学校が終わり、アリサ、すずかと共にやってきたのは高町家だった。
 なのはの姉である美由希を交えて談笑し、翠屋を経営している母桃子特製のシュークリームをご馳走になったり。
 そのシュークリームこそが絶品。美由希曰く、

「ウチのお店の看板商品なんだよ?」

 とのこと。
 正直、お金を払っても良いくらいだと、フェイトは素直に感じていた。

 そして、日が傾く。
 空が赤く染まりつつあるアリサとすずかは帰っていった。
 彼女たちはいわゆるお嬢様。黒塗りのリムジンでのご帰宅である。もっとも、それも習い事とか色々な事情があるからだったりするのだが。
 残ったなのはとフェイトは、ジュースの注がれたコップを片手になのはの部屋へ。
 自然と話は、先日交戦したばかりの闇の書の守護騎士たちのことについてになっていた。

 突然襲い掛かられて、接近戦でこそ力を発揮するベルカ式デバイスだからこそ力押しであっさりと障壁を貫かれ、なのはは倒されてしまった。
 どう思う? というフェイトの問いに対しては、満足に答えることが出来ないでいた。

 フェイトちゃんは、あの剣士の人と何か話をしてたよね?

 なのはが返したそんな問いに、

「うん。少し不思議な感じだった。うまくいえないけど……悪意みたいなものを感じなかったんだ」

 実際、こちらからの問いかけにはまったく応じてくれなかった。
 彼女たちも必死で、強い石で意思を固めていたから。周りの言葉など、いちいち耳に入れていられなかったのだ。

 それは、以前のフェイトも同じだった。
 母の言うとおり、母のために。母だけを信じていたあのとき。フェイトにとっては彼女の言葉が絶対の真実で、行動理念だった。
 だから、なのはの言葉に耳を傾けることが出来るようになるまで、長い時間がかかった。
 戦って、傷ついて。疑って、裏切られて。それでもなお、母のために自分のすべてをかけてきた。

「言葉をかけることは……思いを伝えることは、絶対絶対、無駄じゃないよ」

 揺れた。
 あのときの自分は、敵対していたなのはの言葉に。まるで乱暴に扱われ乱れた振り子のように。

 この子の言っていることは間違ってない。でも、私は。

「言葉を伝えるために戦って勝つことが必要なら……それなら、迷わずに戦える気がするんだ」
「フェイトちゃん……」
「なのはが、教えてくれたんだよ?」

 そんな心を。強い心を。
 だから、強くなる。自分の思いを伝えるために。貫くために。
 それこそが今の自分にとって、やらねばならないことなのだから。

 一緒にがんばろう。

 そんななのはの言葉が、フェイトの胸に新たな決意を宿らせていた。



   
魔法少女リリカルなのはRe:A's   #23



 場所は変わって、夕暮れの公園。

 に自分たちの事情を話した4人は、これから蒐集をしにいくという。
 しかしは管理局の人間で、今だってそれほど長く時間を取れていないのだ。
 なにせ、今夜は彼女たちを止めるための会議がある。自分たちの目的が、目の前にいる4人の捕獲なのだから。

「一応、伝えておくかな。前に交戦した女の子たち……今デバイス修理に出してるんだ。だから……あと一週間は出てこれないよ」
「……それ、ホントなんだろーな?」
「あのさヴィータ。そんな頭ごなしに疑ってかかることはないんじゃないの?」

 協力すると。万一バレたら責任をとってくれ、とも伝えた。それでも、彼女は自分の言葉に疑いをかけてくる。
 どうすれば、信じてもらえるのだろう。
 ……なんて考えてみたものの、にとっては些細なことだった。
 協力するのだって、別に彼女たちのためじゃない。局の人間として話を聞いたうえで、自分の思いを優先させた。ただそれだけだったから。
 だからこそ、ヴィータの言葉に否定するでもなく、苦笑しつつ背を向けた。

「俺、帰るよ。連絡先は……あー、本部じゃダメだよな」

 考えをめぐらせる。
 結局出た答えは、

 一週間以内になんとかする。

 というものだった。
 言葉どおり連絡先を本部にしてしまっては本末転倒だし、念話ではさすがに限度がある。
 だったら、個人にさえ連絡がつながればいいのだ。面倒で調べもしなかったから、そんな通信手段をは知らない。
 だから、この一週間でなんとかしようと考えたわけだ。

「なんとかなったら、一度八神家にお邪魔するから。そのときはよろしく♪」
「なっ」

 ヴィータが目を丸める。
 自分の言葉が苦笑と共にあっさり流された上に、次ははやての家にまで来ると目の前の男が言ったのだ。
 信用できない相手を家に上げたくないし、はやてに迷惑をかけたくない。……というか、行けば行ったで絶対に迷惑だ。

