エミリアが時間をかけてようやく、デュアルデバイスを用いた自身の魔力を扱うことができたそんなとき。 訓練場に残された5人となのはによるシュートイベーションも終わりを迎え、朝っぱらからへとへとな状況で早朝訓練は終了した。 別行動をとっていたとエミリアも合流し、昼の訓練前の休憩時間。 隊舎への帰り道。 「うへぇ〜・・・」 「エミリア、あんたさんと2人でどんな訓練してたのよ?」 訓練前に冷静に2人を見送ったティアナの一言に、スバルはニヤリ。 口に出さなかっただけで、彼女もまたスバルと同じようにマンツーマンの訓練というものが気になっていたのだろう。ただ、興奮することはすべてスバルがするだけしてしまったため……そしてなにより、相棒が興奮している分自分が冷静でないといけないと、そんな気持ちが染み付いて離れなくて、いつの間にか素直な感情を表に出すことができなくなっていたことに気がついた。 もちろん、それだけが原因ではないけれど。 「ティアぁ、なんだかんだで気になってたんだ?」 「う、うっさい!」 エミリアにまず課された訓練は、デュアルデバイスの扱いに慣れること。すばやく、かつ密な魔力運用を要するデリケートなデバイスだからこそ、相棒との意識合わせは大事なことだから。 「ま、進捗はまずまずってところかね……先は長いけど、まあがんばれ」 「は、はいぃ……がんばりまふ」 と、の報告らしからぬ報告に項垂れたエミリアのお疲れぶりにみんなが感化されていた、そんなとき。 「あ、あの車って……」 前方から聞こえるエンジン音。 海辺に作られた隊舎前の広い広いアスファルトを走ってきたのは、幅広な黒い車だった。 その車は一行の前で制動をかけて停止するや否や、なんと。 「て、天井が消えた……だと?」 車の天井と側面の窓ガラスが、あっという間に消え去ってしまったではないか!! 「なんちゅーけったいな車だよ……魔法技術すげー」 「すげー、って……ミッドじゃこんなの、普通じゃない……かなぁ?」 エリオのそんな苦笑交じりのツッコミをそっちのけ、は所有者の許可もないままぺたぺたぺたぺた。 今までずっと首都を離れた辺境の部隊で楽々を満喫していたからか、世情にこれでもかとばかりに疎い青年は、物珍しさを前面に押し出し、子供じみた輝きを持った瞳でぺたぺたぺたぺた。 「」 「え?」 突如、声をかけられた先を見ると。 「…………」 「…………」 目の前で、車の所有者が笑顔を引きつらせていた。 金髪の麗人、機動六課はライトニング分隊の隊長であるフェイト・T・ハラオウンその人である。 整った顔立ちの彼女は、こみ上げる怒りを抑えているためか笑顔が引きつっていることがありありと伝わってきて、思わずは触っていた車のボディから手を離す。 「お願いだから、指紋つけないで」 「はいすいませんごめんなさいゆるしてください」 「…………」 ただでさえ男性率が少ない機動六課であるにもかかわらず、そのナンバー2に君臨する男は、とにかく腰が低かった。 そんな光景に、男性率の少ない現状を憂うフォルテとしては、頭を抱えずにはいられない。 「こ、これフェイト隊長の車なんですか?」 「うん。地上での移動手段なんだ…………高かったから、べたべた触らないでね?」 『は、はいぃっ!』 先ほどのを見ているからか、新人たちはフェイトが付け加えた一言にビシッと返事をせずにはいられなかった。 「みんな、練習の方はどないや?」 そんな空気を打破せんとばかりに、場の空気をあえて読まずに話題を変えた部隊長はやて、偉い。 助手席で冷や汗たらたら、フェイトとは違う意味で笑顔を引きつらせていたが。 「あ、はい! がんばってます!!」 「6人ともいい感じに慣れてきてるよ。君もなんだかんだで訓練に付き合ってくれるから、デュアルデバイスの扱いもいい感じ……いつ出動があっても大丈夫だよ」 「そっか。それは頼もしいなあ」 機転を利かせたティアナの返答が、話題をいい感じに反らしていた。 ティアナ偉い。 「2人でどこかへお出かけ?」 「うん。ちょっと6番ポートまで」 「教会本部でカリムと会談や」 夕方には戻るよー。 