リンカーコアを蒐集されたなのははすぐに本局へ搬送されたが、局内の一角にある病室で眠っていた。 極端に小さくなってしまったリンカーコアは、彼女が目覚めたらすでに回復が始まっており、若いねぇ、なんて言って笑っていたが。 そんな中で彼女とフェイトは再会を喜び、足元のおぼつかないなのはを庇いながらお互いに抱擁をかわしていた。 先の一件があったからか、最初はぎこちなかった――いや、なのはを……友達を守りきることができなかった悔しさがフェイトの頭を渦巻いてかなのはから目をそらしたのだが。 「助けてくれてありがとう、フェイトちゃん。それと……また会えてすごく嬉しいよ」 そんななのはの一言が、彼女に弱々しくも笑顔を取り戻していた。 「とりあえず……これでよし」 デバイスのメンテナンスルーム。 破損したデバイスの修復や部品の交換を行う部屋だ。そこには3人、コンソールを叩いてなにかしら打ち込んでいるユーノが設定を終えて呟いた。 目の前に浮かぶ機械の中心に浮かんだレイジングハートとバルディッシュを直すために、ユーノは今の今までひたすら目と手だけを動かしていたのだ。 「しっかし、も間抜けだねぇ」 「……め、面目ない。まさかあんな形でアースラと行動を共にすることになるとは思わなくてさ」 思いっきり爆睡してたよ、あはは。 ……笑い事じゃねえよ。 そんなツッコミもあっさりと流しつつ、壁を背に腰を下ろした。 なんだかんだでカートリッジも多く使ってしまった。 ヒマな時に魔力を込めておかないと、いざという時に使えない。 今回と同じようなことが起これば、それはもう面倒なことになるだろう。 空のマガジンを取り出して、ごそごそとカートリッジのストックを探す。 「を゛……」 「どうしたのさ?」 「いやいや、なんでもないよ……ちょっと買い物してくる」 まったく、オートマタイプになってからお金が飛んでくよぉ〜…… のっそりと立ち上がると、出口へ向かってよたよたと歩く。 クサナギの時はスピードローダーにカートリッジを装填した状態のまま交換できたから、カートリッジのストックなんて考えたことなかったのだが。 なんだかんだでアストライアになってから色んなものが飛んでいくような気がしてならない今日この頃である。 カートリッジを取りにいこうと扉に近づくと。 「お」 「「あ……」」 向こうから扉が開き、なのはとフェイト、そしてクロノと鉢合わせていた。 数瞬の沈黙の後、は「どうぞ」と入室を促す。 3人が入ってきたと同時に外へ出ようと足を動かしたのだが。 「どこか行くのか?」 クロノに呼び止められていた。 「カートリッジの追加を取りにいこうと思って」 「それなら、悪いが少し話をしていってくれ。色々と聞きたいことがある」 「……あー、取りに行ってからじゃダメ?」 「ダメだ」 短時間なんだから、いいじゃないか。 なんて反論したところで無意味と知っているからこそ、素直に踵を返した。 ユーノとアルフはなのはとの再会に喜ぶ。もちろん、それはも同じ。ホームステイ以来3ヶ月ぶりなのだから当然だろう。 そんな中フェイトは無言で傷ついた自身のデバイスの前へと歩を進める。 「バルディッシュ、ごめんね。私の力不足で……」 自分を守って傷ついた相棒を心配しているのだ。 「破損状況は?」 クロノは機械を操作していたユーノに尋ねる。 ユーノはその問いに表情を軽く歪めると、レイジングハートとバルディッシュの状況を告げた。 自動修復をかけてはいるものの、デバイスそのものの基礎構造を修復後再起動して部品交換が必要。 宙に表示された交換部品の数を見れば、その激しさが理解できるだろう。 実際、交換が必要な部品は、どちらもかなりの数に上っていた。 「ところでさ。連中の使ってたあの魔法、なんかヘンじゃなかった?」 そんなアルフの問いに、クロノはへ視線を送る。 彼はこのためにを引き止めていたのだ。 は面倒くさげに小さくため息を吐くと、諦めたかのように腰のキーホルダーに手を伸ばした。 「あの人たちが使っていたあの魔法は……ベルカ式。昔々にミッド式と魔法勢力を二分していた魔法体系だよ。遠距離やら広範囲攻撃をある程度切り捨てて、近距離戦……対人戦闘に特化した魔法を使う。剣とか槍とか、武器の形をしたものが多くて、サポートとかよりもその武器としての性能を重視した魔法が多い。で、優れた術者を『騎士』って言うことがあるね」 「確かに。あの人、自分のことを『騎士』って言ってた」 バルディッシュを眺めたまま、フェイトは言う。 自身が対峙した赤い髪の……シグナムという女性を思い出す。 剣型のデバイスを自在に扱い、接近戦を得意としていたフェイトをも圧倒したその強さ。 たったの数撃でバルディッシュがここまでボロボロにされたのだ。 対人戦闘においてその力を発揮することを、フェイトもなのはも身をもって体験していた。 