……というわけで、はソファでまったりぐったり。 周りで忙しなく動いているエイミィやクロノを尻目に、こっくりこっくりと船を漕いでいた。 目の前を右往左往している2人。 ここは臨時捜査本部として間借りしたマンションの最上階。 大の大人が数人雑魚寝してみたりしても余裕な、少しばかりセレブチックな部屋だったりする。 しかしながら本部として十分に機能できるように、と機材を導入しているにもかかわらず、意外にすっきりとしていた。 「うわぁ、ホントに近い!」 「本当?」 「うん!」 ベランダではしゃいでいるなのはとフェイトは独自の世界を形成し割り込めるような空間ではない。 つまるところ、暇をもてあましていた。 寝返りを打ってみたり、ぼーっと天井を眺めてみたり、逆立ちをしてみたり。 ソファをトランポリンがわりにばふばふと飛び跳ねてみたり、事前にコップへ注いでいたオレンジジュースを飲んでみたり。 「あーひま」 「「アンタも手伝えェっ!!」」 いつでもどこでもマイペースである。 「子犬フォーム……」 そんな2人の怒声を聞きながらも、はソファでくつろいだまま。大物である。 小っちゃくなったアルフを横目に、フェレットモード全開でなのはに頬を寄せられて苦笑のユーノを観察していた。 かわいいかわいいと言い寄られてなす術もなく抱き上げられ、女の子に頬をすり寄せられる。 なんと微笑ましい光景だろう、と思うのはまさに共通の思いだった……フェレットの正体が実は少年だった、と知らなければ。 無論、もそれをふと考えて、思う。 ある意味、彼は可哀想な存在なのだと。 「ユーノって、絶対男として見られてないですよね……」 「は?」 「だってそうでしょ? なのはちゃん、ユーノが普通の男だって知っててあれですからね」 「あ、えぇ……そうかもしれないわねぇ」 魔法少女リリカルなのはRe:A's #19 なのはとフェイト、そしてアルフと話の中心ユーノの4人プラスリンディは、アリサとすずかの来訪によって翠屋へと向かっていった。 ソファでだらけていたを見てアリサが軽く顔をしかめていたのが妙に気になったが。 フェイトがなのはたちの小学校へ編入、という話になっているというのは、後でアレックスから聞いた。 彼女は未だ知らないらしいが、おそらく翠屋で感激のあまり目を潤ませていることだろう。 …… 「リンディていと……リンディさん、これ……」 「あらー、その制服!」 「聖祥小学校ですか……あそこはいい学校ですよ。な、なのは?」 「うん!」 桃子と士郎ににっこりと微笑まれて……それ以上になのはやアリサ、すずかと一緒に生活できることに、とても感激していた。 「ありがとう、ございます……」 の思惑通り、赤い瞳を潤ませて渡された制服を抱きしめていた。 …… 「さぁてと、俺はちょっと出かけてくるかね」 のそりと立ち上がったは待機状態のアストライアを腰につけると、てこてこと玄関へ。 そんな彼を特に止めることなく、部屋に残ったままのクロノとエイミィは、 「あまり遅くなるんじゃないぞ」 「迷ったら連絡してね。あたしがちゃあんと迎えに行ってあげるからね」 とそれぞれが一言ずつ口にすると、ひらひらと手を振って送り出す。 そんな自分に一抹の寂しさを感じながら、両開きの扉を開けた。太陽は未だ高い位置にあり、散歩するには非常にいい陽気だった。 閉じた玄関の前で大きく伸びをしてみる。 行動がとても彼らしくないのはまぁ、彼自身の気分の問題である。 ……で、その五分後。 「ま、迷ってしまった……」 見渡す限り家、いえ、イエ。 ふらりふらりと当てもなくぼーっと歩いていたから余計に場所がわからない。 「そうだ、飛んで行こう!」 なんて言おうとしたら、アストライアに普通にとめられたから正直酷いと思う。 ”そんなことに魔法を使わないでください” おもいっきり突っ込まれました。 と現在の状況を打破する唯一の策を失い、とある一軒の住宅の前で立ち止まるとうな垂れてため息をつく。 地図もなく歩く元気もなく魔法も使えず、正直、途方にくれていたのだが。 「あのぉ……どないされたんですか?」 1つの声が彼に向けてかけられていた。 トーンの高い、なのはやフェイトと同じ年の頃の少女の声。 振り向くと、そこには。 「!?」 車椅子の少女と。 「お……」 燃えるような赤い髪の女性が目を丸めていた。 数瞬の沈黙が3人を包み、きょとんとした表情の少女とは裏腹に女性――シグナムのそれは固い。 彼女にそんな表情をさせている原因は、ごく簡単に推測できた。 がただの一般人ではなく、嘱託とはいえ時空管理局に所属しているれっきとした魔導師だから。 そして、自分自身が管理局に対し敵対するような行為……すなわちリンカーコアの蒐集を行っているから。 何よりも。 「やー、実は道に迷っちゃってさあ」 「あらら、そら大変やったんですね」 「……」 「交番もなければ人も歩いてないから困っちゃって困っちゃって」 「だったら、わたしが教えましょか?」 