そんなはやての答えとは別で、フェイトは彼女の送り迎えがお役目らしく帰舎は昼前とのこと。 一緒に食べようか、という進言にエリオとキャロが嬉しそうに返事をしていたのが、端から見ればなんとも和む光景だった。 はやてが会談を予定しているカリムという人間は、聖王教会騎士団の魔導騎士であり、時空管理局本局の理事官という役職に就いているやり手の女性。 機動六課の立ち上げにも深く関わっており、諸手続きのほとんどは彼女が行ったため、はやては人材集めに集中できた。 そんな頼もしい彼女だが、はやて曰く上司というよりはおねえちゃん、という感じらしい。 そんな彼女の立場には無論理由があるわけだが、それは追々述べることとしよう。 「……んで、結局どうなったん?」 2人が教会本部へ向かい、新人たちが汗を流すため隊舎へ駆け込んで、残されたは隣のなのはにただ一言尋ねていた。 主語なんてなくてもわかってるだろ、といわんばかりに。 「うん。……『人間、やろうと思えばできないことなんてない』ってさ」 「あ、そ……」 新人たちも戦闘訓練に慣れてきた。 スバルは愛用していた自作のローラーブーツを使いすぎオーバーヒート。カートリッジシステムを使うために自作したティアナのアンカーガンもそろそろ寿命。 そんな理由から、新人たちは今日この後、実戦用の新しいデバイスを受領することになったのは、つい今しがたのこと。 デュアルデバイスは調整に時間がかかる。すぐに受領する必要があるのならば事前に調整を始めておくのが通例だが、 「別に問題はないでしょ?」 「ま、そうだけどさ」 フォルテがデュアルデバイスを使うことはお見通しだったらしい。 は事前に、エミリアのデバイスを受領したときについでとばかりにシフルにお願いをしていたのだ。 ……ガラにもなく。 今頃鬼の形相でデバイスの調整を行っている頃合だろう。目を血走らせてキーボードを打ち込む光景が目に浮かぶようだ。 「………………めんどくせ」 「くん、その『面倒』って口癖そろそろやめない?」 「やだよ。これが俺のアイデンティティだし?」 ぼりぼりと頭をかきながら隊舎へ消えたの後姿に、なのはは小さくため息。 あのお気楽思考は間違いなく彼の長所だ。その思考に、彼女も一時期支えられていたことがあったくらいだ。 頼もしさを感じられないのは、その彼の長所ゆえに、だが。 何があったかはわからない。 聞いても教えてくれなかったが、後に知ったのは、彼が所属していた部隊がとある任務で全滅したという事実。 つらくて、悲しいのは自分も同じはずなのに、彼は。 ――よう、なのはちゃん。ご機嫌いかがすか? ――まあ、なんだ。ネクラは良くないとお兄さんは思いますよ? ――ほらほら、ガッツリ喰わないと大きくなれないって。はい、これあげるから俺に構わず食べてください。…………俺これキライだから絶対残すし。 思い返せばそのたびに苦笑しか出ない。 自分を元気付けていたのかもしれないが、あの時はあまりの空気の読めなさに思わず怒鳴ったこともあった。 それだけ、自分にとっての『魔法』は、自分の中でも大事なものになっていたのだということに気付いて、あとで泣いて謝った。 そのときの彼の困りようときたら……………………なんかいい気分だったような気がした。 「いやいやいやいや……」 そこで気分良くしてどーすんの、私? ……ただでさえ魔王ととか不本意この上ない呼ばれ方しているというのに。 なのはは気を取り直してグッと握り拳を作ると、 「やるぞぉ〜、おーっ!!」 びしっ、とその拳を天につきつけ、自身のやる気を再確認したのだった。 魔法少女リリカルなのは The Another StrikerS #07 『騎士カリム、騎士はやてがいらっしゃいました』 はやての到着を伝えてくれた部下に、部屋へ通すよう言付けた。 羽ペンを置き時刻を見ると、約束の時間よりだいぶ早い。整理していた書類を脇に避けると、ゆっくりと立ち上がった。 今日は他に予定もないし、会談が終わったら一緒にゴハンでも誘おうかな。 久しぶりの再会というのもある。 