『Accel mode, stand by ready.』
『Assault form, cartridge set.』

 携えた相棒たちが光を帯びた。カートリッジシステムを搭載してまだ経験も少ないからこそ、こうしてこの場にいる。
 初めてシステムを使ったときは、純粋にすごいと思った。今まで出来なかったことですら、いとも容易く、自分の要求以上の結果を出してくれた。
 負けてられないな、となのはも、そしてフェイトもそう思う。

「・・・さ! いつでもどうぞ!」

 は先の細い槍を構える。穂先を眼下に、石突を顔の真横に。右手は柄尻を握り、左手は柄に添えるようにして構えを取った。
 同時に吐き出される1つの薬莢。同時に槍の輪郭を緑の光が覆う。戦闘態勢は万全だ。
 相手がやる気なら、こちらも。

「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」

 明らかなのは、コレが訓練であるということ。は、自分たちが新しいシステムを積んだ相棒と呼吸を合わせることができるように、「メンドくさい」などといいながらも付き合ってくれている。
 優しい人、なのだと改めて認めると、なのはとフェイトは顔を見合わせて大きくうなずいた。
 気合の篭った顔を、へと向ける。
 その表情に、迷いなど……ない。
 自分たちのためを思って付き合ってくれている。だったら、それに甘んじよう。そう決めた。
 だから。

「「カートリッジロード!!」」
『『Load cartridge.』』

 がしゃん、と2本の魔導杖から白い蒸気が噴出した。
 それぞれの魔力光を帯び、足元に円形の魔法陣が生まれる。

「行こう、フェイトちゃん」
「うん……なのは」

 人知を超えた戦いが始まる。
 それは、魔導師ランクという概念に囚われない、ただ純粋な力のぶつかり合い。
 ……いや、単なる意地の張り合いだと見ていた皆は言うかもしれない。

『Master, Call me cartridge load.』
「……うん、お願い。レイジングハート、カートリッジロード!!」
『Load cartridge……Buster mode, stand by ready』

 レイジングハートはなのはの言葉のままに、2つ目のカートリッジを吐き出した。



   
魔法少女リリカルなのはRe:A's   #28



『Sir』
「――うん。行くよ、バルディッシュ……!!」
『Yes, Sir……Haken form set.』

 フェイトがを肉薄する。背後で魔法陣を展開させたままのなのは置いて、黒い戦斧だったバルディッシュがその形態を変える。
 斧にあたる部位が杖と垂直に開き、黄金の魔力が大鎌を思わせる形を作り出した。近接戦闘に特化したバルディッシュのハーケンフォーム。うなりをあげて爆ぜる黄金の魔力は、まるで寄せ集められた雷にも見える。……いや、実際に雷が発生しているのだろう。彼女は潜在的に魔力の変換資質を持っている。雷……電気に変化された魔力がそのまま、刃へと転じているのだ。
 いつか見た、魔力を帯びた大鎌。それが、細身の槍を携えたへと襲い掛かった。
 そして、それと同時にフェイトの背後になるなのはも動き出す。レイジングハートの声に従い、その大きな赤い宝石をへと向けた。彼女の仕事は、フェイトが近接戦にての注意を引いている間に力をため、射撃魔法でその支援をする。支援砲撃、というにはおこがましいかもしれないが、決め手はある。自身の得手であり魔法戦においてのアイデンティティである砲撃魔法だ。

『Haken Slash.』

 金色の宝石が文字を映し出す。同時に振り下ろされる刃はしかし、それに合わせるようにゆっくりと動かされた穂先と衝突した。
 温和だった表情が引き締まり、子供らしからぬ精悍な顔つきが浮かぶ。その表情にフェイトは目を見開いた。

 ばしぃっ!

 衝突した金の魔力刃を、細い緑の穂先が弾き飛ばす。単純に腕力に物を言わせて、バルディッシュを両手で持っていたフェイトの胴をがら空きにする。アストライアの形態を変える暇はない。しかも、相手は未だに目の前にいる。
 だったら、やることは決まっている。正直、女の子にこのようなことをするのは気が引けるが、今はそんな四の五の言っている場合じゃない。もちろん、フェイトもそれをわかっているはずなのだ。
 だから。

