「……っ、はぁっ!」 激しくぶつかり合う桜色と闇色。 もう何度目になるだろう。なのはは一度距離を開けて大きく息を吐き出した。フェイトもも。頼もしい仲間は、友達は闇の書の中。彼女は目の前の女性を相手に、孤軍奮闘していた。 結界内に閉じ込められた状態で陸地はすでに火柱が至るところから立ち上り、真紅の光を迸らせている。 何本目になるかもわからないマガジンを入れ替えて、自分の手のひらに乗る残りのマガジンを数える。 ……残りは3本。内蔵カートリッジは18発。 これまでの間に、みんながみんなを助けなければならない。 「スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな……?」 舞台は海上へと移動していた。時間の止まった世界では波は立たず、青いはずの海も今は結界の色に染まっている。残りのカートリッジの数を改めて認識して、どうしたものかとなのはは思う。 「お前も、もう眠れ」 「……いつかは、眠るよ。でも、それは今じゃない」 まだ、眠るわけにはいかない。フェイトもはやても、も助けてない。自分はまだ、なにも成しえていないと。 助けられるなら、彼女は全部助けたいと願っていた。 フェイトもはやてもも……そして、目の前で涙を流す女性さえも。 しかし、今のままじゃなにもできないまま終わってしまう。 そんなのは……いや、それだけはイヤだった。 『手段はあります』 そんなときだった。彼女が自分に声をかけてきたのは。状況を打開するために、1つの策を提案する。 唯一、今の劣勢を看破できるかもしれない。しかしそれは自身の命を削って用いる、諸刃の剣。それを理解したうえで、彼女――レイジングハートは、こう告げる。 『エクセリオンモードを、命じて下さい』 使わないようにね、とエイミィに念を押されたままだった、レイジングハートのフルドライブモードの使用すべきだと。 その提案に、なのはは言うまでもなく反対だった。フレームの強化をしていないから、少しでも油断すれば大破してしまう危険性が高いから。 「ダメだよ!? あれは本体の補強をするまで、使っちゃダメだって」 私がコントロールに失敗したら、壊れちゃうんだよ!? 自身よりそのことを良く知っているはずのレイジングハートはしかし、主とよく似ていた。 こんな土壇場で、自分の意見を頑なに通し続けるガンコなところも。 レイジングハートはすべてを知った上で、主の願いを叶えたいとただ、切に願っていた。 そのためならば、自分がどうなろうと構わない。彼女の意気込みに、なのはは。 「…………わかったよ、レイジングハート。私を信じて、ついてきてね」 『もちろんです、マスター』 みんなを、助ける。レイジングハートが、自分の身を削ってまで自分の願いに応えてくれている。 なら、私がやるべきことはたった1つだけ――― 「レイジングハート、エクセリオンモード……」 ―――彼女の心意気に報いるだけ。 「……ドライブ!!」 『Ignition』 魔法少女リリカルなのはRe:A's #44 「ねむい……」 はやてはまどろみの中にいた。 うっすらと開いた目に映ったのは、一面の闇の色だった。 何も見えない。なにも聞こえない。ただ感じられるのは、自分を包み込んだ温もりだけ。この感覚だけを享受し続けていればきっと何もかも忘れて、安らぎの中に一生いることができるだろう。 そんな闇の中に立ち尽くしている、1人の女性。綺麗な顔立ちの中に表情はなく、しかし自身に対する深い愛情を感じ取れた。 「そのまま、お休みを……我が主。貴女の望みは、私が必ず叶えます」 誰だろう、なんて思うことはなかった。 ただそばにいてくれるだけで安心できた。ただ見てくれているだけで、自分は安らげた。 「目を閉じて、心静かに……夢を見てください」 だからはやては、ゆっくりと目を閉じた。 ここはどこで、自分は今まで何をしていたのだろうかとか、あれから自分はどうなっているのだろうかとか。 そんな疑問はあまりに些細過ぎた。 私の望み。 彼女は、それを叶えてくれると言っている。なら、その望みとは一体、なんだっただろうか? (私は、何を……望んでたんやっけ?) 口が動かない。口どころか、身体も満足に動かせない。でも、彼女は答えてくれた。 夢を見ることだと。悲しい現実をただ『夢』として、安らぎの中で眠り続けることだと。 