「じゃ、じゃあその……お先になの」
「おつかれさん。また明日な〜」

 さっさと帰宅準備をして音楽室を出て行ってしまったのは、こともあろうにいつも真面目なさとりだった。
 合唱コンクールを目前に控えて、乗っ取り作戦がいよいよ形になりつつある今日この頃。練習にも熱が入っていたのだが、夜の帳がかかり始めて撤収準備をすると、さとりはそそくさと荷物をまとめて出て行った。
 もちろん、それが1日2日なら家の都合とかもあるだろう。
 しかし、彼女の場合は今の状況がすでに1週間ほど続いていた。
 挨拶もそこそこにさっさか出て行く彼女を見るのもすでに6日目に突入した本日。

「ねえねえ、
「ん、どしたん?」

 一緒に練習していたフェイトが、つつつ、とによってきて、

「さとり先輩って、いつもあんな感じなの?」

 そんな一言を尋ねていた。
 彼女はさとりどころか仁やリリスとも知り合ってまだ一週間ほどしか経っていないのだ。
 普段の彼女のことを知らないのも無理もないこと。
 そんな中でも特に近しい場所にいるに尋ねてくるのも当然だった。

「う〜む……」

 思考を数秒めぐらせて、

「面倒」

 そんな結論に至ってぼそりと小さく呟くと、即刻考えることを放棄した。

「まあ、なにか用事でも」
「ほんと、気になるわよねェ〜」
「ひゃっ」
「……」

 リリスやっかいもの が あらわれた!

 リリスはの背後からフェイトとの間に割って入り、なにか考え込むように手があごに置かれている。
 しかし、その表情はなにか崇高な考えがあるわけでもなにか壮大な思いがあるわけでも……もちろんあるわけがない。
 軽く驚きの声を上げるフェイトとは対照的に、は1つの予感を感じ取ってか、大きくため息を吐き出す。

 彼女の行動理念は『おもしろいか、そうでないか』なのだ。
 いつもイジりの矛先であるさとりがあんな行動を続けていれば、目の前の少女が何も思わないはずもない。
 だからこそ、

「さとりんはぁ……あ、ちょうど校門を出てくところね」

 面白そうなことさえあれば、より面白くなるように行動するのがリリス=雪村という少女なのだ。
 大きな窓から身を乗り出すようにさとりがそそくさと帰路につく姿を確認すると、

「さぁて、俺も帰るぞぉ。……ああいそがしいそがし」

 わっし。

 ああなった彼女と関わり合いになると、面倒なことになるのは目に見えている。
 出会って友達になってから2年。彼が学んだことは。

「……」

 背後から肩を掴んだリリスの満面の笑顔によって、問答無用で夜空の向こうへとテイクオフしてしまった。
 せめて面倒ごとになる前に、とフェイトに視線を送る。
 彼女は関係ない。これは『俺たち』の問題だから。何も知らないフェイトを巻き込むわけには行かないのだ!

 輝きを帯びた赤い瞳が交錯する。

「……」
「……」
「さあ、善は急げよ! ガッツリいきまっしょいっ」

 お互いの視線が交じり、ぶつかり合う。

「ちょっと仁、アンタなにしてるわけ!? ちゃっちゃと片付けちゃいなさいよ! さとりん見失うでしょーが!?」
「げげっ、見つかった!? ……まっ、まままま待てリリス! ……いいか、ギターってのはお前が考えている以上にすごぉ〜く、すごぉ〜く、すごぉぉぉぉぉぉぉく、繊細な楽器なのだよ!」
「そんなの口からでまかせでしょ? 知ってんのよあたし。ギターのチューニング、何も知らないやらせてるでしょ?」
「い、いや……それはほら、いい機会だからチューニングの仕方とか知っといたほうがいいかなーとか……ぁ、そう! を……友を思う俺の心遣い?」
「あら、そこで疑問系なのはなんでかしらね?」
「……」

 リリスと仁の即興漫談もそこそこに、はすぐにこの場を離れろと目で訴えてみる。
 早く行け、という念を視線にこめて、まっすぐフェイトをみつめる。

「…………」
「……////」

 なぜか、頬を赤く染めつつ視線をそらされた。

「さあいくわよ!」

 仁は結局リリスに言い負かされて、orzの体勢でリリスに担ぎ上げられていた。
 しかも、言うや否やとフェイトがまとめて小脇に抱えられた。
 ……なんつー腕力だ。

「うふふ、待ってなさいさとりん♪ 貴女の秘密、このあたしがぜぇ〜んぶまとめてヌッ晒してあげるわよ〜ん♪」

 …………

 もうどうにでもして。



   
魔法少女リリカルなのは A's to StrikerS - Act.07 -



 御園さとりという少女は、根はとても優しい娘なのだ。
 指定の学生カバンを背負い、チェックのスカートを揺らして、さとりは歩きなれた道を歩く。
 一見、平々凡々なただの通学路にしか見えないこの道は。