「最大の特徴は、デバイスに組み込まれた――」 アストライアを起こし、二又の槍の形態を取る。 ミドルレンジからの射撃魔法を得意とするランサーフォームだ。 その先端、刃部分の根元に刺さっているマガジンを取り外してひらひらと掲げてみせた。 「カートリッジシステムっていう武装だね」 マガジンからカートリッジを取り出すと、手の平の上に乗せた。 「儀式で圧縮した魔力をこれに込めて、デバイスに組み込むことで瞬間的に魔力を爆発的に高めるんだ」 「味方ならさておき、敵に回せばこれほど危険で物騒な代物はないな」 の説明に付け加えるように、クロノは呟くように口にした。 彼は実際に、その危険性を知っている。の相手をすることが多かったからだ。 マガジンをアストライアへ再装填するは元々、接近戦を主体とする武器型デバイスを使って、特殊な部分もありながらそのセオリーに則って戦っていたのだから。 カートリッジをロードした時の突発的な魔力の上昇は、半端なものではない。 「なるほどね……」 アルフは感心したように鼻を鳴らす。 危険で物騒な代物を相手に、自分を守ってくれてありがとう。お疲れ様。 そんな思いを口にして、なのははレイジングハートに微笑みかけたのだった。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #18 「くんくん!」 部屋を出て、カートリッジを取りに行く途中。 なのはもフェイトもクロノに連れられて面接に行ってしまったため、アルフとユーノと共にリラックススペースまで足を運んでいた。 2人は自販機で飲み物を購入。は目的どおりカートリッジを取りに足を動かしたのだが、今度は偶然通りかかったエイミィに呼び止められていた。 「レイジングハートとバルディッシュの部品、さっき発注しといたよ。今日明日中には揃えてくれるって」 エイミィはまずユーノとアルフに告げていた。 主を、友達を守り抜いたデバイスたちを治すためにも、部品の取替えが必要だったからだ。 事前にユーノから連絡を受け取っていた彼女は、頼まれていた通り部品を発注。手際よく話をつけてくれたのだ。 「でね、さっき正式に今回の件がウチの担当になったの」 「え? でも、アースラは整備中じゃ……?」 「そうなんだよね」 エイミィは苦笑する。 は何のために呼び止められたのかわからないまま、その場で固まっていたのだが。 「それで、今回の件に限りくんもウチのスタッフってことになったから」 「……………………えー」 「なぁに、私たちとじゃ不服?」 わかってるくせに、といわんばかりにじとりと視線を送る。 なんだかんだで厄介なことになりそうな今回の一件。面倒くさがりの彼がそんな仕事を進んでやるわけもない。 「えー、なんていわれてもダメだよ。お上の決定なんだから」 「あ〜あ」 ● 扉が開く。 「失礼します」 同時に聞こえるトーンの高い、よく知った声。 窓から外の風景を眺めている彼の名はギル・グレアム。歴戦の勇士であり、艦隊指揮官や執務官長の立場にいたこともあるほどの力の持ち主だ。 今は若い局員たちに任せ、顧問官という立ち位置にいたりするが、なんだかんだで発言力は高い。 そんな恵まれた環境にあってもその力を鼻にかけることなく気さくで、優しい。 今回、彼が裁判を終えたばかりのフェイトの保護監察官に任命されていたため、クロノはここを訪れたのだ。 「クロノ……久しぶりだな」 「ご無沙汰してます、提督」 クロノの指導教官でもあったからこそ、2人はとても親しい間柄にあった。 グレアムは部屋の中心に置かれたソファにかけるよう促すと、シンプルな装飾の施されたカップへ紅茶を注ぐと、なのはとフェイトへ差し出した。 「あ、ありがとうございます」 「ありがとうございます」 お礼を述べた2人に微笑み、同時に見据える。 「保護監察官とはいっても、まあ形だけだよ。リンディ提督から先の事件や君の人柄についても聞かされたしね……とても優しい子だと」 「ありがとうございます」 頬を軽く赤に染めて、フェイトはうつむきながらもお礼を述べる。 2人の情報がはいった端末を見て、なのはの出身のところで目を留めた。 日本、という国の存在を知っていたから。素朴でありながら美しい風景を思い出し、懐かしむ。 そんな彼が気になったのか、なのはの目が驚きに染まる。 「私も君と同じ世界の出身だよ。イギリス人だ」 「ええっ!? そうなんですか!?」 「あの世界の人間のほとんどは魔力を持たないが、稀にいるんだよ。君や私のような高い魔力資質を持つ者が」 さらに視線が動き、魔法と関わることになった経緯で止まると笑みがこぼれる。 魔法との出会い方。それが自分とよく似ていたからだ。 なのはは、ユーノの呼びかけに応えたことで魔法と出会った。 グレアムは傷ついた武装局員を助けたことで関わりを持った。 50年以上も前のことだったが、今でも鮮明に思い出せる。 