「というわけで、この携帯電話なる通信装置が欲しいのです」 帰宅早々。はリンディに頼み込んでいた。 機能から料金プラン、操作性からデザインまでを店員からここぞとばかりに聞きだして、カタログを両手に。 欲しいものは携帯電話。メーカーも複数社あり、機種も多種多様だとわかったのはここぞとばかりに根底から聞きまくった成果だった。年齢的にはまだまだ子供なの勢いに、その質問の矛先となった店員さんが涙目になって答えてくれたのは実に印象深かった。 「念話だけだとさすがに限界ありますし。バッテリーさえ続いてればいくらでもつながりますし」 「そうねぇ……」 「俺には戦うことしか出来ません。ここにいても無駄だから、外回りするんで」 もっともらしい理由をまくし立て、ただ連絡だけが出来れば良いからと一番安い料金プランで一昔前の機種を選択。 即日使用も可能なことも確認済み。 「……わかりました。購入を了承します」 期間的には、1ヶ月も使わない。必要経費だということなら費用の問題はまったくないわけで。 リンディはなんの疑いもなく、の提案を了承してしまっていた。もちろんそれは彼を信頼しているからであって、には彼女の信頼に応える義務がある。 それが、どんな形であろうとも。 「ありがとうございますっ」 はリンディに頭を下げながら、内心でガッツポーズを決めていた。 …… というわけで、携帯電話を購入したのはそれから2日後。 「君、いらっしゃい!」 いつかぶりやね。 手に入れた携帯電話を手に、八神家を訪れていた。 もちろん、それに驚いたのはヴォルケンリッターの4人。シグナムとザフィーラは不在だったものの、ヴィータの歓迎っぷりには微笑ましいものがあった。 「うおおおい! お前、いつ来た!?」 「いや、今だけど」 「何で来た!?」 「遊びに来ただけだけど?」 「帰れ! お前帰れ!! そんでもー来んな!!」 「こらヴィータ。あかんよ、君、せっかく遊びに来てくれたんやから」 「うぅ……でもはやて、コイツは」 「あ・か・ん・よ?」 「うぐぐ……ごめんなさい」 「うはははははははは!!!」 「な、なんだよ。なんで笑うんだよ!?」 「いやいや、気の強いヴィータもはやての前じゃ形無しだと思って」 「う、うっせーよ!」 があー、と食ってかかるヴィータに、それをあっさり受け流してみせる。彼らの掛け合いは、どこか普通の友人という枠を超えているかのように見えるだろう。 少なくともはやてにはそう見えたらしく、ヴィータを諌めた後はその光景を嬉しそうに眺めていた。 あのヴィータが、と驚きを見せるシャマルを眺めては苦笑。 念話で連絡先を伝えに来たことを伝えると、さらに目を見開かれてしまっていた。 ……そこまで信じられなかっただろうか? 「そういえば、君はヴィータと知り合いやったんやね」 「し、知らねーよこんなヤツ!」 「ははは嘘はいかんなあヴィータ君」 「おおお君付けすんなあっ!!」 ニヤけ顔のにずずいと詰め寄りガンを飛ばすが、当の本人はそんなのお構いなし。相手が自分より子供だからと高をくくっているのだろうが…… 「ヴィータと君は仲ええなぁ……ええなぁ、わたしも混ぜてや」 「おうおう、いいぞいいぞ。2人でヴィータをからかうんだ」 「ヤメロコノヤロー!!」 ……、お前も一応子供なんだよ? 魔法少女リリカルなのはRe:A's #24 「いや、うまかった。ごちそうさま」 「おそまつさま。いい食べっぷりやったな。シグナムとええ勝負やで」 「わ、私はそんなに食べているのでしょうか……?」 夜。は成り行きか八神家で晩御飯に招待されていた。 はやて曰く『大勢で食べた方がご飯もおいしい』とのこと。ヴォルケンリッターの4人がいる時点でも十分多いのに、がいることが彼女にとってそれほどいいことだったのだろうか。 真意は、彼女にしかわからない。 さて、本日の献立を説明しよう。 まず全国の奥さん顔負けの肉じゃが。汁がジャガイモによく染み込んで、うまかった。 次に大皿にこんもりと盛り付けられた野菜炒め。胡椒が効いてて、うまかった。 そして、ご飯と味噌汁。…………うまかった。 「うまかっただけじゃねーか!」 「そこに突っ込んでも意味ないで」 「ヴィータちゃん、まだおかわりあるから。そんなにイライラしちゃだめよ?」 理不尽なヴィータのつっこみにさらにつっこんだのははやてだった。 「いつもこんなににぎやかなの?」 となりで山盛りのご飯と箸をぼーっと眺めていたシグナムにたずねてみる。 シグナムはその声で我に返ると、 「……ああ、いや。いつもはもう少し静かだな。今日はヴィータがいつもより興奮しているようだ」 お前が、いるからかもしれないな。 そんな一言を口にすると、シグナムはいそいそと山盛りのご飯をかきこむ。 きょとんとした表情のを尻目にあっという間に平らげると、 「シャマル、おかわりを頼む」 「ま、まだ食べるの……?」 驚いた、と言わんばかりの表情でお椀を受け取り、炊飯器の蓋を開いたのだった。 ………… …… … 「いや〜、今日は長居して悪かったね」 「別にええよ。わたしも楽しかったし」 みんなも楽しかったやろ? はやてはそんな問いを4人へとぶつける。彼女はきっと、心から楽しんだのだろう。見せている笑顔がそれを物語っているようだった。 遊びに来る目的ではなかったものの、闇の書の主であるはやてに感づかれることのないように振舞う必要があったのだ。 彼女の家族たちが内緒で蒐集行為を行っているものを、部外者であるがぶっちゃけてしまうわけにはいかない。