「…………うぐぅ」

 2週間後に迫った文化祭を前に、4人はバンドの練習に精を出していた。
 練習期間もそれほど多くない。曲数自体たった2曲しかないが、それでもみっちり練習しなければ、いざ本番に臨んでもミスって盛り下がって。
 先生方にみっちり叱られてそれで終わりだ。
 どうせ叱られるなら最高潮にまで盛り上がってから叱られた方が気分がいいし、なにより楽しい。
 だからこそ、みんながみんな練習に余念がなかった。
 ……たった1人を除いては。

「とりあえず一番心配だったリリスが、一通りひけるようになったことはすごいと思うが」
「あからさまに失礼ね。あたしだってやるときゃやんのよ」

 練習開始直後はたった10分で根を上げたリリスだったが、それなりに練習を重ねることでなんとかサマになってきていた。
 繰り返し練習することでキーの位置も、ボタンの配置も頭に入って、曲の流れも掴むことができた。
 問題なのは。

「あのさとりが、なんとも珍しい」

 曲のテンポが速いためか、基本的にトロいさとりが曲そのものについていけていない状態に陥っていった。
 ベースとヴォーカルなんて2役で、いままでよくもまあがんばったと思うが、ここにきてついに限界を突破。ベースだけでいっぱいいっぱいで、歌にまで気を回すことができなくなっていた。
 ベースを肩に引っ掛けて、さとりはしゅんとしてうつむいている。
 少なくともこの企画、音楽の先生は一抹の期待をしているのだ。毎日放課後、音楽室を借り切っているため、音楽の先生に許可をとる必要があったから。ダメもとで頼んでみれば、まだ若い先生は、

「なるほど、確かにコンクールなんて面白くないもんねえ。……うん、いんじゃない? やってみなよ。責任は私が持つから」

 なんて言って、全面的にバックアップしてくれることになった。
 しかしこれはあくまで生徒だけの企画。不慮の事態に陥っても、教師に助力を求めることはできない。生徒だけで立ち上げた企画だから、生徒だけで成功させなければ意味がない。
 そんな音楽教師の配慮だった。

 もう、夕焼けも暗くなり始める時間帯。時刻的にはもう練習は終わりの時間だったが、当日が近づくにつれて練習時間は長くなり、気がつけば夜になっていた、なんてことが日常的になりつつあった。そしてそれは、今日も同じだったが。

「さとりに無理なら、他のパートでも無理だろ。もう1人、仲間に引き入れたほうがいいな」

 できれば同じ学校の人間がいい。しかし、皆はこのことを知らないし、なにより向こうには向こうの予定も事情も都合もある。いきなり話して了承されるわけもない。
 あてが、まったくないという状況に一同は無言にならざるを得なくなっていた。

「ごめんね、みんな……」
「なに言ってんの。さとりんのせいじゃないわよ。悪いのはさとりんにベースとヴォーカルを押し付けた仁なんだから」
「俺の采配に文句言うのかよ? ……まあ確かに、今回のことに関しては俺が全面的に悪かったとは思うけどさ」
「……とにかく」

 3人の会話に割って入ったのは、1人黙り込んでいただった。彼ももともと運動能力は高くリズム感もあったためか問題なくドラムを叩くことができていた。もう楽譜の必要もないほどに。……もっとも、とある事情で練習時間が他の3人よりも少ないために人一倍練習してきたから、というのが今の彼を作っている最大の理由なのだけど。

「考え込んでも仕方ないよ。今日はちょっと早いけど終わりにしてさ、明日また考えよう」

 考えるのは面倒だし。

 なんて言って、3人の返事をまたずスティックを置いてしまった。
 彼なりの配慮だ。1人が帰る支度を始めれば皆もつられて練習をやめるだろう、という。
 子供らしいといえば子供らしいが、今の状況では考え込んでも仕方ない、という結論に至ったようで、「の言うことはもっともだ」とうなずいて見せた。
 今日の練習はこれで終わり。目下の問題は明日に回そう。後ろ向きな考えかもしれないが、時と場所を改めて考え直せばきっと、いい考えが浮かぶと思うから。



   
魔法少女リリカルなのは A's to StrikerS - Act.05 -



「……って、ことがあってさ」
「なかなか、楽しそうな事をしてるのね。うんうん、お母さんは嬉しいぞお」

 帰宅したとき、ちょうど高町家では夕食の時間となっていた。
 非番なのか、なのはも一緒に食卓を囲み、久方ぶりの高町家水入らずの食事となっている様子で、自分が入り込んで水をさすのはどこか気が引けたのは内緒である。
 しかしながら、なのははおろか高町家の全員がの帰宅を待っていたかのように彼を食卓へ連行、学校でのことや仕事のことなどをこれみよがしに尋ねてきていたわけだ。
 それで今日、ちょうど発生した問題のせいで困っていることを話したわけである。

