「えーっ!?」 突然割り込まれた通信に、新人たちはただ驚いていた。 ただでさえ時間にリミットがあるのだから、悠長にブリーフィングをしている暇もない。だからこそ、ブリーフィングそのものをリアルタイムな双方向通信だけで済ませようとしたことで、結局その真意を聞くことはできそうになかった。 『なのは隊長、フェイト隊長、隊長、グリフィス君! こちらはやて!!』 そもそも通信を寄こした部隊長のはやてが今、起動六課を離れている始末。 まったく、事件は会議室でおきているんじゃない、なんて言葉にも思わず頷いてしまいそうな話だ。 一件の前知識として与えられたのは、現在の状況、場所、そして自分たちの目的。 聖堂教会本部からの出動要請に起動六課が応じた形でのアラート。 レリック『らしきもの』を載せた山岳丘陵地帯を走る山岳リニアレールが、ガジェットによって車両の制御を奪われて半暴走状態。 見せられた映像では、走るリニアレールの速度は速い。 さらに内部には30体に及ぶガジェットの群れ。 その中をかいくぐって車両の暴走を止め、レリック『らしきもの』を確保。それが、六課に与えられた任務達成目標だった。 『いきなりハードな初出動や。なのはちゃん、フェイトちゃん、くん……行けるか?』 『私はいつでも』 『私も!』 声色に真剣味を含んだなのはとフェイトの答えを尻目に、は眠気の残るまぶたをこする。 答えなどもちろん、いうまでもないだろう。 早朝訓練からようやっと開放されて、至福な二度寝タイムへまっしぐらなはずだったのだ。本来なら、このまま休みたいと思うのが彼の心情だろう。 しかし、これは仕事なのだ。拒否などできるはずもない。 「……行きますよ、俺も」 人間誰しも、仕事しないと生きていけないのだから。 何もしなくてもお金が入ってくる以前の生活が、まるで走馬灯のようにフラッシュバックする。 あのころに戻りたいと思うのは、日常茶飯事だ。 無論、それもいまさらだけど。 「そのかわり……フォルテ、エミリア」 『はいっ?』 「2人は出撃しちゃいけません」 『…………』 その一言が、冒頭の驚愕を生み出したわけだ。 魔法少女リリカルなのは The Another StrikerS #08 『くん、2人が出撃しちゃいけないのはなんでや?』 「なんでって……決まってる。今のままじゃ、出て行っても役に立たないからだよ」 そんな言葉に、新人たちは息を呑む。 訓練校を出たばかりのヒヨッコに、ハードな任務は荷が重いと言っているようなものなのだから。 それ以前に、発された言葉がとにかくストレートすぎたから、本来なら抱くはずの怒りを通り越していたりした。 『……役に立たない、って、それはいくらなんでもひどすぎますぅっ!』 ようやく出たリインの反論をあっさり受け流し、はただただ現実を突きつける。 今朝の訓練でのことと、今の状況と、彼らの経験。 魔力の制御ができず四苦八苦し、数時間かけてようやくまともに運用できるようになったエミリアと、デュアルデバイスを受領したばかりで起動すらしていないフォルテ。そんな経験不足も甚だしい2人がノコノコとハードな現場に出て行けばどうなるか。 冷静になって考えてみれば、自ずと出てくる結果はもちろん、のそれとまったく同じ。 彼の言葉は、無情にも聞こえるが一片たりとも間違ってはいなかった。 「今のままじゃ、って言ったよ、俺は」 だからこそ、寝起き爆発なはリインの一言に言葉を返す。 新人たちは……それこそ2人に限った話ではないが、まだまだ実戦経験もないヒヨッコにすぎない。だからこそ、経験を積ませるためにも今こうして任務に送り出そうとしていたのだ。 でも、デュアルデバイスを受領した2人は、実戦経験を積ませる以前の問題なのだ。 「前にシフルが言ってたよね……デュアルデバイスは『忍耐』の象徴だって」 その一言に、エミリアとフォルテは目を見開く。 彼らは、その一言を承知した上でそのデバイスを手に取ったのだから。