「わたしの……ほんとの、のぞみは……」 レイジングハートは、一振りの槍となっていた。 もはや杖と呼ぶにはおこがましいほどに無骨で、重量感のある槍。しかし、そのカラーリングがレイジングハート自身を象徴するように鮮やかに描かれている。先の割れた切っ先を前方に構えて、足元に描かれる桜色の魔法陣。 「繰り返される悲しみも、悪い夢も。きっと、終わらせられる……!」 女性の周囲に浮かぶ黄金の魔力球。手だけでは数え切れないほどに無数に、そして強い光を帯びて、爆ぜ返っていた。それは、友達の彼女が使う射撃魔法。その無数の敵を前にして、なのははしかし臆すことなく広がる光景を視界に納めていた。 両脚の真横に翼を広げ、なのはは飛翔する。真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ、魔力球の群れへと向かっていく。 女性が命じるは、魔力球群による一斉射撃。1対多という圧倒的不利な状況で、しかしなのはは突っ込む速度を緩めることなくレイジングハートを振るう。遠心力と共に吐き出されるカートリッジは2発。 「えいっ!!」 振りきると同時に蓄えられた魔力が放出、襲い掛かる金の魔力球は暴発。もともとの純粋魔力にさらに魔力を上乗せしたのだ。まるで空気を入れすぎた風船のように、金の魔力球群は魔力過多により破裂したのだ。 1つ爆発すれば、あとはそれが火種となってあとは連鎖爆発の繰り返し。爆風さえ気にしなければ、これほど効率のいい戦い方はないだろう。これは、以前の戦闘訓練の時に学んだことだった。魔力というものは使い方によっては巨大な敵すら打ち倒すほどの力になる。以前、が生み出した楯をあたかも自身の武器のようにフェイトに向けて蹴り出した、あのときのように。 轟音を上げて連続して破裂する魔力球。爆煙は瞬く間に一面に広がり、なのはの小さな身体を隠す。 しかし、女性はさえぎられた視界を気にすることなく、その手をかざす。 かざした手のみが生きているかのように、まるでなにかを追いかけているかのようにゆっくりと動作する。ぴた、と手が止まった瞬間。 「……ぁっ!?」 『Wind bullet』 闇の書の声と共に煙の中から現れたなのはに向けて浴びせられる、風の弾丸。レイジングハートを振りかざしていたなのはは、女性の攻撃態勢が崩れていないことに気付いて、かざしたレイジングハートをそのままに、慌ててその手を突き出した。 『Round Shield』 真紅の宝石に浮かぶ文字。 同時に展開されたのは赤く波立つ強固な楯。襲い掛かった弾丸は硬い壁にぶつかっては快音を立てて破裂を繰り返し、白い糸のような煙を立てる。腕にかかる衝撃は並外れて、なのはは小さく表情をゆがめた。 波を立てる楯に入る、小さなヒビ。 あんまり長く保たないかな、などとと思ってしまったが最後、ヒビはあっという間に視界を埋め尽くして。 「うあぁっ!?」 ガラスが割れるような金きり音と共に、むなしく砕け散った。 殺到する弾丸。それらはなのはのバリアジャケットに衝突し、同時に切り裂く。それだけで、彼女のジャケットはボロボロになってしまっていた。 勢いに押されて、背後へふらふらと飛びのくなのは。 「……っ!」 その勢いを緩めて空中で停止すると、再びレイジングハートを構えなおす。 「負ける、もんかっ!!」 そんななのはの必死さをはらんだ声が、結界内に響き渡った。 「私が、欲しかった幸せ……?」 健康な身体、愛する者たちとの幸せな日々。 眠ってくださいと彼女は言う。そうすれば、幸せな時を見ていられると。 しかし、満足に動かない身体に力をこめて、はやては上半身を左右にゆすった。 「それは違う……それは、ただの夢や」 所詮は夢。所詮は非現実。それを彼女自身が理解してしまっていることはすでに、女性の言葉を否定しているようなものだった。そしてそれが、自身の望みではないことも理解して、 「わたし、こんなん望んでない……あなたもおなじはずや、違うか!?」 「私の心は、騎士たちの感情と深くリンクしています。だから、騎士たちと同じように、私も貴女を愛しく思っています。でも……」 書の侵食は止まることはない。 はやてと共に十年。それだけの長い期間、闇の書は彼女と共に在った。身体より先に心が大きく成長して、侵食は下半身を覆いつくした。