「ふんぬ……っ!!」

 アストライアを介して魔力を単純に腕に留めて、握った拳を振るう。実際、できないわけじゃないだろう。アストライアに魔力を帯びさせることが出来るのだから、自身の拳にその矛先を向けることだって出来るはず。
 右腕に風を纏う。その光景にフェイトは息を呑み込む。同時に片手を突き出し楯を作り出す。
 繰り出された拳は魔法陣を模した楯に衝突し、弾かれる。その衝撃を消しきることも出来ず、楯の固さに小さく舌打つ。
 帯電した腕は痺れ、同時に軽い鈍痛を。
 そんな手2本で柄尻を握り締めると。

『Saber form.』

 トーンの高い電子音声と共に、握った柄尻を中心にの背丈もあるような両手剣へと姿を変えた。
 態勢も整わないままその剣を振るわんと両腕に力を込め、

「そりゃああっ!!」
「っ!?」

 楯ごとフェイトを吹き飛ばす。同時に確認するは、彼女の背後。桜色の光がの視界を覆い尽くした。
 吐き出される2発の薬莢。足元に広がる桜色の光。それが誰のものかなど……言うまでもない。

『Buster mode, Drive ignition.』

 ほぼゼロ距離。そんな状態での支援砲撃に意味はないと、彼女はそう判断したのだ。フェイトの身を目隠しに、自分の『決め手』を叩き込む。
 に弾き飛ばされた瞬間、アイコンタクトでそれぞれの役割を決めた。
 なんというコンビネーションだろうか。離れた距離で、

「ディバイン――」

 自分の長所を生かし、それぞれの仕事を果たせば。

『Divine buster Extension.』

 おのずと、最高の結果が見えてくる。
 自分たちの願う最高の結果が導き出される。

「――バスター……!!」

 気合のこもった声と共に放たれたその一撃は、一直線にへと向かっていく。
 光を集めた集束砲。その脅威は、今回任務で駆りだされている誰もが知っていること。


 吹っ飛べ、ひれ伏せ……しろいあくまのお通りだ!!

 ……や、それはあきらかに違うと思うよ。


 一転に集中された砲撃魔法はフェイトの脇を通り抜け、に襲い掛かろうとしている。
 そんな一条の光を軽くにらみつけ、その一瞬一瞬に思考をめぐらせ…………いや、本能的にと言っても過言ではないだろう。
 相手は一点に凝縮された必殺の一撃なのだ。そんなものを防ごうなどと、考えるわけもない。
 そっと目を閉じ、同時に力を抜く。彼の身体は万有引力の法則に則り、落下していく。それは、魔力を伴った浮力を完全にシャットダウンしたのだ。
 羽織の裾だけが落ちるに遅れ、そのど真ん中を貫いて風穴を開ける。ばささ、という布の摩擦音が耳に届いた瞬間、閉じていた目を大きく見開き、同時に空中停止。

『Burst form, Drive ignition.』

 進行方向を変え、小ぶりな槍が巨大な突撃槍へと姿を変える。柄の根元に実装された弾倉マガジンからカートリッジが装填され、重苦しい機械音と共に白煙を吐き出す。
 顕現するは三角形の魔法陣。それをくぐればそれまで、速度はその瞬間に爆発的に跳ね上がる。中間にあしらわれたダクトから噴出した魔力で推進力はさらに増し、その速度をぐんぐんと上げていく。
 目的地は無論、砲撃の後で無防備ななのはとレイジングハート。気を抜くとあっという間に飛んでいってしまいそうなアストライアを両手で握り締めた。

『Protection Powerd.』

 目を見開くのは咄嗟に突き出したなのはの手の向こうに作り出される魔力の楯。
 出来上がった瞬間に槍の切っ先が衝突、轟音を上げる。

「ちっ!」

 飛び散る火花。
 腕にかかる強い衝撃。
 突撃槍の中腹に位置するダクトからは魔力がうなりを上げて噴出し、それに比例して高まるは今のアストライアの売りである突進力。
 しかし、崩れない。桜色の守りはアストライアの進入を頑なに拒み、許さない。
 小さく舌打った、そんな時。

『Burrier Burst』
「……なっ」

 気付いたところで、もう遅い。
 甲高い音を上げて衝突していたその衝撃が、そのまますべて自分に返ってくる。

「やっべ……!」

 声を上げたところで、今のアストライアはただ直進することだけに特化した形態。躱そうにも、無理がありすぎた。
 どうしようもないと悟り、目を見開いた瞬間。

「あああっ!」

 なのはの展開する楯を境に、爆撃がを襲った。
 自分が与えていた衝撃がそのまま返ってきたのだ。その痛みは尋常ではなく、物理的な痛みこそないもののダメージは身体に残ってしまう。
 もちろんそれに耐え切れるわけもなく、その衝撃を甘んじて受けつつ背後へ退かざるを得ず、そしてその背後では。