自分が今どういう状況におかれているかは、自分自身が正しく認識しなければ、取り返しがつかないことになるのだから。 「今までのやり取りからわかると思うけど……今がその時だよ」 『……了解』 どこか悔しげにうつむく2人が映るモニターを眺めて、は面倒くさげにため息を吐きつつボサボサの頭をかきむしると。 「もちろん、いつまでも役立たずじゃ困るしね……と、この話はまた後で」 はやてに目配せ。 『シフトはAの3。グリフィス君は隊舎での指揮を。リインは現場管制をよろしくな』 『『はいっ!!』』 『なのはちゃん、フェイトちゃん、くんは現場指揮……よろしくな』 『うんっ!』 『了解っ』 「あいよ、りょーかい」 彼の意を察したはやては、てきぱきと各人に指示を出していく。 今必要なのは、可及的速やかな事件の終息とレリックの確保だ。細かいことに時間を費やしている暇はない。 この時間でさえ、ガジェットたちはリニアレール内を侵し、リニアレールそのものは暴走を続けているのだから。 「あー、エミリアとフォルテは隊長たちの動きをよーく見ておくこと。いいね?」 『は、はいっ!』 付け加えたようなの指示に対し、聞こえたのはエミリアの返事と、フォルテのうなずき。 まるっきり正反対な返答の仕方にか、彼は満足気に笑みを浮かべる。 『……んん、準備万端やね。ほんなら』 なのは、フェイト、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、、エミリア、フォルテ。 はやてはフォワード部隊全員を表情を視界に納め、表情に真剣味を宿す。 記念すべき、機動六課の初任務。 全員参加で、とは行かなかったが、この任務を成功させてこそ設立した意味が出てくるのだから、失敗はできない。 しかし、はやてには確信もあった。 信頼できる隊長陣に、成長著しい新人たち。そして、有能なバックアップ陣。 初陣とはいえ、失敗する要素などどこにある? 『機動六課、出動や!!』 そんなもの、欠片もありやしない。 ● 私は一度、居場所をなくした。 若干9歳の幼い身体に秘められた大きな力は、彼女の人生をこれでもかとばかりに振り回す。 白銀の飛竜を従え、黒の火竜の加護を受けた。まだことの善悪を判断する能力に欠けた、彼女が6歳のころ。 だから、彼女は自分の力を疎み、恐れた。その力をひとたび行使すれば、それは人を傷つけるから。 その恐怖は未だ、彼女の心を侵していた。 「……っ」 フリードを肩に乗せたキャロは、眺めていた手のひらを静かに、握り締める。 「大丈夫?」 「……うん」 エリオが心配そうに自分を見ている。 自分が昔のことを考えていたから、それが顔に出ていたのだろう。これから大事な任務だというのに、余計なことを考えていたら、みんなに迷惑をかけてしまう。 ただでさえ大きな力に里を追い出されたこの身、自分の持てるこのこわい怖い力が災いにならないように―― 「キャロ」 「――え?」 気がつけば、なのはさんがその手で自分の顔を包んでいた。 「大丈夫だよ……離れていても、みんな繋がってる。1人じゃないから、ピンチのときは助け合えるし……キャロの魔法は、みんなを守ってあげられる」 優しくて強い力なんだから―――。 その言葉が、後ろ向きになっていた自分の心を前へ向かせてくれたような気がした。 自分が怖いと思っている力を、なのはさんは『優しい』と言ってくれた。 今、ハッチから飛び出していったあの人の言ったその一言のおかげで、もしかしたら、怖いと思っていた力の見方を変えることができたのかもしれない。 「キャロ!? 聞いてるですか!?」 「はっ、はいっ!? ごめんなさいっ!」 そんなキャロを横目に。 「……ねえ、ヴァイス」 「なんだ? ってかお前、なんでまだ出てねーんだよ」 「何でって……タイミング?」 は見事に、出て行くタイミングを思いっきり失していた。 なのはとキャロでいい雰囲気作っちゃったから、声をかけようにもかけれず、今に至る。 空気を読んでいるようでまったく読んでないだったが、出撃前と同じように、面倒くさげにわしわしと頭をかき乱した。 