さて。
 結局残りの5日間、高町家で何事もなくつつがなく過ぎていって。
 3日ほどで魔法の行使にほとんど支障がなくなったことを確認して、あとはレティ提督に報告。
 難しい顔で、

「詳しく調べてみる必要がありそうね」

 なんて言っていた。その調査任務が自分に回ってこないことを祈っていることにしよう。
 あとはリンカーコアの回復方法。少しずつ魔法の行使を行っていけばいいらしいのだが、面倒だったのですることなく散歩に出かけたり道場で汗を流したり。
 士郎と桃子の働く喫茶店『翠屋』にお邪魔してみたり……シュークリームがサイコウにおいしかった。
 恭也と美由希に便乗して剣術の稽古なんかもしてみたりした。
 なのはの友人、アリサとすずかにも引き合わされたが、

「あんなところで寝てたらカゼ引いちゃうよ?」
「いーのよ、あんなアホみたいな顔して寝てるヤツなんか。ほっとけばいいの」

 先日の一件で自分が寝ていたところを見ていたらしく、そのあたりをなぜか異常に注意されたりした。
 アリサの言葉に少なからず毒があって、からすれば苦手なタイプであるからか苦笑しながら飄々と流してみればさらに神経を逆撫で。
 一方的に色々と言い寄られて面倒なことこの上なかった。
 詳しく書けばスゴイことになりそうなのであえてやめておくことにするが、最終的には指で耳栓をしたことだけをここに記しておこう。
 残りは、ご想像にお任せします。

 さて。
 そんな5日間の中の1日だけ、しかもたった数時間の出来事を今回はつらつらと書き綴ることにしよう。
 リンカーコアの回復がほとんど完了し、魔法の行使が支障なくできるところまで回復したところで。
 彼女は現れた。

くんっ!」

 ばぁん、と扉を勢いよく開け放ち、現れたのは茶色の髪を黒いリボンでまとめ、ツインテールにした少女だった。
 ここ高町家の末っ子にして、最近魔法のトレーニングに余念がないという高町なのは嬢。
 まだ太陽が鼻先を出したばかりの朝っぱらに満面の笑みで現れた彼女は、どことなく嬉しそうだった。
 私服なのは、これからトレーニングに出かけるからだということは、布団の中でもぞもぞと動くもわかっている。
 オレンジの上着に赤いスカート。活発な女の子らしい服装だったが。

「むぅ〜……なぁに、なにか用事?」

 彼女に呼ばれ布団の中で身を起こした少年はそんな彼女とは正反対。
 着崩れた借り物の寝巻きに少し長めの髪は寝癖大爆発。心の底から眠そうに目を擦り、さらに大口開けて欠伸。
 だらしないことこの上ない。

「……まだあさはやいんだから、もうすこししずかに……あふ」
「私と一緒に魔法の練習行こーよ」

 こんな朝っぱらから浮き足立っているのは、魔法の練習が嬉しいからだろう。
 眠気の取れない顔で嬉しそうに笑っている彼女を見やり、その眩しさに思わず目を細めてみる。
 もちろん、実際にピカピカしているわけではない。根っから面倒くさがりの彼が、自主的に練習に行こうとするその行動が……しかも嬉しそうな表情があまりに眩しかったわけだ。

「……………………」

 そんな自分が一生得ることができないだろうその輝きに目を細めながら、

「すぅ」
「寝ないでよぉ、起きてよぉ……く〜ん」

 というわけで、半ば引きずられるように身支度をして出かけたのだった。



   
魔法少女リリカルなのはRe:A's   #14



「ふわ……」

 眠気が相変わらず飛んでいかず、大きな欠伸。
 一般人に魔法がバレないようにと結界を張ったユーノの隣で、は力なく座り込んでいた。
 一緒に来たなのははバリアジャケットを着て、レイジングハートを手に上空を飛び回っては得意な砲撃魔法を撃っている。
 相変わらず、清々しいくらいに高出力。
 プレシアとの一戦でちらりと見ただけだが、こういう光景を見るとその力の大きさが伺えるというものだ。
 しかし、欠点もある。
 遠距離〜中距離の収束砲撃はまさに一級品。その分、接近戦を強いられれば苦戦は間違いないだろう。
 戦闘経験の浅い彼女が、よくもまあ生き残ってこれたものである。