「なんだ、俺が行くの迷惑か?」
「迷惑だ! すっげー迷惑だっつーの!!!」
「……まぁいーや。そっちが迷惑だろーが別にどういでもいいし?」
「どーでもよくないっ! よくねーのですよ!?」

 つっかかってくるヴィータをさらりと流しながら、それじゃと手を振ると。

「あ、俺のことはでいいからね」

 憤慨するヴィータをそのままに、それはもうあっさりと去っていった。
 完成しきっていない小さな身体が、車道の奥へと消えていく。暗くなりつつある空の下で。

「……不思議な子ね」
「シャマル?」

 シグナムに向けて、シャマルはそんな言葉を放っていた。
 彼女はがこの公園に来てからずっと、彼の動向をうかがっていた。持ち物から背格好、魔力量に交戦意思。前者2つはまんま子供だった……シルバーのネックレスが、背伸びしたがる少年ぽさを醸しだしていた。後者2つにいたっては皆無。彼の武器であるアストライアは自己紹介の時に淡く明滅した後、まったく反応を見せなかった。会話を聞く彼の態度も至って普通だし、むしろ真剣さが伝わってくるほど。帰るときはあっさり帰っちゃうし。
 しかも、白い服の子……なのはとテスタロッサ……フェイトの動向すら教えてくれた。

 結局、彼は自分たちと敵対する要素がまったくなかった。

「最初は管理局の人間だからって、言葉半分に聞いていたけど……信じてもよさそう」
「そうか……そうだな」
「! おいシグナムにシャマル! お前らまさかアイツのこと信じんのかよ!?」

 たまたま聞こえたのか、怒りの表情を露にヴィータが2人に詰め寄る。
 先ほどからまったく言葉を発さないザフィーラは、その双眸を少年の出て行った公園の出口を見続けていた。
 彼なりに考えがあるのだろうが、人型でないためか表情を読み取ることは出来ないまま。

「……そうだな。私も別段、あの男を心から信頼しているわけではない。しかし、奴の言動に偽りはないだろうな。少なくとも私はそう思うし、シャマルもそう言っている」
「もちろん、私も心の底から信じてるわけじゃないのよ? 今日、私たちの話を聞いて、純粋にそう感じただけだから」
「なるほどな。2人が信じるならば、私も少しは信じてやることとしよう」
「ザフィーラまで……っ!」

 ザフィーラのつぶやきに形勢不利と感じたのか、ヴィータは荒げた言動を鎮めていた。
 茜色に染まっていた空は、ゆっくりとその色を濃く染めていく。

「……もっとも、私にとっては不本意この上ないのだがな」

 しかしザフィーラはまだ、が何を考えているのかを図りかねていた。
 真意は彼にしかわからない。それに、飄々としたあの態度も大いに気になる。そしてなにより、管理局の人間がなぜ敵である自分たちに手を貸すのか。は「全部自分のためなんだ」といっていたが、同じ男として不明瞭になっていた。

 自分のため、なんて理由は、理由であってそれが本当の理由になどならないのだ。


 ●


 帰り道。
 商店街を闊歩していたは、1つのショーウインドウへと目を留めた。同時に止まる足。
 目下一週間の目標は、彼女たちとの連絡手段を作ることだった。管理局サイドは今、捜査用のネットワークを布いている最中だという話だが、にはさっぱりわからない。しかしそれが、通信や策敵の手段となることは間違いないということくらいわかる。
 しかし、それではダメなのだ。ネットワークを用いての連絡は正直どうなるかわからないし、先ほども述べたとおり念話にも限界がある。

「…………」

 でも、これなら。
 視線がショーウインドウに……その中身に釘付けになる。それは昨今、飛躍的な発展を遂げている電子機器。この世界における科学によって生まれた通信手段。
 手のひらに収まるほどのそれは。



「こ、これだーッ!!」



 一週間という猶予はまさに、適度すぎる時間。
 帰ったら早速、リンディ提督に頼んでみようとは思う。理由は……そう。

 緊急時の連絡手段に便利だと思いませんか?

 よし、これでいこう。完璧だ。抜かりもない。


「ふふ……ふふふふふ……」


 思わず、ほくそ笑んでしまった。

 それは、科学的手段を用いリアルタイムで声を届ける通信機器。どれだけ距離が離れていようが、通じる場所ならどこからでも会話の可能な、この世界の人々の必須アイテム。現代における三種の神器のの1つとも並び称されるほどに爆発的に普及した精密機械。

 幸先が良すぎるぞこのやろう。

 携帯電話。
 これさえあれば、連絡手段には最適だった。




はい、あんまり必要なさげな一幕終了です。
個人的にはあった方がいいかなー、なんて判断で執筆した回でした。
あとは、夢主を4人に信用させるためのちょっとした一面を書いてみた、というところでしょうか。


←Back   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送