その結果、この半年で彼女の人としての機能をほとんど制限してしまい、満足に動くことすらできなくなった。 それがやがて、彼女を……主を殺す。それが、女性は許せなかった。 「自分ではどうにもならない力の暴走……あなたを侵食することも、暴走してあなたを喰らい尽くしてしまうことも、止められない」 そんな言葉を聞いて、はやてはうつむいた。 彼女は、融合の際に今までの全てを理解していた。守護騎士たちがどれだけはやて自身を大切に思ってくれているかということを。 “はやてと一緒に心静かに、平和なひと時を過ごしていたい” そんな守護騎士たちの願いや、嘆き。願いのために動き、なのはやフェイト、たち管理局の魔導師たちと対峙してきたことを。 当のはやてもこの間まで……守護騎士たちと出会うまではずっと1人で、寂しい思いをしてきた。下半身が動かず、不自由な思いもした。自分の望みとは正反対の現実が、悲しかった。 あの子たちと同じや、と彼女は口にし、さらにせやけど、とはやては言葉を続ける。 泣いたらあかん。悲しんだらあかん。忘れたらあかんことがあると。 はやては軽く身を乗り出し、女性の頬へ手を添える。まるで、泣いている子供をあやすかのように。 「あなたのマスターは、今はわたしや。マスターの言うことは、ちゃんと聞かなあかん!」 そう告げた瞬間。 2人の足元に、三角形の魔法陣……純白に輝くベルカ式の魔法陣が具現していた。 2人は、飛翔の速度を上げた。 ぶつかり合う桜と闇。 レイジングハートの力を借りて、なのははただ空を疾り抜けた。 何度目かのぶつかり合い。 体格の差と、力の差。それに競り負けて、再び背後へと吹き飛ぶ。 「っ!」 しかし、すぐに体勢を立て直す。 女性は、両の手に黒い魔力球を浮かべていた。 それは敵を追い撃つ闇の力。渾身の力を込める、最後の一撃。 「一つ覚えの砲撃、通ると思ってか」 「通す! レイジングハートが力をくれてる。命と心をかけて、応えてくれてる!」 足元に具現する桜色の円形魔法陣。 飛び出すカートリッジは2発。宙を舞って落ちていく。 しかしそのようなことは、気にする暇もない。気にしているわけにはいかないのだ。 広がる翼。いっそう輝きを強める桜色。 「泣いてる子を、救ってあげてって!!」 『A.C.S Stand by』 魔力が一点に集まる。 先端に伸びるは、一本の魔力刃。それは、あらゆる防御を突破するためだけに生み出された真紅の槍の穂先。 「アクセルチャージャー起動……ストライクフレーム!」 『Open』 彼女は宣言どおり、一つ覚えの砲撃を通そうとしているのだ。しかも、防御の上から。 「エクセリオンバスターA.C.S……」 勢いを増して噴出す魔力。翼が燃え上がり、それが得るのは強い推進力。 「ドライブ!!」 なのはは、声と共に宙を蹴り出した。一気にトップスピードまで加速する小さな身体。その力の大きさを肌で感じ取った女性は、咄嗟に渾身の力を込めた闇の魔力球を放棄、楯を具現させた。 ぶつかり合う。 轟音と火花を立てて競り合う。 しかし。 「……っ、届いて!」 そんな彼女の叫びに呼応するかのように、ゆっくりと楯を貫いていく魔力刃。一度抜ければ、その根元まで貫くのは容易かった。 甲高い音と共に、真紅の矛先が女性の目の前に。 同時に飛び出すカートリッジは3発。 「ブレイク……ッ!」 まるでいつかの風の少年のように、ただその魔力をその身に流して、その尖った先に作り出される魔力球。 極限まで広がる桜の翼。 気付いたときには、すでに遅かった。なのはは最初から、自身へのダメージに構うことなく、ただ砲撃を彼女に撃ち込むことだけを考えていたのだから。 「シュート!!」 だから、躱すことすらもなしえなかった。 引き起こされた大爆発。その中心で、2つの影は桜色に飲み込まれた。 「……名前をあげる」 闇の書、呪われた魔導書。そんな暗い名前、誰にも言わせやしないとはやては宣言した。 そんな悲しい名前など、今回までで十分だと。 誰にも言わせないし、呼ばせないと決めた。 「わたしは管理者や。わたしにはそれができる!」 名前をあげることも。後ろ向きな名前を呼ばせないことも。 女性の輝きのない赤い目に、涙がこぼれた。 「無理です……っ、自動防御プログラムが止まりません。管理局の魔導師が戦っていますが、それも……」 そんな女性の言葉を聞きながら、はやては目を閉じた。 