最近、ミッドチルダで地上事件が多いような気がする。 はそんなわかりきった事実を再認識しつつ単独で現場へ飛び、犯罪者たちを追い回す。 ……二人一組で行動していないのはないのはなぜか? 普段の彼らを知っていれば、誰もの頭にそんな疑問が浮かぶだろう。 答えは簡単。 単純に、人手が足りなさ過ぎるのだ。 は立場的には一般的な武装局員。しかしデュアルデバイス使いであり、かつ単独任務の経験が災いしてかこうして1人、街中で人質を取り立て篭もった犯人をしょっぴくために出向いているわけだ。 隊長のゼストはもちろん休むわけにもいかないのだが、今日は大事な会合の日。 入局30年以上の大ベテラン、が所属する首都防衛隊の代表を務めるレジアス・ゲイズ中将と共に本局へ出向いている。 「まったく! なんで俺ばっかりこんな目に!?」 地上部隊に配属されたのが運のツキ。 彼の苦手な体育会系でなかっただけまだまだまだまだマシだったものの、まさかここまで大変な時があるとは思いもしなかったのだ。 彼はまだ、他に数件の事件を抱えている現実。 …… ついこの間まで中学の文化祭の練習をしていたなんて、遠い昔の出来事のようだ。 「明日はリハーサルだってのにさ、この調子じゃ今日帰れるかわからないじゃないか!!」 『だったら、全部蹴散らして』 「こらこらアストライア、物騒なこと言わない! ……まあ、今も十分物騒だけどさ」 彼女の言うとおり、いっそ蹴散らしてしまおうか。 どうせクレームが来るのは自分じゃないんだから、我慢なんかしなくたって……いいんじゃなかろうか。 ともあれ、ぼやいている暇はない。 「相手は何人かな」 『建物の中に数十コ、バイタル確認! そのうちいくらかは魔導師みたいだよ!』 「よりにもよって……おけ、りょーかい」 シフルの慌てた声を聞きながら返答して見せるが、彼女からの応答はぶつりと切れている。 彼女もまた、複数の事件のサポートを掛け持ちしているのだ。 四方八方から聞こえてくる支援要請の声に、てんてこ舞いになっているに違いない。 『! あたしらの追ってた それだけではない。 事件から事件が飛び火するのだ。 聞こえた通信は数人の部下を引き連れて事件鎮圧に当たっていたクイントの声だった。 彼女たちは突如勃発したテロの鎮圧に出向いていたのだが、どうやらが今いるこの場所のすぐ近くだったらしく。 『マスター、2時の方向に魔力の高まりを感知しました』 「……げえっ、どこ、どこ!? 2時の方向……空!?」 見上げたときにはすでに遅く、1人の女性がデバイスの穂先を構えて魔力を収束させていた。 表情には狂笑。 整った唇を歪めて吊り上げて、犯人と思しき女性は。 「ぶっとびなああっ!!!!!」 遠慮もなしに、橙色の収束砲が放たれた。 「じょっ、じょーだんじゃない!」 『Bright move!!』 無理をしてでも、といわんばかりに、は立て篭もっている犯人を刺激してしまうことを覚悟してまで地面を蹴りだした。 女性の放った収束砲の先には、人質と共に犯人が立て篭もっている建物があるのだ。 間違って直撃なんかしたちゃったら最後、中の犯人も人質もまとめて天国行き。犠牲者はいないに越したことはないし、なによりそうなったら…… 「盾いくよ! 砲撃逸らして一気に確保!」 『O.K.! Steig-eisen!!』 後が面倒この上ない。 瞬く間に橙色の光と建物の間に割り込むと、アストライアを握っていない左手を力強く突き出す。 展開されたのは広げた手から先だけを守る緑色の盾。 激突したのは、それが彼の身体を覆い隠してすぐのことだった。 さすがに、某魔砲少女ほど膨大な砲撃魔法が使える人間は稀だ。彼女はもちろん、その稀の中に入っておらず、さほど苦しくもなく受け止めることができた。 しかし苦しくないとはいえ、されど砲撃である。 「……ちぇっ、ヤなこと思い出しちった」 腕にかかる衝撃は大きい。 目の前の橙色が目の前に広がって、いつかぶっ放された桜色がよみがえりそうだ。 『Ariel Emission』 そんなイヤな思いを振り切るように、大剣を象るアストライアからの電子音声と共に、その手を振り構える。 飛び出したカートリッジは4発。ベルカ式の魔法をトリガーにミッド式の魔法を行使するデュアルデバイス特有のシステムによって許可された、調整を繰り返して任務をこなしていくうちに改良を加えた斬撃魔法だ。 