4対1。状況は明らかに不利といえた。
 赤い髪の女性――片刃のアームドデバイスを携えたシグナムという名の女性と、鉄槌のアームドデバイスを肩に乗せた橙色の髪の少女。緑の騎士甲冑に身を包んだ温和そうな女性に、青い体毛を持つ狼。
 その誰もが強大な魔力を保有し、そのすべてが自分に敵意を向けている。
 普段の彼なら、動き始めればあっという間に負けてしまうだろう。しかし。

『ふふふ、さぁマスター。あのような連中、蹴散らしてやりましょう』
「…………ほどほどにね」

 水を得た魚というかなんというか。
 自身の相棒たるデバイスの発言に一抹の不安を覚えつつも、光り輝く刀身に安心感すら覚えた。
 こちらも久々の本気モード。今まで面倒くさがって見られなかった彼の強さの片鱗を垣間見ることになる。
 管理局付の魔導師になってから彼が本気になったのはいったい何度だったろう。なのはやフェイト、クロノにさえ見せたことのない本気モード。

「使い方……よし、アストライア。サポートよろしくな」
『言われるまでもありません。あなたはあなたの

 デュアルデバイス・アストライアの近接フルドライブモードであるエクスフォーム。片手剣の形状をしたそれは、アストライアの言うとおり術者の思うがままに刃の形状が変化する。
 だからこその扱いづらさ、だからこその自由度の高さ。極めればこれほど強力なものはないのだ。
 剣らしく魔力斬撃から打撃、連結剣。果てにはバインドまで。イメージさえできれば多人数を相手にしたところで、対等以上の戦いを可能にできる。

『貴方なら必ず、私を使いこなすことができます。さぁ……』

 山吹色の宝玉がグリーンに点滅する。染まったグリーンはアストライアのマスターの魔力光。
 すなわち、の光だ。

『推して参りましょう……!』



   
魔法少女リリカルなのはRe:A's   #20



 シグナムが疾る。レヴァンティンという名の剣を構え、一直線に疾駆する。
 橙色の髪の少女も鉄槌を構え、4つの鉄球を浮かべた。
 4人はエクスフォームの特性を知らない。だからこそ、ぶつかり合う中で見極めようということになる。
 だったらこっちは、見極められないうちに仕留めるだけ。

「……っ」

 上段に構える。相手を斬り裂くイメージのもと、強まる魔力刃。

「おおおっ!」
「はあぁぁっ!」

 とシグナムが裂帛の気合を口にする。互いに柄を握り締めて、緑と紫が激突。爆発を引き起こした。
 発生した煙の前後に2人は飛び出し、衝撃の名残を吹き飛ばすために首を左右に振る。
 続いて飛んできたのは、4つの光弾だった。赤く輝く魔力光は鉄槌の少女のもの。間髪いれずに自身を襲う災厄を。

「……っ!!」

 躱すことなく、アストライアを振り回しすべてを斬り落とした。
 真っ二つに割れた4つの光弾はの背後へふらふらと飛び、爆発。さらには再び上段に構えて、アストライアへと意識を走らせる。
 鍔の部分に埋め込まれた緑が明滅する。

『敵、前方15メートル。緑をのぞいて固まっています……さぁ、マスター。ぶった斬っちゃってください』
「…………」

 アストライアの発言にたらりと冷や汗を流しながら、その目は煙で見えない前方へと向かっている。
 その先にいる4人を斬り裂くイメージ。もちろん、非殺傷設定。
 今のに必要なのは、相手を倒すことではなく、情報を得ること。それによって、今後の行動の指針も決まってくるのだ。
 上段に構えていた剣を左腰へ当てる。腰をひねり、4人に対し背中を向ける。
 そして。

「あああ!!!」

 横に一閃、振りぬくと同時に刃を模っていた魔力刃が突然伸び、4人へと襲い掛かった。
 無論、それに気づかない彼らではない。風を、剣気を感じ取ったシグナムが仲間たちへ指示を下す。身体をかがめろ、と。
 同時に頭上を一瞬で通り過ぎていく緑の閃光。
 通り抜けた後を追いかけるように風が舞い、髪を揺らす。

「なんだよ、今の……」

 つぶやいた鉄槌の少女も目を丸め、驚きを隠せない。魔力刃の形状を変化させるなど、普通の魔法ではありえなかったからだ。
 魔力を炎や雷に変化させることは可能で、変換物質と呼ばれる資質をさす。フェイトが雷、シグナムの炎。そして、は風というように。
 しかしこの攻撃は変換もせず、魔力を放出しているでもなく、純粋魔力の砲撃でもなく、ただその形状だけを変化させている。この事実がどれほど異質か、勉強したばかりの新人たちでも理解できるだろう。

「…………」

 少女を視界へ収め、シグナムは斬り裂かれ消えつつある煙の向こうを見やる。
 そこには、意思に反して動き続ける魔力刃を制御しようと奮闘しているの姿があった。
 それを見て理解できたのが、『あの形態のデバイスを、未だ使いこなせていない』ということ。そして、自分たちの付け入る隙が、そこにしかないということだけだった。もし戦闘の中で使いなせるようになったとしたら……