『Assult form, cartridge set.』

 スピードローダーが回転し、カートリッジを装填、撃ち出す。
 同時に展開するのは、黄金色に輝くフォトンスフィア。それが、彼女の周りに幾数個。
 幾数とはいっても、とてもぱっと見で数えられるほどに少なくないし、かといって百や二百といった多すぎるかというとそうでもない。
 それは、稲妻を撃ち出す発射台。
 カートリッジシステムを乗せることで進化した直射型の射撃魔法。

「プラズマランサー……」

 その黒い魔導杖の先で背中を向けたままのを指し、告げる。
 魔法の発動キーとなる、その言葉を。

「ファイアッ!!」

 殺到するのは雷を帯びた槍だった。
 柄のない、矢の鏃だけが大きくなったかのような、そんな槍。少しでも早くと、我先にとばかりに襲い掛かる。
 無防備な背中に、切っ先が向かう。
 その速度は、まさに高速。躱す間もなく、彼のまだ小さな背中に突き刺さる。
 しかしそれは、

『Steig-eisen.』

 アストライアのAIが主の危険を察知し、誰もが使うことのない楯の魔法を発動した。
 ミッドチルダの魔導師が好んで用いるラウンドシールドでなく、アストライア……ひいてはクサナギ特有と言っても過言ではない、何者をも通さぬ『鉄』という意味を持つシールドの魔法。目標が……直射型の魔法から身を守るには有効過ぎる防御手段とも言えるだろう。
 槍の雨からを守ったのは、緑に光る壁。
 その壁にめり込むように突き刺さるプラズマランサーという名の雷を纏った『槍』。

 魔力が霧散し消えていく様を背後に、は身体を反転させる。
 正面に自身を守った『楯』、さらにその奥に見えるフェイト。
 そんな彼女に向けて、具現していた楯を。

「……ぬぅあっ!」

 身体を捻り、足を振りかざして。

「らああっ!!」

 一思いに、蹴り飛ばした。
 同時にフェイトが感じたのは軽い圧迫感だった。緑に光る薄くとも頑丈な板が自分に向かってきているのだから。
 しかし彼女はひるむことなく、バルディッシュを振り構えた。

『Haken form, set.』

 瞬きの間に再び展開される魔力刃。

「はああっ!!」

 気合一閃。鎌を象った刃を一振り。自身に襲い掛かる緑の楯を真っ二つに斬り裂き、分かたれ消えるその楯を通り抜け、宙を駆る。
 障害物など……自分の道を妨げるものなど、存在しない。
 ただまっすぐ、ひたすら真っ直ぐ。己の相棒振りかざし、黒い閃光は走り抜ける。


 10メートル。


 7メートル。


 4メートル。


「バルディッシュ!!」
『Haken Slash』


 あと1メートル。

 細い腰を捻り、大鎌を振りかざす。1秒に満たないその瞬きのような時間が、ゆっくりと……まるで時間の流れが緩やかになっているかのように、フェイトの動きもの挙動もスローモーション。アストライアから1発の弾丸が吐き出され、の身長以上の長さを誇っていたアストライアはたちまちの間にその姿を変え、1メートルほどの小ぶりな片手剣となって、その手に収まっていた。
 甲高い音を上げてぶつかり合う刃と刃。鎌の先がの顔の真ん前で静止する。
 必死な表情のフェイトと、冷や汗だらだらでありながら笑ってみせる。素直なフェイトと外面だけ余裕ぶっこきまくりの
 どちらにしても、必死なことは間違いではない。

 もちろんそれは、なのはも同じ。

「アクセルシューター……」

 吐き出されるカートリッジ2つ。ダクトから吹き出る白煙。そして、みなぎる魔力。
 そのすべてを用いて、1つの魔法を成す。
 誘導型射撃魔法。彼女がもっとも強く信頼している魔法の1つで、その追尾性能は他の追随を許さぬほど。そんなやっかいな魔力球なんと8個。
 操作は術者であるなのは次第だが、努力家な彼女だ。集中力を途切れさせてしまうことはないだろう。