彼も本来であればなのはと共に出撃し、後から出現を確認した空飛ぶガジェットを落とす役割を担うはずだったのだ。 もっとも、それも今では普通に出遅れて、なのははフェイトと合流してしまっている。 「一緒の空は久しぶりだね」 「うん、なのは」 そんな2人の会話から、お互いの仕事がほとんど交わることがないことが聞いて取れる。 お互いに、やっていることといえば戦技教導と事件捜査。管理局の内と外で、主に活動するフィールドすらも正反対な立場であることも理由の1つなのだろう。もちろん、なのはも新人局員たちにただ教導だけをしているわけではなく、ひとたび事件が起これば容疑者の確保に駆り出される。その場にフェイトがいれば、お互いに今のような会話を交わす。 それは暗に、ミッドチルダの治安が安定していると言っても過言ではないだろう。 もっとも、ガジェットやレリックの存在がどことなく不穏な空気にしつつあるが。 ヘリの眼前で、無数の煙が立ち上る。 彼女たちは射撃やら砲撃やらバシバシ撃ちまくっているからか、それなりに多かった飛行型のガジェットを示すマークはレーダーからすごい勢いで消えていくのが、ヴァイスの座る運転席から見て取れた。 「お前は……ったく。アホみたいなこといってないで、さっさと出撃しろって」 「わかってるけどさ、ちょっと気になることが……このリニアレールの進路って、こっち?」 運転席に浮かぶマップの中央、リニアレールを示す光点を、はまず指し示す。 するするする、とその指を移動させ、分岐点を右へ。 その先は。 「たしか、グリフィスの判断で切り替えたから、そっちで間違いないはずだが…………っ!?」 「途中で新人たちがリニアレール、止めてくれれば問題はないと思うけどさ。今のあのコ達じゃ、ちょっときついのでは?」 どー思うね、そこんとこ? まだ新人たちが背後にいるので、そんなやり取りを小声でしてみる。 言うまでもなく、尻拭いは年長者の仕事。としては迷惑この上ない話だが、せっかく出てきて何もしないのは、ちょこっとばかり気が引ける。 ……そう、ちょこっと。 「……誰に聞いても、答えは同じかねぇ。……はふぅ」 「確かに、これはちょいマズいところもあるかもしれないけどよ。そのためにお前だろ、ウインド分隊隊長殿?」 リインと新人たちが今回の作戦を確認している横をゆっくりと通り抜ける。 「じゃあ、俺は保険ってことで。……信じてるからね、新人諸君?」 自分がやるまでもなく、彼女らがリニアレールを止めてくれると。 待機するだけで、他に何もしなくていいように。 とにかく、自分が楽できるように。 「ウインド01、……出るよ」 とんっ。 その身体を、宙へと躍らせた。 『メインシステム起動……バリアジャケット、マイティフォームおよび近距離セカンド、スパイクフォームを展開します』 の身体を光が包み、はじける。 着崩していた管理局の制服の代わりに彼がまとったのは、白いバリアジャケット。 腕とふちにグリーンのラインが入ったロングコートに、同色の長ズボン。左腕を鋼製の篭手を装備し、右手はフィンガーレスの黒いグローブ。 ジャケットは前をあけており、内側に見えるのは皮製の胸当て。 携えているのは細身の片刃剣。一撃の攻撃力よりも機動力を重視した形態。 身体に風をまとい、緑の魔力が渦巻き、一気に加速する。 次の瞬間には自身の乗せてきたヘリを追い抜いて、ヘリから見える視界からも消えてしまった。 「ねえアストライア」 『なんでしょう?』 「もし、【尻拭い】をするとしてさ……あんな早いの、どうやって止めようか?」 なにかいい方法ある? そんなことをたずねつつ、進行を邪魔するガジェットを一閃。 速度を落とさず、自分の邪魔をするガジェットだけを叩き斬り、他は無視。 なのはとフェイトに全部押し付ける魂胆が見え見えだが、楽々を愛する彼にとっては、このくらい当然のこと。 2人も承知しているはずだと踏んで、とにかくむしムシ無視。 しかし。 