「あの娘が、目覚めた?」 最初にその報告を受けたのは、ちょうど学校で昼食を食していたときのことだった。 本来の中学校ならばいわゆる給食なる食事があるはずなのだが、今日は給食センターが『なんたら記念日』でお休み。それに伴って、今日は自由昼食となっていた。 周りには言うまでもなくいつもの仲良しが屋上に集まって、それぞれが思い思いの昼食を広げて談笑している真っ最中に突然、の携帯電話からけたたましいコール音が鳴ったのだ。 便利なことに、ミッドチルダから直接、携帯電話につないで話ができるというスグレモノが、管理局にはあるのだとか。言うまでもなくその仕組みなんか知るわけもない。 っていうか、知ってどーする。 任務以外で連絡がかかってくることはさほど多くない。 配属されて数ヶ月という短さではあるが、それでも片手で数えられるほどしか連絡はなかった。 ……他愛ない雑談も含めて。 今回の連絡は、クイントから直接かかってきた。 彼女は『あの娘』の保護責任者代理。普段はミッドチルダ滞在していないの代わりに、病院を行き来してくれているのだ。 もちろん、これは彼女が好きで行っていること。 先日の事件で両親に先立たれて一人ぼっちの彼女を放っておくことは、どうしてもできなかった。 「状態はどんな感じです?」 『ああ、あのときに比べると随分と落ち着いてるよ。当時の状況を色々と聞くこともできたしね……』 でもねえ、と電話口で口ごもるクイント。 どことなく煮え切らない口調に、は首をかしげる。 なにか不安なことがあるのか、身体のどこかに異常があるのか。 考え始めたらキリがないのだが、 『本当なら、もっと悲しんでもいいと思うんだけどね……あのコ自身、両親の死を受け入れちゃったみたいでね』 空元気だ。 まだ8歳で突然広い広い世界に放り出されて、1人で生きていけるわけもない。 誰かしらが支えになれなければ、あの娘は社会の色々なものに押し潰されて、身動きが取れなくなるだろう。 物心ついたときから両親がいなかったでさえ、そばには彼を支えてくれた存在がいたくらいだ。最初から立場がまったく違うあの娘が今のままだとどうなっていまうか。 ……。 考えただけでもゾッとする。 『あたしも一応母親やってるしさ。なんとかしたい気持ちはあるんだけどね……』 「……らしくないこと言わない。ともかく、学校が終わったらそっちに顔出すことにしますんで 『イベントの練習はいいの?』 「そっちはまあ、なんとかします。……ホントは、面倒ごとなんて願い下げなんですけどねえ」 『節が相変わらずで何よりなにより。でも、ちょっとくらいは空気読みなさいよ?』 そんな他愛のない会話を最後に、は通話を切ったのだった。 「、遅いわよー」 「ゴメン、電話が長引いちゃって」 リリスに呼ばれる声を聞いて、軽く応対。 長年愛用している携帯電話を着崩したブレザーのポケットに放り込みながら、どこからか取り出したあんパンにかぶりついた。 時間的に昼食を優雅に食している時間がなくなってしまったからだ。 友人たちの待つベンチへと向かいながら、むぐむぐと咀嚼する。 彼の食しているあんパン。 言うまでもなく学校で販売しているものを買ってきたもの。 パッケージには愛と勇気だけが友達な某お子様の永遠のヒーローがプリントされていて、表面はこんがり小麦色でそれなりに美味しそうだったのだが。 「ぶばっ、なんだこれすっぱ!?」 愛も勇気も裸足で逃げ出してしまうような異様なすっぱさに思わず、あんパン『であるハズのなにか』を吐き出した。 パッケージを改めて見直してみると。 「……ど、どんだけぇ」 賞味期限、と書かれた欄には、1年前の日付が書かれていた。 おおかた大雑把な大人がおろかにも日付だけを見て分類したのが混じったのだろう。 ってか、1年も前のパンを取っておくなよ。勘違いして売ってしまう人もいるんだよ。 …… それはともかく。 目覚めたことはいいことだ。 