「シュート!!」

 魔力球が走る。フェイトが離れた瞬間には、すでに目の前まで迫ってきていた。
 慌てて反転。逃げるようにその場を離れ、なんとか捲こうと滑空してみる…………

 あ、ダメだ。

 とまぁ、あっという間に逃げることを諦め、手に提げた片手剣を振るった。
 その瞬間に具現する、数個の魔力球。

「いけ!」
『Alleseindringen』

 それらに攻撃を命じ、緑の球体はまるで尻尾のような光を残しながら桜色のディバインスフィアに向かっていく。
 明らかな衝突コース。2色の球体はまるで吸い寄せられるかのようにふれあい、同時に爆音を引き起こした。
 爆音は全部で4つ。煙が3人の周囲を包み込み、視界をふさいでしまう。
 それは、目で見て考えることを行動の基点とする人間にとって、それは致命的なことだった。視覚が使えなければ、それだけ別の感覚に頼ることになる。
 だから実戦を経験して日の浅いなのはやフェイトは、の気配をたどる。点々と続く彼の魔力を1つ1つ。

「「見えた!!」」

 互いの距離が離れているにもかかわらず重なる言葉。
 バスターフォーム、アサルトフォームに切り替わったレイジングハートとバルディッシュの先をとある方向へと向けた。
 そして、足元に浮かび上がる円形の魔法陣。
 さらにカートリッジを数発ロード。これも同時にダクトから白煙が吐き出され、レイジングハートにいたっては空の薬莢が吐き出されて飛んでいく。
 周囲の魔力をかき集め、自身の魔力を上乗せて、突きつけたその先に集束していく。

「ディバイン……」
「プラズマ……」

 煙が晴れていく。薄まっていく煙の先に、緑の光を見る。
 大槍を手に、その切っ先を頭上へ向けていた。
 何をするのだろう? なんて疑問が2人をよぎる。それでも、やることになど何ら変わりはない。
 自分の力を、全部解放してぶつけるだけ。
 そして。

「エンドレス・スレイヤー――!!」
「バスター!!」
「スマッシャー!」

 3つの光線が放たれた。
 桜色と、黄金と、若草の緑。前者2つは緑の発射点へ、残り1つは中天に向けて直進。変化を見せたのは、緑だった。
 地面から飛び出す噴水のように先端が広がり、四方八方に散っていく。それは無数の雨となって2人に降り注ごうとしていたのだが。

「や、やっぱりダメだったかーっ!?」

 轟音を上げて、は桜色と黄金の餌食となっていた。
 そして、降り注いだ緑の雨は無数に散らばり、なのはもフェイトも躱す術を見つける時間もなくて。

「ひゃ……」
「うぁっ」

 雨を無防備に、そして一身に浴びたのだった。


 ●


「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ、うはぁぁ……しんど」

 ジャケットぼろぼろ。身体はがたがた。
 先の戦闘の疲れもほとんど癒えていないままの2人との戦闘だったのだ。しかもかなり全力で。
 Aランクの自分が、未だ幼いとはいえAAAを超える魔導師2人を相手にしてここまで保ったのだから、それはそれでもう十分だと思う。
 右を見やれば、なのはが。左を見れば、フェイトが。そのどちらも煙に包まれてはっきりとは見て取れないが、2人ともに肩を落として大きく呼吸しているように見えた。酸素のなくなった肺が、その酸素だけを求めるように。
 ……しかし。

「……2人とも、十分使えてるじゃん」

 先の戦闘。たった1度の経験だけで、彼女たちはそのシステムをほぼ完全に使いこなしていたのだろう。……いや。彼女たちの才能と、その相棒たちが優秀すぎるのか。とにかく、今の状態ならレクチャーという名の実戦訓練など、いらないだろう。
 だったらば、むしろやるだけ無駄かな。
 そんなことを考えつつ、晴れた煙の先の2人を見やると。

『マスター、身体の調子はどうですか?』
「うん、大丈夫だよ! ……けっこう疲れたけどね」

『サー、気分は?』
「悪くないけど……熱、入っちゃったかな」

 心躍る、戦いそのものに。
 訓練だとわかっているからこその高揚感。
 ……いや、違う。これは、あの時と同じなのだ。シグナムとデバイスを合わせたときと。あの時感じた、胸が昂ぶる感じと。

『マスター、まだ……いけますよね?』

 アストライアの声が耳に入ってくる。
 抑揚こそないものの、まるで主であるを挑発しているかのように言葉を紡ぐ彼女は、やはりクサナギの後継機なのだろう。子は親に似るとは、よくもまぁ言ったものだ。
 クサナギは口数こそ少なかったものの、常にに対してそっけない態度を取っていた。そっけない、というよりはどこか挑発じみた口調だった。そんなロボットのような電子音声が、窮地のをいつも奮い立たせてきた。
 だからこそ、今も。