すべてを信じた今の自分に、『無理』などない。 だから、無理じゃないと信じていた。 念じる。 「とまって……」 ただひたすら、止まれと。 (ほぼゼロ距離……バリアを抜いての、エクセリオンバスター直撃……これでダメなら) 『Master』 「っ!?」 レイジングハートの声を聞いて考えることをやめると、なのはは頭上を臨む。 その視線の先には、無傷の女性の姿。 自分はすでにボロボロで。正直、勝ち目などないに等しかったが。 「もう少し、がんばらないとだね」 と、小さくつぶやいたときだった。 みし、みし、みし。 どこからか聞こえる乾いた音。女性の身体は、まるでロープで拘束されているかのように身体が軋んで、音を発していた。誰が見てもわかるくらいに、彼女の中でなにかが、彼女が動くことを制している。 そんな中、聞こえてきたのは。 『外の方、えと……管理局の方! こちら、えと……そこにいる子の保護者、八神はやてです!』 「はやてちゃん!?」 優しい主と、優しい魔導師。 2つの心がついに、久方ぶりの邂逅を遂げた。 『ごめんなのはちゃん、なんとかその子止めたげてくれる?』 そこからは、話は早かった。 やるべきことも、やりたいことも全てががっちり合わさった。 物語は確実に終焉へ……そして、エンディングへと走り始める。痛みも苦しみも悲しみも楽しさも嬉しさも全て受け入れて。そしてなにより生きているだけで幸せな世界で、みんなが生きていきたいと願った。 女性――闇の書の意思とも言える自動防御プログラムと対峙していたなのはも、闇の書を『闇の書』と呼ばせないと心に刻んだはやても。過ごしていく未来を決めたフェイトも、自分の『本当』を知ったも。 闇の書を通じて自身の心の内側を知ったから、この一連の事件をハッピーエンドで終わらせたいと願った。 そして、その願いを現実のものにすると決めた。 女性の内側で、はやては暴走する闇の書からコントロールを切り離すことに成功した。コントロールとはすなわち、管理者として扱うことのできる権限。暴走した闇の書は今まで彼女を取り込んで、その権限をフル活用していたことになる。 それを切り離した時点で闇の書は力の操作権利を失う。しかし、いま表に出ている女性……闇の書の自動防御プログラムが走り続けたままでは、せっかく切り離したコントロールを自身が使うこともできない。 だからこそ、はやてはなのはに1つの頼みを口にする。 ただ、『彼女』を止めてあげてくれ、と。 そんな2人の会話は、アリサとすずかを守っていたユーノとアルフにも届いていた。 闇の書が暴走しているにも関わらずその主が起きているという事実に驚きを懐きつつ、2人は顔を見合わせて飛翔する。 目的地は、なのはと女性の戦う、海の上。 『なのは、聞こえる!?』 そして、同時になのはに声をかける。闇の書が完成しているにもかかわらず、主―――書の管理者が目覚めているなら、後手後手に回らずともやれることがあるからと。 『わかりやすく伝えるよ。今から言うことをなのはができれば、はやてちゃんもも、フェイトも外に出られる!』 うん、というなのはの返事。 ユーノの頭にある、はやてをフェイトを、そしてを救う方法。はやてが起きているからこそできる、唯一にして絶対の策。 それは。 『どんな方法でもいい。目の前の子を、魔力ダメージでぶっ飛ばして! …………全力全開、手加減なしで!』 「っ!」 どこまでも荒っぽくて、どこまでも難しくて、そしてどこまでもわかりやすくて。 「さっすがユーノ君っ」 なのははつい、戦闘中であるにも関わらず、引き締めていた表情に笑みを浮かべていた。 「わっかりやすい!!」 『まったくです』 やるべきこと、できること。その全てが今、がっちりと歯車をあわせた。後はそれを、実行に移すだけ。どこまでも大変で、どこまでも難しいことだけど。 「「チェーンバインド!!」」 彼女は、どこまでも頼もしい仲間がいた。 飛び出したオレンジと緑のチェーンに絡められる、無数の触手。 なのはの行動を阻もうと飛び出してきたそれらはすべて、援護に現れたユーノとアルフにその行動を完全に封じられている。 「レイジングハート、バレル展開!! ……中距離砲撃モード!」 『All right. Barrel shot』 槍の、柄部分が機械音と共に伸びる。