「……ねえアストライア」 『なんでしょう?』 「なんか、追っかけてくるんだけど!?」 背後のガジェットの群れを指差して、声を荒げてみる。 『全部蹴散らせばいいのでは』 「……まあ、そうなんだけどさあ」 だって面倒じゃん? と続けてからから笑うが、そんな選択をするわけもない。 しかし、周りに仲間がいるわけでもないし、下手をしたらこれから大変な思いをするかもしれないのだから、魔力はできる限り温存しておきたい。 『でも、他にどうしようもないでしょう?』 「うーん…………やらにゃあダメかねぇ」 飛行スピードは落ちてしまうが、これもやるべきことだと思ってあきらめよう。 何せその方が楽だし、なにも考えないですむし。 無駄に疲れたくはないので、やりやすい方法でさっさと終わらせる。 『近距離ファースト、キャリバーフォームへ移行します』 細身の刃が跡形もなく消え去り、重厚な音を立てて構成されたのは巨大な刀身を持つ大太刀。 刃渡りだけで使用者であるの身長をゆうに超える長刀でありながら、幅広い刀身は頑丈さと攻撃の重さをかもし出す。 そんな強い印象を受ける大太刀を、は飛行を止めずにゆっくりと振りかぶる。 『Load certridge!!』 柄の根元から飛び出す2つの薬莢。 柄から垂直に飛び出た弾倉内で、新たな弾丸が再装填される。 鍔に装備されたプロペラ型の排気ダクトが回転数を上げ、その摩擦音が耳を貫く。 吐き出される熱を持った蒸気は止まるところを知らず、白煙を上げる。 「邪魔……」 飛行速度を、ゼロに。 身体を、直立に。 相棒を握る右手は大きく振りかぶり、その巨大な刀身は風を纏う。 ガジェットたちをギリギリまで引き付けて…… 「……だっつのっ!」 『Aerial edge』 腕を振るう。 全方位に吹き荒れる強風がガジェットたちの動きを留める。 柄を軸に、剣を回転させつつ肩に引っ掛け、小さく息つくと。 次の瞬間、彼の周囲に飛来したガジェットは真っ二つに分かたれ、火の花を咲かせた。 「うわお〜……さんやっるぅ」 場所は変わり、ここは機動六課の隊舎――司令室。 フォワード部隊をバックアップする、はやてを筆頭とした部隊――ロングアーチの面々が一同に会するこの場所で、シャリオは感嘆の声を上げた。 彼女が見ていたのは、自席のモニター。そこにはただの一振りでガジェットの群れを蹴散らしたの姿が映っており、さすが、といわんばかりに声を上げたのだ。 彼は部隊長であるはやてが見出した紛れもない“隊長”としての力を、見せ付けたのである。 「とーぜんよ。アストライアは、今までに見てきたデュアルデバイスの中でも最高の出来なんだから」 過去に一度、彼女は限界ギリギリまで破壊された。 8年も昔の話だが、シフルにはそれこそ、昨日のことであるかのようにハッキリと思い出せる。 かつて、2人が所属していた部隊で起こった悲しい事件。 前線部隊として、ただ1人帰還を果たしたあのときの彼の姿が、網膜の奥まで焼きついている。出血が多すぎて、どこがケガしているのかすらわからないほどにおびただしい傷の数々。 それがあまりに鮮烈で、苛烈で。当時の彼女はただ、背負っていたモノを取り落として倒れた彼の名前をただ、叫び続ける以外に、なにも出来なかった。 ……あの時とは、違うのだ。 彼も、自分も。 「でも確か、アストライアってデュアルデバイスのプロトタイプですよね? だとすると、今のあのコは……」 「そうね。確かにあのコはデュアルデバイスのプロトタイプ。後から生まれたデバイスたちよりもスペックで劣るわ。でもね、シャリオ……」 グリフィスの隣で、シフルは「ちっちっち」と舌を鳴らす。 まだまだ甘いわね、といわんばかりに。 「試作品だからこそ出来ることだって、あるんだから」 再び速度を上げて、数分程。 “ゴール”の見えるこの場所に、ようやっとたどり着いた。 ガジェットたちの追撃はない。戦力を、未だ交戦しているなのはとフェイトに向けたのか、あるいは単純に数が少なかったのか。どちらにせよ、誰にも目撃されることなくサボれるのはよいことだ。 