精神的に強い娘であったこともある意味僥倖。 心配なのは彼女――エミリアのこれから。 ……の、はずなのだが。 「……え? なに? もしかしてみんなでグルになってドッキリとか?」 顔を出してみればまさか、 魔法少女リリカルなのは A's to StrikerS - Act.09 - なぜか、病院は騒然としていた。 医者や看護士や、患者までもがどことなく忙しない。 廊下をしきりに行き来する白服を横目に、目的の部屋へ。この忙しなさが自分に向かってこないことを祈るばかりだ。 …………面倒だし。 「あれ?」 目の前に人だかりが現れる。 狭い狭い病室の出入り口にたかるたかる人の群れ。 その顔は皆、病室の中に向かっている。 そんな光景に、まさかと思う。 「ちょっ、どいて、どけって!」 集る野次馬を押しのける。 大の大人に中学生のガキンチョの腕力など適うわけもないが、はそんなナリでも管理局員。 ひしめく大人の身体を突き飛ばし、わずかに空いた隙間に身体を割り込ませ、額に汗あせ勢い勇んで部屋に飛び込むと、勢い余ってベッドのシャフトに顔面から突っ込む始末。 顔を二分するように赤い線を作り、中にいたクイントはその顔をみて、 「ブふっ!?」 思い切り噴出していた。 しかし、隣にいる男女を視界に入れるや否や、開けかけた口を強引に閉じる。 まだまだ年若い2人の手にはシルバーの指輪が光っている。それが彼らが夫婦であるという事実を物語っていた。 温和そうな男性と、質素でありながら美しく着飾った女性。 彼らが一体誰で、何のためにここにいるのかをという疑問を感じる前に、の目には1人の少女の姿が目に飛び込んできていた。 茶色の髪を2本のみつあみに結わえた少女だ。 彼女は。 「……」 きょとんとした表情でを見下ろす青い双眸。 それは、目を覚ましたエミリアだった。 「お、クイントさんの話どおり。よかったね、目ぇ覚めて」 「…………ぷっ」 したたかに打ち付けた顔でにか、と笑って見せるだったが。 「あははははっ!!」 笑われた。 情け容赦なく、肺から空気を押し出すように大きな声で。 ● 「あの娘の保護責任者が、まさか君のような……」 「や、保護責任者なんて言っても所詮はただ飾り物ですよ。人一人を養うなんて俺じゃ役不足もいいとこですし……正直、どうしたもんかと思ってたとこだったので渡りに船でしたよ、ウィンスレットさん」 クライン・ウィンスレットと、ソラリス・ウィンスレット。 夫婦共に管理局の局員で、特に夫のクラインは若くして執務官という立場にいるほどのやり手の局員だ。 結婚してからそれなりに時間が経って、しかし彼らの間にはコウノトリがやってくることはなく、今に至った。 そんなときに舞い降りた、一人の子供の話。 人の不幸に乗じているようで気が引けるが、と前置いた上で、ウィンスレット夫妻はこうして病院を訪れたわけだ。 ちなみにこの2人の認知度は局内でも執務官という立場のせいかそれなりに高い。 『管理局の執務官が来ている』というその事実だけで、その姿を一目見ようと野次馬が集まっていたわけだ。 さながら、アイドルの追っかけのようだ。 「まあ、俺なんかと一緒にいるよりは明らかにこの娘も幸せになれると思います」 にしたって、無責任もいいところ。 しかし、彼に1人で子供を育てろなんて、無理にもほどがあるというもの。 時運自身も、立場的には子供なのだ。 子供が子供を育てるなんて、どこのファンタジーか。 「わたし、これからどうなるの?」 2人の会話に割り込んでくる、怯えたような小さな声。 話しの中心にいるエミリアはただ、自分自身の行く末だけを考えていた。 「ああ、ゴメンね。まだ、ちゃんと話してなかったもんね」 人懐こい笑顔を浮かべたは、ベッドから上半身だけを起き上がらせたエミリアの小さな肩に手を置いた。 「話は色々聞いてるよ。大変なことも、悲しいこともあった。だからその分だけ、笑顔でいるべきなんだよ」 彼女の引き取り先として現れたウィンスレット家は、代々伝わる魔導師の家系。 