「どーして、こんなことに……」

 エミリアは1人、自身のおかれた状況に内心で頭を抱えていた。
 隣には同僚でありパートナーである少年が笑みを浮かべ、向かい合うのは華奢な体躯に朱のみつあみが目立つ少女の姿。
 表情には微笑が貼り付けられているが。

「てめーら、恨むならけしかけたあのバカを恨むんだな」

 しかし、向けられた視線は笑ってない。笑ってないよ。

「あうぅ……」

 自分はこの数日間、いつもよりも頑張っただけ。
 それは全部デュアルデバイスであるセイファートハーツとの呼吸あわせのため。
 セイファートハーツはいつでもどこまでも、「すべてを委ねて」の一点張り。最近ようやく「独り善がり」の意味もわかってきたところで、微量ながら魔力の運用が安定してきたところ。
 だいたい、セイファートハーツと一緒に訓練を始めてからこっち、誘導型射撃魔法を展開したつもりが直射型射撃魔法としてしか扱えなかったりするし、砲撃はまだ試すにはちょっとばかり。しかもちょっと間違えば絶対に暴走する確信もあった。
 それなのにいきなり実戦、しかも相手はヴィータ副隊長。満足に応戦できるわけないと、エミリア自身が思っているわけで。

「勘弁してよぉ……」

 自分が実践に出るにはまだ早い。それを認識しているからこそ、ため息を吐かずにはいられない。
 げに恨めしきは敬うべき我らが隊長様。
 その本人はというと。

「うーん、むにゃむにゃ」

 寝てるし。

くんってば、勤務時間中なんだから起きててよぉ〜」

 苦笑い浮かべて彼を起こそうとしているなのはさんが、なんか不憫だ。
 というか、半分あきらめてるようにも見えるけど。

「じゃあ、模擬戦始めよっか。ヴィータ、フォルテ、エミリア……準備はいい?」
「おうよっ!」
「とーぜんっす!」
「……はい」

 やる気十分なヴィータとフォルテ。腹をくくったように小さく頷くエミリア。
 双方ともにデバイスを構えて――

「はじめっ!!」

 フェイトの号令で、模擬戦は始まった。



 
魔法少女リリカルなのは The Another StrikerS  #11



 激突する。
 突出したのはヴィータとフォルテだった。
 小ぶりなハンマーと巨大な存在感を醸す大剣が衝突。舞い散る火花が、歯を強く立てた2人の表情を映し出す。
 ヴィータのデバイス、グラーフアイゼンのファーストフォルムであるハンマーと、フォルテのドレッドキャリバーのファーストフォーム、カイゼルフォームと名付けられた大剣に両者は強く力を込め、拮抗した腕力同士が弾き飛ぶ。

「いっけぇー!」
『Quick Shooter』

 一瞬の隙をエミリアは見逃さない。
 宙に浮かべた4つの青いディバインスフィアが、体勢の整わないヴィータに襲い掛かる。
 しかし、ヴィータの表情に険の色はない。
 眼前で開いた指の間に挟まった4つの鉄球を放り投げ、

「甘ぇぞヒヨッコども!」
『Schwalbefliegen!』

 ハンマーヘッドが真紅を撃ち出す。
 高速で飛来する4つの鉄球はバリア貫通性能を伴い、彼女に襲い掛かるはずだった4つの青いディバインスフィアを貫き、速度を落とすことなくエミリアへ特攻。自分の魔力球があっさり破られ、あっという間に自分のところへ飛んできた4つの魔力鉄球に反応もできず瞠目する。

「ミリィッ!!」
「や、やばっ!?」

 爆音と爆煙が立ち上る。
 バーチャルとは思えないほどのリアリティをもって、砂煙がヴィータの視界を塞ぐ中、その光景を眺めていた彼女はしかし、にやりと笑って見せた。

「……なかなかやるじゃねーか」

 風に乗って晴れた煙の先に、エミリアを守るように大剣を振るい鉄球を叩き落したフォルテの姿が映し出された。


 ●


「おぉ〜」
「ヴィータのシュワルベフリーゲンを打ち落とすとは……」

 展開された攻防に感嘆の声を上げたのはスバルとシグナム。
 感心したような表情で顎をつまみ、シグナムはヴィータと対する剣士の姿を視界の中心に収める。
 剣の達人である彼女だからこそ、高速で飛んでくる鉄球を4つ、身の丈ほどの大きな剣で叩き落したフォルテの技術に驚きを得たのだ。

