『ティアナ、どうですか?』 「駄目です。ケーブルの破壊、効果なし!」 いったんスバルと別れ、リインと共にリニアレールの制御を回復させるべく動いていたのだが、ガジェットを破壊したところで列車はいっこうに止まる気配を見せなかった。 リニアレールの制御系を乱していたガジェットのケーブルの破壊が、まったく意味を持たないことに、ティアナは内心でため息をつく。 『わかりました。車両の停止は私が引き受けるです。ティアナはスバルと合流してください!』 「了解!」 リインの指示を受けて、ティアナは車両内を駆け抜ける。 両手に握られていた銃は、今は右手にのみ在る。 精密射撃を重視した一丁の銃の形態で、速射を利とする双銃を持つツーハンドモードと合わせて『ガンズモード』。クロスミラージュのファーストフォームにあたる。 「しかし、さすが最新型。色々便利だし、弾丸生成もサポートしてくれるんだね」 『はい。不要でしたか?』 魔力で編みこんだ弾丸を作り出すには少しばかり時間がかかる。 それでも1秒や2秒程度ではあるが、ギリギリの戦闘になればなるほど、速度は重視される。だからこそティアナの言うとおり、クロスミラージュが魔力弾生成をサポートすることでその時間の減少を実現した。 「あんたみたいなコに頼りすぎると、私的には良くないんだけど……」 向上心の強い彼女だからこその発言だが、弾丸生成時間の減少という恩恵だけでもやはり大きい。 それを強く感じていたからこそ、 「実戦では助かるよ」 ティアナは素直に、こんな言葉を口にしていた。 現在、スバルとティアナ――スターズ分隊が先頭車両から後部へと進み、分かれて行動していた2人は4両目で合流した。 一方、後部車両から乗り込んだエリオとキャロ――ライトニング分隊は。 「はああっ……っ!」 一閃。 黄金の雷光がきらめき、エリオがストラーダを振り抜いた。 屋根上へ上ってくるガジェットたちを、端から破壊しているのだ。 それにより車両内は手薄になり、進入も楽になるから。スバルと違い、単純に破壊するよりも叩き斬る攻撃を得意としているエリオとストラーダは、スバルよりも速度こそ遅いものの、確実に敵を狩り進んでいく。 12両目から進み、そして。 『ライトニング、8両目突入……エンカウント、新型です!!』 シャーリーの声を感じつつ、エリオとキャロはまっすぐ、その新型ガジェットを見据えた。 新型のガジェットは、大人1人分を超える高さと球状のボディを持つ。内部から出した鋼鉄のアームを振り回し、中央のアイセンサーから光線を発射し、子供の腕ほどもある太さのケーブルで敵の拘束を試みる。 そして。 「硬い……っ」 高い防御力を誇る。 ストラードの穂先をぶつけて、キズ一つつかないこのガジェットの防御力はまさに鉄壁。 その高い防御力と合わせて持ち合わせているのが、 「AMFっ!?」 エリオとキャロの魔法を完全に無効化させる、AMF。 衝突させていたストラーダの穂先に纏う雷光はあっさりと消え去り、エリオをサポートしようとキャロが展開した魔法陣はキャンセル。 単純な腕力勝負に持ち込まれた。 言うまでもなく、機械のガジェット馬力とまだまだ完成しきっていない少年であるエリオの腕力では雲泥の差。ストラーダを盾に自身の身を守っていたのだが、それも時間の問題だった。 「あ、あの……っ」 「大丈夫だから、任せてっ!!」 心配そうなキャロの声は、気合のこもったエリオの声にかき消され、彼女は天井から覗くだけ。 フリードに援護を指示しても、彼に出来るのは砲撃。エリオが盾代わりとなっており、彼を巻き込んでしまいかねない。 竜たちの制御が定まらず、単純に暴走させてしまうだけ。 局に入ったときも、今までも。 自分そんな弱い存在だった。 ただ、内に大きな力を持つだけの危険な存在に過ぎなかった。 ――とてもじゃないけど、まともな部隊じゃ働けませんよ。せいぜい、単独で殲滅戦に放り込むくらいしか……。 でも、それじゃダメなんだと気がついた。 ――あたしは、今度はどこへ行けばいいんでしょう? ――それは、キミがどこに行きたくて、何をしたいかによるよ。 今までは、自分がいてはいけない場所やしてはいけないことがたくさんあったから。 どこに行って何をしたいか、なんて。 考えたこともなかった。 「うわぁぁぁっ!?!?」 壁に打ち付けられたエリオが、破られた天井からガジェットのアームごと飛び出し、宙を舞う。 意識は希薄。