機動六課設立の件で、このところお互いにあわただしくて、連絡を取り合うヒマもなかったくらいだ。 いい機会だし、近況やらなにやら話すのもいいかもしれない。 「カリム!」 そんなことを考えていたら、扉をノックされるまであっという間。 開いた扉の先には、マントで身体を覆いフードを頭からすっぽりかぶったはやての姿があって。 「久しぶりや」 「はやて、いらっしゃい」 彼女――カリム・グラシアはきれいな笑顔を浮かべ、はやてを出迎えたのだった。 今日の会談の目的は、昨今のミッドを騒がせているガジェット・ドローンと、ロストロギア『レリック』の話。 2,3日ほど前にミッドチルダに運び込まれた不審な貨物と、新型を含むガジェットたちの姿がほぼ同時に現れた。 カプセル状のT型とはすでに既出。 今回発見されたのは全翼型のU型と巨大な球体状のV型。特にV型はとにかく巨大。大の大人をゆうに超える大きさを誇るかのガジェットはしかし、その戦闘力はまったくの不明。 そのガジェットたちが、運び込まれたレリックと思われる貨物を追いかけているという情報が入ったのは、つい昨日の話だった。 貨物が発見されてから、ガジェットの姿が発見されるまでにおおよそ1日。この情報から予想される、ガジェットたちがレリックを発見すると思われる時間は大まかに、今日または明日。 予想以上の発見の早さに、カリムもどう動くべきか判断に困ったゆえの、この会談であった。 「おかしいな。レリックが出てくるのが、ちょう早いような……」 レリックのあるところに、ガジェットの姿がある。だからこそ、その不審貨物がレリックであると判断できた。 レリックは“超”がつくほど高いエネルギーを帯びた結晶体。外部からの魔力を受けると大爆発を引き起こすという危険度の高い代物だからこそ、過去に数度レリックの絡んだ悲惨な事件が起きているからこそ、カリムが対処の仕方や今後の動きに慎重になることは無理もないことだった。 だからこそのロストロギア。だからこその“第一級”捜査指定遺失物。 「レリック事件……その後に起こるはずの事件も、対処に失敗するわけにはいかないから……」 その言葉を最後に、カリムは押し黙る。 過去に起きたいくつかの事件を知っているからこそ、その顔つきは真剣なものだった。 二度と、悲惨な事件を起こさないために。 「大丈夫や」 沈黙を破ったのは、映像を投影するために暗くしていた部屋を明るくしたはやてだった。 宙に浮かんだコンソールを叩くと、開かれていくカーテン。 入り込んできた暖かな日差しに目を細めて、その先にいるはやてを窺い見る。 彼女は、自信に満ち満ちた笑顔を見せていた。 「何があってもきっと大丈夫や」 カリムが力を貸してくれたから。 部隊はもういつでも動かせる。即戦力の隊長たちはもちろん、新人フォワードたちも。 予想外の緊急事態にもちゃんと対応できる下地はすでに整っていると、はやては判断を下していた。 コレもひとえに、自身の部下であり信頼できる友人たちを信じているからこそ下せた判断といっても過言ではないだろう。 「あの子達は強い。何があっても、きっと最高の結果を残してくれる。あたしは、そう信じてる」 そういいきるはやてに、カリムは。 「それじゃあ、私も信じてみましょうか。はやての選んだ仲間たちを、ね」 先ほどの真剣さとは打って変わり、楽しそうな笑顔を浮かべていた。 ● 「うわぁ……これが」 「あたしたちの、新デバイス……ですか」 機動六課隊舎内のデバイスメンテナンスルーム。 その中央に位置する2つのデスクの上。 そこを覗き込んでスバルとティアナは感嘆の声を上げた。 光を帯び、浮かぶ4つのデバイスたち。トップに青い石を取り付けたネックレスに、シルバーに真紅の装飾をあしらったカード。残り2つは姿に変化はなく、腕時計型のストラーダに、腕輪の姿をしたケリュケイオン。 特に声を上げた2人は今まで自作のそれを使っていたこともあり、自身に与えられようとしている新たなデバイスをただ見つめるばかり。 「そうでーす。設計主任あたし、協力なのはさんとフェイトさんレイジングハートさんとリイン曹長。