「ま、それも恵まれた才能のおかげかな」

 と、が呟いてみれば、隣で結界を制御するユーノがうなずいて見せた。

「……うん。なのははすごい才能を持ってるよ。正直……うらやましいくらいに」
「へー、ユーノはなのはちゃんがうらやましいんだ?」
「いや、今のはその……言葉のアヤってヤツで、別にそういうわけじゃ」
「なのはちゃんもそうだけど、フェイトはフェイトですんばらしく恵まれてるからね。羨ましいのもよくわかるよ」

 実際、羨ましいと思った。AAAクラスの魔力を持っている、という一点だけでも。
 はAランク。これは潜在する魔力量を測ってのAランクだ。
 技術は後付けでしかも半分以上が我流。デバイスに依存している部分が8割を超えている。
 だからこそ、彼は面倒くさがりなりに努力した。
 努力して努力して努力して、ようやく今の立ち位置――管理局きっての接近戦闘のエキスパートという立場にいるのだ。
 任務を単独でこなすようになってから武装隊や戦技教導隊からスカウトされることが多くなって、正直困っていたりもする。
 エリート中のエリートなどといわれている戦技教導隊だが、あの手の隊は間違いなく体育会系と相場が決まっている。
 個人の認識だが、そんな部隊はこちらから願い下げ。
 いかに楽して暮らすかが問題だというのに、自分が人にものを教えるなんて大それたこと、できるわけない。そもそも、やる気すらない。
 彼は、どれだけ楽をして暮らしていけるかをまず考える人間なのだ。

「……さて、いつまでも待たせるわけにはいかないし。そろそろ準備するかな」
「今日はなのはと模擬戦だったっけ?」
「そ。なのはちゃんはえっと……スターライトブレイカーだっけ? それに発射シークエンスを変えてみたから、実用性の有無をかねて試射してみるって」

 彼女とレイジングハートの誇る最高威力の砲撃魔法。それがスターライトブレイカーだった。
 読んで名のごとく、星をも砕くほどの威力を誇るほどの魔法だ。発射にもそれなりに時間がかかるため、高速戦闘ではあまり役に立たない。
 ……名前の由来はそこじゃなく、魔力の集束がまるで流星のように見える様を言うのだが。
 改善点はある意味でそこじゃないかともユーノも思ったわけだが、どうやら違うらしく。

「チャージタイムを増やして威力増強! 星なんかぶち抜く威力だよ! ……だ、そうだよ」
「…………」

 えー。

 腰からアストライアを外したところで固まる。
 AAAランク魔導師最大の砲撃魔法の威力増強。それがどれほどのインパクトを有しているかは言わずもがな。
 これから模擬戦を行う自分の安否が気になる一言だったりする。

「そ、そーいうことはもう少し早く言ってほしいかな」

 細身の槍へと変化を遂げたアストライアを手に、滝のような汗を流しつつ苦笑。
 ランサーフォーム。遠距離戦闘の先駆となる形態だ。
 もっとも、そんな形態を取ったからといって、彼女に遠距離でガチンコ勝負を挑むわけではない。
 あくまで牽制である。自分は近接戦闘のエキスパート。スピード重視で相手を撹乱させるのが目下の行動方法だ。

 袖の細い羽織とズボン。色は白一色のバリアジャケットが同時に彼を包み、彼の身体はふわりと宙へ浮かび上がった。
 一応、残りのカートリッジも装填しておく。結局、カートリッジの補充はほとんどできなかった。
 魔力の重点に昨日1日の大半を使ったのだが、なのはとの練習をすっぱり忘れていたこともあり、先日の戦闘の残りとあわせて計12発。
 アストライアは燃費が悪いと先の戦闘で発覚したからこそ、考えて使わねば、と思う。
 あとは外部からの余計な介入がないことを祈るだけだ。

「今日もよろしく、アストライア」
『Yes. Let's GO!!』

 核である宝石を淡く輝かせて、アストライアはの声に応えた。

「なのはちゃ〜ん、そろそろやろっかー?」
「ほんと!?」

 嬉々とするなのは。
 今まで1人で訓練することが多かったからか、はたまた別の思いがあるのか。
 その真意は彼女にしかわからないが、彼女のその性格が将来、あさっての方向へ曲がっていかないことを願って止まない。