「っ!」

 最悪のシナリオが浮かび、シグナムは首を振る。
 ようやくもとの形状に戻すことのできた剣を構えると、は腕を振った。



「これは、慣れが必要みたいだね」

 暴れる魔力刃をようやく鎮めて、はため息を吐き出した。
 非常に使いにくい。
 エクスフォームを使ってみて、最初に抱いた印象だった。確かに、慣れさえすればこれほど強力な力はない。
 基本はイメージなのだ。そのイメージが明確でなければなくなるほど、変化を遂げる魔力刃は制御に抗い続ける。
 戦いながらイメージする。それは、にとって……いや、魔導師ならば誰でも、困難なもの。
 一度に複数のことをするマルチタスクこそ魔導師にとっては必須事項なのだが、それにだって限度というものがある。
 戦略を練り、行動方法を導き出し、行動。ただでさえ戦闘中にこれほどのことをしているのだ。さすがのもその大変さに苦笑した。

「でも、これなら……アストライア。魔法は使える?」
『はい。しかし、専用魔法はないですし、できるのは防御と移動のみです』

 十分だった。魔力刃の形状を自由に変えられるのなら、斬撃・砲撃魔法は必要ないし、うまく使えば拘束だって可能なのだから。
 勝利の可能性がゼロでなく、限りなく100に近いことを知ったは笑みをこぼす。
 そんなときだった。

『マスター!』
「わかってるっ!」

 降り注ぐ光弾の嵐。赤と白の雨はに向かい、前方に防御壁を張る。
 双方向からの攻撃を防ぐためだけに、あえて片方を遮断。それだけでも処理の仕方が大幅に変わるのだ。
 移動を繰り返すことなく、魔力を無駄にせずに攻撃を防ぐことができるのだ。もっとも、が長く戦闘経験を積んできたからこその芸当だが。
 背後から襲い掛かる赤い弾丸を、魔力刃に意思を伝える。
 振りかざし、その柄を振るった瞬間。切っ先がまっすぐ正面に伸び、光弾を斬り裂く。

『背後から反応3!!』

 煙を隠れ蓑にして目の前に現れたのは、それぞれの武器を構えたシグナムと鉄槌からロケットを噴出させる少女、そして1人の男だった。

「紫電一閃!!」
「ラケーテンハンマーっ!!!」
「おおおぉぉぉっ!!」

 三位一体の強烈な一撃。
 防御壁に打ち付けられた3人の攻撃には苦痛で表情を歪ませながら、同時にほぼ全員を無力化する好機に笑みを浮かべた。

「てめーっ! 何がおかしいってんだ!?」

 少女が叫ぶ。バリアに亀裂が走る。

「なにも……君たちに1つ、聞きたい」

 シグナムがその声にさらに力を込める。
 これ以上聞いてはいけない。これ以上この男の話を耳にしてはいけないと、騎士としての自分が警鐘を鳴らしていたから。
 しかし、バリアは未だ破れない。亀裂こそ無数に走っているものの、アストライアがカートリッジをロードし続けることでなんとか持続していた。
 破れつつあるバリアにさらに魔力を加えて強化する。彼女が気を利かせてくれているのだ。
 ……すべては、話をするために。
 どれだけ力が強くても、どれだけ思いが強くても。

「なぜ、リンカーコアを駆り集める? なぜ、闇の書を完成させる?」

 言葉にしなければ、なにも始まらないから。



「んなこと……てめーにゃ関係ねーっ!!」

 少女が声を荒げる。目を見開いて、デバイスを握る手に力をこめる。
 今の自分はただ、目の前の少年をつぶすためにここにいる。自分たちの思いを実現するためなら、手段を惜しまない。
 鉄槌からさらに強くロケットが吹き出す。バリアにたたきつけているドリルが回転数を強める。
 舞う火花。激しくなる衝突音。

「ぶち抜けぇーっ!!!」

 ドリルの先端が。

「やっべ……っ!?」

 バリアを突き抜ける。
 甲高い音と共に緑のバリアは消失、ガラスの破片のように宙を舞っては消えていく。
 3人分の衝撃にバリアジャケットも耐え切れるはずもなく、は背後へと吹き飛んでいく。その先はビルの窓。勢いを殺しきれず背中から突っ込み、室内へ突入。壁にたたきつけられた。

「かはっ!?」

 肺から空気が吐き出される。
 広がる鉄の味。たまった赤い液体を瓦礫だらけの床に吐きつけながら、ゆっくりと立ち上がった。

 痛い。苦しい。つらい。非常に面倒くさい。俺はただ、話がしたいだけなのに。そこまで……

「管理局が……俺が信じられないかなぁ?」

 つぶやく。
 犯罪じみたことをしているという事実を受け入れ、それでもなお蒐集を続けるのはなぜだろう。
 の頭は今、それだけだった。そのために、彼女らを力でねじ伏せてまで聞こうとした。しかし結局、このザマだ。

「……そうか」

 力でねじ伏せてはいけないんだ。そんなのは、自分の自己満足にすぎないのだ。
 唐突に理解した。この場で戦うことが、刃を交えることが、命のやり取りをすることが間違っているのだと。
 彼女たちには目的がある。すべてを知ってしまった自分の口封じのために、武器を取っている。

 なら、俺は?