「……うん、最高だね?」 『任務中ですよ』 「わかってるって」 もちろん、展開しているバリアジャケットを解く気などない。 自分は、もしものときのための“保険”なのだから。 あとは、自分が仕事をしなくてすむように、新人たちに頑張ってもらえばそれでいい。 そして今必要なのは、万が一の時の対処の仕方だ。 言うまでもないが、痛いのはいやだし、死ぬのなんてもってのほか。究極的には、疲れることなんてやりたくもない。 『どうするんですか?』 「どうすればいいかねえ」 さっきアストライアに尋ねたことを聞き返されたことを考えると、おそらく彼女も明確なプランをもってはいないのだろう。 考える。ひたすら脳みそに働けと呼びかけてみる。しかし。 「ダメだね、な〜んにも思いつかないや」 『考え始めて30秒も経ってませんが』 最初から、考えるという行為そのものが無駄だった。 そもそも彼は、性格的にはデスクワークには向かない人。だからこそ、思考を放棄してしまうということは考えるまでもないだろう。 「……まあ、なんとかなるか」 止まらないなら、止められるようにすればいいのだから。 もちろん、一番いいのは“何もしなくていい”ことなのだが。 「とにかく今は、新人たちを信じるしかないでしょ」 彼の立つ場所より数百メートル先は、線路が存在しないのだから。 なのはが、ガジェットたちを次々と撃ち落としていく。 フェイトが、空という空を駆け抜けていく。 2人の隊長たちの立ち回りを見て最初に思った考えは、実に間逆だった。 中、遠距離からの射撃、砲撃を得手とし、間合いの外から撃ち落とすなのは。デバイスを武器とし、接近し敵を斬り裂くフェイト。 それぞれが持つ得手は、等しく管理局におけるエキスパートの領域にあり、実に無駄なく動いて見せた。 我らが隊長が「よく見ておけ」、と言っていたのも頷けるというものだと、お預けを喰らったエミリアとフォルテは息を呑み込んだ。 それぞれがまさに、自分たちの理想形とも言える戦い方といえたのだから。 「でも、魔法がうまく使えてないのは変わんないんだけどね」 「ミリィ……お前それ、言ってて悲しくないか?」 2人は直接、戦力外通告されたのだ。 あまりのストレートぶりに憤慨すらも通り過ぎてあっけにとられてしまったが。 後になって考えてみれば確かに、自分が使っているのはデュアルデバイス。今まで使っていたミッド、ベルカのデバイスとは根本から違うのだ。しかもエミリアにいたっては、朝から満足に魔法が行使できていない始末。 戦力外を言い渡されても無理ないなあ、と思ったりもするわけで。 「…………事実だし」 「きっついなあ」 俺もこんなんなるのかなあ、などとつぶやくフォルテに、右手に巻かれたチェーンの先が光を帯びた。 腕輪の代わりになっているチェーンの先には、赤の宝石。それこそ彼の新しい相棒である。ドレッドキャリバーと名づけられた彼は、しかしまだ起動すらできていない。 受領して、すぐにアラートがなってしまったこともある。フォルテ自身、同僚や隊長たちのことが気になるというのもある。なにより、同じ部隊の人間として、参加できない分もしっかりと仲間たちのことを見ていたい。 だからこそ、早くセットアップしてみたいという気持ちを押さえ込んで、こうしてこの場にいるのだ。 「よくよく考えてみれば、俺らっていわゆる“まっさら”なんだよな」 モニターを凝視しながら、フォルテがそんな一言をつぶやいた。 彼ら2人は、いままで使っていたデバイスの系統を半分以上捨てて、新らしい領域に足を踏み入れた。 実績もなく、先入観しか残っていない状態。 フォルテはその状態を“まっさら”と称した。 つまり、それは。 「努力の仕方次第で、どんな色にも染まれるってことだろ?」 たった1つを磨きに磨き抜くことも。 浅く広く、テクニカルな立ち回りをすることも。 撃ってよし殴ってよしのオールラウンダーになることも。 向かう先が決まっていた状態から、いくつかの道の中ら選べるようになったのだ。 