「ただいまぁ……」
「おっかえりぃ♪」

 管理局内の転送ポート。
 一週間のホームステイを終えて、はげんなりとした表情で帰還していた。
 最初に転送されてきた公園までなのはに送ってもらい、ポート内からの転送対象の指定と転送先をアマネにやってもらっての帰還。
 お土産もいっぱいもらってしまった。
 なのはの両親が経営している喫茶店『翠屋』で人気のシュークリームやら、少しばかり古ぼけた剣術の指南書やら、稽古中に事故で壊れてしまったため購入したおニューのメガネ。
 メガネはお土産じゃないような気がする……っていうか、なのはの姉の美由希が責任感じて買ってくれたので、一応お土産扱い。
 あとは、「フェイトちゃんに渡してね」と頼まれたビデオメール。
 ちなみに、がホームステイしている間にフェイトから1回、ビデオメールが返ってきていた。
 立場上いろいろと手続きがあるのだそうでなかなか送ることができなかったと、再生された映像の中で何度も謝っていたのが、なんともフェイトらしい。

「相変わらずげんなりだねぇ」

 あまりにいつも通りであったためか、の様子を気にも留めずアマネは言う。
 彼は任務のたびに同じようにげんなりとした表情で帰ってくるからである。
 は光の消えた魔法陣からとぼとぼと床に降り立った。

「……色々あったんだよ。っていうか、死にかけたんだよ」
「死にかけたって疲れたってヒマでしょーがなくたって、キミはいつでもげんなりしてるでしょうに」
「いやしかし、今回はばかりはさすがに、ねぇ」

 赤いお姉さんと激闘を繰り広げ、魔導師としてのポテンシャルが非っ常に高いなのはを相手に『スターライトブレイカー+(カウント追加で威力増大。結界どころか星をもぶち抜く威力と自負する彼女の主砲)』をまともに受けかけて、ヒマな時にやっていた剣の稽古で色んなところを痛めつけられた。
 っていうか、恭也も美由希も容赦がなさすぎなのだ。
 こっちの方が年下だというのに、大人気ないことこの上ない。
 『剣の間に年の差など関係ない』なんてすました顔で言っていたが、からすれば大人気ないだけ。
 我ながらよく付き合ったと思う。
 ……まぁ、色々と得るものがあったから結果的にはよかったのだけど。っていうか、御神流、だっただろうか。

「あれは、色々とスゴイかったさ。うん」
「?」

 尋常とは思えない、というか人じゃないんじゃないかと思ってすらしまいそうな高すぎる身体能力。
 周囲がモノクロに見えるという歩法や、あまりにも常識はずれな技の数々。
 明らかに人間技じゃないと思いました。
 そんな中で、

「また、遊びにいらっしゃいね」
「おいしいコーヒーを淹れて待ってるからな」

 高町夫婦の一言が、の心深くにじわりとしみこんだ。

「嬉しそうだね」
「……まぁ、ね」

 たった一週間で、少しばかり成長を遂げただった。

「そういえば、戻ってきたらレティ提督が顔出してって言ってたよ」
「…………がーん」



   
魔法少女リリカルなのはRe:A's   #15



『では、受験番号1番の方。氏名と出身世界をどうぞ!』
「ミッドチルダ出身、フェイト・テスタロッサです!」

 なのは、お元気ですか?
 私――フェイト・テスタロッサは今日、試験を受けます。

「こちら、使い魔のアルフです」
「よろしく――」

 時空管理局・嘱託魔導師認定試験。
 裁判中の嘱託試験は異例らしいですが、この資格があると本局での行動制限がぐっと少なくなるらしいです。
 それに、リンディ提督やクロノの手伝いができるので、一発合格が目標です!