だから、遅い時間まで楽しい時間を過ごさせてもらったということだ。 「さてと。そろそろ帰るかな。ここ寒いし。風邪引いたらマズいしね」 「そやね。……泊まっていってもええんやけど」 「や、さすがにそれはどうかと思う」 残念やな、とはやては苦笑する。 季節は冬。今にも雪が降ってきそうな中、八神家総出でを送ってくれている。 身体に障害を持っているはやてには少なからずきついだろうから、あまり無理をさせたくない、というのは彼女以外全員の総意でもあった。 もちろんも寒いから、早いトコ帰らねばならない。っていうか、帰らないとクロノやエイミィに何を言われるかわかったモンじゃない。 「あ、はやて。これ俺の連絡先。また暇なときにでも連絡とって、遊ぼうよ」 「わざわざありがとう。わたしもまた連絡するわ」 そんな会話をしながら、はちらりとシグナムを見る。 ある意味一種のアイコンタクトだった。今回が八神家を訪れた理由を少なからず察することが出来るからこそ成立する行為だった。 …… の背中が夜の闇に消えた。 それまで彼を送っていたはやては、シャマルに促されて家の中へ戻っていった。 玄関前に残っていたのはシグナムとヴィータ、そしてザフィーラの3人。 吐き出す息は冬らしく白い。刺すような寒さに背筋を震わせながら、の消えた闇の先を眺めていた。 「結局、アイツなにしに来たんだよ……?」 ホントに遊びに来ただけなのか、などと勘繰るヴィータだったが、それに対してシグナムは首を振った。 彼女だけがいち早く気づくことの出来た、彼が今日訪れた理由。 「今日は、遊びに来たつもりはなかっただろうな」 「はぁ?」 首を傾げるヴィータをよそに、 「……連絡先のことだろう?」 終始無言だったザフィーラが核心を突いていた。 確かに、今日は楽しかった。いつもより食卓はにぎやかだったし、ヴィータは特に暴言ぶちまけまくったおかげで、という背景があったりなかったり。 唯一、狼という形態を取れる彼だからこそ、の真意を探る事が出来たのだ。 彼が聡いのは、いつものこと。先日の戦闘が終わった後の一幕という前例もあった。 「私も今しがたまでその真意がわからずにいた。理解したのは、奴が主に連絡先を伝えたときだ……シグナム、お前に目配せをしていただろう?」 「ああ。私もそこであの男の真意がわかったからな……まぁ、それはついでで本当に遊びに来た可能性の方が強いような気はするがな」 シグナムはの性格を理解しつつあった。 さて。 遅いお帰りでみんなを心配させたは。 「……せっかく買った携帯電話の電源も入れず、念話も届かない場所で、君はいったいなにをしていたのかな」 「あまり遅いから、心配したのよ?」 「も、もしかして……っ。君ついに……!!」 「な、なに言ってるのエイミィ?」 「べ、別にたいしたことしてないって……っていうかエイミィ、勘繰りすぎ。俺まだ12だよ」 詰め寄られるだが、彼は彼で子供らしからぬ余裕すら見て取れる。 大の大人を相手に、小さな体一つで渡り合ってきたからだろうか。言動だけでも、もはや彼が子供だとは思えない。 フェイトやなのはもまだ10歳にも満たない年なのに、考え方が大人びているのと同じ。 「俺なりに、俺の『仕事』をしていただけだよ……なんて」 「もしかして、公園で寝てたとか……?」 「お。フェイトちゃん、だんだん君の行動原理がわかってきたね〜」 失礼な。 そりゃ、楽したいからパトロールのフリして惰眠をむさぼるのは好きだけど、さすがにこんな時間まで寝てないと思う。 「あの、あのね。前にがこの街に来たときに、公園のベンチで寝てたよって、なのはが……」 「……堂々とサボりか」 「な、なに言ってんのさ!? あれは……あれで、任務の一環だったんだよ! 敵をおびき寄せようと思って……」 なんて、言い訳してみるものの、結局は事実なわけで。 そのあとにシグナムと死に物狂いで戦ったこともまた、事実なわけで。最終的には他の局員たち同様、リンカーコアを奪われたのもまたしかり。 「あのねぇ。仕事中にさすがに居眠りは不味いと思うよあたしは」 「だから、それも作戦の一つなんだって。実際、シグナムと戦ったし」 「!?」 フェイトはその一言に目を丸めた。 このところの事件で彼女と対峙することが多い彼女だからこそ、がシグナムと戦っていたことに驚きをみせたのだ。 ちなみに結果は、の負け。外からの干渉で気づけなかったというのも大きな理由だが、それが負けた理由にはならないだろう。 もともとはアストライアの試運転だった。それなのに死ぬような目にあったは仕事を回してきたレティに「特別手当よこせ」と言い寄ったのだ。 ……結局、収入として入ってきたのは手当てどころか小遣い程度のものだったらしいが。 「あ、あの」 「ま、何を言われようが別にどうでもいいよ」 面倒くさげに頭をがしがしとかき乱したはいかにも面倒くさそうにだらだらと人の壁を掻き分け、だらだらと冷蔵庫を開けて水をラッパ飲み、だらだらと掻き分けた道を再び素通り。 戦ってはいないが、それなりに疲れているのだ。道に迷わなかったのはまさにアストライア様々だが、昼間からずっと待ちの中を歩きっぱなしだったというのがむしろ彼にとっては大きいものだった。 だから、疲れたときは早く寝るに限る。 「今は事件解決が最優先なんだから…………じゃあ、おやすみふぁ〜」 最後にそんな言葉を口にして、あくび混じりに自身の寝室へと姿を消したのだった。 |
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