「もう太陽も出てきちゃってるから、時間は10分間ね。あとデバイスはもちろん非殺傷設定で」

 適当な割りにもっともらしい理由をつけて、時間制限を設けた。
 正直、無制限1本勝負なんかやっていられない。自身の、そしてアストライアの戦闘における核とも言えるカートリッジが少ないことが大きな理由だ。
 なのはからすれば貴重な実戦経験だが、からすれば満足に戦えない状態であり、さらに彼自身長く戦うなんて面倒なことしたくないわけで。
 ランサーフォームのアストライアの切っ先をなのはへと向けると、二つに割れた先端に緑の刃が具現する。

「俺は接近戦がメインだからね。そこのところ注意して」
「うんうん。クロノくんから聞いてるから大丈夫」

 笑顔でそんな答えを返して、なのははレイジングハートの先端をへ向ける。
 戦闘準備は万端。
 あとは、開始のゴングを待つのみとなっていた。
 時間のカウントは言うまでもなくユーノの役回りだ・・・というか彼しかいない。
 少しひんやりとした風が2人に吹きつけ、止まる。

『はじめ!』

 そんな中、ユーノは始まりの合図を口にした。


 ●


「ディバインシューター……」

 先に動きを見せたのはなのはだった。足元に桜色の魔法陣を具現させ、赤い宝石が光を帯びる。
 同時に彼女の周囲に浮かび上がったのは、4個の光球だった。
 ディバインスフィアと呼ばれる、魔力球の発射台だ。
 高い機動性を持つ相手に対し、そのスピードを殺すことを念頭に置き、同時にダメージすら与える攻撃魔法だ。
 射撃魔法に分類されるこの魔法は、弾速、攻撃力こそ低いものの誘導操作すら可能なため、相手を翻弄するには十二分に力を発揮する。
 今回相対しているも、そのケースにあたる。
 接近戦をメインとしている彼だからこそ、迂闊に近寄れない状況を作り出す。
 しかし。

『Wind bullet』

 彼はその手の槍の切っ先を天へ掲げて、響いたと同時に何度も振り下ろして振り上げる。
 魔力によって生成されたその切っ先が変形、三日月形に広がり、魔力球を2つほどまとめて真っ二つにしてしまったのだ。
 続いてその切っ先をなのはへと向けると、その切っ先が緑の弾丸となって数発発射された。
 初速からトップスピードで、まさに弾丸のごとくなのはを肉薄する。
 それに驚いた彼女はレイジングハートを盾にすることで防御陣を展開、難なく飛来した弾丸を弾き飛ばすと、同時に彼の姿を探した。
 しかし、さきほどまで存在していたの姿が忽然と消えてしまっている。

「ど、どこ……っ!?」

 呟くと同時に、感じた魔力。
 いつの間に移動したのか、彼女の側面で魔力の高まりを感知し、振り向く。
 その先にいたのは、小ぶりな片手剣を振りかぶったの姿だった。
 高速移動魔法『ブライトムーブ』と同時にフォームチェンジ。攻撃力を犠牲にしてスピードを飛躍的に高めるブレイドフォームへ変形させ、上昇した速度をもってなのはに近づいていたのだ。

「行くよ……っ!!」

 特に魔法を使ったわけではない、純粋な斬撃がなのはにおそいかかる。
 とっさにレイジングハートを突き出して剣の進行を防ぐが、同時に痛感していた。
 彼と自分の、あまりにありすぎる経験の差に。
 火花が飛び散り、普段から鍛えられているの純粋な腕力に耐えられるはずもなくなのは真っ直ぐ下へ吹っ飛んでいく。
 それを追いかけることなく、続いてさらにフォームを変えた。
 彼の背丈をゆうに越えた、突撃槍。
 そのあまりの存在感に、なのはは感じる衝撃に表情をゆがめながらも薄く目を開いた。

「っ!?」

 戦慄。
 背筋を通り抜ける冷たいなにかが、「逃げろ、逃げろ」と警告している。
 それもそのはず、その槍の切っ先にはサッカーボール程度の大きさの魔力球が生成されていたのだから。