盾に押さえつけられた砲撃を自身が展開した盾ごと斬り裂くように、凝縮され三日月に形を変えた巨大な魔力斬撃がまっすぐ女性へと向かっていく。 そんな大きく純粋な力を向けられた方はもちろん、たまったものではない。 自分で決めて、手にした力で逆に自分が押し潰されるという状況を眼前に、しかし真っ向から信じられることができないまま、 「ぐぅ……ぁっ!?」 非殺傷設定で魔力のみを削る魔力の塊が、ダイレクトにぶち当たった。 耳を貫く爆音。 一瞬にして視界を覆いつくす黒い煙から落下していく女性をバインドで捕獲&拘束。 建物の安否を見ると、やはりというべきか。 今しがたの砲撃に動揺した犯人が錯乱したのか、爆音と共に壁や窓から砂煙が噴出している。 しかしまた、なんでこんなに事件ばっかり起こるんだか。 おそらく今しがた捕縛した女性も、何かしら辛いことがあって、それから逃れるためにあんなことをしたのかもしれない。 …… どんだけ治安が悪いんだミッドチルダ。 「あー…………もうメンドくさいや」 眼下で響く爆音と、ひび割れる壁やらなにやらを見下ろしながら、ぼりぼりと頭を掻く。 「突入するよアストライア……蹴散らそか」 『待ってました!!』 フォームチェンジするは突撃槍。 急には止まれないリスクを背負ってでも役に立つのが、この形態の突破力だ。 立ちはだかるすべてを貫き蹴散らす直線的な力は。 『Sky Diver!!』 壁を砕き内部を貫き、建物内部へたやすく突入した。 突進の勢いはなくなる気配を見せず、は床に両かかとを強引に床に叩きつける。 摩擦による抵抗力で止まろうと考えたのだが。 「あぁららららっ!?!? ……っとっと」 慣性の法則に従ってか、身体だけが前へ前へと流れ流れてつんのめる。 顔面から床にダイブしなかったのは、ある意味訓練の賜物か。 体勢を整えて突撃槍のままのアストライアを、こびりついた砂利を吹き飛ばすように振るう。 周囲には砂煙が立ち込め、視界は閉ざされたまま。しかし、かすかに見える魔力光はどれも、自分を警戒した犯人一味のもの。 『、周囲に魔力の高まりがたくさん! 回避して一気に確保! ……いけるよね?』 「……次がつかえてるんだよ。ソッコーで終わらせるに――」 アストライアから再び薬莢が飛び出す。 「――決まってるじゃんか!」 変化するは細身の片手剣。 片刃かつ反り返った刀身は、剣ではなく刀と称したほうが適切だろう。 そんな小柄になった相棒を手に、 『Bright Move!!』 その場に渦巻く風を残し、は疾走した。 目印は魔力光。撃ってこないところから、それはただの威嚇に過ぎない。 だったら、話は簡単。 『Storm Blade, Breeze Shift...』 勢いに任せて、一気に片付けるだけだ――!! 「ドライブ!」 『Drive!!』 魔法少女リリカルなのは A's to StrikerS - Act.10 - 「ぜえ、ぜえ、うへえぇぇえ」 帰ってきた途端にばたーん。 久しぶりの単独任務だったが、運動量は今までになく多かった。 体力的にも魔力的にも疲れきっていたが任務を終えて事後処理をクイントに押し付けて高町家へ帰還したときには、すでに日付が変わろうという時間帯だった。 玄関に倒れこんだは這いつくばって居間へ行くと、完全に消灯されていた。 ……否。 テーブルの上のスタンドライトが、1人分の食事とメモを照らしていた。 なけなしの力を込めてテーブルの上に頭を移動させ、メモへと目を走らせると。 ――おそくまでごくろうさま。ごはん、あっためて食べてね。 かわいらしい丸まった文字で、そんな一行が綴られいた。 完全に冷めてしまっていたが、文明の利器電子レンジを使えば一発。あったかごはんの復活だ。 しかし、やはり1人で食べるのはどうにも味気ない。 ……おいしいけど。 「あれ?」 そんなときだった。 玄関へ続く、今しがた自分が這ってきた廊下へ続く出入り口から聞こえた、1つの驚きの声。 なのはだった。 のどでも渇いたのだろう。眠そうな表情のままキッチンへ向かおうとしたところで、もそもそと食事を頬張るを発見。遅い帰宅に驚きの声を上げたのだ。 「くん、今帰ってきたの?」 「あー、うん。