 何がしたい――話が聞きたい。彼女たちがリンカーコアを蒐集する目的を。
 口ではなんとでも言えるのだ。
 絶対に口外しない。誰にも言わない。自分に全部まかせておけ。
 そのすべてが誠意のない、他愛ない口約束だ。

「ごめんな、アストライア」

 答えを聞くことなく、アストライアをウェイトフォームへ戻す。言葉を誠意あるものしたければ、それなりの行動をする必要があった。

 ――まず、戦う意思を持っていないことを。

 キーホルダーの形状となったアストライアを床へ。

 ――次に、周りに言いふらすことはないと、信じてもらう。

 その場にどっかと座り込む。

「どうした、もう終わりか?」

 シグナムの声だった。抑揚のない、冷たい声だ。
 月明かりを背後に、その場に座り込んだを見下ろす。その目は声同様に冷たい。
 うつむいていたはその顔を上げる。

「……まぁ、そんなトコだな」
「おいシグナム。こいつ、デバイスを手放してやがる」

 少女の声。
 シグナムの背後でキーホルダーを拾い上げた少女は、バカだな、と言わんばかりに笑みを浮かべた。
 男の表情は硬い。……いや、普段から表情を変えたりしないのだろう。

「なんのつもりだ」
「あんたらに、理解させるためだよ」

 という人間が、彼女たちにとって害となる人間ではないということを。

「俺は管理局の人間だ。今回あんたたちがやってる一件も任務になってる」

 追いかけているのは4人。闇の書の守護騎士たち。そして、その主。

「でも、俺にはあんたたちが主の命令で蒐集行為をしているようには見えなかったんだ」

 あのとき。自分がはやてに地図を描いてもらっていたとき。
 共にいたシグナムの視線は自分に向かっていた。しかしそれ以前に、はやてに対してやさしげな眼差しをしていたことを、見逃してもいなかった。
 だからこそ、事のすべてを知るために。そして、それを聞いた上で彼女たちを止めることができるのか。

「だからこそ聞きたいんだ……あんたたち、なーんでまた内緒で蒐集行為をしてるかな?」

 それをこの会話で、見極める。

「なにを言っている。話せないことを話せるわけがないだろう」
「バカだから、話を聞こうとしてるんですよ。獣耳のお兄さん」

 獣耳の男に笑いかける。視線をシグナムへと移動させ、さらに笑ってみる。
 不敵に。腹の奥で何を考えているのかわからないような、挑戦的な笑み。
 その表情に、シグナムは軽くたじろいだ。自らの剣の切っ先が目の前の少年の首もとに突きつけられているというのに。
 彼は、自分の敗北を少しも考えていないのだ。自分が死ぬ、という事実すらありえないと言わんばかりの、自信に満ちた表情だった。

「聞いた話は、絶対に口外しないと約束する。話によっては、協力だってできると思う」
「はァ!?」

 少女が声を荒げた。
 口約束だからこそ、信じられるわけもないのだ。
 だからこそ、はいやでも自分の言葉を信じられるように、アストライアを手放していたのだ。

「もし俺がこの約束を破ろうとしているなら……破ったなら、そのデバイス……アストライアで俺の首を落とすといい。そのために、そのままにしておいたんだよ」

 少女はを凝視した。同時に、呆けたかのような表情へと変化した。
 ……どこか拍子抜けたのだ。
 最初の一閃を目の当たりにしたときには、コイツは強いと考えた。その考えこそ、間違いだったのだろうか?
 そう思うと、どこか胡散臭さすら見て取れた。
 しかし。

「それでも俺の言葉が信じられないっていうなら……それはもう仕方ないかな」
「お前……何を考えている?」
「何って、俺はただ……楽をしたいだけさ」

 楽をしたいからこそ、事件を早く終わらせたい。でも、それによって怨恨が残るなら、それはもう不本意この上ない。
 みんなで楽しく、のほほほほんと暮らせれば、はそれが一番なのだ。

「別に、あんたたちのためにこんなことしてるんじゃないよ」

 そう。
 は最初から……エイミィからアースラ常駐が決まったと連絡を受けたときから、今回の事件が面倒ごとなのだと本能的に察していたのだ。
 さすが、管理局一のなまけものである。



「今やってることはぜーんぶ、俺だけのためなんだよ♪」



 まだ12歳なのにね。






最後の方がメチャクチャになってますね。
何を書いていいやらわからないまま、イメージに身を任せて書いてしまいましたからね。
人の心情というのは、かくも難しいものです。


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