見慣れぬ格好、見知らぬ大人。そして、血だらけの身体。 恐怖を感じていても、勇気を出して彼を助けた。 そんな映像を思い返しながら、グレアムは端末を机に置く。 「フェイト君。君は、なのは君の友達なんだね?」 「はい」 フェイトの目を見つめる。 「約束して欲しいことは1つだけだ」 それさえ守っていれば、君の行動について何も制限しないことを約束しよう。 交わされた約束は、『友達や自分を信頼してくれる人たちをけして裏切ってはいけない』というものだった。 フェイトにとってなのはは初めての友達で、その大切さも教わった。 だからこそ。 「……はい、必ず」 はっきりとした返事を返していた。 ● 「はやてちゃん、お風呂のしたくできましたよ」 「うん、ありがとう」 八神家では、いかにも家族な雰囲気が展開していた。 歌番組にチャンネルが合わされ、アイドルの歌声が耳に届く。 夕食を終えて団欒している時の出来事だった。 「ヴィータちゃんも一緒に入ってらっしゃいね」 「は〜い」 シャマルの指示に従い、ヴィータは潔く立ち上がった。 彼女と一緒にテレビを見ていたはやてはシャマルに抱かれて風呂場へと向かう。 新聞を読んでいたシグナムは明日の予定を確認しつつ、夜更かしなどしないようにと念を押した。 「……今日の戦闘か」 「聡いな。その通りだ」 3人が入浴へ向かい、ザフィーラと2人きりになったところで、彼は尋ねた。 シグナムはうなずき、上着の裾を持ち上げる。引き締まった腹部の上部、2つの双丘のすぐ下あたりに浮かんだ黒いアザが見て取れた。 「よい師に学んだのだろうな」 シグナムと対峙した金髪の少女。 彼女の太刀筋は澄み渡り、曇り淀みというものが存在しなかった。 以前戦った少年とはまた違った剣筋。戦い方の差こそあれ、武器の性能に差があったからこそあれほど楽に撃退することはできなかったと彼女は思う。 しかし。 「だが……それでもお前はお前は負けないだろう?」 ザフィーラの一言に、小さくうなずいた。 沈黙が流れる。 楽しげな笑い声が風呂場から聞こえ、あの笑顔を失いたくないとシグナムも、そしてザフィーラも思う。 ゆっくりと席を立ち、ベランダへと続く窓から夜空を見上げる。 彼女たちの思いはたった1つだけ。 「我らヴォルケンリッター、騎士の誇りにかけて……」 なにが。誰が。 目の前に何が立ちはだかろうと、先に待っている幸福を……手に入れてみせる。 ● ブリーフィングルームに、アースラ一同が集まっていた。 「さて、私たちアースラスタッフは今回、ロストロギア『闇の書』の捜索および魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました」 硬い表情のアースラスタッフを前に、艦長であるリンディは言い放つ。 長く犯人の足取りのつかめていない。難易度も危険性も高い任務だ。……にも関わらず、肝心のアースラは整備中。 それによって、現場付近に臨時作戦本部を構えることと彼女は告げた。 「分割は、観測スタッフのアレックスとランディ」 「「はいっ」」 「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同」 『はいっ』 「司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん。そして……」 言葉を切り、を見やる。 近づいて立つように促すと、 「臨時スタッフとして配属されることになったくん。以上3組に分かれて駐屯します」 挨拶を促された。 背中を押されて、視線に晒される。 いつまでも黙ってるわけにも行かず、 「あー……はぁ」 自身に向けられているいくつもの視線に、小さく息を吐き出した。 アレックス、ランディ、ギャレット。 クロノ、エイミィ、リンディ、フェイト、アルフ、ユーノ。そして、なのは。 今回の一件に自分が加わるんだという旨を伝えるためにこの場にいるのだが、どうにも気恥ずかしい。 「ども、今回の一件に関わることになりました。嘱託魔導師・ でございます」 フェイトとリンディが養子縁組をしようとしていることも聞いた。 今までに起こっていた魔導師襲撃事件が、なのはの世界を中心に起こっていることも聞いた。 アースラが使えない今、臨時拠点を構えることもリンディ本人から今、聞いた。 もはや、運命に抗うことなどできないのだ。 「短い期間ではありますが……まぁ、適当に付き合ってやってくださいな」 いかにも彼らしい挨拶を終えた。 「ちなみに司令部は……なのはさんの保護を兼ねて…………なのはさんの家のすぐ近所になりまぁ〜す♪」 そんなリンディの一言に、フェイトとなのはは顔を見合わせて、嬉しそうに笑って見せたのだった。 |
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