最初に感じたのは、驚きだった。 憧れの女性と同じ部隊、しかも直属の上司な上に彼女自ら自分たちを『教導』してくれる。 そんな恵まれた環境に舞い上がっていたのは確かで、 「――長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで……機動六課課長および部隊長、八神はやてでした!」 部隊長であるはやての演説を聴き終え、拍手しながら、スバル・ナカジマは壇上の4人を目で追いかける。 視界に入ってきたのはスバルの憧れの人、高町なのはと、有名な執務官フェイト・T・ハラオウン。 彼女たち3人は、管理局内でも知らない人がいないほど有名な3人だ。かつての3提督時代の再来か、とうわさされるほどの力の持ち主。 そして、そんな3人の隣の、1人の男性。 「……スバル?」 「え、あ、ティア……なに?」 「なにってアンタ……」 隣で呆れたように息つく彼女は、ティアナ・ランスター。 陸士訓練校時代からずっと一緒の同期で、自分にとっては替えがたい相棒。 少し気の強いところもあるけれど、走りすぎる自分のフォローをしてくれるいい人だ。 ……うん、すごーくいい人。 「ずっと見てるじゃない。愛しのなのはさんのこと」 「いや、愛しいとかそういうんじゃ……ないんだけどさ」 皮肉めいた一言を軽くいなしつつ、視線をさらに横へと動かす。 並んでいる3人のさらに隣。 隊長陣の中に並んでいる1人の男性。顔見知りだからなおさら、気になっていた。 相変わらずの表情に相変わらずの服装。 たぶん、その言動とか中身もきっと、変わってないと思う。 知り合ったのは8年前。 悲しいことがあって、大変なことがあって、色々なことがあって。 気付けば、まともに会えないままに今日に至ってしまった。 ……ギンねぇとお父さんにも教えてあげよう。 だからこそ、一緒の部隊に配属されたことは、きっと最高なことだと思うわけで。 「うん、いっぱい話しよう」 今まで満足に話せなかった分、たくさん話をしようと思えた。 ……あ、大きなあくび。 「あの人って」 「あれ、ティア知ってるの?」 「まあね。一部の局員には有名よ、あの人」 ティアナの視線から興味という単語が消える。 興味という単語が消える、というよりは、どことなく冷めている、と言ったほうがいいだろうか。 自分に厳しい彼女にとって、性格から何から正反対なあの人はきっと、天敵なのかもしれない。 「……私はあんまりいい印象はないんだけどね」 やっぱり。 「まあ、私個人の感情はさておき」 ごほん、と咳払い。 自分の発言をなかったことにするかのように、小さく場を改めると。 「局内でも数少ないデュアルデバイスの所有者にして、デュアルデバイスの第一人者。前線に出れば負けなしと名高い、近接戦のエキスパート」 デュアルデバイスは取り扱いが認可されてからもう10年近くなるが、運用効率の悪さやミッド、ベルカ両系統の魔法が使えることによる中途半端さが、局員たちから敬遠されがちになっているのが現状。 そんな中でデュアルデバイスの有用性を確立した……使い方次第ではどのデバイスよりも高い能力を発揮できるという事実を打ち立てた。 事実、彼は少年期にAAAクラスの魔導師4人を相手に互角に戦うという記録を残している。 そんな輝かしい実績を持っていながら、 「でも」 と、ティアナは言葉を続ける。 事務処理は苦手、事件が起きれば出動こそすれ現場はほとんど人任せ。 自分が楽をするためにだけ全力になる歪んだ姿勢。 「管理局のナマケモノってあだ名があるくらいに、楽々が大好きらしいわよ、あの人」 ティアナはそんな一言を口にすると、先が思いやられる、といわんばかりに大きなため息をついていた。 魔法少女リリカルなのは The Another StrikerS #02 「〜♪」 機動六課結成式が終わり、さっそくと言わんばかりに訓練の通達が言い渡された。 