先日見せた高い魔力資質もきっと、2人がエミリアを選んだ1つの要素になるのだろう。 現状の保護責任者であると一緒にいたところで、ほとんど1人でいることと変わらない。それすらも踏まえたうえで、彼は言う。 「そんな深刻に考えなさんな。この人たちはきっと、君を笑顔にしてくれる」 そんなの言葉に、 「責任重大ね」 「ああ、まったくだ」 ウィンスレット夫妻はそんな言葉を口にし、苦笑したのだった。 「さて、と」 明日も学校がある。 そろそろ帰って寝なければ、明日は遅刻確定だ。 ……また遅刻の理由を考えなきゃいけないじゃないか。 『道が工事中だったため迂回した』はみんなが知っているため無駄。 『曲がり角で女の子とぶつかった』なんて言っても間違いなく信じてもらえない。てかベタ過ぎてやだ。 伝家の宝刀『寝坊した』はもはや出尽くして使い物にならない。 彼の元にある三大フレーズはもはや全弾撃ち尽くし、玉切れ状態。 そんな状況で悠々と遅刻するなど、今のにとっては愚の骨頂ともいえる行為に等しかった。 「すいませんが俺、明日も学校なのでこれで」 「………行っちゃうの?」 エミリアのどことなく不安げな表情には苦笑する。 不安もわかる。懸念もわかる。 でも。 「君は、『俺』になっちゃいけない。こんな悲しいのは、俺の周りじゃ俺だけで十分なんだよ」 前を向かなきゃ一生、不安ばかりを抱えたままになってしまうから。 楽しいことも嬉しいことも全部、わからないまま生きていくことになってしまうから。 自分と同じ立場の子供は、いちゃいけない。そんなのダメだ。 所詮は自己満足。所詮はエゴ。 そんな自分の無理を押し通して、突きつけられた道理を蹴散らす。 過去の自分はそんな人間だった。だからこれからも、そうやって生きていければどれだけ……。 「あー……そっか」 身体も心も成長して、妙に物分りがよくなった自分を憂いたときを思い出す。 遠慮を覚えて、面倒ごとを抱えないようにと自分を売り込むことを今までしてこなかった。 売り込むつもりはない。ただ、その日を楽しく生きていられればそれでよかった。 ……それはいいのだ。 問題なのは―――。 「一緒に過ごせばわかるよ。不安も怯えも、所詮は杞憂だったんだってね」 「、あんた……」 フェイトにとってのハラオウン家のように。 のとってのゼスト隊のように。 一緒に過ごし始めてからわかることもある。今までの経験が、それを自身に確信させる。 「もっと踏み込め、もっと心に入り込め……もっともっと大胆になれ。そうすれば、不安なんか吹き飛ぶさ、うんうん」 ―――いつの間にかなくなってしまった大胆さだった。 「じゃ、俺行きます。ウィンスレットさん、エミリアのことよろしくお願いします。エミリア、また来るからねぇ〜」 「あぁっ、ちょっと待ちなさいって!」 そのときは楽しい話をしようね、と最後に口にして、は病室を後にした。 それを追いかけるようにクイントが一礼して飛び出していく。 2人の飛び出した先を呆然と眺めていたエミリアは、 「いいなあ……わたしも、あんなふうになれるかなぁ?」 そんな一言を呟いていた。 回想するのは、自分が巻き込まれた地上事件のとき。 倒壊するビルの下敷きになろうかという自分を助けてくれた翠の光と黒い影。 その堂々とした力強さと、先ほどの言葉。 それは、何もかもを受け入れて、空元気を装ってすさんでいた心にすとんと落ちた。 「子供だと、バカにはできないな。……彼はもう、立派な大人だよ」 「そうね……エミリアちゃん。貴女にはこれから大変なことや辛いことが待ってるわ。でも、その分だけ楽しいことや嬉しいことが、いろんな可能性が詰まってる。でも、彼のように在ろうするなら、それ相応の努力が必要よ。それを支える存在も、ね。……私たちと一緒に、来てくれる?」 ソラリスの言葉に、エミリアは彼女を見上げる。 優しかった母の、頼りになる父の顔が浮かんで消える。