「フォルテの担当はだから……って言っても、当の本人はぜんぜん起きる気配ないけど」
くんってばぁ〜、いい加減起きて私たちとOHANASHIしてよぉ〜!」

 なのはは相変わらず、の身体をゆっさゆっさ揺らして起こそうとしているが、睡魔がよほど強力なのか目を開ける気配もない。
 てか、適度な身体の揺れがいい感じのゆりかごになっているのか、彼の睡眠は深まるばかり。
 口の端からよだれが垂れててだらしないのもいいところだが。
 フェイトにいたってはすでに起こす気にすらなれないのか、苦笑を見せていた。

「むむぅ……もう食べれないって……」
「べ、ベタだわ……ベタすぎる寝言だわ……」

 の寝言に間髪いれず突っ込みを入れたのは目の前で聞いていたティアナだ。
 クールな性格の彼女は、つい突っ込みを入れてしまった自分に絶望してか、もう聞かぬまいと視線をそらす。
 見るべきは模擬戦なのだから、と自分に言い聞かせて。

「寝言は寝てから言いたまえ!」
「寝てるのはアンタでしょうがぁっ!!…………ハッ!?」

 結局、ツッコまずにはいられないティアナだった。
 そんな漫才染みた展開に、フェイトを含めたライトニング隊の3人は苦笑いするばかり。

「でも……」

 今の空気を破らんと、エリオは視線を戦場へ戻す。
 元々、彼は周囲に気を使える良い子なのだが、あえて空気の読めないフリをしたのだろう。ある意味で十分、空気を読んでいた彼だった。
 閑話休題。

「すごい反応速度でしたね、フォルテさん」
「まるで、自分のやるべきことを身体が知っているみたいでした」

 キャロの一言。
 それは本能。リアルタイムに展開される実戦で、考える前に身体を制御する見えない意識。本人の思考を度外視した、ヒトの奥底に眠るケモノの意識。
 それは時に誰よりも強い強い力を発揮できるものだが、それは戦いの中でしか使い物にならない単一の力。
 そして、戦いそのものがなくなってしまえばそれこそ、無用の長物と化してしまうもの。

「成長すればきっと、私でも苦戦を強いられるだろう……でも、今は」
「だれかたすけてええええ!!!」

 シグナムの言葉をさえぎって発された言葉は、いまだに寝っぱなしのの声だった。
 シリアスな空気をぶち壊し、しかもその大声は助けを求める声。
 いったい彼の脳内で何が起こっているのやら。
 ただ、わかっているのは。

「ふぇ、フェイトちゃん……わたし、もー我慢できないんだよ」
「な、なのはちょっ、落ち着いて!?」

 砲撃仕様バスターモードに変形したレイジングハートの切っ先を、自身のピンチなんか微塵も感じ取っていない幸せそうな表情を浮かべたに向けて、今にも砲撃を放とうとしていること。
 つまり、彼は知らずになのはの我慢の限界を突破してしまったわけで。

「こ、これでも……結構我慢したほうだと思うんだよ?」
「わかってる! わかってるから落ち着いてなのはぁっ!」
『やっちまいましょう、マスター』
「レイジングハートもあおっちゃダメだよっ!?」

 切っ先に集まる桜色の魔力。
 形作られるディバインスフィア。

「ねえ、ティア」
「……ん?」

 耳に入ってくるカウントダウン。
 止めようと涙目で声を張り上げるフェイトじょうしの姿。
 どうしてよいかわからずあわあわと挙動不審な行動を見せる子供たち。

「あの3人……特になのはさんとに……じゃない、さんさ。仲……いいんだよね?」
「……あたしにはそうは見えないけど」
「なんていうか、遠慮のない間柄、みたいな?」

 私とティアみたいな、とスバルは言葉を続けて、初めてティアナに顔を向ける。
 その表情には笑みが貼りついていて。

「そっ、そんなの……知らないわよ」

 頬をほんのり赤く染めて、ティアナはスバルから顔を逸らす。
 その表情に味をしめたかのようにスバルはにへらと笑ってみせると。

「やぁだなぁ、ティアったら照れ屋さん♪」
「なぁっ!?」
「ディバイン、バスターぁぁ!!!!」
――ッ!!」

 ティアナが赤面すると同時に、桜色の奔流が1人の青年を消し炭にしたのだった。


 ●


 カッ!

