『!?』

 唐突に鳴り響くアラート。次元航行艦アースラは作戦司令室、突如浮かび上がったエマージェンシーの文字をその視界に納めて、スタッフ一同目を見開いた。
 その中で1人、迅速に動き始めたのが艦長のリンディだった。エイミィに状況の把握を命じてすぐ、映し出されたのは海鳴の海に面した自然公園だった。その公園を中心に張り巡らされた丸いドーム状の封時結界。その中に誰が存在しているか、という報告は、その後すぐに発された。

「あの4人と……くん!?」

 シグナム、ヴィータ、ザフィーラの巧みな連携攻撃を険しい表情で捌ききるの姿。
 それを目の前に見たフェイトは、何も言わずに踵を返した。

「フェイトさん、どこへ?」
「決まってます。を助けに」

 しかし、そんなフェイトの行動はあまりに無謀と言えた。闇の書にリンカーコアを蒐集されてからさほど時間を置かず今に至っている。魔法も満足に使えない身体で出向いたところで、足手まといになるだけだというのは誰が見ても明らかだったから。
 もちろん、彼女に危険なことはさせられない。リンディはフェイトの行動を諌め、首を横に振った。

「フェイト、大丈夫だ。アイツはなんだかんだいってしぶといからな……それから、現場へは僕が向かう」
「クロノ……」
「なのはにもエイミィが連絡してる。君はここで待っているといい」

 彼女の見せた納得のいかないという表情に追い討ちをかけるかのように、クロノは言う。今の彼がフェイトにかけることのできる言葉など、ほとんどないに等しい。それほどに、事態は切迫しているのだ。
 フェイトは何もできない今の状況を悔しげに歯噛み、シグナムの斬撃を受け弾くの映し出された大きなスクリーンを見上げる。

「フェイト……」

 己の大事な人が煮え切らない、どこか寂しげな表情を浮かべているのを見て、アルフは自身の無力さを痛感していた。単純に、彼女を守れなかっただけじゃない。こんなとき……自分がいないところで誰かが戦っているのを目前にしたとき、声をかけることすらできない。
 自身の生みの親とも言えるフェイトが、そんな場所に立っているのに、自分はただ見ていることしかできないというこの現実に。

「大丈夫、フェイトのいるところが、アタシの居場所だよ」

 ただ自分は、そばにいることしかできないのだ。

「アルフ……ありがとう、ごめんね」



 そして、場所は変わる。
 高町家の自室で、突如膨れ上がった魔力を感知したのはレイジングハートだった。鋭い刃のような魔力が、少しばかり離れたこの場所でさえビリビリと振動を伝えている。

「レイジングハート、これって……」
『はい。何者かが交戦しているようです』
「! ……行こう、レイジングハート!!」

 レイジングハートを首にかけつつ部屋を飛び出そうとして、ふと、机の上の携帯電話が着信を伝えていることに気付く。急いでいるのだが、気付いたからにはさすがに出ないわけにはいかない。机に駆け寄って携帯電話を取ると、発光している液晶に映っているのは『時空管理局』の文字。
 迷うことなく通話ボタンを押すと、

『よかった、つながった! なのはちゃん、状況はわかってるよね!?』
「エイミィさん……はい! 今、行こうと思ってたところだったんですけど」
『それなら話は早い! くんが、あの4人と戦ってるの! 応援に行ってあげてくれる!?』
「っ、……もちろんですっ!!」

 断るわけもない。大事な友達がピンチなのだ。助けに行かず見向きもしないなんて、なのはの頭の中にはこれっぽっちもありはしない。
 胸元に下がった赤い宝石を握り締めて、