 というわけで始まった、嘱託魔導師認定試験。
 試験は2日間にかけて行われ、初日は筆記試験、2日目は実技試験が主に行われる。
 筆記試験は上々。2日目の今日は実技試験ということで午前の部と午後の部に別れ、『儀式魔法実践4種』がテーマの午前の部はすでにこなしていた。
 残りは午後の実技試験。模擬戦闘が主な内容で、個人戦闘と連携戦闘の2つから成り立つ試験である。

「プレシア・テスタロッサ事件の重要参考人って、この子だったのね」
「そう。色々あってね」

 局内のとある一角からフェイトの様子を観察していたリンディとレティは、宙に浮かんだコンソールを眺めながら茶をすすっていた。
 コンソールの内容はもちろん、現在昼食中であるフェイトの試験結果。
 筆記はほぼ満点で、魔法知識も戦闘関連に関してはかなりのもの。
 このままトラブルが起きなければ、余裕で合格できそう。
 そんな上々すぎるほどの結果に、小さく息を漏らしていた。

「まあ、優秀な人材なら過去や出自は関係ないわ」
「そうでしょ? 本人たちも局の業務協力には前向きだし……そういえば、次の実技試験官って誰なの?」

 実はリンディは、今の今まで試験官の名前を聞いていなかった。
 本来は伝えられるべきことなのだが、局員の人事はすべてレティが統括しているため午前の部を終えた今でさえ誰が来るのかわからずじまい、だったりする。
 ちなみに執務官のクロノは別任務で出払っているため、この場にはいなかったりする。
 そこで、レティは一計を講じたのだ。
 直前まで任務を与えておき、帰ってきてから試験官の任を与えるおしつける……少しばかり長めの有給休暇をちらつかせて。
 『彼』のことだ。きっと飛びつくだろう。
 ……我ながらすんばらしい作戦だとレティは思うわけで。

「そうね、そろそろ教えても――」

 と、試験官の名前を口にしようとしたところで。

「ども〜。出頭しましたよ」
「……あら」
「――言うまでもなかったかしら」

 試験官は現れた。
 魔力総量はさておいてまだ幼いともいえる年齢とは裏腹に、こと戦闘に関してならば右に出る者はいないというほどの実力の持ち主。
 スタンドアロンで動けて、戦闘だけならAAA+ランクであるクロノと対等に渡り合える、優秀な人材。同時に、実績もある。
 そんな人材がいるというのに、任務後だからといってどうして休ませられようか。
 元々少ない人材だからこそ、ちゃっかり便利屋扱いだった。


 ●


『さーて、お弁当と休憩は終わったかな?』

 最終試験は実戦だよー。

 どこからか聞こえてくるエイミィの声を耳にして、フェイトは自身の試験官を務める人を聞いていないことに気がついた。
 試験なのだから、最初から伝えられているというのはないのかもしれないが。
 誰なんだろうね、とアルフと言葉を交わし、展開された魔法陣を見ていると。

「あ……」

 それは、自分とさほど変わらぬ年の頃の少年が現れた。
 少し前に初めて話をし、名前を交換した1人の少年だった。真っ白の、まるで羽織のようなバリアジャケットを着、一振りの剣を携えた。
 自分を『フェイト』として見てくれた、自分を救ってくれた。

!?」
「お〜う、久しぶり……」

 そんな彼が、妙に疲れたような顔をして浮かんでいた。

「『NOと言える日本人』になりたい。今さっき、今年の目標になったよ」

 目の前に長期休暇をちらつかされて、レティの思惑通り飛びついた。
 フェイトの試験の試験官を務めれば久々の休暇が待っているのだ。
 本当ならNOと言いたかったのだが、やはり根っから楽をしたい彼はここで試験官をしないで、いつ任務を言い渡されてもおかしくない生活とここで試験官をやって約束どおり休暇をもらった後の生活を天秤にかけた。
 もちろん、答えは言うまでもないだろう。

「AAAクラスの魔導師の戦闘試験をできる試験官、なかなかいないんだってさ。クロノくんも任務中だからって、任務から帰ってきたばっかりの俺に白羽の矢を立てやがったよ」

 そんなの言葉にフェイトは言葉を失っていた。
 自分の試験がなければ、彼が試験官などをやらずにすんだのだから。
 もっとも、8割は驚きが占めていたりするわけだけど。

「ともあれ、(休暇がまってるから)手を抜く気はないからね」
「う、うん……」

 シンプルな片手剣――アストライアが彼の手には握られていた。
 その場で数度振るって薄緑の軌跡を描くと、その切っ先をフェイトへと向けた。

『参りましょう、マスター』
「全力でかかってくるといい」

 剣が光を帯び、不敵な笑みを見せたに、フェイトは同じように笑みを浮かべてうなずいた。
 まずはフェイトの単身戦闘力から。
 エイミィの声に不服げな返事をして、アルフはしぶしぶ下がっていた。
 ゴハンも食べたやる気マンマンだったところに水を差されたからだろう。もっとも、これから行われるのは大事な試験だから仕方ない。
 アルフさんはフェイトの後でね、というの一言に仏頂面で返事をしていて、フェイトは苦笑した。