今日ほど自分の希望配属を後悔した日はないね」 「にゃははは…………あー、自業自得?」 「ぐはっ、それを言っちゃったらおしまいだよなのはちゃん……」 無邪気な笑顔がどことなく、癒されてる気がした。 なんというか、そこまで疲れていたのかと思うくらいに底辺をばく進していた気分が、少なからず浮上しているのを感じながら、はご飯をかっこんだ。 「そっちは今日は?」 「うんっとね、首都防衛隊のフォローがメインだったかな。くんの隊の人たちとは一緒じゃなかったけどね」 話を聞くと、どうも今日は厄日だったらしい。 爆発的な数の事件が同時に発生、首都防衛隊だけでなく航空武装隊にまで要請をかけて動いてもらっていたらしい。 なのは曰く、執務官候補のフェイトや特別捜査官のはやて率いる八神家までが総出で鎮圧にあたったとの事。 彼女たちや航空武装隊の局員たちの働きのおかげで、自分は『この程度』で済んだんじゃなかろうかとか勘繰ってみるが、今となっては過ぎた話だ。 「とにかく、今日は努力して寝ることにするよ」 「努力してって……よくわかんないよくん」 『この人のよくわからない言動はいつものことですよ』 夜も深まってきた時分。 中学生および小学生の身には、言うまでもなく辛いものがある 2人を脅かすのはそう……眠気だった。 なのははもともと、不意に渇いたのどを潤そうとしただけだったのに、つい話し込んでしまった。 は激しすぎるほどに身体を動かしてきたのだ。動かした分だけ身体は疲労し、急速を求めるのは人間として正常すぎる機能といえるだろう。食事をしたこともまた、眠気に拍車をかけている状況。 「ふぁ……あ、そうそう。今週末、ウチの学校の文化祭なんよ。例のバンド、いい感じにできてるから、アリサとかすずかちゃんとか連れて見にきなよ。フェイトもきっと喜ぶと思うし」 「ホント!? わあ、フェイトちゃんの晴れ姿楽しみだなあ……はやてちゃんとかヴィータちゃんも誘って行くからね!」 ビデオカメラ用意しなくっちゃね! …… なんか言動おかしくない? 『マスターが変なことばかり言うから』 「あれ、俺のせい? 俺のせいなん??」 …… … と、いうわけで翌朝。 「ぁぁぁぁああああああっ!!」 まるでいつかの再来だった。 ばたばたと慌てた勢いで制服を着ながら駆け下りてきたのは、盛大に寝坊しただった。 起こされなかったわけではない。むしろ、あまりに遅いために恭也が起きるまで声をかけ続け身体を揺すり続けたくらいだ。 それでも起きる気配がいっこうになかったためか、結局恭也も大学へ。 桃子と士郎も翠屋へ行ってしまい、半放置状態だったり。 「今何時!? もう昼!? ……あー、もう慌てても無駄かな。まったり行こう」 今日は1ヶ月の練習の成果を形にする第一歩。 会場となっている体育館でリハーサルだ。もちろん、事情を知る音楽教師の立会いの下で、放課後の部活動も終わり間際から2時間ほどを予定している。 女の子の夜歩きはどうかと思うが、そこはと仁が責任を持って送り届けることを確約させられた。 ……フェイトとかリリスあたりは、気にしなくても大丈夫な気がしないでもないが。 「やあやあ皆の衆、今日も学業に励んどるかね」 『お前も励めよ!』 クラスメイトたちに盛大に突っ込まれながら、は昼休みも終わり間際に教室へ入室した。 まったくもって余裕を持ちすぎている彼の行動はもはや周知の事実で、その行動を咎めることを完全に諦めて眺めていたのだが。 「おせええええええっ!!!!」 昼休みも終了寸前。 時計の針が動くのが目前に迫っていたのだが、堂々と重役出勤してきたに襲い掛かった人間がいた。 「……捻って進むは男道! 喰らいやがれ……」 仁である。 彼は大きな一歩を踏み出し、強く握っていた拳に力を込める。 今までになく渾身の力を込めた人影は、 「漢はァ―――っ、気合拳ッ!!」 熱い魂その手に込めて、何度も練習を重ねてきた正拳突きを繰り出す。 とても中学生とは思えない、正拳の理想形。 その拳はただまっすぐに………… 「ぐふぅっ」 余裕をぶっこいていたの腹に吸い込まれていった。 一瞬スローモーションになる周囲の光景。 スローモーションのまま、がゆっくりと床にうずくまってぴくぴくしている。 クラスの皆は、仁の一撃がにヒットしたところを今まで、見たことがなかったのだ。 「あ、あたった!?」 