「お、おいなのは……そんなに急いでどうしたんだ?」
「お兄ちゃんっ! ごめんね、ちょっと急いでるの!!」

 1階への階段でばったり鉢合わせた学校帰りの恭也の横をするりと通り抜けると、靴をひっかけて外へと飛び出したのだった。

「まったく、女の子がばたばたとはしたない……」

 ふと、恭也は階段上の窓へと身を寄せる。
 分厚い雲に覆われた空は太陽の光を完全に遮断し、陸に影を落としている。そんな光景を眺め、眉をひそめた。勘の鋭い彼だからこそ……いや、生粋の剣士である彼だからこそ感じ取れる、嫌な予感。そして、溢れんばかりの強い闘気と――殺気。
 自分の見えないどこかで、はげしい戦いが繰り広げられている。しかし、それは自分の力だけではどうにもならない、異質な何かのぶつかり合い。
 そんな雰囲気を感じてか、恭也はその手に納まった二振りの小太刀を強く握り締めたのだった。



   
魔法少女リリカルなのはRe:A's   #37



 暗い空へと飛翔する。翠の風を纏った刀身は闇に映え、一筋の残像となって夜空を彩る。そして、それを追いかけるように4色の光芒。
 それが何であるかなど、言うまでもないだろう。
 それぞれが怒りや苦悩、悲しみをその表情に宿し、彼らの持つ武具が一際強い光を発する。
 先行する翠を囲んで赤、朱、青。そして緑だけは少し離れた空中で静止、3つの色のサポートへと回っていた。

 その剣に懐くは風。確固たる決意をその身に込めて、襲い掛かる災厄を一つ一つ捌いては反撃へと転じる。
 3対1という圧倒的不利な状況。さらに、結界外へ連絡も取れず八方ふさがりな今の状況。
 しかし、はその不利をまったく気にも留めず、小ぶりの長剣を構えていた。ただでさえ腕力で勝てない相手ばかりだ。しかもそれが3人もいれば、防戦へと転じてしまうのも無理はない。
 しかし。

『Blight move』

 アストライアのサポートが、彼の考えている以上に的確かつ効果的。今も3人の巧みな連携攻撃をまるで掻き消えるかのように高速移動し、彼女たちが気がつけば背後で剣を振り上げている。
 カートリッジはほとんど使っていない。まるで、彼の心意気に応えているかのように、アストライアは抑揚のない電子音声を高らかに上げていた。

「ちぃっ!」

 咄嗟に楯を展開したのはザフィーラ。刃との激突の瞬間に甲高い音を立てて、真っ赤な火花を際限なく散らし続ける。
 楯の影から、シグナムとヴィータ。楯の両脇を潜り抜けるように飛来した。
 ほぼゼロ距離。間合いなどないに等しいこの場所で、の逃げ場など無に等しい。しかし、彼は……いや、正確にはアストライアがそれを見越して、カートリッジを2発、虚空に飛ばしていた。
 1つ目のキーに高速移動を、2つ目のキーにカートリッジを。発動条件を満たすことは、あまりに容易すぎた。
 球形の魔方陣が彼の頭上に浮かび上がる。それと同時に彼の周囲に浮かんだのは4つの光球。翠の光を放つそれは、かつての相棒クサナギから受け継いだ攻撃魔法。

『Das Gefangnis』

 シグナムとヴィータがの両横へ到達するタイミングに合わせて、アストライアは告げる。の周囲を漂っていた光弾は、それぞれに狙いを定めて動き出した。

「「!?」」

 目を見開いた2人はしかし、狙いはに定めたまま。
 それぞれの目の前の魔力球はたったの1つ。ちっぽけ過ぎるそれを受けたところで、痛くも痒くもないとタカをくくって、それぞれの得物を振りかざした。

「レヴァンティン!!」
「アイゼンっ!!」
『『Ja!!』』

 2つのデバイスがカートリッジをロード。
 片や刀身を炎が包む。片や鎚の先からロケット噴射プラス小ぶりなドリルへと姿を変える。
 翠の球がそれぞれに激突、しかしあえなく弾けとぶ。