「ハハッ……!」

 やはり今回も、奮い立つ。

 これはただの訓練。
 しかし、真っ直ぐ正面を見つめる瞳は真剣そのもの。面倒くさがりの彼が、いつも受け身ばかりの彼が感じている充実感。

「当たり前だろ、そんなのさ」

 ……楽しい。
 やはり、自分は根っからの戦闘者なのだろうか。それとも、相手が彼女たちだからこそ、今の自分がいるのかもしれない。
 彼女たちの持つ無限の輝きが、自分に伝染しているのかもしれない。

近接ネイバーフルドライブ、行くよ」
『了解。エクスフォームへ移行シフトオーバーします』

 新たなマガジンを装填し、同時にカートリッジが飛び出す。
 手に持った大槍がその体積を減らして形作るは、刀身のない柄のみの

『Exth form, drive ignition.』

 そんな声と共に、緑に光る剣が具現する。
 斬るも掴むもぶっ叩くもふっ飛ばすもどつくも自由自在。想像力のすべてを費やす、思うがままに振るえる力。
 ひゅ、と空気を斬り裂いて振るった刀身はの意思に反応し小さく揺らめいた。
 構えを取るは本能が命ずるままに。
 静かに、音もなく。剣を持ったその腕を上げ、刀身が背中に向かうようにその峰を肩口に引っ掛ける。同時に飛び出したカートリッジが細い煙を上げながら落下していく。
 刀身が爆ぜる。乾いた音が鳴り響き、緑の輝きがより一層強まり、相棒を構えたなのはとフェイトの視界を妨げる。
 相手は2人なのだ。ならばこちらがフルドライブを使ったところで、何も言われやしないだろう……と、勝手に決め付けてしまおう。

「斬空――」

 刀身を渦巻く風。
 柄を両手で持ち、力を込めて握るとそれに呼応するかのように中央の宝石が光を帯びた。



「なに、あれ……」

 の背後で光る剣。魔力の昂ぶりが果てしなく強い…………いや、むしろ強すぎた。

 あれが彼の本気なのかな……?

 なのはの頭で押し問答してみるが、その疑問はあっという間に吹き飛んでしまう。なにせ先の戦闘でいままでにないほどの砲撃を放ったのだから。魔導師ランクSを越える砲撃。クロノ曰く、「Sを越える魔力を持つ魔導師はそれほど多くない」らしい。
 魔力の瞬間最大出力や魔力をエネルギーに変える変換効率が高い、というだけのこと。用は魔力の貯蔵量こそ普通なのだが、魔力の扱い……魔力資質が高いともいえるだろう。そして今、その資質が全力全開で開花していると言ってもいいだろう。
 あの剣がなんであれ、とにかくそれが自分たちに牙を向くことは間違いないのだ。

「今は、とにかく自分に出来ることするだけ! ……レイジングハート!!」
『Yes. …… Accel mode, stand by ready』

 構えたレイジングハートの先に集束する、桜色の魔力。その様がまるで流星のようであることから名づけられた、彼女の持ち得る最大の集束砲。
 距離も、周囲を漂う魔力も、その量は申し分ない。あとはこの封時結界内が保つかどうか。それが問題だ。
 ともかく。

『nine, eight, seven……』

 これが、最後の一撃だ。
 2発のカートリッジが飛び出す。小さな薬莢の中に封じられていた魔力が、さらに生成された球体を肥大させる。
 星なんかぶち抜く威力だと豪語したこの砲撃も、今なら……

『five, four……』

 宇宙だってぶち抜けそうだ。



 が自分に向いていることを悟り、フェイトは手のひらを突き出した。
 足元に展開する円形の魔法陣は内側の円を中心にゆっくりと回転している。さらに、彼女の腕を覆うように浮かぶ環状魔法陣。
 なのははまだ動いている。今はもはや、カートリッジの使い方に慣れるための、なんてお題目は必要ない。

 今この場にあるのは、純粋すぎる技と魔法のぶつかり合いだ。

「私だってまだいける……バルディッシュ!」
『Load cartridge……Thunder Blade』

 彼女を中心に浮かび上がる無数の剣。
 雷を帯び、剣を模した魔力。『雷の剣』の名前どおりの姿をしたその切っ先は、ただ一振りの剣を持ったに向かっている。
 発射からトップスピードを叩き出す無数の剣。
 しかし、はその進行を許さない。

