けとんだ。 相手がガジェットだからと殺傷設定にしていたためか、尻尾はもがれて宙を舞い、スコーピオンはまるで痛みを感じているかのように金切り声を上げる。 その結果に驚いたのは、他でもないザフィーラだった。 思い切り殴ろうとはしていない。ただ、向かってくる尻尾に対して拳を向けただけで、結果としてダメージも少なく最高の結果を得ることが出来ていた。 要は単純な魔力爆発を、意図的に起こしただけの話。 それが、ここまで有効な手段になろうとは、ただ話を聞いただけのザフィーラには知る由もなかった。 だからこその驚愕だった。 『体内の魔力を発し、その魔力エネルギーを爆発させる……第97管理外世界の武術の1つ“発勁”を近代ベルカ流に置き換えた魔法です』 「……攻撃できるのならば、あとは畳み掛けるのみ。ゆくぞ、フェンリル」 『了解であります!』 ● 無数の光弾がを襲う。 1つ1つの威力も高く、部下2人から離れたこの場所は、すでに穴だらけ。木々も無残な姿と化していた。 まるで攻撃が止む気配がない。そのエネルギーはいったいどこからやってくるのか、などと発生させた竜巻の中で考える。 『しかし、このままではジリ貧です。魔力が地味に減らされてますよ』 「わかってるって。だからどうしたもんか考えてるんじゃないか」 降り注ぐ光弾の雨。 尻尾自体を使ってこないのは、その間合いにがいないからだろう。 フェイタルフォームで吹き飛ばしたおかげで割と距離は稼げたものの、その所為か今度は近づくことも出来ずにいる現状。 射撃で応戦も出来るが、そんなんじゃいつまで経っても終われない。むしろ魔力切れであっさり落ちるのがオチだろう。 当然、砲撃するにも時間がかかる。それまで自分自身を守ってもいられないし、たったの1撃であっさりやられるほど、ヤワな作りにはなっていないだろう。 「なんとか近づいて斬るしかないか……」 『剣士の超奥義ですねわかります』 妙なことをのたまうアストライアをスルーする。 問題はその近づき方だ。いかに安全に、痛くなく近づくことができるか。 『少しくらい痛みが伴うのは仕方ないと思いますが』 「だって後が面倒だし。俺やだよ、後まで怪我引きずるの……ん?」 考えてみる。 健康でいるより、怪我したほうがいっぱい休めるんじゃないだろうか。 機動六課に入ってからこっち、休む暇などほぼ皆無であったことを考えると、ここで怪我してちょっと戦闘できないくらいになった方がお得なのでは。 ……いや、それはない。部隊長が部隊長だ。わざと怪我したら、きっと見破られるし、下手したら居間まで以上にデスクワークが増えることになってしまう可能性も否定できない。 というかかなりの確率でそうなるだろうから。 「やっぱり怪我するのは却下だなぁ」 『何を基準に決めてるんですか』 「やだなぁ。怪我した方がいっぱい休めるんじゃないかなんて思ってないよ?」 『……思ってましたね』 敵の攻撃が止まない中で、なんて緊張感のない。 1人と1機の掛け合いを見ていれば、そんなツッコミを入れたくもなるだろう。 「ま、いつまでもここにいても仕方ないし。行動あるのみ、かね」 まっすぐ前に地面を蹴る。 敵の光弾は射撃魔法のようにまっすぐ自分に向かってきているのだから、その下方に隙がある。そこを狙って、ただまっすぐ走り抜ける。 頭上スレスレを光弾が通り抜けては背後で爆発。その爆風が後押ししてくれる。 は1人、自分の選択が間違いではなかったことを確信して。 「アストライア!」 『了解です……Load Cartridge』 微細な振動と共に吐き出される薬莢は2つ。 急激に高まる魔力を感じながら、携えた突撃槍は大太刀へと変化する。 すでに敵の尻尾の間合いなのだろう。頭上に掲げた尻尾が襲い掛かってくる。走りつつ進路変更すると、彼の真横を尻尾が通過していく。 『Sprinter』 次か来る前に、と加速する。 まっすぐ、ただまっすぐスコーピオンへと向かい、 「一閃必斬!」 『Ariel Emission!!』 敵の目の前で、溜まった魔力を爆発させる。 上段から縦に一閃。発生した斬撃波は、鋭い切れ味をもって硬く巨大な身体を真っ二つに斬り捨てた。 バランスを崩したスコーピオンの体躯が崩れ落ち、砂煙を上げる。 「ふぅぅぅぅっ、疲れたぁぁぁ……」 動かなくなったスコーピオンの残骸を見上げて、剣を振り下ろした状態で。 は大きく息をついたのだった。 「よし、帰るか」 『他の方々のサポートなどは?』 「めんどくさい。てか、そんなことしなくてもみんなきっちりやってくれるってば」 『貴方のその信頼の高さはなんですか。少なくとも、ミスターフォルテとミスエミリアはまだ新人なんですから……』 フォローとかいらないですか? アストライアのそんな進言に、内心めんどくささを感じつつも、来た道を戻るであった。 ● さて、そんなフォルテとエミリアはというと。 「おりゃああっ!」 がきん、がきん、がきん。 フォルテがとにかく押しまくっていた。 ドレッドキャリバーの刀身に魔力を帯びての斬撃、というよりは、叩き潰さんとばかりに攻撃の手を緩めない。 当然、それはスコーピオンの両手に装備されている盾によって攻撃は通らない。 左右の2つをあわせて1つの盾になるそれは強固で、傷1つつかないほど。 しかし、彼にとってはそれでよかったのだ。 なにせ、彼自身は囮でしかないのだから。 『Quick Shooter』 「ファイアっ!」 本命はエミリアの射撃攻撃。 ただでさえ硬い表面で物理攻撃がほとんど通らない以上、頼るべきは外からの援護だった。 しかし、その射撃魔法もスコーピオンの身体に当たると同時に弾けて消える。AMFではなく、純粋な防御によって。 「うえぇっ!?」 当然、それは見越していた。 相手は強い。生半可な力じゃまず攻撃は通らない。かといって、あの敵の隙を狙うなんて細かいこともまだ、できない。 だからこそ、自分たちに出来ることはただ攻撃の手を緩めないこと。それに尽きた。 「射撃も通らねえのか……っ!」 爆散する魔力弾を横目にボヤくフォルテを、尻尾が襲う。 すでにによって切断され短くなった尻尾だが、叩きつけるだけならばまだ可能なほどの長さを残していた。 両腕で盾を作ったまま、尻尾だけを動かして、敵を叩き潰さんと薙ぎ払われるが。 「どっせーっ!!」 『Compression Strike』 尻尾と同時に、フォルテは剣を尻尾に向けてたたきつけた。 エネルギーを圧縮し、インパクトと同時にそのエネルギーを解放するフォルテの攻撃魔法は、腕への痺れを代償として、尻尾を斬り飛ばすことに成功していた。 宙を舞う尻尾を頭上に、フォルテは体勢を崩したスコーピオンを追撃する。 「その盾も邪魔ああぁぁっ!」 『Compression Strike』 開いた両腕の間から懐に飛び込んで、さらに一閃。 右腕を斬り飛ばした。 「っし!」 「フォルテ!!」 しかし、スコーピオンもただでは終わらない。 残った左腕を高く掲げて、 「うおわっ!?」 『Protection』 フォルテに向けてたたきつけたのだ。 展開された盾の魔法に阻まれ、左腕はフォルテの鼻先でその勢いを止める。その先で、フォルテが引きつった表情を見せていたが、敵の攻撃がこないことを認識するや否や小さく息つくが。 『主、この場を離脱してください』 「……は?」 突然聞こえた相棒の声に、素っ頓狂な声を上げると。 『シールドがもちません』 「それを早く言えって!!」 眼前でシールドにヒビが入っていくのを見つつ、背後へバックステップを踏んだ。 その場をフォルテが離れると同時にプロテクションは破壊され、地面に向けて盾が叩きつけられる。 まるで爆発したかのような轟音と、暴風がフォルテを襲う。 「のわあぁぁぁっ!」 それに抗うことも出来ずに、フォルテは風に乗って吹き飛ばされていた。 「フォルテ!」 目の前に背中から着地し咳き込むフォルテを見つつも、杖を構えたエミリアは動くことはなかった。 これは、フォルテが十分に時間を作ってくれたからこそ。 「いくよ、セイファートハーツ!」 『参りましょう、マスター!!』 最高の砲撃の準備をすることが、できたのだ。 足元にミッド式の円形魔法陣が広がり、その外周を風が渦巻く。 杖の先端に浮かぶバスケットボール大ほどの魔力球は強い光を放っている。 カートリッジ4つ分の濃縮された魔力は球の内部で渦を巻き、発動のときを今か今かと待ちうけて。 「ディバインッ!」 『Smasher!!!』 放たれた光条は追撃しようと肉薄するスコーピオンを貫いた。 「ほれみろ、大丈夫だったじゃんか」 『大丈夫でも様子を最後まで見てあげるのが上司ってものじゃないのですか?』 文句のつけようもない戦いぶりに、というか思っている以上に2人は成長してくれていたらしい。 近接特化型のフォルテは自身の危険をものともせずに立ち向かう姿に。なのはと同じ遠距離が得意なエミリアは、自身にあてがわれた時間を有効活用し、なのはのそれに劣らないほどの砲撃を放ってみせた。 物陰からのぞき見ていたは、もはやここに用はないとばかりに踵を返した。 背後に、疲れを思いっきり見せつつ座り込む2人を残して。 『くんっ!』 そんなときだった。 彼の元に、必死そうななのはからの念話が届いたのは。 「うへえ」 は当然、その声を聞きつつげんなりした表情を見せたのだった。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||