「やべえ、俺らまだ夢の中にいるんじゃね?」 「いつもなら君の『鞄チョップ』が決まるはずだったのにねえ」 「くん、もしかして調子悪いんじゃないの?」 口々に騒ぎ立てるクラスメイトたち。 痛みに苦しむに手を貸す存在はいなかったが、それもそのはず。 きーんこーんかーんこーん…… 午後の授業が始まる合図が、校舎中に鳴り響いたからだった。 「おらー、お前ら席に着けえ」 気だるそうに入室してきた国語教師が教室を見回して、 「おぅい、沢渡に。お前らアホ面してねえでさっさと座れー」 驚愕している仁と腹を押さえてうずくまっているに情け容赦ない一撃を放っていた。 ● 実際、は疲れていた。 一晩寝ただけじゃ足りなかったのだ。 昼近くまで寝続けてもまだ足りず、本調子を取り戻したのは放課後。睡眠学習を続けた賜物といえた。 ……言うまでもないが、絶対に真似しないように。 「、あんたどーしたのよ一体?」 仁に一撃入れさせちゃうなんてさ、なんて言って顔を覗き込んでくるリリスに、は後ずさりしつつ苦笑する。 本当のことなんていえるわけもない。 犯罪を武力鎮圧してたました、なんて言った所で、魔法の存在が認知されていないこの世界では電波なお話に過ぎないわけで。 「まー、色々とありまして」 放課後もそこそこに、フェイトも合流した仲良し四人組+αは、目の前に迫ったリハーサルを前にそれぞれのパートを入念にチェックしていた。 鳴らしてみたり、チューニングしたり。 ヴォーカルのフェイトはその必要がないためか、手持ち無沙汰に4人の見回していた。 彼らの前には、楽譜などは置かれていない。同じ曲を何度も何度もやってきたのだから、もはや楽譜は必要ない。 あとは、この一瞬一瞬を楽しむだけ。 「そういえば、フェイトの制服は?」 そんな中、素朴な疑問を口に出したのはだった。 メンバーに小学生を加えたことは、メンバー内で内緒の話。 つまり、彼女に聖祥小学校の制服で出られては困る。 だからこそ彼女をこの中学校の生徒に仕立て上げて、事実を隠蔽する必要があったわけだ。 その策として一朝一夕かつ簡単な方法として挙げられたのが、リリスかさとりのスペアの制服をフェイトに着てもらうというものだったのだ。 「ふふーん、アンタにいわれるまでもなく、抜かりないわ!」 リリスは自慢げに胸を張る。 成長が早いのか、それともどこぞの外国人の血筋か。 日本平均よりも豊かに成長している彼女の胸が強調されるが、彼女はるんたったとスキップ踏みふみいつもは見ない大きなカバンを開ける。 そこに入っていたのは。 「さとりんのじゃちょぉっとサイズが小さいみたいだからねえ……あたしのをほら」 ばさあっ! 「このとおり!!」 さとりは小柄だった。 発育が悪いわけではなく、ただ一般的な平均よりも少しばかり身体の成長が少ないだけ。 フェイトの場合は、それがむしろ逆だった。 小学5年、周りの中学生たちよりも3つほど年下であるにもかかわらず、成長は著しくさとりよりも背は高い。 彼女の制服では役不足だと判断するには、十分すぎる要素といえた。 リリスの両手で広げられたブレザーは、彼女の挙動にしたがってばさりとはためき、フェイトの眼前に広がった。 さとりの 他に頼れる人間がいない以上、多少の妥協は仕方がない。 もっとも、さとりの制服を着るよりは遥かに 「ささ、フェイトちゃんっ! 今日のリハーサルではちょちょちょーっと着てみましょっか♪」 「あ、はい……わわっ!?」 フェイトの腕を取って体育館の端へ。 体育の授業で使っているマットが積み上げられ死角になっている部分へ姿を消した。 「あ、あのっ……リリス先輩!? ちょっ、あの自分で着れますから!」 「いいからいいから〜ん♪ おっ、出るトコちゃんと出てるのねえ。フェイトちゃんまだ小学生よね? …………う〜ん、このコの将来目に見えるようだわね」 「……せんぱい、目がこわいです」 合掌。 …… というわけで、フェイトが着替え終わったのは色々あってか10分ほどたった後のこと。 恥ずかしそうに胸元で腕を組んで、もじもじと身体を捩じらせている。 ……まあ、普段から着ないような服な上に、自分に注目が集まってしまっているのだから仕方がないといえば仕方がない。 「どーよ男衆? 金髪ツインテールの女のコが恥ずかしがるこの光景! ……萌えるっしょ」 「「知るか!!」」 