「あの、くんの学校の外の人で、歌がうまい人か……その、べーす? ができる人をさがしてるんだよね?」
「そうそう。クラスの連中はみんな、そういうことを恥ずかしがってやろうとしない人ばっかりだしさ」

 実際、自分たちだけで考えるのではなく、外部から意見を求めることも大事なこと。なにかいい意見が聞けないかという期待も込めて話をしたのだが、彼の期待通り。高町家から出てきた意見は実に、現状を打破するには十分なものだった。

「だったら、フェイトちゃんに頼んでみればどうかな。フェイトちゃん、このところずいぶんと大人っぽくなっちゃってるし。歌も上手だし」

 フェイト・T・ハラオウン。
 高町家とのご近所付き合いもそれなりに長い、なのはの幼馴染。なのはと同じ聖祥小学校の6年生で、なのはやと同じ時空管理局の局員。2年ほど前に1つの事件を通じて知り合い、天涯孤独だった彼女を養子として引き取ったのが今のハラオウン家だった。
 兄クロノの影響か執務官を目指して目下勉強中なのだが、実のところその試験に1度失敗。次こそはと息巻いて、さらに勉強漬けの日々をすごしていた。……もっとも、勉強とはいっても知識的なことだけでなく隊の指揮や管理局の体制、任務時指揮力などが要求されるため身体を張った試験も多いらしいが。

「最近、ちょっと大変みたいなんだ。だから、少しくらい息抜きとかしてもいいと思うの」
「よくはわからんが、フェイトちゃんも大変みたいだな」
「その執務官試験、っていうのは、どれだけ大変なの?」

 そんな問いに、クロノが3回落ちた試験だ、と言う答えをなのはが返すと、尋ねた美由希は苦笑。今、執務官である彼が3回受験してようやく合格できるような試験なのだから、その難易度など尋ねずとも理解できたのだろう。

「なるほど、フェイトか…………よし」

 早速、といわんばかりにポケットから使い古された携帯電話を取り出した。
 実際、彼女ならきっと、足りない人数を補完できると思ったのだ。学外の人間ではあるけど、成長が早いのか中学生としても通るまでに身体も、心も成長した。制服着て紛れ込んでも、きっと目立つことはないだろうと。
 ……まあ、あの長くて綺麗な金髪はイヤでも目立ちそうだが。
 食事をすでに終えていたから、席を立って玄関へ。電話口での話を聞かれないように、というマナー的な配慮だ。少し暗い玄関で慣れ親しんだボタンをプッシュし、スピーカを耳に当てる。

「あ、もしもし。だけど」
『あ、うん……久しぶりだね』

 そんな挨拶と共に、すぐに応答。
 事の次第を伝えるために、近くの公園に呼び出すことにしたのだが……

『え、あのぉ……い、今からかな?』
「まあ、早い方が助かるんだけど」
『そっ、そそそそっか……じゃ、じゃあ、今からい行き、ます』
「うん。こんな時間にゴメンね」
『……ううん、大丈夫。気にしないで、ね』

 フェイトの応対が妙にどもっていたのが、少しばかり気になった。


 ●


 びっくりだ。
 突然、しかも久しぶりに電話してきたかと思ったら、いきなり「話があるんだ」なんていうものだから。
 彼は前に、自分のために身体を張ってくれた。彼は自分のためだ、なんて言っていたけれど、私は今も、彼が私を肯定してくれたからこそ、『私』としてのスタートラインに立てたのだと思っている。
 『私』を見てくれたなのはと、私の存在を肯定してくれた。彼女たちには今でも、感謝しても仕切れない。
 だからこそ、彼が気になっていた。
 性格が、言動が。そして、面倒くさがりという仮面の奥で見え隠れする『なにか』が。
 気がつけば目で追いかけていた。気づいたら、彼のことが頭にあった。滅多に会えないことが、私の『気になる』に拍車をかけていた。
 そんなときにかかってきた電話。

 …………どきどきだ。

「フェイト、どちらから?」
から。……母さん、私ちょっと出かけてきます」
「……え、ええ! そうね、暗いから気をつけていってらっしゃい。…………頑張ってね、フェイト」