「おおお、助かる!!」 「いやぁ、すいません。なんか面倒かけて」 「……」 シグナムと目を合わせて話すこの少年が、そのすべてを知っていたから。 「シグナム?」 「いや……大したことじゃない」 だからこそ、何も知らないかのように振舞う少年の意図をシグナムは図りかねていた。 はそんな彼女の思惑を気にする気配もなく、どこからか紙とペンを取り出したはやてを盛り上げながら地図を描いてもらっている。 はやて自身も楽しそうに笑みをこぼしている。 「おおお、こんなにも詳しい地図を!? これなら帰れるよ!!」 「いやいや別に大したことやあらへんよ。ここわたしん家やから、また遊びに来てや」 ……衝撃だった。 初対面である彼女に、ここまで楽しげな笑みを目の前の少年が与えていることに。 自分たちが時間をかけて成し得たものを、出会ってたった数分の彼がいともたやすく成し得てしまった。 はやてを守り、静かに暮らしたい。彼女の笑顔を見たいがために、自分たちにできることなどとても少ない。 騎士としての誇りを捨ててまで、蒐集を続けているというのに、だ。 「わたしは八神はやて。はやてでええよ」 「俺は。。よろしくね、はやて」 悔しかった。 「わたし、男の子の友達って初めてや。これからよろしゅう」 「おうおう。こちらこそ」 だからこそ。 「それじゃ、今日はありがとう」 「ええって。その代わり、また遊びに来てな。くんなら大歓迎やから」 ”シャマル、家に居るな。……頼みたいことがある。ヴィータ、ザフィーラ。緊急事態だ……すぐに戻ってきてくれるか?” その真意を確かめなければ、ならないと思った。 …… まさか、ここまで身近に居るとは思わなかった。 いつか剣を合わせたあの女性……シグナムと。 (八神はやて、か) 現・闇の書のマスター。 彼女の居場所が確認できたことは、ある意味で収穫だった。 報告すればそこまで、あっという間に今回の事件に片がつく。いくらシグナムとその仲間たちが鬼のように強くても、局の人間で包囲してしまえばそこまでだ。 でも。 「…………」 気になったのは、シグナムのことだった。 話してみてわかった、はやての性格。彼女は、シグナムをはじめとする守護騎士たちに蒐集を命じることはない。 なのはと同じ……やさしさを持っている、と。 だからこそ、気になるのだ。 「話、聞かせてほしいなぁ」 なぜ、蒐集行為を行っているのか。 なぜ、これほど早急にリンカーコアを駆り集める必要があるのか。 なぜ――― 「ねぇ、シグナムさん」 背後に向けて声を放つ。 同時に周囲がどんよりとした色に覆われていく。 封時結界。一般人に魔法の存在を知られないための、そしてほかの魔導師から感知されないように作り出す結界。 声のかけられたの背後……正確には上空。 影は4つ。騎士甲冑に身を包んだ赤の剣士と朱色の少女と、緑の女性と一頭の狼。 「全員集合、ってワケか」 「……お前を、この場所から逃がすわけにはいかない」 闇の書の主の正体を知られたから。 知られたからには口封じをしなければ、自分たちの願いがすべて水泡と化す。 全員が敵意をに向けている。自分を倒して、はやての存在を隠そうとしている。 命令されて動いているわけではないということは…… 「なら、どうするね? 闇の書の守護騎士さんたちよぉ」 「スカしやがって……聞かねーとわかんねえのかよ?」 「俺はバカだからね。わからないことは聞く。これ定石よ?」 「本当は、このようなことはしたくないのだけど……今、管理局に戻られては困るの」 「…………」 『このようなことはしたくない』でも『管理局に戻られては困る』。 ……間違いなく、ない。 今の緑の女性の一言で確信した。 彼女たちは今、自分たちの意思で蒐集行為を行っているのだと。 「……それじゃ、なにか。たかが1人を相手に4人でフクロにしようっていうわけか。ほほーう」 は腰に手をかける。 ただでやられるわけにはいかないし、なにより彼女たちの行動が気になって仕方ない。 「なら、来いよ」 相手が力ずくで口封じをするというなら。 「全員まとめて、相手してやる」 こちらも力ずくで、全員を叩き潰すだけだ。 「本気モードだ。行くよアストライア。サポートよろしく」 『……まったく、あなたはいつも無謀なことをする』 「そう言うなって。頼むよ」 『仕方ありませんね……お任せください、マスター』 カートリッジを吐き出し、ブレイドフォームだったアストライアの刀身が消えていく。 同時に現れたのは。 「近距離のフルドライブ、エクスフォーム。使うのは初めてだね」 『問題ありません。あの程度の連中など、敵ではありません』 「……あの、アストライアさん? 性格、変わってません?」 『気のせいです』 グリーンに光る、刃を象った膨大な魔力の塊だった。 |
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