 ヴィータの背後で、桃色の光が溢れた。
 同時に、轟音と地鳴り。
 また、なのはのヤツが砲撃かましたんだろうなぁ、とか思いつつ、とんでもないバカ魔力に苦笑する。
 リミッターありでもかなりの高出力なのだから、魔力の貯蔵量は相変わらずといったところか。過去に悪魔と言った自分が彼女に持った印象は絶対間違いじゃなかったと思うわけだが。

「なのはの砲撃喰らった後でわりいけど……思いっきり顔面どつかせてもらうぜ、!」

 ひとまず今は、目の前のヒヨッコどもとの片をつけねーとな。

 グラーフアイゼンを振りかぶり、晴れ切れていない煙の中へと突入する。
 かすかに見えるシルエットを頼りに、低く這うように走り抜け、両手に握った柄に力を込める。

「テートリヒ……」

 しかし。

「遅いっすよ、ヴィータ副隊長?」
「なっ!?」

 彼らもまた、そう簡単に陥落するわけには行かない。
 新人には、新人の意地があるのだから。
 ヴィータの背後に現れたフォルテはすでに振りかぶり、振り切らんと力を込めている。目を見開いたヴィータが視界に映したのは、目の前に迫った長大な刀身のみ。

「ファイト一発ぅぅ!!!」
『Jet Slash!!』

 吐き出される一発の薬莢が宙を舞がった瞬間には刃がヴィータに届いていた。
 完全な不意打ち……いや、自分の読み違いか。
 ともかく、おもいっきり虚をつかれてしまった。
 でも。

「じょーだんっ!!!」

 自分が新人ひよっこ相手に負けるわけもない。
 まだ、模擬戦は始まったばかりなのだから―――!!

 強烈な衝撃が腕を走る。
 グラーフアイゼンを支える両腕に走る痺れに表情をゆがめながら、ステップを踏んでバックダッシュ。
 そんな自分の行動を予測していたかのように飛来する4つの魔力球。
 フォルテの背後にいたエミリアが彼と自分の動きに合わせて射撃してきたのだ。
 前衛の騎士フォルテが守るは後衛のお姫様エミリア。特筆すべきところの存在しない普通のフォーメーションだが、息の合ったコンビネーションこそがの言っていた強さの秘訣だろう。
 事実、一瞬とはいえ今、自分は追い込まれているのだから。

「楽しくなってきたぜ、アイゼン!」
『そうですね!』

 セカンドフォームをかたどったグラーフアイゼンの声もどことなく高揚しているように聞こえて、我が相棒ながらなんとも頼もしい。
 表情は楽しげに、口元がつり上がり。

「おらぁ、どんどんこいやーっ!!」

 両足に力こめて、地面を蹴りだす。
 アイゼンを振り上げた瞬間、小さな振動。カートリッジがロードされ、ヘッドに炎がともる。
 間合いを詰めてきたのは当然、コンビの前衛を勤めるフォルテだ。大剣の切っ先が地面を擦り、砂煙が舞う。

「…………」

 強い。
 身体だけなら自分よりも小さいのに、腕力は同等以上。
 対人戦における戦闘技術は間違いなく上の上。なにせ、自分とエミリアの2人を相手にして、どちらにもしっかり対応しているのだから。
 視野が広く、状況に応じて立ち回る。

 相手は、明らかに格上だった。
 でも。

(わくわくだ)

 テンションは最高潮。
 たった数回の攻防でそれほど高揚している自分に驚き、これから彼女とぶつかり合う瞬間を心待ちにしている自分の思考に、こんなにバトルジャンキーだったかな、と呆れて。
 それでも、湧き上がる感情の昂ぶりは抑えられない。
 そもそも、抑える気など無い。

「ド派手に行くぜ、ドレッドキャリバー…………渾身の一撃!!」
『了解―――カートリッジロード!』

 彼女が、大地を蹴った。
 感じる圧迫感。肌に突き刺さる強烈な闘争心。
 それらすべてが、彼自身を煽る。
 戦え、戦え、戦えと。

「受けてみな、この俺の一撃!!」
「剛炎爆砕!」

 フォルテは大きく上段に剣を構える。
 足元に浮かぶのは円形の魔法陣。刀身が真紅に染まり、渦を巻く。
 ヴィータはベースボールのバットを構えるかように振り構える。ハンマーヘッドに宿った炎は大きく立ち上り、その熱風がフォルテに向かう。

「クリティカルブレード!!」
「フランメ・シュラーク!!」

 2つのデバイスが交差した瞬間、観戦者の耳を貫くほどの爆発を引き起こした。



 2人がお互いしか見ていない今。
 エミリアは動いていた。
 今は自分にできることだけをするために。

 正直な話、デュアルデバイスの扱いは明らかにフォルテの方が上。忍耐の象徴であるデュアルデバイスを当然のように使いこなし、あのヴィータ副隊長と同等に渡り合っている。
 そんな彼のことは置いておく。今の自分にできることは、とにもかくにもすくないのだから。