 出掛けに、母が拳をグッと突き出してくる。
 なぜあんなことをしたのかわからないまま、私は靴をつっかけハラオウン家を出たのだった。


 ……


!」

 フェイトが待ち合わせ場所だった公園へ足を運ぶと、はすでに彼女を待っていた。目立つように、街灯の下で。フェイトが声をかけたところで彼女の存在に気づいた彼は、にかと笑って手を振った。

「久しぶりだね、フェイト」
「うん……の謹慎が解けてから、なかなか会えなかったもんね」

 彼は、過去の事件で敵に与した。
 己を持ち、自分で考え、自分が一体何をしたいのかを吟味した上で。だからこそ、謹慎を言い渡されても後悔なんて少しもしなかった。むしろ、怠惰癖が拍車をかけて1年だけだった謹慎期間を自分から2年に増やすほどに気持ちに余裕を持っていた。
 自分が犯罪者に与した、なんて自覚もきっと、あのときはなかったのだろうな、といまさらながらに思う。

「そ、それで……話って何かな?」

 フェイトは今、2回目の執務官試験に向けて勉強の真っ最中。本来ならあまり他のことに時間を割きたくなかったのだが、かといってせっかく連絡をくれたのに無下にするのは忍びない。そもそも、無下にする気もないけども。

「ああ、それなんだけどさ」

 が言いよどむ。
 今の彼女は、この世界で言うところの受験生というヤツなのだ。執務官という資格を得るために必死になっているこの娘を自分たちの半ば自己満足なイベントにつき合わせるのもどうかと思っていたが、しかし彼女にとっては初めての試験。学校に通いながら、訓練を受けながら、任務をこなしながら、執務官試験のお勉強。

 ……これ、軽く死ねるのでは。

「その、ずっと試験勉強してるとか疲れてるみたいだとかって、なのはちゃんが心配してたよ!!」

 そんな考えに至ってしまったが最後、もはや言いよどむ必要もなくなって。

「そ、そっか」
「で、そんなフェイトさんに朗報です!!」

 試験勉強の息抜きに、試験の前の緊張感をほぐすために、たまりにたまったストレスの発散に。

「一緒に、バンドしませんかっ!?」

 告白めいた言葉でありながら、しかしフェイトは。

「え、あ、そのぉ……」

 その言葉を真に受けて、顔を真っ赤にしてもじもじしていた。
 言うまでもなくに彼女の心情はわからない。だから、彼としてはただ返事を待つしかないわけで。

「わ、私……」

 ……あれ?

 と、ここでフェイトは気がついた。
 よく思い出せ。彼が今、自分に向かってなんと口にしたかを。


 …


 ……


 ………


 !


 フェイトの顔から赤がひいていく。
 別に、うろたえることなんて少しもなかったのだ。彼が言ったことを、冷静になって考えれば簡単にわかることだった。

 一緒に、バンドしませんか?

 どこが告白だ。

「えっと、その、バンドってどういうこと?」
「実は、今度ウチの学校で文化祭……というか合唱コンクール、なんてものがあるわけで」

 合唱コンクールとは、各クラスごとに文字通り合唱する。
 父兄も見に来て、練習してきた成果を発揮して、もっともすばらしい演奏をしたクラスには賞が贈られる。
 単なる学校行事だ。高校のように生徒が中心になって企画するわけでもなく、ただただ伝統に則ったもの。それが面白いかと聞かれればきっと…………それは、ただの義務だ。
 参加の義務があるのだから。それこそがまさに、義務教育の根底にあるものともいえるだろう。ただ、参加する子供たちは皆、それに気づかない。当たり前と信じて練習するし、当たり前のように参加する。

 サボるとか、自分から何かをしようとか、参加義務のある学校行事を乗っ取ってしまおうとか。

 そんなことを考える生徒など、いるわけもないのだ。

「我々仲良し四人組は、合唱コンクールを乗っ取ってしまおうとかって面倒この上ないことを画策してるわけですよ」

 その要素としてのバンド。足りない人員。このところ頑張りすぎてるからこそ、息抜きさせてあげて欲しいというなのはの頼み。
 実際、からすれば面倒この上ないのだ。学校はただでさえ休みがちになってるのに、大事な稽古の時間を割いてしまうのはなんとももったいない。……至極個人的この上ない理由ではあるが。

「つまり、は私をそのバンドのメンバーに誘おうとしてるんだよね?」
「担当のパートが意外に多くてさ。あと1人必要だったんだ。フェイトは歌が上手だってなのはちゃんに聞いてさ」

