ふりふりふりふりふり。 フェイトに飛びついたアルフは人型形態を取っていたためか、大きくやわらかそうな尻尾をふりふりと左右に振りながらその身体つきとは裏腹に子供じみた無邪気な笑顔を見せていた。普段の振る舞いとのギャップに苦笑すると、そんなを見ていたフェイトも同じように苦笑を返した。 黒いバリアジャケットもバルディッシュと共に一つのワッペンになっており、普段着に戻っている。無論それはも同じで、アストライアはデニムのパンツの腰部分に取り付けられてちゃらちゃらと音を立てていた。 「ところで、俺に何か用事か?」 「うん……」 彼女の用事はいとも簡単なものだった。 今日は起床してからこっちまだ何も食べていないため、一緒に朝ごはんでもどうかというお誘い。 もちろん、そのお誘いに応えないではない。彼もフェイト同様、起きてからなにも食べていないのだ。それなのに朝も早くからあんな戦闘訓練に駆りたてられて、おなかと背中がくっつきそうだ。 ちなみに、仲のいいなのはの行方はというと、学校の準備をするとかで自宅へ帰ったらしい。 よくもまぁ朝っぱらから頑張るなぁ、とか思いきや、そういえば自分もだったと思い返して小さくため息をついたのは、つい今しがたのことだった。 フェイトが学校に行くまで、あと1時間ほど。 は、そのお誘いを断るわけもなかった。 そんなわけで、場所は変わる。 リンディは、アースラの件で本局に用事があるからと朝ごはんも食べずに出かけてしまった。クロノとエイミィはというと、リンディ同様本局に尋ねたい人たちがいるからとユーノを連れて出かけてしまった。 つまり、いまこの場にいるのはとフェイト、そして使い魔アルフの3人だけなのだとか。 何か作るべかと冷蔵庫を開けてみれば、あまりものばかりがざくざくと放り込まれたような、なんとも見ていられない状況になっていた。 これじゃ、どこになにがあるかわかりゃしないというもの。 「めんどうだなぁ……」 「あ、あはは……」 確か、食事についてはエイミィが中心に行っていて、冷蔵庫の中身はほとんど彼女が管理していたはず。 …………ということは、この大きな冷蔵庫の中身というのは、9割方は彼女が管理していることになる。 まったく、普段の生活態度が手に取るにわかるのは、なんとも哀れだ。 「……しかたない。今日は冷蔵庫の片付けがてら、俺が腕を振るうとしようか」 「えっ?」 「、あんた料理なんて出来るのかい?」 ……失礼な。 は12歳。普通なら作られる側であるはずなのだが、その年で彼は1人暮らしをしていたりする。 料理の1つや2つ、できていもいいものだが、しかしてその実態は。 「まぁ、滅多に作らないから雑になっちゃうのは我慢な」 見た目も味も大雑把。 いわゆる『漢料理』だったりする。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #29 さて。 の言葉どおり、3人は広い机に向かい合って座っていた。いつもは5人がけのテーブルにたった3人しか座っていないのだから、むしろいつもより広く感じるのは当たり前のことだった。 そんな3人がほおばっているのは、お手製のかな〜り雑なオムライス。元来面倒くさがりの彼が面倒くさがりながらもそれなりに気持ちを込めて作ったものだったが、見てくれはもはやオムライスというにはおこがましい失敗料理のようなもの。内側のチキンライスは味付けが極端だし、かといって外側が綺麗かというとそういうわけでもなく、卵の黄色は保っているものの表面はぐちゃぐちゃのどろどろ。なんともヒドイ状態だった。しかしながら…… 「おお、こりゃうまそうだぁ……っ!!」 漂ってくる香りに導かれて、アルフが率先してテーブルについてフォークとナイフをキンキンと鳴らしていたわけだ。 で、彼女はあっさり陥落。出された瞬間に見た目など気にするまでもなくオムライスをかっ込む。 実際、その極端な味付けが功を奏してか、特製(?)オムライスは好評だった。フェイトは最初、そのヒド過ぎる見た目のせいで食べることすら躊躇していたようだったが、一口すくって運んでみれば最後、二口目からはむしろ食べるテンポが極端すぎるほどに上がっていた。 そんなとき。 「ところで……さ」 「?」 同じように朝からこってりオムライスを胃袋に納めているに、スプーンを止めたフェイトが遠慮がちに話しかけていた。 自分がコレだけ楽しいと思えるのだから、彼も一緒にと。 「は、学校とか行かないのかな?」 こんな言葉を口にしていた。は管理局に所属しているとは言っても、扱いどころか立場は嘱託。しかも非常勤で、民間協力者といったところでなんら遜色ない。つまり、立場的にはフェイトとまったく変わりはなくいわけで。自身が望めば、彼女の言うとおり学校にだって行けるはずなのだ。 この楽しい時間を、自分だけではなくにも味わって欲しい。そんなささやかな思いが、フェイトにこんな言葉を出させたのだけど。 「……ああ、行かないよ」 「え、あ……そっか、そうなんだ」 「なんでさ? フェイトだって楽しそうなのに」 確かにアルフの言うとおり、最近の彼女は実に楽しそうだ。たくさんの同級生たちに囲まれて充実した毎日を送っていると、普段あまり顔を合わせたり出来ないでさえそんな感情を察することができたりできなかったりするわけだが、は無言で首を横に振っていた。 薄く笑みを残して、どこか哀愁すらも見え隠れしているような表情で。 