もちろんその分、がんばらないといけないわけだが。 「選択肢が広がった分、努力が必要ってことかぁ……ちょっと面倒かも」 「さんが移ってるぞ、ミリィ」 「あらやだ」 「2人とも。待機とはいえ任務中なんだから、私語は駄目だよ」 司令室の端でグリフィスにたしなめられた2人は顔を見合わせて苦笑。 「りょうかいでーっす」 「了解っす」 視線をモニターに戻すと、なのはとフェイトの……そして、線路のど真ん中で座り込み真っ最中な上に鼻ちょうちん膨らませているの観察を再開したのだった。 列車上に降り立つ4人の新人フォワードたち。 それぞれが新しいデバイス、リミッターを少し解除したデバイスをその手に、それぞれの隊長たちのデザインを参考にしたバリアジャケットを纏う。 スカイブルーの宝石から展開され、スバルの両足に、右手に装備された新デバイス『マッハキャリバー』とリボルバーナックル。 中央に十字をあしらったカードから顕現する双銃『クロスミラージュ』を携えたティアナ。 リミッターを1段階解除し、エリオは今までよりも大きな力を扱えるようになったストラーダを握る。 未だ、自分の力に恐怖を感じるキャロ。彼女の両手にはケリュケイオンが光る。 彼女たちはスターズ分隊、ライトニング分隊それぞれで二人一組枠で行動する。 与えられた任務はガジェットを逃がさず全機破壊することと、レリック安全に確保すること。 リニアレールの先頭、および最後尾にそれぞれの分隊が降り立ち、レリックが置かれていると思われる中央の貨物車両を目指し、内部のガジェットはもちろん、全部破壊していく。 車両内のガジェットは30機ほど。割と多いが、リインが中央で管制を担当することで、無茶を補うのだ。 『『Drive ignition!!!』』 「シュート!!」 「おおおぉぉぉっ!!」 2機のデバイスたちの声と共に、先頭車両に舞い降りたスバルとティアナは動き出す。 天井をぶち抜き、車両の外に現れたガジェットをティアナが撃ち抜いている間に、スバルはナックルスピナーをフル回転させ、ガジェットがあけた穴から車両内へと乗り込む。 力のこもった右腕を振るい、硬く握られた拳をガジェットにたたきつける。煙の中を撃ちだされる魔力弾を躱し、マッハキャリバーの推進力をもって壁すらも走り抜け、 「リボルバァァ……シュートッ!!」 魔力を纏う正拳を突き出す。 纏っていた魔力がまっすぐガジェットへ向かい、衝撃と共に爆散。 同時に、小さかった天井の穴のほとんどをぶち抜いて、勢いあまったスバルは宙へと投げ出された。 「うわっととっとぉ!?」 しかし、彼女は再び車両の上へと戻ることになる。 『Wing Road!』 マッハキャリバーが意図的に発動し、展開された青い道によって。 無事に車上に降り立ったスバルは、驚きを伴って自身の両足を見やる。 加速力や、グリップコントロール。そして何より、単独でのウイングロード発動。 「マッハキャリバー……お前ってもしかして、かなりすごい?」 それらの答えは、たった一つに集約されて返される。 『私はあなたをより強く、より速く走らせるために作り出されましたから』 使用者であるスバルの意思とは別に、状況を収集・把握し、その場その場で瞬時に最適な手段をもって打開する。そんなシステムが組み込まれたマッハキャリバーの恩恵で、スバルは持ち前の爆発力をより強く、スピードをより速く。 しかし。 「うん……でも、マッハキャリバーはAIとはいえ、心があるんでしょ? だったら、ちょっと言い換えようか」 それは、機械であるマッハキャリバーには理解しづらいこと。 「お前はね、あたしと一緒に走るために……生まれてきたんだよ」 『同じ意味に感じます』 「違うんだよ、色々と」 人間だからこそ生み出される曖昧さが、マッハキャリバーを軽く困らせることになる。 『考えておきます』 「……うん!」 |
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