「大丈夫、おばあちゃん?」
「……いつもすまないね、さとりちゃん」
「あの、お手伝いしましょうか?」
「え……っ、ほっ、本当かい!? 助かるよォ!」
「お〜い、そこないく嬢ちゃん! すまねえが、そこのスパナとってくれるか〜?」
「あ、は〜い……おじさん、これですか?」
「さとりねーちゃん、今日はパイプ椅子持ってねーのか!?」
「……持ってるわけないでしょ。私は……」
「な〜んだ。パイプ椅子あってこそのさとりねーちゃんなのに」
「…………」

 なんていうか、ある意味カオスなく空間だった。
 彼女が行く先々でささやかなトラブルがあったり、頼み事をされたり、小さな子供たちに寄ってたかられたり。
 そんな人々みんなの言葉に嫌な顔せず応対する彼女を見て、

「「……ええ娘や」」

 と仁が2人して、涙ながらにそんな言葉を口走っていた。
 そんな2人の表情にはどことなく哀愁が漂い、軽い保護者な気分だ。
 誰にでも優しい笑顔を振り撒くさとりを影ながら見守る4人の小中学生は、両手に木造の『草』を持って、電信柱に並んで隠れて見守る。
 1人でそそくさと帰路についたさとりを追いかけてきた彼らは、彼女の友達だ。

 ……

 そう、友達だ。

 不審だろうがサングラスかけてようがマスクを装備していようがみんなしてくたびれたコートを着被っていようが、あえて言おう。

 彼らは、決してストーカーではない、と。

 閑話休題。
 ある意味カオスだった商店街を抜け、さとりは住宅街を1人歩いている。
 抜けてきた商店街そのものは、まさに混沌。宙吊りのプランターが重さに耐え切れずの脳天に植木鉢が降り注ぎ、仁の背後で工場の職員が手を滑らせたドライバーの先が光り、突如スーパーが特売を始めて群がる主婦たちに押しつぶされかけたり。
 ……死ぬる。

 息も絶え絶えやっとの思いで商店街を抜けた一行は、さとりの後姿を見つけてようやく息をついた。
 まったく、これだから巻き込みたくなかったのだ。

「うう、なんでこんな目に」

 自分たちと同じように、フェイトがぼろぼろな姿をしているのを視界に納めて、は彼女と同じようにぼろぼろな様相のが小さく嘆息した。
 いくら自分やフェイトが実戦に慣れた時空管理局の局員でも、安さに飢えた主婦たちの突貫を止めるには、まだまだまだまだ実力不足だったらしい。
 思わずアストライアで蹴散らしてやろうかと思ったのは、まあ気の迷いだということにしておこう。

『手に力、篭ってますよ』
「おっとっと、こりゃ失敬」

 思わず腰から取り外していたウェイトフォームのアストライアを、無意識のうちに握り締めていたらしい。

「やー、なかなかスリルがあったわねえ」

 かんらかんらと笑って見せたリリスを目前に、殺意を抱いたのはきっと、だけじゃないだろう。
 ぼろぼろなフェイトと仁、とは裏腹に、無傷な上にどことなく肌がつやつやしているのは……気のせいだと思いたい。

「ほらほらアンタたち! さとりん見失っちゃうよ!」



 ……くそう。



 そんなこんなで凝りもせずさとりを追いかける一行。
 電信柱に芋虫よろしく隠れようとするのもどうかと思うが、そんな彼らに気づかないさとりもある意味大物だ。
 どことなく嬉しそうな表情で、少なからずスキップしているようにも見える。
 何がそんなに嬉しいんだろうか、と思った矢先、

「あれ?」

 リリスがきょとんとした表情で、さとりが曲がっていった十字路を見つめていた。
 何の変哲もない住宅街の十字路なのだが、そんな場所でなぜリリスがそんな驚いたような表情をしているのか、も仁もわからない。もちろん、仲間に加わって1週間のフェイトにわかるわけもない。