 は衝撃を抑えきれず吹き飛んでいくなのはを眼下に、変化させた突撃槍の切っ先を彼女へ向けた。
 今回の模擬戦は、発射シークエンスを変更した『スターライトブレイカー』の実用性の確認のほかに、アストライアとの呼吸あわせという名の戦闘力の確認もかねていた。
 機械音と共にカートリッジが1発、柄の根元から吐き出される。本来は相手との間合いを詰めて上空へ吹き飛ばし、それを追いかけてさらに叩き落す突進魔法『スカイダイバー』の追加砲撃のみをやろうとしているのだ。
 スカイダイバーによって叩き落された相手に向かっての追加砲撃。カートリッジ1発を犠牲にしての砲撃だ。相手も身動きが取れない状況であるため、まず躱しきれないだろう。
 それが戦闘経験の浅い魔導師ならば、なおさらだ。
 バーストフォームという名の突撃槍に施された装飾が光を帯びる。

「ショット……!!」

 声と同時に、一条の光が眼下の魔導師へ向けて照射された。
 迫る緑の魔力光。
 ようやく衝撃を殺し、宙へ留まるに至ったなのはは考えた。
 迫る光は速い。今しがたようやく衝撃を殺しきれたばかりであるため、躱すのは論外。砲撃で迎え撃つにしても、時間が足りない。
 ならばどうする……?
 答えは、考えるまでもなかった。

『Round Shield』

 レイジングハートの声。
 魔力攻撃に対する防御に優れた円形の盾が彼女の掲げた手の先に作り出され、同時に激しい衝撃が彼女を襲った。

「くぅ……っ!」

 表情にゆがみが走る。後付けの砲撃だからか、その衝撃は長続きすることはなく、十数秒で跡形もなく霧散した。
 機動性を犠牲にして得た高い防御力が、彼女自身を守っていた状態とも言えるだろう。
 盾が消え去り、なのはは頭上のを見上げる。
 彼の手には再び槍が納まっており、2回ほどの機械音と同時に軽く蒸気が立ち上った。

「え……?」

 彼の周囲に具現したのは、5個の魔力球だった。
 先の戦闘で大破したクサナギでも用いていた直射型の射撃魔法。
 全てを貫く光線という名の、ディバインシューターと同種の魔法だが。

「負けないもんっ!」
『Shooting Mode Setup』

 自身の主砲で迎え撃つことにした。
 同時にもう1つ、罠を設置しておく。相手は接近戦をメインに戦う。相手の死角に回るのは敵を倒す常套手段。
 それを見越しての、1つの罠。
 模擬戦だからと油断していたはこれに、あっさりとつかまってしまうことになる。

『Alleseindringen』

 足元には頂点に円を描いた三角形の陣を敷き、自身を中心にふわふわと浮かぶ5つの魔力球。
 お守り代わりに身に着けているクサナギが装備していた魔法の1つだ。
 自身の戦闘データが継承されているアストライアだからこそ、そんな魔法もできるわけだ。
 今回はその起動確認。
 模擬戦だからこそ、眼下のなのはへ向けて飛ばそうとしたのだが。

「げげ」

 彼女はなんと、レイジングハートの先端に魔力を収束させていた。
 ヘッドが音叉状のそれに変形し、周囲を環状魔法陣がゆっくりと回転している。
 その先端に集まっていく魔力の塊は、彼女の十八番である砲撃魔法の発動を意味していて。

「ショット!!」

 魔力球を飛ばしたと同時に。

「ディバイン……バスター!!!」

 打ち合えば負けなしとも言われている砲撃魔法がへ向けて発射されていた。
 彼が作り出した魔力球はあっさりその閃光に飲まれ、消えている。
 もはや迎撃している余裕はない。真っ向から打ち合えないならば、持ちうるスピードをもって躱せばいい。そろそろいい頃合だからこそ、同時に背後に回りこみ相手を無力化する。
 巨大な魔力が高速で迫る中、は目を閉じることなくアストライアを振り構える。

『Blight move』

 ブレイドフォームに劣るものの中々の速度をたたき出し、通過していく桜色の魔力を横目に。

(取った!)