高い威力を誇る砲撃を放つために必要な、補強とでも言うのだろうか。 これから放つのは、対象の動きを封じた上で確実に相手を仕留める、2段構えの大出力直射砲撃。レイジングハートが今の形態を取っているからこそ用いることのできる、ディバインバスターに代わる主砲・エクセリオンバスターの最大出力バージョン。 再び広がる光の翼。先端に伸びる真紅の魔力刃――ストライクフレームの先端に集まる魔力が、膨大な空気の塊を放出した。 その見えない砲撃にダメージはなく、ただ対象を止めるためだけに用いるだけ。女性はその空気を浴びるが、復帰を果たすまでにさほどの時間を要することもなく。 しかし、その時間がまさに彼女にとっての命取り。 「エクセリオンバスター、フォースバースト!!」 闇の世界で、はやては女性の頬を両手で包む。 足元には純白の三角陣がゆっくりと回転し、一陣の光となって2人を闇の中から照らしている。 「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る」 それは、強く支えるもの。 それは、幸運の追い風。 それは、祝福のエール。 もう二度と、『闇』の書などと呼ばれないように。永く永く積み上げられてきた呪いを解き放つ、主からの贈り物。 跪く彼女はいわば、最後の守護騎士。管制人格。闇の書そのもの。だからこそ、『彼女』を変えることが書のすべてを変えることと同義といえた。 「祝福の風…………リインフォース」 暗く昏い闇の世界を。はやてと女性を巻き込んで、眩いばかりの光が染め上げた。 「ブレイク……っ!」 なのはは最後の引き金を口にする。 かき集めた魔力も一点に集まり、杖全体を環状魔法陣が包み、桜色の輝きを以って彼女の言葉を今か今かと待ち焦がれて。 「シュート――――ッ!!!」 一気に、解き放たれた。まるで滝から流れ落ちる大量の水のように轟音を立てて、桜の輝きは不規則に、しかし目標は等しく定められて殺到。 女性は躱すことも守ることもできず、その暗く赤い瞳に桜色を映す。 着弾と同時に引き起こされたのは、結界全体を覆いつくほどの大爆発。殺到した砲撃が、一気にその導火線に火をつけたのだ。 女性を、なのはを、ユーノを、アルフを。その場にいた全員を包みこみなお、広がり続けた。 「新名称・リインフォース認識……管理者権限が使用できます」 暗い闇から一変、光の世界へ。 その中心で、はやては笑みを浮かべていた。 これならもう、『闇』の書なんて言われやしない。呪いの書なんて呼ばれ方も、きっとしない。 「防御プログラムの暴走が止まりません……管理から切り離された膨大な力が、じき暴れだします」 「ん、まーなんとかしよ」 眼前に現れた一冊の書を胸に抱き、これから先に続く未来を描いて、顔に浮かぶ笑み。 未来よりも今は、目の前の現実を何とかする必要がある。それすらも考えて、はやては闇の書『だった』ものを強く強く、抱きしめた。 「いこか、リインフォース」 「はい……我が主」 闇の書の終焉の時が、目の前まで近づいていた。 ばり、という音がアルフの耳に届いた。 ぱん、という音がなのはの耳に届いた。 音の方を見やれば、闇の書に取り込まれたはずのフェイトとの姿。2人が並んで、それぞれに金色の大剣と若草色の長剣を携えて。 お互いの存在を感じ取って顔をあわせて、薄く笑う。 戻ってきたと、みんなのいるこの場所に帰ってきたのだと理解して。 「フェイトっ」 「ぁ……っ!」 本当に心から嬉しそうななのはの笑顔。 白いバリアジャケットがすすけてボロボロで、それを見たは眉根を寄せた。それほどまでにフェイトと自分を心配して、今まで戦ってくれていたことに一抹の嬉しさすら感じて。 自分はただでさえ、あまり2人と関わることが多くなかったのに。話す機会すら、余りに少なかったというのに。 彼女は、フェイトと自分の身を今まで案じてくれていたことに。 「……どうしたの?」 フェイトの問いについ。 「や、嬉しいなーってさ……こういうのをさ、友達っていうんだろな」 なんて、柄にもない答えを口にしてしまっていた。 彼女は彼女で、自分の答えに虚を突かれたかのように目を丸めて。 「ふふっ……らしくないよ、」 …………あー、メンドくせ。 |
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