教導担当は言うまでもなく、高町なのは一等空尉。 不屈のエースオブエースと呼ばれた彼女の教えを請えることは、なんとも幸運なことだと思う。 だから、こうしてすぐに訓練が始まっても、全然問題がなかったりするわけだが。 「エミリアさん、なんか嬉しそうですね」 「あ、キャロ……やっぱりわかるかな〜」 今は、これからの任務を共にする同僚たちと共に訓練場へと向かっていた。 なのはから直接「訓練を始めようとおもうんだけど」と指定されたのは、機動六課隊舎から歩いて5分程度のところにある海しかないような場所を指定された。 言葉で表現しづらい、六角のタイルが敷き詰められた海面の見える湾岸地帯。 そこに何があるのかなど、配属した手の新人にわかるわけもない。 そんな場所へ向かう道中、新人の1人であるエミリア・ウィンスレットは同期でありこれから仲間として行動を共にするキャロ・ル・ルシエに話しかけられていた。 彼女とは6つほど年の差がある。 とある事件で両親に先立たれ、今のウィンスレット家に引き取られ、エミリアが今のキャロと同じ年の頃にはようやく魔法の勉強や訓練を始めた頃。 そんな年のころの自分には、今のように部隊に配属されて訓練や任務に就くことなど、考えたこともなかったから、初対面で素直に“すごい”と思えた。 「目標にしている人と、一緒の部隊に入れたことが嬉しくてね」 命を助けてくれた。 両親の死を目前にした空虚な自分に、最初の手を差し出してくれた。 今の自分を形作る要素を、たった一つにして最大の武器を、進むべき道を示してくれた。 そんな恩人にして、自分の一番の目標としている人と共に任務に就けること。 エミリアにとっては、それが嬉しくて仕方がなかった。 「へえ、エミリアさんが目標にしてる人ってどなたなんですか?」 「さん。普段はだらしない人かもだけど、すごい人なんだよ」 だから、エミリアは誓う。 この幸運を隅から隅までかき集めて、余すことなく自分自身の糧にするのだと。 「しかし、キャロの肩の……えと、フリードだっけ?」 「はい、このコはフリードですけど……それがなにか?」 「か、可愛いわねえ……………………………じゅるり」 「は、はぁ……」 「きゅ、きゅくるぅぅ……」 ● 「へえ、電気の変換資質か……それに、機動力を生かした高速戦がキミの武器と」 「はい。……と言っても、まだまだですけど」 赤い髪の少年エリオ・モンディアルは、控えめに笑って見せた。 彼と並んで歩を進めるのは、鳶色の髪。 フォルテ・ディグニティという名の少年は訓練校時代にエミリアとコンビを組んでいた関係もあってか、または訓練校時代から突出していた能力を買われてか。 ともあれ、相棒だったエミリアと共に引き抜きにあったのが現状だった。 「フォルテさんは……」 「ああ。俺は剣と格闘術を主体とした近接戦が得意でな。速度よりも一撃にモノを言わせた戦い方が基本だよ」 そんな言葉を口にしたフォルテは右手に力こぶを作り、さらにその力こぶをぱんぱんと叩いて、爽やかに笑って見せた。 鍛え上げられた筋肉がしなり、その筋力の高さが窺える。 まだ幼いエリオからすればそのいでたちはまさに、自身の描いた理想形ともいえるだろう。 フォルテとエリオは年の差で5つ。あと5年でどこまで己を高めることができるだろうか。 更衣室にたどり着いたエリオはそんなことを考えつつ、訓練着へと袖を通した。 「……っ」 自分は、けして戦闘が好きというわけではないと思う。 自作デバイスである無銘の長剣を視界に納めて、フォルテは小さく息を吐き出した。 ぶるり、と震える右腕を左手で押さえつける。 しかし、震えは止まらない。 「フォルテさん?」 「!?」 声をかけられて、その震えが収まっていく。 ……否、収まったのではなく一時的に止まっただけ。その証拠に、再び感じた腕が小刻みに震える感覚。 これはきっと、武者震いだ。 「ああ、なんでもないない。