すぐには体勢を整えられないほどに身体を痛めつけられ、力なく谷へと落下していく。 ――キャロはどこに行って、何をしたい? ――そんなの、決まってる!! 「エリオくんっ!!!」 キャロは床を蹴り、追いかける。 落下していく、エリオの身体を。 「ライトニング04、飛び降り!? あの2人、あんな高高度でのリカバリーなんて!?」 声を上げるアルト・クラエッタ―――ロングアーチに所属するし、友人であるルキノ・リリエと共に通信スタッフを勤めている。 メカ好きで整備士としても活躍しており、輸送ヘリパイロットの資格も持っており、魔法資質はない。 そんな彼女の見たのは、ライトニング分隊の2人が車両から離れ、谷底へ落下していく光景。 彼女たち“普通の人”にとっては無謀とも言える行動だが。 閑話休題。 「いや、あれでええ」 「……あ、そうか!」 急ぎ聖堂教会から帰還したはやてがつぶやいた一言に何かを思いついたかのように出されたのは、シャーリーの声。 彼らは魔導師。AMFの影響で使えなかった魔法は、その影響範囲を抜けさえすれば、使えるようになる。 それならば、話は簡単。 キャロ本人は飛行資質を持たない。 そんな彼女が、谷底へ落ちようとしている今の状況を脱するには? 答えは簡単。 自分に出来ないのであれば、誰かの力を借りればいい。 飛行能力を有する“フリードリヒ”を、喚べばいい。 エリオは、起動六課のみんなは、自分に居場所をくれたのだ。 危険な存在であるはずの自分に笑いかけてくれる、優しい人たち。 そんな人たちを、私は―― 「自分の力で、守りたい……っ!」 ケリュケイオンが、強く光り輝いた。 投げ出されたエリオの手を握り締め、胸に抱く。 同時に、彼女自身を魔力で覆い、落下速度が落ちていく。浮遊の魔法を行使したのだろう。 「フリード、不自由な思いさせててごめん……あたし、ちゃんと制御するから」 自分がどこへ行って、どうしたいのか。 その方向性が、いままではまったく見えていなかった。なにか怖いことがあれば泣き叫んで、彼女を守るためにフリードが暴れる。 「……いくよ」 そこに思いなど、方向性などあるわけもない。 それが見えた今なら……きっと、彼らを暴走させることも。 「竜魂召喚!!」 きっとない。 魔法少女リリカルなのは The Another StrikerS #09 「さて、と」 すぐ近くで、桜色が輝くのが見えた。 なのはか、キャロか。どちらかの魔力光が見えたということは、リニアレールはもう目の前にまで迫っているということになる。 鼻ちょうちんを突如吹いた風に割られたはゆっくりと立ち上がると、ロングアーチへと意識を飛ばす。 「おーい、誰でもいいから答えてくれるかね? 今、状況どーなってる?」 『くん!? そんなとこでなにやっとるん?』 「なにってアンタたちね……周辺のマップ見てみマップ」 ロングアーチの面々は、モニターの横にマップを表示させる。 中心にリニアレールをおいた、山岳部の簡易マップだ。 「リニアレールの進行先、もう気づいてると思ってたのに……てか、ヴァイスはなぜに報告しないのよ」 『ああっ!?』 なんか抜けてるよなあ、なんての呟きをよそに、声を上げたのは傍観していたエミリアだった。 リニアレールをスタートとして、線路に沿って立てていた指を動かした、その先は。 「線路、なくなってる……?」 『はい、エミリア正解。……で、俺はそのための保険ってわけ』 そもそも、この程度に隊長3人もいらんでしょーよ? 緊張感のへったくれもない口調で、はのたまう。 もちろん、列車の制御に向かったリインがうまくやってくれれば、ただの徒労に終わるだろう。しかし、万が一うまくやることが出来なければ、列車は谷底へ転落、中のスターズ分隊やリインは巻き込まれ、ケガではすまなかっただろう。 『僕のせいだ……僕が指示を出したから』 「グリフィス。お前さんの判断は間違ってないよ。だから、そう落ち込むなって」 の言葉にグリフィスは小さな返事をして、うつむいていた顔を上げる。 最初から完璧に出来る人間なんていやしない。弘法も筆の誤り、サルも木から落ちる。誰にだって、ミスはあるのだから、初陣での失敗を咎める人間など、この場にはいやしないのだ。 「誰かが気づいて、それを正してやればいい……そのための俺らなんだからさ」 でだ。 と、は話を本題へと戻す。 そもそも、時間が少なくなってきているのだ。ただ待っているだけだった身としては、それなりに情報はほしいところ。 