「紫電……」
「ラケーテン……」

 はアストライアへ指示を送る。変化するは彼の身長を超える両手剣。破壊の力を極限まで高めたその刀身を、まるでひっぱたこうかといわんばかりに振り上げて、

「おりゃあああっ!!」
『Atlas Sword』
「一閃……っ!!」
「ハンマー――ッ!!」

 破壊力そのものを高めた一撃を、2人へと見舞った。
 ロケット噴射ハンマーと炎の剣のタッグ攻撃。しかも自身の両横からという状況で、はまるで独楽のように自身の身体を中心に回転。大剣――セイバーフォームの重みと面倒ながらも鍛えに鍛えた腕力、そして自身を補助する強化魔法をもって、2人をまとめて弾き飛ばしていた。
 レヴァンティンの切っ先が背後に伸びたバリアジャケットの裾をかすめ、ロケットハンマーがの腹部へ軽く触れ、そのわずかな衝撃が腹部に伝わる。
 二方向へ吹き飛んでいく2人を視界に納めて、回転が止まる。

「ごふっ! がふっ!!」
「オオオォォォっ!!」

 それを待っていたかのように、腹部に伝わった衝撃に咳き込んでいるを肉薄したのはザフィーラだった。
 の背後。位置取りとしてはまさにベストポジション。しかし、彼の進行を邪魔したのは他でもない、2つの光弾だった。とザフィーラの間に浮かび、ザフィーラへとターゲットを定めて突き進む。
 躱すことすらできないまま、彼は光弾の元へ自ら飛び込んでいった。
 を中心にちょうど三方向へ吹き飛んでいく3人。彼らをぐるりと見回して、くるくると回転させながらアストライアを掲げた。
 変化するは大槍。割れた穂先から翠の魔力刃が飛び出し、足元に展開する円形の魔方陣。2発のカートリッジが吐き出され、浮かび上がったのは待たしても光弾だった。数は先ほど同様4つ。しかし、それはの周囲を漂うわけではなく、うち3つはまるで動くものに反応するかのように三方向に散っていった。

『Eternity Wind』

 それは自律行動し、索敵、さらには自らも砲撃する、ある種の小型砲台。
 あっという間にそれぞれの対象を補足すると、風を纏った魔力の塊を飛ばした。速度は高速。即興で、自らの身体を削って作り上げられる弾丸。体勢を整えつつあった彼女たちへ追い討ちをかけるように、弾丸は連射されている。

「いいか……よーく聞けよ!!」

 さらに吐き出される2発。開いた左手に浮かび上がる球形魔方陣。空になったマガジンを捨て、カートリッジが詰まった新しいマガジンへと付け替える。

『Beispiellose Katastrophe』

 かしゃん、という固定音と同時にさらに吐き出されるカートリッジは4つ。
 眼下で自身の生み出した小型砲台を相手に飛び回る3人を納めて、構えた穂先に具現する魔力。渦を巻き、さらに結界内を漂う魔力をかき集め、その身が巨大な砲と化す。
 ただでさえ3人の相手に優勢に立ち、立て続けにカートリッジをロードした。のまだ小さく華奢な身体にその事実は重く、大きな負荷となってのしかかる。

「っ……!」

 しかし、譲れないものはここにある。
 主を思っての蒐集が主を蝕み、その行動すべてが裏目に出ている。
 それは自身が気付けたからいい。しかし問題なのは、間違った道を正しいと思い込んで進んでいる彼女たちだ。
 生みの親とも言える書の本来の名前すら知らず、主を救うためと奔走しているにもかかわらず結果は逆だと気付かない。そして何より、彼女たちは義務から主と共にいるという言動が窺えた。
 主のためにと行動しているがゆえに、主を除け者にして勝手にことを進めている。
 その事実に気付かない……気付いてくれない彼女たちに、とにかくは腹を立てていた。
 だからこそ、あえてこの言葉を口にする。

「はやてと一緒にいることを、義務にするな――ッ!!」

 ちゃんと、一緒にいる。
 この一言は、一緒にいなければならずしぶしぶ一緒にいる……というように聞き取れる。たとえ、言った本人にその気がなくても、聞いた人はそう解釈するだろう。
 言葉とはかくも難しいもの。聞き取り方は十人十色。みんながみんな、言ったことに対して同じ解釈ができるわけもないのだ。
 そして、彼が叫んだ言葉と共に。