「リリス、どしたん?」
「え、ああ……さとりんがあっちに行くのはちょっとおかしいなあ、と思って」
「……おかしいって、どういうことです?」

 フェイトの問いにリリスは軽く唇を尖らせて、不満げな表情を見せる。
 用事があるというなら普通、駅前や商店街、あるいは彼女の自宅というのが普通だろうが、

「っかしいわねえ、あっちって寂れた公園があるだけのはずなんだけど」
「ふぅ〜ん……」

 どことなく釈然としない表情のまま彼女を追いかける一行だったが、なんとも言えないピンク色のオーラがフルドライヴしている光景がその先に広がっているとは誰も彼も、露にも思わない。



「くぅ……」
「うはぁぁぁぁ、かぁいいな〜。かぁいいよう〜……お持ち帰りしたいけど……はふん」
「くぅん……?」
「あっと、ごめんね久遠。……と、はい。ごめんね、いつも残飯ばっかりで」

 と、トリップから戻ってきたさとりは、顔を真っ赤にしながらカバンから小さな弁当箱を取り出す。
 彼女は普段、昼食に弁当を持ってくることはない。そもそも、彼女は料理も人並み以下にしかできないと聞いた記憶もある。
 なら、蓋にデフォルメされたクマが描かれたあの弁当箱の中身はというと。

「はい、今日のご飯だよー。……ごめんね、本当は家で面倒見て上げられればよかったんだけど、お母さん、動物アレルギーだから家で動物は飼えないんだぁ」

 しかも、無駄にかわいい物好きだから、困っちゃうよね。

 目の前の子狐のためだけに持ってきた食べ物の詰め合わせだった。
 一言を付け加えるように口にして、さとりははぐはぐと出された弁当箱の中身を食べまくっている久遠という子狐を見つつ苦笑して見せる。
 まだ幼い子狐はまだ毛並みも揃っておらず、ところどころがちぢれているように見える。
 だからこそふわふわで、まふまふで、もふもふで、思わず触れたくなるような。

「……なによ、あの超絶かわいい物体は」
「なにってお前、狐だろキツネ。しかし珍しいな、この辺りで狐なんて」

 わなわな震えているリリスをよそに、仁は興味なさげにさとりと『久遠』と呼ばれた子狐を流し見る。
 もくもくと食べている久遠を見ているさとりは、うっとりとした表情をしている。そして、どことなく嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
 暗がりを照らす街灯の下で、まるでスポットライトでも浴びているかのように1人と1匹を映し出し、何の変哲もない公園をどことなく荘厳な、幻想的な雰囲気をかもし出している。
 しかし、そんな雰囲気をぶち壊そうとしている存在が、ここに1人、いたりする。

「う、うぅぐぐ……」

 その事実に最初に気づいたのは、もともと気配に敏感なとフェイトだったりした。
 しかし、フェイトはリリス=雪村という少女をよくは知らない。だから、声をかけずにいたのだが。
 ちらりと目に入ったのただならぬ表情に、戦慄を覚えていた。

(や、やばい……『暴走』するぞ、これは)


 が思っているとおりリリスは久遠という子狐を見たことと、さとりの悦に浸った笑顔を目にして、いつも無意識にかけている精神リミッターが外れかけているのだ。

 流れる一筋の汗を拭って彼の頭をせめぎ合うのは、リリスの行動を止めきれるかという疑問と、面倒くさすぎることこの上ないという性格だ。
 なってしまった彼女を止めるのは、仁との2人がかりですら難しい。それほど、普段抑えられているパワーがこめられているからこそ、大の男2人でかかっても止められない。
 は天秤にかける。
 今ここでリリスを止めることの面倒くささと、何もせず傍観した後の面倒くささを。
 ふと右を向くと、仁が自分を見ていた。

 止めなきゃ、マズいだろ。

 そう目が訴えているような気がした。


「なに?」
「リリス先輩…………行っちゃったよ?」
「…………面倒くさ」

 どうやら、考える以前に面倒なことになってしまうのは、運命的に確定事項だったらしい。

「新婚さんいらっしゃあぁぁぁいっ!!」
「はわわわーーーっ!!!」



 ●



「くぅ」

「か、かわいすぎるな……」
「俺は別に、面倒くさくなければそれで」

 小さな身体。つぶらな瞳。控えめな鳴き声。

 もふもふ。

 ……

 もふもふもふもふ。

 あわあわと挙動不審なさとりをよそに、すりすりとやわらかい毛並みに頬をすり寄せるリリス。そんな人を見て苦笑するフェイトが一番大人に見えるのは気のせいだろうか。

「そういえばこの子……包帯巻いてるね」

 確かに。
 フェイトの言うとおり、久遠の身体には白い包帯が胴体と前足に巻かれていた。
 もっとも、ずっと公園に身を潜めていたからか、所々が汚れて黒くなっていたのだが。