そして、お姉さ……ごほんごほん、シフル・レインズ二等陸士!」 錚々たるメンバーに、どうだまいったか! と言わんばかりにシャーリーは胸を張る。 事実、デバイスの内部設計、魔力の出力シークエンス、インストールされている魔法の確認。 今まで行ってきた訓練や実戦のすべてを詰め込むために、なのはやフェイト、レイジングハート、リインフォースが話しに話した上で完成したデバイスたちなのだから。 「そういえば、レインズ二等陸士は?」 「え、ああー……ちょっと、連日徹夜がたたってダウン中なの」 「め、メンテナンススタッフってそんなに大変な役職なんですか!?」 シフルの身体を案じる優しいキャロの問いに、シャーリーは苦笑。 メンテナンススタッフ――ひいてはデバイスマイスターという資格は文字通り、魔導師用のデバイスの製作、管理を行うことができる人間のことを指す。 彼らのやるべきことといえばやはりデバイスの製作、管理。デバイスを自作したことのあるスバルやティアナならその大変さは身に染みているだろう。 新人6人分のデバイスの製作と調整を、シャーリーと2人で、たったの2週間ですべて完璧に仕上げて見せたのだから、余計に。 「やー、協力してくれる人がいたから、6人分のデバイスを作る分には問題なかったんだけど……ねぇ」 シャーリーはそんな一言をつぶやきながら、目をそらす。 そらした先で光を称え、浮かんでいるのは。 「それって……」 エミリアの声にうなずいて、シャーリーは今までずっと黙っていたフォルテと目を合わせる。 にっこり笑って、そのデバイスを手に取ると。 「はい、フォルテくん。君の新しいデバイスだよ」 「え、いやだって……俺、デュアルデバイス使うって、つい今しがたきめたばっかりなのに、何で……」 彼がデュアルデバイスを使っていくと決めたのは、今日の早朝訓練……つい数時間前だったはずなのに。 いくらなんでも、たった数時間でデュアルデバイスを作成できるほど簡単なものではないはずなのに。 うつむくフォルテを目の前に、シャーリーは笑みを浮かべる。 「君たちの隊長さん、見かけによらず結構いい隊長さんよ?」 「は?」 言うまでもなく、デバイスを製作することはたった数時間では不可能。 人が使うものなのだ。不具合でその人の人生を無駄にしてしまうことは、デバイスマイスターとしての威信に関わるし、なにより自分自身の、デバイスマイスターとしてのプライドが許さない。 使うなら、完璧なものではければ。 だからこそ、時間をかけて作る必要があったわけだ。 「さん、1週間くらい前に私たちの……もとい、正確にはおね……げふげふ、シフル二等陸士のところに来てね」 曰く、なるべく早めにデュアルデバイスの製作に取り掛かって欲しいというお願いをしにきた、とのこと。 シャーリーはデュアルデバイスに対する知識が少ない。だからこそ、デュアルデバイス専門として、シフルがここにいるわけだ。 もちろん、シフルはそれを渋った。 フォルテがデュアルデバイスを使うかどうかと思い悩んでいたことを知っていたから。 下手をして彼がデュアルデバイス以外のデバイスを選んでしまったら、今までやっていたことが無駄になる。 デバイスの制作費だって無限にあるわけもなく、デバイス製作に割く人でも馬鹿にならない。 寂しい話だが、いち部隊に割り当てられる予算にも限りがあるし、デバイス製作だけに消費するわけにもいかないのだ。 だからこそ、無駄になることだけは避けるべきだとシフルは主張したのだが。 「そのおかげで、少し前にはもう完成してたんだけど」 なにもかもお見通しだったみたいね、と。 シャーリーは楽しげに笑っていた。 「ごめんごめん、おまたせー」 「なのはさん!」 このあと、各デバイスのおおまかな機能説明が行われることになる。 魔力の出力リミッターをかけて、デバイスの扱いに慣れていくことがまず最初。 現状の出力を扱えるようになったと判断できたら、なのはやフェイト、リイン、シャーリーの許可の下でリミッターを徐々に解除していくと、シャーリーは言った。 