 確かに、最近学校以外では家にこもって勉強するか、任務でミッドチルダに出かけていた。
 なのはやアリサやすずか、はやてと遊んだ記憶もここ最近はまったくない。みんなはきっと、自分の事情を知っているから、何も言わずにいてくれているだけ。

「みんなに、心配させちゃってたんだよね」

 自分がそれだけ頑張っていたから、今までかけられる言葉がないままでいてしまった。
 家族を、友達を。そして、相棒をどれだけ心配させていたか。
 それを思ってか、フェイトはゆっくりと目を閉じて。

「そう、だよね。みんなに心配かけちゃいけないよね」

 ゆっくりと、閉じていた目を開く。
 確信に満ちた赤い瞳は、まっすぐにを見ていた。笑顔と共にフェイトはうなずいて、

「じゃあ、仲間に入れてもらおうかな」

 そんな答えを返していた。


 ●


「とまあ、そんな経緯もありまして」
「どんな経緯だよ」
「そんなことはどうでもいいじゃんめんどいし」
「投げやりこの上ないわね」
「それで、その娘が?」

 さとりの問いにはうなずく。
 彼が連れてきた少女こそが、コンクール乗っ取り大作戦のメンバーに加わった金髪の小学生。
 聖祥小学校の制服に身を包んだ、しかし大人びた1人の少女は。

「フェイト・T・ハラオウンです。よろしく、お願いします」

 学校帰りもそこそこに、といわんばかりの様子をかもし出しながら、3人ににっこりと笑って見せたのだった。



 それから。

「う、上手い―――ッ!」

 それは、フェイトの歌だ。楽譜をさらっと見ただけで、自分たちの演奏に合わせて。そして、その歌声はまるで最初から彼女のために作られたものであるかのようにしっくりと、すっぽりと胸に納まっていくようで。
 演奏し終わった頃にはみんなしてお互いの顔を見合わせて。

「フェイトちゃんイイ! 君こそ俺が求めてた歌姫だ!」
「なんかこー、納まるところに納まったって感じねえ」
「私もなんとかついていけたよぉ〜、来てくれてありがとぉフェイトちゃぁ〜ん……」

 1人でテンション最高潮の仁に、演奏に満足できたのか満面の笑みを称えるリリス。そして、初めてトチらずに最後まで演奏に打ち込めたさとり。全員が全員、フェイトをヴォーカル起用を大成功だったという確信を持って、また同時にコンクール後の乗っ取り活動もまったく問題ないという判断ができると。
 これなら、絶対にいける。そんな感想を持つことができたのだ。
 あとは。

「当日、任務がないことを祈るだけかな」

 練習への出席率があまりよくないの都合だけ。

「でかしたよ! ってかお前、あんな娘が知り合いにいてなんで気づかないんだよ!?」

 そんな言葉を叫びつつ飛びついてくる仁を巧みに躱すと、何も言わずにフェイトに向けてグッとガッツポーズを繰り出す。それを見た彼女はどこか嬉しそうに笑って、同じようにグッとガッツポーズを返してきた。
 そんな光景を見た仁とリリスは顔を見合わせて、にまりと笑う。

くぅ〜ん♪」
「な、なんだよリリス。ニヤニヤして」
さんもスミにおけませんねぇ〜……」
「何回か告白もされてるのに、ずっとOKしなかったのはあの娘のせいかね、ん? ひとつここは、おぢさんに言ってみ?」
「そっ、そんなんじゃないって」
「またまたまたまた、隠すことでもないでしょお? 減るモンじゃなし」
「いいや減るね。きっと今も何か減ってるに違いない! そう俺の小遣いとか」

 詰め寄られるはニヤニヤ顔で自分に向かってくる2つの顔をどう処理したものかと迷っていたのだが、そんなとき。

「あ、あの!」

 フェイトの割り込みに、一同が目をそちらに向けていた。
 ほんのりと頬を赤らめて、一抹の迷いすらも見え隠れする挙動を見せた後、

「そ、その……と私は、単に幼馴染の関係ってだけですから……」

 なんて、まるで困っているをかばうかのように口にして、苦笑した。
 しかしながら『ヲトメ』の称号は住の象徴。要素さえあれば遠慮なしにからかってみせるのは、まさにリリスのアイデンティティ。否定しながらも顔を真っ赤に染めてしまっては、それはいわゆる1つのからかいの要素になる。
 なのはとフェイトに、はやてとアリサ、すずか。そして、3つほど年上だが2年前の事件から何かと関わることの多かった。中でも、彼をのぞく4人は同じ年、同じ学校ということもあって大変に仲がいい。なのはとフェイト、はやての事情もすべて承知の上で、アリサとすずかは彼女たちを、主に学業面でサポートしてくれていた。
 もっとも、今はそんなことは関係ない。話のメインはフェイトと、の事なのだから。