「それじゃ、準備はいいかな?」
「……いつでも」

 愛斧バルディッシュを構え、フェイトは考えた。
 訓練の相手はAAA+ランクのクロノ。AAAランクの自分より上で、もちろん勝てたことなんてない。
 そんな彼と、は自分より下のAランクでありながら対等な戦いをやってのける。
 それほどに戦闘経験は高い。だからこそ、クロノに勝てなかった自分ではきっと勝つことはできないだろう。
 でも。

(勝たなきゃ!)

 なのはも毎日頑張っている。

「ランサー、セット!!」

 だから、私も負けていられない。

『Windigrand』

 が剣を振りかぶる。
 自身の周囲にフォトンスフィアを生成し、攻撃を繰り出そうとする彼を威嚇する。

『Get set』

 すべては駆け引きなのだ。
 どのように動いて、どのように攻撃して、どのように倒すか。
 相手の手の内がほとんどわからないからこそ、二手三手先を読んで行動することが重要になってくる。
 そしてそれこそが、勝ちをもぎ取る秘訣。
 相手の出方を伺いながら戦うことの難しさは、よく知っている。
 それでも。

「ファイアっ!」
「……んっ!」

 自分は、やらねばならないのだ。
 攻撃は同時だった。
 フォトンスフィアから発射される無数の魔力弾と、風をもってすべてを切り裂く刃。
 連射が利かない分に分が悪かったが、複数の魔力弾を切り裂いて爆発を起こしていた。
 フェイトが放った魔法は高速直射型の射撃魔法『フォトンランサー』。
 白煙が漂い、両者の視界を侵す。しかし、2人は止まることはなく空を駆け続けた。
 斧の部分が水平に広がり、黄金の刃を生成。バルディッシュの近接戦闘形態『サイズフォーム』から展開された様は、斧よりもむしろ鎌と言えた。
 勝負を決めるために速度を上げるフェイトとは裏腹に、はアストライアを変化させていた。
 本人の身長を超える突撃槍。その形態の通り突撃魔法を得意とする形態だ。
 水平に構えて正面に円形の魔法陣を生成した。
 この陣は突撃槍――バーストフォームによる魔法の核ともいえる、即席の加速装置なのだ。

 煙が晴れる。
 の眼前に展開されたミッドチルダ式の魔法陣を視界の中心に納めて、空を疾駆していたフェイトは本能的に制動をかけていた。
 陣の影でほとんど見えないの姿に戦慄したのだ。自身の危機を本能的に感じ取った、のかもしれない。
 停止すると同時に、反射的に手を突き出す。それと同時に、大きな槍を持ったがすごい勢いで突っ込んできたのだ。
 躱すヒマがないほどに。

「っ!!」
『Round Shield』

 だからこそフェイトは自身を守る盾を張った。
 眼前に展開される魔法陣。多くの魔導師が使用している、防御力の高い盾である。
 瞬く間にフェイトとの距離をゼロにしたは、防御の上から突撃槍を衝突させた。

「くっ!」

 耳を貫くほどの爆音と共に、は盾を構成したフェイトを強襲した。
 強固な防御の上からでも腕が痺れるほどの有していたの突進は。

『Sky diver』

 まだ、ほんの序の口だった。
 トーンの高い電子音声が耳に届いたかと思えば、眼下から強い衝撃。
 耐え切れず、フェイトは盾ごと宙を舞っていた。
 もちろん、その勢いを殺そうと魔力を噴射するが。

「それは、ダメだ」

 フェイトの身体が空中で停止した瞬間、盾の正面でが突撃槍を振り上げていた。
 鍛え上げた腕力と己にかかる重力を武器に、言葉と同時に力の限り振り下ろす。
 今しがたの強襲で消耗していた盾は最後までフェイトを守りきるとまるでガラスのように霧散していく。
 フェイトは自身にかかる力に耐え切れず、真下へと叩き落されていた。
 しかし、彼女も負けてはいない。
 追加砲撃のために槍の切っ先を向けたをターゲットに、未だ痺れている手を突き出した。
 バルディッシュの魔力刃が霧散する。同時に金の魔法陣が浮かび、強い輝きを見せる。