 いうなれば今の状況は、一種のスランプに近いと思う。
 魔法はなかなか発動させられないし、したらしたでしっかり運用できることが稀な状況。
 『忍耐』の時はまさに今なのだ。
 耐えて、耐えて、耐えて、耐えた先にあるものだけを見据え、そのためならば……

「いこう、セイファートハーツ」

 どんなことだって、できる自負がある。
 これ以上みんなとの差を開かせるわけにはいかないし。

『了解です。……全力全開でいきましょう!』

 杖をバトンのようにくるくると回し、杖状のセイファートハーツの先をヴィータへ向ける。
 同時に返ってきたのは頼もしい相棒の声だった。

 正直、砲撃魔法はまだ怖い。下手をしたら暴発するかもしれない。まだまだ正確な魔力運用ができていないから、なんて理由もなにもなくて、ただ砲撃を撃てる自信がない。
 今の彼女を支配しているのは、ただそれだけのことだった。
 でも。

「今やらずに……」

 何が起こるかわからない。
 だから怖い。
 でも、いつかは通らないとならない道なのだ。
 きっと、これは『いい機会』なのだ。

「いつやればいいんだ!」

 ロードされるカートリッジ。吐き出される白煙。
 身体の内側を荒れ狂う魔力の流れを御するために、ゆっくりと目を閉じた。

 悠然とデュアルデバイスを使いこなすフォルテと、相棒と息が合わずちぐはぐになってしまう自分とで、何が違うのか?
 そんなことを考えてみる。

 デュアルデバイスと自分は対等。そのスタンスこそがウリであり、強さそのものなのはよくわかる。
 今も遠くで見ているであろう上司と彼の相棒との間にある絆を考えれば、なおさら。
 デバイスにお小言を言われて不貞腐れる人を見たのは初めてだったし、普段の掛け合いはまるで、腐れ縁の友人との間にあるそれのよう。

(……そか)

 『貴女のすべてを私にゆだねてください』
 セイファートハーツの放った言葉の意味が、ようやくわかったような気がした。

「セイファートハーツ」
『なんでしょう?』

 魔導師とデュアルデバイスは、本当の意味で『相棒』となりうる間柄。
 ならば、セイファートハーツの真意は。

「魔法行使の細かいところは全部任せた。私は“戦う”ことだけ考えるから」
『…………』

 全部自分でやらないで、少しくらい仕事こっちに回せと。
 ありていに言えばそんな感じ。

「ミスったら、承知しないからね?」
『……ふふふ、上等です。望むところですよ』

 目を見開き、フォルテとヴィータの攻防を見据える。
 最初の爆発の後、煙の中でなお戦い続ける2人の姿に感嘆しながら、セイファートハーツへと流す魔力をイメージする。
 めちゃくちゃにぐるんぐるん回る光の集まりを、一本の線に収束させる、そんなイメージを。

 調整やらなにやらは全部セイファートハーツがやってくれているのだ。
 だったら、これから砲撃する自分にできることは、彼女が効率よく仕事ができるよう魔力を調節することだけ。

 集え、光よ。すべてを貫ち、閃く槍となれ。

『Divine Smasher solemnity Set』

 セイファートハーツの一言と同時に、目を開き、

「ディバインスマッシャー・ソレムニティ…………ファイア!!」

 閃光が、走った。


 ●


 自身に迫る青い奔流に、フォルテと打ち合っていたヴィータは目を見開いた。
 彼との攻防だけに意識が向いて、その『外』にまで目が行かなかった。
 完全に失念していた。敵は1人ではなかったことを、いまさらながらに思い出した。
 でも。

「アイゼンっ!!」
『Explosion!』

 負けるわけには、いかない。
 砲撃の射線上から逃れるように、背後へ飛ぶ。同時に、グラーフアイゼンのハンマーヘッドに取り付けられたロケットが魔力噴射を開始する。
 そんな彼女を、フォルテは追う。彼自身も射線上にいたのだから当然といえば当然のことだが、今のヴィータにとっては好都合。
 アイゼンの魔力噴射に抗うことなく空中で回転。遠心力すらも上乗せて、

「ぶっ叩く!!!」
『Raketenhammer!!』
「うわあああっ!?」

 攻撃の気配を感じ取り防御したフォルテに、防御の上からハンマーヘッドを打ち付ける。
 ロケットの噴射と遠心力。そして一転に集中した力は彼を、防御ごと吹き飛ばす。
 青い光の走りぬける、背後へ。