だからこその連絡だったわけだが、 『スターズ、レリックを無事確保! ライトニング、新型ガジェットを撃破しました! ……リイン曹長?』 『あうぅ……』 聞こえたのはうめきのようなぐぐもった声。 浮かんだ画面に映ったのは、彼女の身体よりも大きな黒い何かを抱え滝のような涙を流し咽び泣いている。 そんな彼女を視界にとらえて、ロングアーチが動揺するのは無理もないことで。 『り、リインどうしたん!?』 『は、はや゛でぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛んっ!!!』 ぶわあっ、とただでさえ流れまくっていた涙が池を作らんばかりにあふれ出した。 時間は少しばかり遡る。 スバルと合流するようティアナに指示を出したリインは一目散、列車の制御室に向かっていた。 目的はもちろん、自身のいる暴走列車を止めるために、ガジェットたちに乗っ取られた制御系を奪取するのだ。 扉を開き、蒼天の書を広げる。 呪文を口ずさみ、内なる魔力を引き出し、一つの現象を顕現する。 彼女の放った魔力は氷の槍と化して、ケーブルを伸ばし列車の制御を奪うガジェットを貫いた。 周囲に敵の反応が消えたことを確認したうえで、書き換えられた情報を引き出し、修正。 「う〜ん、操縦はマニュアルでやらないとダメそうですねぇ……」 それを終えた上で、黒い操縦桿を抱きしめた。 彼女の身体よりも一回り小さい操縦桿は彼女がかける体重の方向にあわせて倒れ、カーブなどで脱線しないように速度を落とすなどの操作が可能になる。 本来であれば、速度の制御そのものは自動で行われるのだが、ガジェットが割り込みをかけたことでシステムに短時間で修復しきれない不具合を作ってしまった。 だからこそ、自身の手で速度を落とし列車を止めるために、マニュアル操作に切り替えた。 ……はず、だった。 「あれ? あれれ?」 彼女は気づかない。 ガジェットたちが、どうやって制御系に割り込んでいたかを。 「スピードが落ちませんね……よっと、よっと!」 自身の身体を左右に揺らす。がちゃがちゃと操縦桿が音を立てて、車両そのものに指令を送る。 しかし、速度が落ちる気配はいっこうになく。 「…………」 ガジェットたちは、機械の中に物理的に割り込んだのだ。 デリケートな精密機械の集合体に、自身の身体を無理やり割り込ませて。 「それそれそれそれそれそれそれそれぇぇぇっ!!」 がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃばき。 聞こえたのは不穏な音。 1点の支えから開放され、リインの身体は宙へと浮かぶ。 操縦桿を抱きしめたまま。 「あああああぁぁぁぁっ!!!」 そんな感じで、リインはリニアレールを止めることが出来なくなったことを報告したわけだが。 「…………」 『早速、保険を使うことになりそうやな、くん?』 そんなはやての一言に、は案の定大きなため息。 もともと、そのつもりでこの場所にいるのだ。今の状況になることは万が一にもあったはずなのだから、もはややらなければならない今となっては考える必要もないのだが。 「……あいよ、了解っと」 もっと考えてマニュアル操作してくれよ、なんて愚痴る前に通信を切って、放り出していた大太刀を拾う。 やることはたった1つだけ。しかしながら、その1つの達成が途方もなく難しい。 本来であれば自殺行為とも言えるような行為なのだ。やれといわれてはいそうですか、と自らの命を差し出すようなことはただのキチガイとしか言いようがない。 『もっとも、そんなキチガイな行為を私たちはやろうとしているんですがね』 「心の声にツッコミ入れてくれるなって…………さて、と」 大太刀から再び片刃剣へと形態が変化する。 今回の目的を達するためには、攻撃魔法は不要なのだ。だったら、最悪の事態を考えて機動力の高いスパイクフォームでいざとなったら…………にげなきゃ死ぬ。 「気張るよ、アストライア―――D.D.S、モードイージス」 『了解。デュアルドライブシステム、イージスプログラムを呼び出します』 どん、という音と共に風が舞い、ミッド式の円形魔法陣が足元に広がる。 グリーンに輝く魔法陣は内側と外側でそれぞれ逆方向に、ゆっくりと回転する。 ミッド式の魔法発動をトリガーに、ベルカ式の魔法を同時に行使するデュアルドライブシステムの派生版。 