 勝つ。そのために、今できる最高の攻撃を放つ。
 試験に合格するために。

「撃ち抜け、轟雷!!」
『Thunder Smasher』

 集束した雷が、を襲った。
 同時にスカイダイバーの追加砲撃が展開、発射された。
 カートリッジを1個使った砲撃だが、巨大な魔力には敵うわけもなくあっという間に霧散する。

『Steig-eisen』

 視界の全てが金で埋め尽くされ、先日のなのはとの模擬戦が脳裏に浮かぶ。
 巨大すぎるほどの魔力と、一面に広がった桜色。
 それに比べると目の前の金はマシな方だが、それでも受ければ危険。
 だからこそ、手を突き出して盾を展開した。
 かつての愛機クサナギより受け継いだ防御魔法。
 金の中に緑が光り、同時にかかる衝撃。

「っ!」

 その衝撃に表情を歪める。
 衝突の直後は勢いに押されて背後へ盾ごと押し出し、身動きが取れない。
 少しでも気を抜けば盾破壊され、それこそ見事に吹っ飛ぶだろう。
 受け止めてなおこの状況なら、打開策はたった一つだけ。

 ……強引に躱すしかない。

『Blade form』

 考えていることは、同じだったらしい。

「よっしゃ、アストライア。、少し試してみようか」

 そんな一言に呼応するように、アストライアは明滅し、同時に2発分のカートリッジを放出した。
 行うは回避行動。さらに拘束魔法で勝ちを狙う。目の前の魔法は高速直射型。回避するなら最大速度で行かねばなるまいて。
 変化するは小ぶりな片手剣。移動速度を極限まで引き上げるため、スピードを重視したチョイスだ。

『Blight move』

 盾の消滅と同時に、の姿が掻き消えた。

 一方、サンダースマッシャーという名の砲撃魔法を繰り出したフェイトは、遥か彼方へ消えていく金を見据えてなお警戒を解いてはいなかった。
 相手はAAA+と対等に戦うほどの人間だ。同時に、母であるプレシアとガチンコ勝負を仕掛けるほどの力の持ち主である……プレシアとはやはり、力の差がありすぎたようだが。
 Aランクで、自分以上のランクの人間を相手に戦える。そんな1つの手がかりから、フェイトはとある結論に至っていた。
 彼は、戦い方が巧いのだと。
 どんな相手でも、どれほどの高速な戦闘が展開されてもなお、思考を止めず一つ一つに答えを導き出す。
 だからこそ、今回もきっと。

「………………え?」

 どこからか自分を狙っていると思っていたのだが、それはフェイトにとって最悪の形となっていた。
 自身を包む緑色の光。形成される即席の檻。
 フェイトはその中心で、身動きを取れなくなっていた。

「ほ、捕縛魔法……いつの間に……!?」

 そして、目の前で浮かぶすすけたバリアジャケットの少年。
 彼は彼で、戦闘の終息を確信し笑っていた。

「近接戦闘の経験は上々。先の読み合いと防御のタイミングに少し難あり、ってところかなぁ」

 勝負あり。

 個人戦闘はの勝利で幕を閉じた。
 お疲れさん、と彼女を捕縛していた檻をかき消して、向けていたアストライアの切っ先を下ろすと、先ほどまでのピリピリとした雰囲気が彼方へと吹っ飛んでいく。
 フェイトと共に地面へ降り立つと、彼女は暗い表情でぺたんと座り込んでしまっていた。
 目尻には涙が溜まっている。