声を揃えて突っ込む男2人。 中学生とはいえど、そろそろお互いに異性を意識しだす年頃。しかもみんなで1つのことを成し遂げようとしている今日この頃。 なにかと意識しだすような感覚も、あるのではなかろうか。 ……なんて、そんな考えは思っていても口に出さないものだと思う。 しかし。 「。そのっ、どう……かな?」 「へ? …………ああ、いいんじゃない? うん、よく似合ってる」 「あ、ありがと」 フェイトは、頬を赤く染めたままどこか嬉しそうに笑って見せたのだった。 「……あの、そろそろリハーサルやらないかな? 時間、なくなっちゃう」 結局、さとりの声をオチにそれぞれ楽器を手にしたのだった。 ● 「改革が必要です!!」 明かりのほとんどない会議室。 そんな暗がりに集まったのは、管理局の重鎮たち。彼らは、度重なる事件を減らそうと、一人でも多くミッドチルダの人間たちを守るために、このような暗がりに集まっている。 もちろん、それだけではない。 先日連発した地上事件と、その裏にある何らかの要素と。 「この街の平和、この街の正義! 私にお任せいただければ必ずや……」 そして、会する人間たちの絡み合う思い。 そんな中で1人、声を荒げる者がいた。 レジアス・ゲイズ。 彼はただ純粋に、守りたいだけなのだ。 この広い広い街を、世界を。 「より高度な治安を人々にもたらしてみせる!!」 それが例え、行くべき道を違えたとしても。 内々に秘めた思いも、人々を思うその願いも。なくならない地上事件への忌々しさも。 事件に事件が重なり、いつまでたってもなくならず。 通報されれば動かねばならない、毎日がそんなことの繰り返し。 ……それが気の短いレジアスならばなおさらだ。 「レジアス、近頃、あまりいいうわさを聞かんぞ」 それは、会議室を後にした彼に合流したゼストが強く感じていた。 街を、そして人々を守りたい。守りたいからこそ、 彼には魔導師となるための『資質』がない。ないからこそ、人に教える資格もない。 だから代わりに権力を得るために、彼は努力に努力を重ねたはずだった。 それが今は。 「俺は何も変わらん。ただ、ミッドの人々が安心して暮らせる街を作りたいだけだ」 考えこそ変わらないものの、局内を流れる悪いうわさによって以前の彼のイメージががらがらと音を立てて崩れていくようだった。 前は、もっと正義感にあふれていた。 話していて馬も合ったし、楽しかった。 彼の理想。そのためなら、この身を削る事だって厭わないと思えた。 しかし今は――― 「お前の部隊、戦闘機人事件を追っていたな」 「……ああ、もっとも動いていたのは一部の人間だけだったがな」 「お前にはもっと重要な案件があるはずだ……明日には指示する。そっちに移れ」 ――そんな想いにひびが入る。 “ナカジマ、アルピーノ” つけてきていたのは知っていた。 だからこそ、伝えることも楽だった。 盗み聞きをしたことはまあ……水に流そう。 “例の地点、突入捜査の予定を早めるぞ” メガーヌとが見つけてきた『あの施設』を、事件事件で調査が遅れていたあの場所の調査を早急に済ませるのだ。 「今夜、全部隊を率いてここを発つ」 「え、でも……」 命令に肯定することに戸惑っていたのはクイントだった。 ゼスト分隊全部隊をもって突入することはいい。突入作戦に向かうこともまったく問題ない。 ただ、今の状況では『全部隊』と言えないのだ。 「ああ、は今回は呼ばない。……あいつには1人で頑張ってもらったからな」 「そうですね。……あ、そういえば、学校でイベントがあるって張り切っていましたよ」 「へえ! じゃあ、この任務が終わったらさ。みんなで行って驚かしましょうよ。…………うふふ、のアホみたいな顔が目に浮かぶようだわ〜」 「おいアルピーノ、ナカジマも。その話は任務が終わってからにしておけ。…………準備しろ」 は呼ばない。 これが後々の結末を決定付ける要素となることを、彼らは知らない。 あの施設の中に誰がいて、何をやっているのか。 この彼の選択が、最悪な結末を決定付けることになろうとは。 ゼストも。 クイントも。 メガーヌも。 そして、も。 ……誰も、思ってなどいなかったのだ。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||