「1週間くらい前に、怪我してるところをその……見つけたの。ホントはウチでちゃんと手当てしたかったんだけど、お母さんがかわいいもの好きのクセに動物アレルギーで」
「それで、こんなところでごはんあげてたんですね……」

 そんなフェイトの呟いたような言葉に、さとりは小さくうなずいた。
 久遠は言うまでもなく、人間の言葉など話せるわけもない。そして、我々人間も、狐の言語などわかるわけもない。
 この小さな身体に大掛かりな包帯。それがどのような原因でつけられた怪我なのかなど、伺いようもないのだが。

「近くに、おとなのキツネが倒れてたの。きっと……久遠を守ったお母さんキツネだと思うの」

 そんなさとりの言葉は、ある意味ありきたりな事情だった。
 ありきたりだが、親キツネの存在がその事情を妥当としている。ありきたりだが、みんなが納得できる事情であったことは間違いではなかったと思う。

「しかし、さとりがあんな表情するとは思わなかったなあ」
「え? 仁くん、あんな表情って?」
「気づいてなかったんか? お前、すっごい悦に浸ってたんだぜ?」
「…………」

 そんな仁の言葉を聞いたさとりはひき、と固まる。
 彼女は無意識にしていた自分の表情を思い描いたのか、カッ! と目を見開いて、

「うわああああ、恥ずかしい〜〜〜っ!!」

 ちなみに、暴走したリリスを止めたのは言うまでもなく当事者であるさとりだったことをここに記しておこう。
 ついさっきまで彼女の手には、パイプいすがありました。

「くぅぅ…………ん!!」

 ぽーん、とリリスの隙を突いて飛び出した久遠は、足音軽く地面を蹴りだした。
 苦しかったのだ。抱きしめられている力が強すぎて、痛かったのだ。

 ……

 というか、リリスという名の得体の知れない存在が怖かった。
 砂埃上げて軽快に走り抜ける久遠は、膝を突いて頭を抱えていたさとりにビビって大きく迂回すると、

「おわっとと」

 の足元にまとわりついていた。
 驚異的な運動能力でズボンの上を駆け上り、

「くぅ……」

 の頭上で小さな身体をお休みさせていた。
 ……をい。

「ちょっと! そのコこっちによこしなさい!」
、そ、その……私にも抱かせて欲しい、かな」
「和むなあ……」

 よってくるのは先ほどまで久遠を抱きしめて頬擦りしていたリリスと、なんだかんだで抱きしめてみたい衝動に駆られていて、上気した頬に赤い目を潤ませていたフェイト。和む仁。
 特にリリスは未だに興奮冷めやらぬ状態らしく、頭上に向かって両手を伸ばす始末。
 もちろん、はそんな状況を望んでいない。
 うっとおしいだけだし、それがリリスであればなおさらだ。

「…………はあ」

 小さくため息をついて、仲間内でもひときわ高い背を低くするために膝を曲げた。
 ひときわ高い背の上で油断しまくっていた子狐は、忍び寄る自身の危機に気づかず、

「く……ぇっ!?」

 身体を掴まれて、アヒルを髣髴させるキツネらしからぬ素っ頓狂な声を上げた。
 子狐一匹、捕獲完了。力はおろか身体も人間より弱い小さな狐は、いともあっさりと再びハンターの手の中に納まってしまっていた。
 表情こそわからないものの、挙動からして嫌がっていることは間違いない。

「あう、私も抱きしめたい…………かも」

 ……

 哀れなり。

「……でさ、さとりはアレ、どうするつもりなんだよ?」

 仁の問いに、さとりはうつむき黙り込む。
 もともと野生の狐だったのだ。セオリーからすれば、怪我が治ったら野に還すべきなのだが。
 彼女はしかし、先ほどのとおりたかだか子狐の一挙一動にエライ勢いで悦に浸るほどの入れ込みようだ。
 怪我が治った後のことなど、これっぽっちも考えていないだろう。

「うぐぅ」
「……ダメダコリャ」

 仁は小さく息つき、苦笑する。
 さとりらしいと言えばらしいのかもしれない。
 これが彼女の個性なんだと、親友である立場にいる自分たちは理解していたし、そのすぎるほどの優しさこそが彼女のアイデンティティなのだとも思う。
 だからこそ、仁は。