脳裏に焼きついた表情は、すべてが笑顔で。 その笑顔が、目の前の2人と重なって見えた。 だからだろうか。 「…………なれたらいいな」 ソラリスが差し出した手を、きゅっ、と握ったのだった。 ● 「アンタでも、不安に思うことはあるんだねえ」 帰り道。 本局の転送ポートへ向かう車中、クイントは唐突に口を開いていた。 もう時間も遅いからと、クイントが本局までの足を買って出てくれたのだ。 特に何か話すでもなく、ただ無言でハイウェイを走る。 等間隔で並ぶ街灯は広い道路を淡く照らし、『時空管理局本局 先3km』と書かれた案内板を通り過ぎて。 「……なんですか、藪から棒に」 は苦笑混じりに返事をしてみせる。 「なにって、さっきエミリアちゃんに話してたことよ。……入隊当時から飄々としているように見えたけど、内心じゃ不安でいっぱいだったわけ?」 「当たり前じゃないですか。初対面で自分のなにもかもを晒すようなバカに見えます?」 心の片隅に常に存在している不安も、心配も。 聞かれる前にみんなに話して同情を誘うようなことはしたくない。 「……今となっては過ぎた話ですよ。気にすることじゃない」 「…………」 一方的に話を切って、は助手席の窓の縁に肘をついて外に視線を向ける。 視界に広かったのは、ミッドチルダを照らす明かりの数々。それが寄せ集まったかのように、1つの綺麗な夜景を作り出している。 眼鏡越しに映る夜景に目を細めながら、その背後でクイントは小さく息を吐き出した。 「……うん、やっぱりそれがいい」 自分に言い聞かせるように、クイントは呟く。 「」 「?」 ハンドルを握り前を向いたまま、クイントは言う。 わかってしまったのだ。 この少年の不真面目な態度の内側に息づくささやかな気持ちに。 やはり子供なんだな、と思う。大人びた言動の裏側では、常にそれを求めていた。 ……彼自身が納得のできる『今』を。 過去、なにがあったかはわからない。わかることはただ、過去のロストロギアをめぐる2つの事件に関わり、持てる力を行使して解決へと導いたということだけ。 嘱託として局入りする背景に何があったのか、それもわからない。 でも。 「あんたさえよければ、だけどさ」 という少年が、優しい心の持ち主だということはこの数ヶ月で理解できていたから。 だから、過去なんてどうでもいいのだとクイントは確信して、言葉を口にする。 「ウチに来る気、ない?」 「…………」 両親のいないを哀れんだわけじゃない。 善意を押し付けるつもりもない。 ただ、この少年には『母親』という存在が必要なんだと感じた。そして、それができるのは現状、自分しかいないんじゃないかと思った。 自惚れかもしれないし、余計なお節介だったかもしれない。 「なに、遠慮するこたないよ。あたしも、家族が増えるのは嬉しいしさ」 きっとこれも、ただの自己満足だ。 は外を向いたまま、返事を返すことはない。らしくもなくシリアスに浸っているのか、らしくもなく真面目に考え事でもしているのか。 実際、突然の申し出だったから考え込むのも無理はないが、全部らしくない行動なのはどうなんだろう? 「……気、使ってもらってすんません」 「いや、別にそんなつもりは」 「でも、大丈夫です。俺は『今』に満足してるし」 さほど時間を置くでもなく、は淡々と答えを口にしていた。 けして、嬉しくないわけじゃない。 自分という存在を認めてくれていることを、否定するつもりもない。 ただ、今の自分の立場に満足していた。 環境も、任務も、同僚も。不満があるとするなら、任務が少しばかり多いくらいか。 そんな恵まれた状況でさらに何かを望んでしまうのは、我侭だと思うから。 「俺、ゼスト隊のみんなが好きです。学校の友達も、下宿先の家族のみんなも好きです。みんなみんな、家族だと思ってます」 これ以上を望んだらきっと、ダメになってしまうから。 「『今』がいいんですよ、俺。