ちょうど、一緒にレベルアップしていくような感じですねー、なんてリインのコメントはまさに、的を射ているものだった。 「出力リミッターっていうと、なのはさんたちにもかかってますよね?」 「うん。デバイスだけじゃなくて、本人にもだけどね」 能力限定、と呼ばれる規則がある。 機動六課を立ち上げる上で、なのはやフェイトといった優秀な魔導師を保有したい場合、魔導師ランクの総計規模、と呼ばれる上限に収まるように、魔導師たちに出力リミッターをかける必要があるわけだ。 「ウチの場合だとはやて部隊長が4ランクダウンで、隊長たちが大体2ランクダウンかなあ」 「4つ!?」 部隊長であるはやてはもともとSSランク。そのランクを4つも落して、現在ではAランクになっている。 そのほか、なのはとフェイトはもともとS+ランクのものを2.5ランク落してAAランク。 だからもうすぐ、1人でみんなの相手をするのはつらくなってくるかも。 なのははそんな答えを返して、苦笑した。 リミッター解除は直属の上司の許可が必要になる。 つまり隊長陣ははやての、はやて自身はカリム、またはクロノの許可が必要だが、その許可自体滅多なことでは出すことはできないのだ。 「新型も、みんなの訓練データを基準に調整してるから、いきなり使っても違和感はないと思うよ」 話題は新デバイスの説明に戻る。 今はまだ基準値に合わせて設定しているだけ。微調整はこれから訓練中に行っていこうか、というなのはの提案に、新人たちは返事を返した。 「ちなみに、なのはさんとフェイトさんはわかりましたが、じゃあさんはどれだけランク落してるんです?」 「隊長はもともとAA+ランク。リミッターかけて2ランクダウンでB+ランクだよ」 「B+……」 「そのランクで私ら6人を相手に……?」 「4ランクダウンのはやて部隊長に2.5ランクダウンのなのはさんとフェイトさん。極めつけは2ランクダウンであたしらとそう変わらないさん。……無敵を通り越して明らかに異常ね、これは」 あたしらいらないんじゃないの? そんなことを冗談ながらに呆れたように口についたのは、ティアナだったりした。 ● 「ふわぁあああ」 『のっけから大きなあくびせんといてください』 はようやく訓練から解放され、汗を流すや否やベッドへダイブ。 心地よい布団の中で身じろぎしつつ、ちょっと遅めの二度寝へとしゃれ込もうとしていた。 結局、エミリアはたったの2時間ほどで魔法を発動できるところまでこぎつけた。才能か、あるいは努力の賜物か、どちらにせよ、今の彼にはどうでもいいこと。 「いいじゃんかよぅ。こんな朝っぱらから叩き起こされて訓練に付き合わされて、今ようやっと解放されたってのにさ。いいじゃん仕事したんだし好きにしたって」 『仕事はまだあるでしょう? デスクワークも、新人たちの訓練もこれからまだ』 「休むときは休む。それが俺のモットーです」 『ウソですね。あなたの場合は、いつでもどこでも休むときはとことん休む。でしょう?』 と、そんな息の合った漫才のようにしか見えない言葉の応酬が続いたが、それは隊舎内に響き渡る警報によって止められることになる。 眼前に突然浮かぶ、ALERTの文字。第一級警戒態勢を促す警報である。 耳鳴りに似たその音が目の前で耳を劈き、 「…………最悪」 『自業自得です』 とても寝ていられる状況ではなくなってしまった。 なんというか、機動六課に出向になってからこっち、休みらしい休みなんて取ってないんじゃなかろうか? 取れてせいぜい数時間程度で、全休はまったくもって取れたためしがない。 というか、その記憶がまったくない。 なぜだ? 『あなたが楽々を望みすぎなんです……ここではこれが普通と思えばどうですか?』 「思考を読まんでくれや、思考を…………てか、この状況を普通だなんて思いたくないなあ」 『仕方ないでしょう……ここはそういう場所なのでは?』 「そう思っちゃったらなんか、負けた気がする」 『一体、何に負けるっていうんですか、あなたは』 「…………世情?」 |
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