「どっせーっ!!」

 背後から一思いに振り下ろす。同時にその刀身がぐにゃりと歪み、伸び、渦巻きとぐろを模り、それが回転し楯となる。
 飛来した剣群はその楯に阻まれ、その合間を縫って抜けてきた剣はとにかく動く剣先がセンサーになっているかのように追尾し、貫き、破壊する。

『three, two, one……』
「スターライトぉ……」

 レイジングハートを振りかざし、なのはの眼前に浮かぶ二重の環状魔法陣。
 魔力球は完成し、もはや後は撃ち出すだけ。
 そんな挙動に合わせるかのように、振り下ろしていたアストライアを腰元へと移動させた。
 刀身は驚きで目を見開くフェイトを尻目にの元へと返り、彼の制御を外れて暴れだす。

「げ……っ、マジかよこんなときに!?」

 ぐるぐると彼の周囲を回り回って、終いには先が割れての身体をつつきまくる。
 なんとも悪質……というか子供じみた嫌がらせだ。さすがの魔力というか、なんというか。彼の性格をまんま投影したかのように、自分自身をいぢめるいぢめる。まだまだ、完全に制御するのは無理らしい。
 ……まったく、あののありすぎる砲撃が、目の前だっていうのに。

『zero』
「ブレイカー……!!」

 そして放たれた砲撃。作られるはまるで流星のごとく、放たれるはあたかも彗星のように。
 白い世界を侵食する、桜色の魔力。曲がることなく逸れることなく全力全壊で放たれた光線は、とアストライアの放つ緑すらも侵食していく。
 その光を目の前に、アストライアはさらにカートリッジをロードする。
 噴出した魔力が暴れていた『自分』を強制的に押さえつけ、制御下に置く。
 あとは。

「――一閃……!」

 渾身の篭ったこの一撃を、繰り出すだけだ。



 ●



『はいはいお疲れ〜。すごかったよ3人とも?』

 エイミィの声が響き渡った。
 15分に5分のインターバルで20分。それが6セットでぴったり2時間。先生役だったは見事にそのカリキュラムを時間通りこなしていた。
 もっとも、時間を計測していたのは彼でなく管制を務めていたエイミィだったのだが。

。お前、かなり本気だったろ?』
「当たり前だよ。ただでさえきついのに、この2人を相手にしたんだからね……早く休みたいよ」

 風呂に入るのも億劫だよまったく。

 小さく愚痴る彼を苦笑しつつ眺めていたフェイトとなのはだったが、彼女たち3人ともにボロボロだった。
 特にはなのはとフェイトの2人を相手にしていたから、無理もなかったりするわけだけど。それでも負け率と引き分け率がほとんど同じだったのはかなりの勢いで奇跡といえるだろう。

「……アンタも頑張るねえ」
「うっさいよ」

 今回は傍観を決め込んでいたアルフ。
 彼女はデバイスを使わないからこそ、今回はフェイトと共に戦う必要がなかった上に、相手は別に敵じゃないから、と理由をつけて、とにかく部屋でくつろいでいたのだ。
 もし彼女に参加されでもしたらもはや、レクチャーという名前の戦闘にすらならないだろうから、アルフ不参加はにとってはまさに不幸中の幸いといったところだった。

「ま、いいじゃないか。今回はいろんな不幸が重なったってことにしときゃあさ」
「いやいやいや、良くないよ非常に良くないよ」
「まぁまぁまぁ。フェイトもなのはも満足そうなんだし」

 確かに、彼女たちはアルフの言うとおり疲れた表情をしているものの、どこか満足そう。
 しかしどうにも、からすれば納得いかないところがあったりする。

 あれだけカートリッジ使いまくって、正直レクチャーの意味あったのだろうかと。
 そんなことを思う今日この頃であります。
 そんな時。




 声がかけられたことに気付いたのは、向かいにいたアルフだった。
 ふさふさの尻尾を左右に振り、嬉しそうな表情を見せる彼女を見るに、かけてきた声の主は明白。彼女の生みの親にして、パートナー。

「あ、フェイト〜♪」


 フェイト・テスタロッサその人だった。




はい、原作設定ぶち壊しストーリーの始まりです。
2,3話はこのまま行こうかなと思います。
というわけで、原作のストーリーはしばらくお休みです。


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