守りの魔法だけを集め、より早く、効率的に魔法を行使する、通常のシステムをカスタマイズしたものだった。 プロトタイプだからこそできる、システムカスタマイズ。 スペックで後継機に劣る分、デバイスマイスターの思うようにシステムをカスタムできるのだ。 もっとも、カスタムに失敗すればウンともスンとも言わなくなるのが玉に瑕だが。 閑話休題。 「カートリッジ、全部使っちゃおう。あと、イージスに追加して……風で押し返す」 『わかりました。シーケンス1にサイクロンを待機させます。D.D.Sはその後にしましょうか』 「あいよ」 両足を肩幅大に広げ、手を突き出す。 レールを走る車両の駆動音が大きくなる。の視界に飛び込んできた、暴走列車の頭。 ……とんでもねー勢いだった。 「うわなんかいまさらメンドくさくなってきたっ」 『もう遅いですよ。カクゴ決めてください』 「…………」 ため息と同時に発動したのは、 『Blowing Cyclone』 列車の暴走を阻害する風の壁。 カートリッジ2発を犠牲にして作り出した、即興の大暴風だった。 出所からまっすぐ。先頭車両に吹き付ける風の嵐は、列車を押し戻さんとたたきつけられ、徐々に速度を落としていく。 しかし、それでも完全に止めるまでには至らない。 だからこそ、アストライアは続いて待機していたシステムを立ち上げる。 『デュアルドライブシステム展開。モード“盾”、適用します』 浮かび上がるデュアルデバイス特有の魔法陣。 複数の魔法を発動するための一時領域を作成するために、3次元で領域が作成されたのだ。 まず展開されたのは、手のひらの先にミッド式の魔法陣が浮かぶシールドタイプの防御魔法『プロテクション』。 さらに、カートリッジを1発消費して、顕現したのは緑に輝く分厚い壁。 『鉄の壁』と名づけられている壁が、プロテクションの前に立てられた。 「んぎっ!?」 リニアレールの衝突は、それからすぐのこと。 腕に感じた強い衝撃に、は表情を曇らせた。 想像以上に速度が落ちていない。短時間暴風を叩きつけただけでは、さほどの効果もなかったらしい。 地面を踏む両足に力を込めるが、展開した2つの防御魔法が砕けるより早く、身体は徐々に後ろへと流されていく。 そのスピードは徐々に、速度を上げる。 「とっ、とまれえええっ!!」 しかし、そんなの必死な声とは裏腹に、リニアレールはとまらない。 『くん、大丈夫!?』 「大丈夫なわけ、あるかってのっ!? 話してる暇あったらリインと新人たち、早く脱出させろって!!」 はやてにそんな一言を半ば怒鳴りつけるように口にする。 事実、無駄話をしている余裕など早々になくなってしまったほどに、相手の攻撃は厳しいものだったのだ。 『そんなわけや、キャロ! 大変かもしれへんけど、スターズの2人の回収お願い! リインは1人で出られるな!?』 『は、はいっ!』 『りょうかいですっ!!!』 の返答を聞くや否や、はやては脱出を最優先に指示を出す。 ロングアーチでの計測では、リニアレールの速度は徐々に減っている。しかし、の背後に伸びる余剰の距離を鑑みて、止まるかどうかは微妙な状況。 可能ならば、列車は健在なまま収めたい。損害は最小限にとどめることが部隊長として、ひいては部隊全体の評価につながるのだから。 しかし、状況は刻一刻と変化するもの。だからこそ、はやては現時点で最悪のシナリオを想定して指示を下している。 キャロとリインの返答を小耳に挟みつつ、前方の緑の壁にヒビが入っていることを確認して、は次の行動に移ることにした。 イージスモードに登録されている防御魔法は2つだけではない。 シュタイヒ・アイゼンが破壊されたと同時に、【バースト】をかけるのだ。 2つの盾で壁を作り、3つ目でカウンターを仕掛ける。これが、デュアルドライブシステムのイージスモードであった。 残りカートリッジは3発。【バースト】で止まらなければ、もう1度イージスモードを適用して同じことを繰り返す。それが一番考える必要がなくて、現時点で一番楽な方法だった。 もっとも、この1回で止まれば最高なのだが。 「……っ! 【バースト】!!」 シュタイヒ・アイゼンを突破したリニアレールが、第2の壁であるプロテクションに衝突する。 同時に、エネルギーが魔法陣の中央に収束して。 『Barrier Burst』 爆発する。 広がる爆煙から脱したは、リニアレールとの間に開いた距離を確認する前に、さらにイージスモードを適用するようアストライアに指示を出す。 