「俺は、君とは違うよ」 現状の捉え方や、感情の使い方。なにより、フェイトとは別々の個性を持っている。その個性が、『学校へ行く』という一つの行為に対しての有用性を間逆に捉えているわけだが。 「俺の性格、わかってるだろ?」 結局は、いろんな意味での厄介ごとを抱え込みたくないだけなのだ。それが、後々の面倒ごとにすらつながりかねないからして。 これも彼らしさといえばそこまでだが、これも彼の味。あまり真に受けていたらキリがないことは、今までの付き合いからフェイトもアルフも理解していたからこそ、食い下がるようなこともしないわけである。 「ま、俺の分まで楽しんできなよ」 そんな言葉を最後に、は意外に綺麗に出来たオムライスをかっこんだのだった。 ● 「な、なんだか……いっぱいあるね」 というわけで、時間は流れ流れてあっという間に昼休み。 フェイトはめのまえに広げたカタログを前に、とにかく目移りしまくっていた。カタログといっても、色々なものがある。その中で彼女が見ているのは、携帯電話の写真がページいっぱいに載っているものだった。オシャレなデザインに電話としてだけでなくメールを送ったり音楽を聴いたり、果てにはテレビ番組すらも見ることが出来る超がつくほどのスグレモノだ。 携帯電話はあるとすごい便利だよ、なんて、なのはやアリサ、すずかに言われるがままにカタログを眺めていたフェイトだが、それを手にするかどうかはまた別の話だったりする。……結局は皆に言われるがまま、リンディに慣れないおねだりをすることになるのだろう。っていうか、自分の周りにいる3人は、すでにその方向で話を進めているようで、携帯電話談義に花を咲かせていた。 あのですら持っている携帯電話。彼と連絡を取ろうとしているエイミィを見ていると、本当に必要なのかどうかわからなくなっていたりする今日この頃。そんな事実を知っているからこそ、フェイトは小さく顔をしかめたのだった。 「今日はどうすっかな〜……」 フェイトは学校、何度も言うようだがクロノはエイミィとユーノを連れて出かけてしまい、リンディはアースラの追加武装が搭載できからと試験航行に。アルフは特にやることもなくて家にいてもいいのだろうが、彼女は最近見につけた子犬フォームという姿を最大限に生かして散歩に出かけてしまった。 彼女曰く、晩御飯のためにたくさん運動しておなかを空かせておくのだそうだ。子犬フォームだと、元の狼型よりも身体が小さいので、食事の量が相対的に多くなるらしいが、その辺はいまいち良くわからない。 一通り思案して家にいてもやることなく暇でしょうがないので、ヴィータでもからかいに行こうと決めたが最後。 「テメェーッ!! なにしにきやがった!?」 「ははは。いやいやいや、暇だったんでちょっと遊びにきてみたさ」 「遊びにくんな! きやがんなーっ!!」 「あ、くんやんか。いらっしゃい 「よっ。遊びに来たよん」 「無視すんなコノヤローッ!!」 しゅた、挨拶代わりに手を立てる。それにならって挨拶を返してくるはやてに内心で親指を立てつつ、招かれるままに八神家へ足を踏み入れていた。 今日はまだ蒐集活動をしていないらしく、4人とも揃っている。 からすればそっちのほうが見慣れていることもあり、さほど気にするほどのことでもないのだが。 『で、今日は蒐集は?』 『基本的に夜やるようにしてるから』 今日ははやても用事がないし、このところ一緒にいる機会がなかったからと気を利かせていたらしい。彼女のためとはいえ、遠慮がちに苦笑するシャマルはむしろこの場において一番の常識人かもしれない。 この4人、はやてに用事があるときは持ち回りで彼女の用事に付き合って、残りは昼間でも蒐集しているのだとか。 急いてはことを仕損じる、なんて言葉もあるが、肝心のはやての身体には時間制限がついているからと焦ってしまっているのかもしれない。 『お前の方は何事もなかったのか?』 『助けるつもりだったわけじゃないけど…………ま、結果オーライな?』 彼女たちは人間ではないと聞いた。そしてさらに、使い魔という立場でもないということも。 本当の存在理由はただ主の命令を受け、遂行すること。それだけのために創られた、ただのプログラム……のはずだった。ある意味、ロストロギア『闇の書』の付属品といっても過言ではない立場にいるはずなのだが。 しかして彼女たちは、主の知らないところで闇の書のページ蒐集を繰り返している。闇の書の完成によって得られた力はただ、純粋な破壊のみに使われたという事例があるにもかかわらず。 もし、彼女たちがそのためにページ蒐集をしているのだとすれば、絶対に止めねばならない。しかし、それとは違った理由を、は知っていた。 純粋な破壊しかできないはずの闇の書の完成が、果たしてはやてへの侵食を止める唯一の手立てとなり得るのかどうか。コレを機に、尋ねてみてもいいのかもしれない。 「くん、お昼ごはんはもう食べた? ウチらまだやから、せっかくやし一緒に食べへん?」 「おお、助かる! 今日は朝っぱらから色々とあってなぁ……」 「人の話を聞けよテメ……」 すぱーんっ!! 「あかんよ、ヴィータ。言葉遣い悪いで」 「うぐぐ……」 どこから取り出したのか、大きなハリセンではやてにどつかれたヴィータが恨めしそうにを見上げる。 ………… 俺のせいか? |
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