「今はいいかもしれない。まだ時間があるからさ……ちゃんと筋は通せよな」

 いかにも彼らしい言葉を口にした。
 性格上、沢渡仁という少年は基本的に、筋を通さない人間を好まない。
 なんかはある意味、彼の嫌悪の対象ともいえるかもしれないが、彼なりにの行動が好印象を与えているのだろう。
 筋は通すが漢道。何事にも責任を持って取り組むこと。
 それが彼の行動理念だからこそ、放たれた言葉は実に彼

「うん……ごめんね仁くん」
「や、謝ることじゃないし。さとりがちゃんとすればいいだけだしさ」

 久遠に対して、できることはあまりに少ない。
 身体のつくりも、意思を伝える言葉も、住む世界も違う。そもそも、存在そのものが根本的に違うのだ。同じなのはただ、お互いに『生物』であるということだけ。

「別に、考えてないわけじゃ……ないの。ただ、今の自分にできることはあまりに少なくて」

 さとりも、仁もリリスもも、まだ義務教育を終えていない身。リリスに久遠を独り占めされてうっすら涙目のフェイトに至っては、まだ小学生なのだ。
 彼女にできなければ、誰にもどうにもできない。大人に頼る以外に、状況を打開する方法はまったくといっていいほどにないに等しいものだった。

「……う〜ん。なら、高町家に聞いてみる?」
「なのはの家?」

 一向に久遠を開放する気配がないことを悟ったフェイトは、最終的に彼女を放ってそれなりに真剣に話していた3人の元へ移動した。
 その次の瞬間には久遠の処遇を高町家に頼むかと口にしたに、尋ね返していたわけだ。
 高町家……なのはの家では、過去にフェレットを飼っていたという前例がある。そのフェレットを過剰なまでに可愛がっていた人がいることがいることもは知っていたから、あの家ならと白羽の矢を立てたわけだ。

「そうそう。とりあえず今の状況は、怪我の治癒にはよろしくない環境だと思う。だからまずはちゃんとした環境で、怪我が悪化しないように取り計らうべきだと思うわけで…………………………もっとも、俺的には勘弁願いたいところだけどね」

 さとりの家は彼女の母が動物アレルギーだから無理。
 フェイトの家はマンションだから、ペットの飼育は禁止。
 リリスに任せたらきっと……否、間違いなく久遠は不憫な運命をたどることになる。
 責任感の強い仁が何も言わないということは、彼の家に連れて行くという選択肢は頭になかった=久遠を連れて行くのは無理だということになる。
 ……とすれば、久遠を取り巻く環境を改善するには、が下宿させてもらっている高町家に連れて行くことが最善ということになる。
 …………『あの人』の毒牙にかからなければ、の話だが。

「まあ、俺は下宿させてもらってる身だから。迷惑かけるのは、ね…………そこで」

 言葉を切って、はフェイトを見やる。
 歯を見せて笑みを見せると、

「フェイトの出番、てわけだ」

 少なくとも知ってしまったから、困っている友人に手を差し伸べたい。
 でも面倒だ。ただでさえ学業と仕事で必死なのに、ペットの世話なんて冗談もほどほどにして欲しいものだ。
 だから。

「君からなのはちゃんにこのことを伝えて、なのはちゃんから高町家一同に伝えてもらう。死ぬほど回りくどいけど、確実だと思うよ」

 押し付ける。
 も、学校と仕事で高町家にいないことの方が多い。最近は特に、合唱コンクールジャック大作戦の練習で。そして、ミッドチルダで頻発する地上事件と戦闘機人たちの追跡。
 前者の終わりは目の前だが、後者には終わりはない。終わりが来るのかすら、わからない。

 取れない責任は負わない。
 面倒だから。

「でも、なのはもそんなに家には……」
「なに、大丈夫だって。あの娘は意外と家にいるよ。ってか……」

 なぜかがいるとき限定で、だが。
 それ以外は知らん。

『君が管理局で会ったときに伝えてくれればいいんだって』
『あ、そっか……』

 管理局のことをリリスと仁とさとりに知られるわけにはいかない。
 もっとも、知られても「なに電波なこと言ってんだ」と笑われそうだけど。
 フェイトもそれなりに学校を開けることが多い。その頻度はよりも少ないが、なのはと関わることだけならば部隊そのものが違うよりは明らかに多い。
 それを加味した上での考えだ。

から言えばいいのに』
『……やだよそんなの。責任取れなさそうだし。……なにより面倒だし』

 彼は結局のところ、ただ面倒ごとを背負いたくないだけなのだ。




間章第07話、お待たせです。
とりあえず久遠登場。ですが、物語と関わらせるつもりはほとんどありません。
今回は節がかなり強調できたかな、とか無駄に思ったりしてます。
そして、リリスは絶賛壊れ中という暴挙(笑。


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