「これで個人戦闘は終了な」
「うん……」

 沈んだ雰囲気のフェイトを心配しおろおろするアルフだが、

「じゃ、次はアルフさんも一緒に連携戦な」

 告げられた一言に、驚いたかのように顔を上げていた。
 そんな表情を意にも介さず、座り込んだままの彼女に手を差し出す。

。私、不合格じゃないの?」
「…………は? あ〜……」

 一瞬首をかしげてから、

「あはははははは!!」

 今度は声を上げて笑っていた。
 なぜ笑っているのかわからないフェイトは、頭上にはてなを浮かべて首をかしげる。
 彼女は、この試験に負けたら不合格だとずっと思い込んでいたのだ。
 それが過去の自分に重なって、さらに笑いがこみ上げる。
 なぜなら、彼も過去にこの試験を受けて、クロノを相手にボロ負けしたのだから。

「ははは……べ、別に負けたら不合格ってワケじゃないから大丈夫だって」
「………………え」
「この試験の目的は戦闘技術を見ること。別に勝敗は関係ないんだよ……っく〜、腹痛い」
『なに言ってるかなぁ。自分も同じだったくせに』
「い、言うなエイミィ!!」

 目の前で展開する1人漫才を眺めながら、フェイトは状況を整理した。
 試験は『戦闘技術』を見るだけだから、勝っても負けても結果には関係ない。
 つまり、これで終わりというわけではない。

「そ、そうなんだ……じゃあ」
「うん。試験は続行。次は連携戦」

 そんなの一言に、フェイトはぱっと笑顔になっていた。


 ●


「魔法技術も、使い魔との連携もほぼ完璧。戦闘も攻撃に傾倒しすぎだけどまぁ合格点」

 嘱託魔導師としては申し分ないかな、と。
 レティは手元に浮かんだコンソールを見ながら口にした。
 ちなみに、連携戦はの敗北。フェイトとの個人戦闘で残りのカートリッジを半分以上使い果たしていたため、途中でガス欠。
 砲撃魔法であっさり負けていた。
 もともとAAAランクの魔導師とその使い魔を相手に、Aランクの彼がよくもまぁ長時間保ったものだと自分で自分をほめてあげたい。
 なんては試験後に思ったりもしたが、なにはともあれ。

「おめでとう、フェイトさん。これをもって、AAAランク嘱託魔導師認定されました」

 あとは、認定証交付の際の面接のみ。
 ようやく手にした嘱託魔導師の資格に嬉しさを感じ、フェイトとアルフは小躍り。
 お祝いするから、というエイミィの提案にも便乗することになったのだが、内心では明日から約1週間ほどの休暇が楽しみで楽しみで仕方なかった。
 病院でのステキライフとはまた違った嬉しさである。

 フェイトは1歩ずつ、『本当の自分』をはじめていた。



「ねぇ、くん」

 意気揚々と試験場を後にしようとしたところで、リンディに話しかけられていた。

「なにか?」
「少し気になったのだけれど、個人戦闘の最後になにか……特別なことしなかった?」

 個人戦闘の最後、彼は確かにやっていた。
 盾消滅直後の高速移動魔法と捕縛魔法。
 複数の魔法をたった1人でほぼ同時に発動させたのだ。

「……あ、やっぱりバレましたか」

 見ている人は見ているのだ。
 高速移動から捕縛魔法を発生させられるほどの時間はなかったはずだから。
 実際、自身驚いているのだ。
 ……まさか本当にできるとは、と。

「思っている通りですよ。俺、2種の魔法を同時に使いました」
「やっぱり……」

 いままでに2種の魔法の同時発動など、やってのけた人間はいないだろう。
 拘束魔法の設置後に砲撃魔法、なんて方法は常套手段だが、今回のようなケースは初めてだった。
 クサナギを使っていた頃はできなかった。新しいデバイスになってからできたということは、理由がそのデバイスにあると言っているようなものだ。
 遠距離と近距離。2つの顔を併せ持つ、新しいシステムを積んだデバイス。
 これが由来で名付けられたデュアルデバイスだが、実は開発者にすら見つけることができなかったもう1つの由来。
 それは。

「カートリッジを多めに消費しての、複数魔法同時発動。これ、見方を変えればヤバいですよ」

 使用者だからこそ見つけられる、新たな側面。
 プロトタイプだからこその、技術者たちにとっての醍醐味であった。





A's編に入れませんでした。
コミックに掲載されているフェイトの嘱託試験を中心に描いてみました。
本来はクロノくんだった試験官の役割を主人公に強引におしつけてみました。

※ちなみに、A's編からアストライアの言葉を英語から日本語表記にしておきました。


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