過去も未来もなくて、今の楽しいときがずっと……続けばいいって」 面倒でも、かったるくても。 仲間たちと他愛ない話をして、笑いあって。 そんなささやかながらも当たり前な幸せを彼はきっと、人一倍に享受しているのだろう。 第97管理外世界『地球』とミッドチルダの行き来に加え、学業と任務を両立させているのだから。 面倒めんどー言いながら、特にトラブルが起きていないことはきっと、彼が要領よく立ち回っている証拠とも言えるだろう。 「…………ふふっ」 ……まったく。 クイントはそんな彼の言葉に笑みを漏らす。 微笑ましい、というか呆れているというべきか。 ……いや、それ以前にただただ彼らしい。 「そっか。確かにあたしも、今は楽しいと思ってるよ…………こんな日がずっと続けばいいとも思ってる」 でも、そうならないことを2人は知っている。 危険な任務があり、誰かが欠けてしまうこともこの先…………あるかもしれないのだから。 ……悲しいことだけど。 「あ〜あ、フラれちゃったか。ギンガもスバルもあんたのこと気に入ってたし、悪くない話だと思ったんだけどねえ」 そんな幸せな日常が、あと数日で壊れてしまうなんて、一体誰が知っているというのだろう。 たった1つの決断が。 たった1人の人間に影響されて変わってしまう。 人の上に立つ者の決断はそれほどまでに、重く重くのしかかる。 ● 「ぐむぅ……」 ゼストは1人、本局のとある人物を尋ねてきていた。 地上本部は首都防衛隊の代表を務めているレジアス・ゲイズ中将。 魔力資質こそないものの、卓越した手腕で中将にまで上り詰めた。口は悪いが人望も厚く、『地上の正義の守護者』などと堅苦しい呼び名もあるほどに有能な人物だった。 「その施設の調査許可をもらいたい」 メガーヌが撮影した建物の写真と、現地調査の申請書類をレジアスに渡したゼストは淡々と口にする。 その施設は、彼が秘匿命令を受けて追いかけていた機人プラントの可能性が濃厚なのだ。機を逃せば警戒され、調査はきっと困難なものになってしまう。 今までずっとなかった手がかりだ。これを逃さぬ手はないというもの。 そんな彼と書類を見比べて、レジアスは顔をしかめる。 ただでさえ人員不足も甚だしいのに、そんな本当かガセかもわからない施設に部隊を差し向けるなんて無意味なことをしたくないのだ。 「レジアス……」 「わかっている! ……ええい!!」 レジアスは半ばヤケクソ混じりに承認の判を押した。 これが秘匿任務であり、自分よりも上の人間からの依頼であることを知っていたからだ。 今まで一切手がかりなしであったことを考えれば、ようやく手にしたわずかな情報。たとえそれがどれだけ小さな情報でも、その質が高ければ話は別だ。 「すまないな、レジアス」 「……好きにしろ!」 突き返された書類を手に、ゼストは扉に手をかける。 レジアスの気性については親友である自分が一番よく知っているという自負もある。だからこそ、それぞれの理想を深く深く語り合えたし、彼の正義に殉じることも良しとできた。 顔をしかめている彼の姿に、ゼストは苦笑しつつ、 「ではな」 不機嫌極まりないレジアスをそのままに、部屋を出たのだった。 手の書類を改めて眺める。 乱雑に押された判の周囲に皺が寄っている。押された力が強かったのだろう。彼が何かにイラついているのは明白だった。 ……とにかく。 これを上に提出すれば、晴れて隊を率いて施設を調査することができる。 吉と出るか、凶と出るか。 戦闘機人によって大きな事件が引き起こされる前に、この施設を調査しておきたいところ。 「ふむ……」 しかし、頻発する地上事件は彼に調査の機会を与えてくれることはないだろう。 もちろんゼスト隊だけが地上部隊なわけではない。 それぞれの隊が手分けして、ようやくおっついているくらいなのだ。 「さて、どうしたものかな」 |
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