『Count, zero』
「お灸を据えてやるよ……こんちくしょ―――ッ!!」

 渦巻く翠の大嵐が放たれた。


 ●


 結界内に侵入を果たし、合流したなのはとクロノは、怒り狂う魔力の奔流を目の当たりにした。
 その砲撃による出力の大きさではない。離れているにも関わらず聞こえる怒声の大きさでもない。むしろ、たった1人で3人を相手にチャージに時間のかかる砲撃を打てるまで有利に立っている彼のバトルセンスに、脱帽していた。
 今の光景こそ、まごう事なき彼の本気。限りある魔力とカートリッジを無駄なく有効に使い、ここぞというときに決めの一撃を放つことのできる戦略の深さと広さ。
 本人にこそその自覚はないのだろうが、面倒くさがりでマイペースである彼だからこそそんな行動ができるのだろうという結論にいたり、立ち止まってはいられないと我に帰る。
 ただでさえ厳しい戦い。おそらく、のカートリッジもすでに底をついているだろうから。

「なのは、急ごう!」
「うんっ。待っててね、くん!!」

 両脚に桜色の羽を具現させたなのはは、先を飛ぶクロノを追いかけるように飛翔のスピードを上げた。
 そんなとき。

「……え?」

 視線の先。
 翠の線が見えるその付近を、青い光が光って見えた。
 目的地は、のいる砲撃地点……いや、本人が目的なのだ。ドームの天頂付近から一直線にの頭上へ到達し、しかし彼はまったく気付くことなく砲撃を終えた。
 遠距離ロングレンジ特化型フルドライブのサンライトフォーム。その大きな穂先をものともせず、くるくると回転させつつ己の肩に引っ掛ける。

『Master!!』
「……え?」

 そして、いちはやく気付いたアストライアの警告も満足に聞けないまま、

「か、あぐ……っ!?」
「言ったはずだ……貴様にしゃしゃり出てもらっては困る、とな」

 みしり、とアストライアの柄が音を立て、さらに衝撃は鎖骨へと伝染する。
 頭上からの強烈な一撃。抗うこともできず、は直下へとまっすぐ、勢いをつけて落下していった。
 地面に激突すると同時に、立ち上る砂柱。その中心で、は完全に意識を飛ばしてしまっていた。

『マスター、しっかりしてください! マスターっ!?』

 アストライアの呼びかけに応じることもなく。

くんっ!!!」

 なのははレイジングハートを一振り、浮かび上がったディバインスフィアを射出。一直線に目標へ向かったディバインスフィアは砂煙を吹き飛ばし、に攻撃を加えた存在の正体を露呈する。
 それは。

「……お前はっ!?」

 青い髪に仮面を付けた男。彼が、を担ぎ上げていた。
 男は右手でを担ぎ、左手でアストライアを握り締めている。言動も含めれば、まるでを舞台から退場させようとしているかのよう。

「そいつをどこに連れて行く気だ!?」
「………」

 クロノの問いに、男は答えない。
 都合の悪いことは答えない。罪を犯した人間が罪から逃れようとするかのように声を荒げるでもなく、クロノとなのは、そしての作った攻撃してくるスフィアを破壊したシグナムとヴィータ、そしてザフィーラを見やり、懐から一枚のカードを取り出した。
 そして。

『なぁっ!?』

 次の瞬間には、一度に5人の人間にを仕掛けていた。
 突然の行動に一同は応戦もできないまま、ことごとくその動きを封じられる。
 簡易的な、破るにはさほど時間もかからないものだった。しかし、彼がその場を離れるには十分な時間。

「……っ、く―――んッ!!」

 拘束を解いて、すでに男の姿も見えなくなって。
 なのはの声が、結界内に響き渡ったのだった。





というわけで、夢主さよなら。
まぁ、このままクロノとは別のルートで真相を知るわけですが、結局あっさり
仲間と合流することになります。
で、守護騎士たちと次に会うのは、闇の書の防衛プログラムが暴走する寸前。
アニメで言うところの12話となりますね。


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