「ねえ、くん」
「なにさ、あらたまって」

 フェイトを囲む2人の視線を逃れてに話しかけたのは、目の前の光景にあっけにとられてついていけてなかったさとり。
 小柄な彼女はほんのりと頬を赤く染めて、その年の標準身長よりも高いを上目遣いで見上げていた。

 自分がうまくできなかったからこそ代役――追加人員が必要で、学内であてがないからこそ学外から……それも小学生の幼馴染を連れてきた。
 いつ、どこで、どうやって知り合ったのか。それよりなによりフェイトという少女は、友達もいるはずだろうに、彼の頼みを何の疑いもなく引き受けたという。
 小学生のとき彼が転入してきてから……たった2年の間だけのことではあるものの、仁と、リリスと、と、自分と。ずっと、一緒に遊んで一緒に笑って、いろいろなことに一緒に取り組んできた。それはきっと、今回も同じだと……そう思ったのに。
 彼は、自分たちの知らない別の道をすでに、歩み始めているのだろうか。

「ふぇ、フェイトちゃんとは、知り合ってどのくらいなのかな!?」
「知り合ってから……あー、えと」
「どこで知り合ったのかな!? かな!?」
「どこでって……」
「ホントのところ、フェイトちゃんとはどんな関係なのかな!? かなぁ!? かなぁぁぁっ!?」
「さとり……っ、ちょっ、落ち着けって!」

 それを思うと、なんだか全部を追求しなきゃすまないような気がして。
 気がつけば、フェイトが2人に問い詰められている状況で、困った顔で応対するフェイトの助けを求める視線の先でも、がさとりらしからぬ剣幕で詰め寄られているのを見て、救援は一切望めないと確信したのだった。


 ●


 すたん。

 丸く輝く月が中天に差し掛かり、人々が楽しい明日を思いを馳せつつ寝静まった頃。
 淡い月明かりをバックに、街で一番高いビルに降り立ついくつかの人影があった。月の光に反射して、装備されたグローブやブーツが重厚な光を放つ。
 その様相は、現代日本の人間が……ひいては世界中の人間たちが普段はしないような特殊な格好だった。それはまるで、中世時代に存在した西洋の騎士のよう。軽装でありながらも屈強な肉体は、また彼らを戦士たりえるものだった。

「なあダー兄よぉ。ここにホントに俺っちたち全員の兄貴分がいるのかよ?」
「……ああ、いるともさ。おれが、この目で、しかーと確認したもんよ……なに、おれたちの出番はもう少し先の話。来るべき時が来れば、自然とどう動けばいいのかがわかるってもんさ――あとダー兄、て呼ぶな。ガキみたいだから」

 小柄な体格。金髪に金がかった琥珀色。腕には人影の身体ほどの大きさの砲が装備され、しかしその重さはあってないように彼の腕と共に砲口が動く。シャープなデザインのそれは、腕と融合しているかのように装備され、表面は平たく、彼の身体を包むように広がっている。まるで、彼を守る楯のようだった。
 大柄な体格。深い緑の髪に金がかった琥珀色。右手を肩まで覆い尽くすように無骨なグローブが装備されている。しかし駆動部はしなやかに、まるで手袋を装備しているかのように指先までを曲げ伸ばしできる。
 その手をぎゅっと握り締めると、グローブの周りを己の髪と同じ色のエネルギーが小さく爆ぜた。

「なんだよまだるっこしいなあ。いいじゃん、任務は何事も早い方がいいだろ?」
「そうもいかないさ。何事もタイミングってのが大事なんだ。そのときだけの話ですむならさておき、この作戦にはまだ“先”があるんだ……だから、ここで足並み乱すわけにはいかないってことさ」

 そんな返答に大柄な人影はぶーぶーと悪態つく。
 小さな人影はその様子に小さく息を吐き出して、眼下に広がる海鳴の街を見渡した。
 日付すら変わった今の時間でさえ高層ビルには光が点り、大きな道路には大量の車が走っていく。月を映す水平線は、変わらず平穏を保っている。

「そう……今はまだ、ね」

 そう、これから。
 すべてはこれから……10年先まで続く彼らの『計画』が、これから始まるのだ。





間章第05話でした。
ちょっと早いかもしれませんが、あと2, 3回ほどでとりあえず事件を動かしていこうと思います。
ここにオリジナル戦闘機人を登場させたのも、とりあえずはその流れに乗っかっていく感じで。


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