それよりさ」 自分よりも強い人間と、それも管理局でも指折りのストライカーたちと、訓練であれ刃を合わせることができる。 我流であるからの限界で、たった1人で作り上げたスタンスで、彼らを相手にどこまで喰らいついていけるか。 今の自分と1年後の自分に、どれだけの差が生まれているのか。 推し量るには十分すぎるメンバーだから。 「……俺たちはフォワード部隊――いや、機動六課でも数少ない男だ。女連中に負けないように、きばっていこうぜ!」 「はいっ!!」 自分の力を思い切り試すことのできる数少ないチャンス。 それが今から、楽しみで仕方がないからこその武者震いだった。 ● 「なあ、ザフィーラさん」 は機動六課隊舎の屋上で、腰を下ろしていた。 隣には大きな狼……はやての家族の1人であるザフィーラを伴って、爆音の鳴り響く眼下を見やる。 なのはの教導のもと、6人の新人たちがガジェット12体を相手に奮闘している光景が見て取れた。 「……なんだ?」 「なぜに人型にならないんで?」 「この形態の方がなにかと動きやすいのでな」 ザフィーラは、夜天の主を守る守護『獣』。 見た目どおりの獣の姿だが、彼にはもう1つの姿がある。 それがの言うところの『人型』。その名の通り成年男性の姿を取るのだが、実際の話、は機動六課に来てから――まだ配属されて1日と経っていないが――彼が人型を取っている光景を、見たことがなかったりした。 ……というか、会った先から獣形態ばかりだった記憶しかなかったりした。 「もしかして、管理局ではずっとそれ?」 「その通りだ」 「…………」 聞けば、局内でのザフィーラの扱いは完全にペットのそれだと聞いたことがあったからか。 『だから食事もねこまんまなんですよ』 「…………っ」 アストライアの情け容赦ない一撃が、彼の胸を貫いた。 言うまでもなく項垂れるザフィーラ。雄々しいはずの獣の姿が、まるで縮こまったネズミに見える。 やっぱりというべきか、当然というべきか。 どちらにせよ、彼は現状に満足できていないらしい。 「まあ、はやてが満足ならソレでいいってヤツですか。……相変わらず主思いなこって」 の言う『主思い』というのは、けして悪いことではない。 むしろ従者としては当然とでも言うべきか、見上げた騎士道精神だ。 ……もっとも、当のはやてはザフィーラを 「ともあれ、これから1年よろしくお願いしますね。ザフィーラ副隊長殿」 「ああ……もっとも、私は皆の留守を守る役割もある。お前とあまり前に出ることはないだろうがな」 なのはを筆頭とするスターズ分隊の副隊長がヴィータであるように。 ライトニング分隊の隊長であるフェイトの補佐がシグナムの役割であるように。 ウインド分隊隊長のをサポートするのが、同じヴォルケンズのザフィーラが任命されていた。 もっとも、本人の言うように基本的には機動六課の本部の守護が主な仕事。ウインド分隊副隊長、なんて肩書きは、あってないようなものだった。 「お、にザフィーラじゃんか」 そんな1人と1匹の背中に、声がかかる。 振り返ってみれば、そこにいたのは少女と女性。 少女はそのまま少女らしく、管理局指定の制服に身を包んだお子様体形。腰まで結わえた2本の大きなみつあみが風に揺れ、細い腰に当てられた両手が少女の勝気な性格を如実に示している。 そんな彼女とは逆に、隣の女性は実に寡黙な印象を受ける。 甲冑など纏っていなくても、感じられるのは騎士然とした出で立ち。 「ヴィータにシグナムか」 2人もまた、ザフィーラと同じはやての家族であり、それぞれの分隊の副隊長に籍を置く存在だった。 「お前たちも、新人たちの見物か?」 「まあ、そんなトコだよ」 4対の目が、眼下に向かう。 立ち上る爆煙。 耳を貫く轟音。 そのすべてがリアリティがあり、とてもバーチャルとは思えない。 そう。 目の前に立ち並ぶ朽ち果てたビル群や街並みは、皆ただの映像に過ぎないのだ。 なのは完全監修の訓練スペース。 