「……へ?」


 じゅっ


 そんなフォルテを見届けることなく、ヴィータは意識を『外』へと向ける。
 青い光の元へ。

「安心するにゃあ、まだはえーぞエミリア!!」

 4つの小さな鉄球を放り投げ、砲撃の余韻を残したエミリアへ。

『Schwalbefliegen!!』


 ●


 結果的には、ヴィータの完勝。

 勝負のついた戦場を眺めて、ティアナは、あせっていた。
 『忍耐』の象徴であるはずのデュアルデバイスを、受領したばかりでいともたやすく使いこなすフォルテと、まだまだ拙いながらも、大出力の砲撃魔法を放ってみせたエミリア。
 2人には、デュアルデバイスを使いこなすことはまだまだ難しいだろうと思っていたから。その予想があっさり裏切られ、自分なんかあっという間に追い抜いて、ヴィータ副隊長と対等の戦いを展開していたから。
 自分自身、一通りのことは難なくこなせる技術はあると思う。でも、それではダメなのだと、2人やスバルを見ていて思っていた。

 やはり、才能か。
 デバイスを使いこなす技術も、バカ高い魔力の制御方法も、ズバ抜けて高い突破力も。
 自分にはないものを、突出した何かを、みんなは持っている。
 対して、自分はどうか?
 自分にできることは、多くは使えない付け焼刃の幻術と固定砲台としての精密射撃くらいだろうか。
 あとは…………デスクワークは割と得意だ。

 こと戦闘においては、あまり役に立たないものばかり。
 しかも、『得意』というわけじゃない。ただ、普通にできるというだけのこと。

「…………」

 それは、自分に個性が無いことと同義ではないだろうか?

「どーしたの、ティア?」

 能天気な笑顔を見せて、スバルが自分の顔をのぞいてくる。
 人の気も知らないで……というのはこちらの事情。彼女が知らないのも無理は無いのだが。

「なんでもないっ!!」

 つい強く返してしまうあたり、自分はイラついているのだろう。



「つ、つかれた……」

 ヴィータの射撃で吹っ飛んだエミリアは、大の字に寝そべりながら疲れを露にした。
 砲撃なんて久しぶりだったし、なぜか妙に力を吸い取られたような感覚もある。今はただ、自発的に動くエネルギーが足りなかった。

 しかし、2人……特にエミリアにとっては、意味のある模擬戦であったことは確かだった。
 セイファートハーツとの呼吸あわせがうまくいかなかった理由。魔法を自由に行使できなかった理由。そのすべては、エミリアの意識に問題があったことがわかったから。
 それが理解できた今なら、実戦での魔法の行使も難しくは無くなるだろう。

「……っし!」

 ガラにもなくガッツポーズをしてみると。

「さっきの砲撃はさすがのあたしもヒヤっとしたよ。いい調子じゃねーかお前ら」
「あ、ありがとうございまっす……」

 差し伸べられたヴィータの手を握り、ようやく立ち上がった。

「俺はまだまだ戦り足りないっすけどねえ」
「てめーはやりすぎだっつーの」

 ジャンキーはほどほどにしろよなー、とヴィータは笑う。
 その一言を聞いた瞬間、フォルテはその場にひざついて落ち込みまくっていたが、理由を知らないヴィータとエミリアは首を傾げるばかりだった。



「起きろよ、
「むむ……おおヴィータ、模擬戦終わった……って、なんで俺こんなに真っ黒なん?」
「き、気づいてなかったんだ……」

 なのはの砲撃をゼロ距離でもろに受けつつも普通に寝入っていたらしいの胆力には驚きだが。

「そっか……君?」

 なにやら、背後でいやな予感。
 魔力の高まりと強いさっきを肌に感じ、さびた針金でも入っているかのようにギギギギ、と音を立てて首が回ると。

「今は、勤務中なの、知ってるよね?」

 正真正銘の魔王が、そこにいた。

「勤務中に寝るのは、いけないの……わかるよね?」

 全身に冷や汗。
 どうやって逃れようかと頭をフル回転。
 ……事実は、やっぱり事実だった。

「星になって……」

 だって、しょうがないじゃんか。

「反省するの―――っ!!」
『Starlight Breaker』

 模擬戦の観戦は、暇なんだもん……。





第11話でございました。
模擬戦をお送りしました。そんなに長いことやってませんが、
これも私の表現力不足といったところでしょうか。
デュアルデバイスの特性も、あんまり反映できてませんし・・・(汗)
なかなかストーリーが膨らまず話が進みませんが、あともう一息といったところでしょう。
次回はアニメ7話の後半あたりをちょこちょこーっとやっていく予定です。


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