レールの端まで残り百メートルもないだろう。それでも、列車の勢いもずいぶんと減ったのだ。 おそらく、後1回のイージスモードで止められる。 ダメでも。 「くん!」 「私たちがフォローに回るからね!」 後ろには、自分自身より頼りになる正真正銘のストライカーがいるのだ。 失敗は、ありえない。 『モード“盾”、再適用します』 ダクトから白煙が吹き出る。 冷却期間を持たないままの連発なのだから、その分はアストライアが調整してくれている。 面倒なことは全部任せて、自分はただ目の前の列車と止めればいいのだ。 残り50メートル。 1発の空薬莢が吐き出され、新たに作り出された2つの壁が進路を阻む。 「も、もうちょい……」 残り30メートル。 列車の進行が止まる。しかし、推進力は残ったまま車輪は回り続けている。 「あと一息ぃ……」 そして。 車輪が甲高い音を上げて、その回転を停止した。 『リニアレール停止! さん、お疲れ様でした!』 シャーリーの声に、力を込めていた手を下ろし、その場にぺたんとしりもちをつく。 緊張を解し、アストライアをねぎらい、背後から近寄ってきたなのはとフェイトに笑いかける。 「さすがだね」とか言われたところで彼にとっては皮肉にしか聞こえないのだが、またそれは別の話。 「ほんなら、みんなお疲れ。スターズの3人とリイン、あとくんはヘリで回収してもらって、そのまま中央のラボまでレリックの護送をお願いしようかな」 「ライトニングはどうしますか?」 「現場待機。現地の局員に事後処理の引継ぎ。よろしくな」 任務は、これでひと段落。 はやての指示通りヘリに乗り込んだは、席に座って早々にだらけ始めた。 そんな光景を見てなのはとスバルは苦笑、ティアナは特に表情を変えないまま視線をはずしていたが、彼女もまた思うところがあるのだろう。 ちらちらと視界に彼を入れている光景が見て取れた。 「おーし、帰ったら汗流してさっさと寝るぞぉー!」 『本局経由なので、少々時間がかかりますね。その上、今回の事件の報告書をまとめなければいけませんし……たぶんそれで夕方までかかるんじゃないですか?』 「ぐぐ……」 はデスクワークが苦手である。 何回提出してもその場で突っ返されているためか、報告書1枚書くだけでも毎回、相当時間を使って書かねばならないのだ。 それを何度も味わっているからこそアストライアの突っ込みに言葉を返せず、押し黙ると。 『寝るのは夜遅くになりそうですね』 アストライアの容赦ない一撃が、彼を沈めたのだった。 ● 「刻印No.9、護送体制に入りました…………追撃戦力を送りますか?」 とある場所のとある研究室。 巨大なモニターに機動六課の面々を映し、1人の男はそれを眺める。 何らかの研究者なのだろう、白衣を身にまとっており、彼は問いかけを投げて寄こした女性に首を振って答えを返す。 「やめておこう。レリックは惜しいが、彼女たちのデータが取れただけでも十分さ」 彼女たち、つまりそれはモニターに映る面々―――機動六課のフォワードメンバー。 何のために、何が目的で、メンバーのデータを取ったのかは、彼の頭の中にしか存在せず、またこの場で話されることもない。 「それにしても、この案件はやはりすばらしい。私の研究にとって、興味深い素材がそろっている」 彼はただ、感嘆していた。 モニターに映された男女の姿を視界に納めて。 管理局のエース・オブ・エース。 管理局でも数少ない竜使い。 “タイプゼロ”の一機。 「それにこの子達……」 そんな一言と共に映し出されたのは。 「生きているプロジェクトFの残滓を手に入れるチャンスがあるのだから」 金髪の執務官と、若き槍騎士。 プロジェクトF。 それは、かつて特定の研究者の中で立ち上げられた『まったく新たな人造生命の研究』。 彼女たちがそのプロジェクトと関わりがあることを知っている理由すらも語らぬまま、男性は1人、歓喜に満ち溢れていた。 最後に映されたのは、暴走したリニアレールを単独で止めた青年の姿。 「まさか、彼が生きていたとは思わなかったよ。……最初は失敗作だと思っていたからね―――そうか、あのときの私の研究は、成功していたのか……くくくっ、最高じゃないか!!」 男性の放った、まるでおもちゃを見つけた子供のような笑い声は、広い広い研究室中に響き渡った。 |
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