ロングアーチの通信主任シャリオ・フィニーノ……通称シャーリーがなにもない空間に街並みを投影し、ターゲットの動作パターンを操作する。 そして、6人の新人たちが必死になって追いかけているのが機動六課の当面の『敵』であるガジェット・ドローンという自律型の戦闘機械だった。 「お、オレンジの魔力弾が弾けた……AMFだっけか。…………よくできてるなぁ」 そして、ガジェット特有の機能。 Anti Magilink-Field……通称AMFと呼ばれる上位の魔法防御。 魔力結合、魔力効果の発生を無効化する―――簡単に言えば、魔法そのものを無力化できるAAAランクの防御魔法。 展開したフィールドを大きく広げられると、攻撃魔法はおろか飛行や機動などの移動に関する魔法すらも完全に無効化されてしまう厄介な力だった。 「ところで、お前は何もしなくていいのか?」 「…………へ?」 新人たちの訓練を見ながら、シグナムのふとした問いには素っ頓狂な声を上げる。 かじっていた食パンを飲み込んで、何か予定があったような、と空を見上げる。 眼下の轟音を耳に入れつつ、 「……なんかあったような気がするけど、別にいいや」 いつものように、あっさり考えることを放棄した。 「あ、相変わらずのアバウトさだなお前……」 「なに当然のこと言ってんのさヴィータさんや。アバウトさと楽々は俺のアイデンティティよ?」 面倒ごとは間違いなく回避に走るの性格。 それは10年経った今でも変わらず、彼の中に息づいている。 そんな彼の性格をどう捉えるかはその人次第であるが、今この場にいるをのぞいた3人は特に気にした様子はない。 「アストライア、お前は知っているんだろう?」 『もちろんですよ、ミス・シグナム』 「なぜ主であるに知らせてやらんのだ?」 『予定も忘れるような人は、お仕置きされればいいのです』 「あ、そ……」 なんとも、微妙な関係な魔導師コンビだった。 「あーっ! こんなところにいた!!」 そんなときのこと。 ばぁぁん! と大きな音を立てて階下へ続く扉が勢いよく開く。 管理局の制服に身を包み、腰まで伸ばされた滑らかな髪がばさばさとはためく。 機動六課通信士兼、メカニックデザイナーのシフル・レインズ。 なのはと行動を共にしているシャーリーの部下に当たるが、彼女の役割は主にデュアルデバイス……つまりアストライアのメンテナンスを主に担当している。 デュアルデバイスに詳しくないシャーリーの補助、という立場の彼女は、息も絶え絶え般若の表情で、 「―――!!」 「ぎゃああああ!?」 の耳元で思い切り、怒声を浴びせる。 言うまでもなくその声に絶叫するのはで。 「あ……し、シフルさん?」 「あんた、午前中に新人用のデュアルデバイスの面倒見るって話だったじゃない!」 それは、まさに面倒この上ないものだった。 新人たちの中に、将来的にデュアルデバイスを使いたいという声があり、その対応のために、データの蓄積と使用者本人の意見を取り入れ、最高のデュアルデバイスを作るために協力することになっていたのだ。 「あー? なに?」 「〜〜〜〜〜っ!!」 耳元で思い切り叫ばれて、思うように聞き取れないが聞き返し、いつもの自分勝手さにイライラが頂点に達し、そして。 プチッ♪ 「聞こえなくていいから、さっさと来いこのニブチン!!」 「ああああだだだだだだ!?!?」 キレた。 聞こえないからと近づけられたの耳をむんずと掴み、引きずって強制連行。 働かざるもの食うべからずとはよく言ったものだが、シフルに引きずられていくの姿は、なんとも哀れに見えた。 それはもう、売られに行く仔牛のごとく。 「自業自得だな」 「「ああ、まったくだ」」 そんなドナドナなを見てつぶやかれたザフィーラの一言に、ヴィータとシグナムは大きく同意して見せたのだった。 |
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