 なのはの背後へと回り込んだ。
 ……のだが。

「へっ?」

 動けなくなっていた。
 慌てて見てみれば突然現れた光の輪がの両手両足を拘束しているではないか。

!? しまった……っ!?」

 気付いたところで、もう遅い。
 なのははしてやったり、といった表情を見せながら距離を取り、レイジングハートの先端をへ向けていた。
 ヘッドの手前からは光の羽根が広がり、急速に集まっていく魔力の集束がなんとも恐ろしい。

「作戦大成功♪」
『Starlight Breaker Standby ready……』

 レイジングハートの一言は、まさに不吉の言葉だった。
 スターライトブレイカー。それは、今回彼女が試射するべき対象の魔法であり、彼女の持ちうる最大威力の砲撃魔法だ。
 その言葉を耳にして、の表情はさー、と青くなっていく。
 滝のような汗が流れ、必死に拘束を解こうと身動く。

『Count 9, 8, 7, 6……』
「や、ヤバいヤバい!!」

 しかし、光の輪は解けるどころかむしろより一層強く拘束してくる。
 ……じょ、じょーだんでしょ?
 いくら非殺傷設定になっていても、この集束具合は正直危険極まりない。

『5……』

 そんなことを思っても、時間は無常にも過ぎていく。

「う、うおおお……っ!!」

 あがく。
 足掻く。
 とにかく拘束を外すことだけに我武者羅になってみる。
 あんなの食らったら……死ぬから。

『4,3……』

 魔力を流し、干渉。
 同時に両手両足に力を込める。

「ぬおぉぉ……!」
『2……』
「スターライトぉ……」

 こればっかりはカートリッジを使っても意味を成さない。
 術者の力の大きさと相手の技術が大きく反映してくる。
 力任せで解けるものかといえば、そうではないだろう。
 しかし。

『1』
「おおおらぁぁぁっ!!」

 ぱぁんっ!!

 残り1秒を切ったところで、拘束を強引に吹き飛ばしていた。
 息切れもそこそこに、のピンチはまだまだ続く。

「ブレイカー―――!!!」
『Starlight Breaker』

 1秒と経たずに、高町なのは最大の砲撃魔法が情け容赦なく発射された。
 発射されてからの速度も意外と速く、あっという間にの元へと到達。

「ぬっ、おおぉぉぉ!!」

 で、最後まで足掻いた。
 ブレイドフォームへと変化させ、同時にアクセル全開。
 最高速度で真横へ移動するが、移動を始めたときにはすでに膨大な魔力の中に呑まれつつあった。
 移動魔法でなんとかスターライトブレイカーの範囲外へ出てみれば、自身のバリアジャケットはボロボロになっていた。
 それを気にすることなく、は宙を駆ける。
 いつの間にか意外に距離が取られていてギリギリ避けられたため、もう少し近ければ今頃、スゴイことになっていただろう。
 大変な事態に陥らなくてよかったと内心で大きくため息を吐いて、排気ダクトから蒸気の吹き出ているレイジングハートを眺めているなのはを一気に肉薄する。
 もちろん、近づいてくるに気付かないなのはじゃない。
 レイジングハートの先端を向けて、数個の魔力球を具現され、放たれる。

「そりゃあっ!!」
『Windigrand』

 しかし、それらを刃に纏わせた風で一気に斬り裂くと。

「俺の勝ち」
「……むぅ」
『そこまで!』

 模擬戦の終了時間とほぼ同時に、勝敗が決していた。


 ●


「やっぱりくんはすごいね」
「そりゃ、経験に差があるからね。でも、さっきのはちょっとヤバかったよ」

 よくトレーニングしてる証拠だね。

 なんていいながら、は引きつった笑みを浮かべた。
 言葉どおり、本当にヤバかったのだ。
 いくら非殺傷になっていたとはいえ、あれだけの集束砲。食らえば魔力を根こそぎ削り取られて、あっという間に勝負をつけられたはずだ。
 ……すばらしいほどのポテンシャルの高さだと正直思う。

「でもでも、スターライトブレイカーも結局避けられちゃったし」
「……あんなのむやみに使っちゃダメだと思うよ、俺は」

 実際、シンプルな単純魔力砲なのに、集束する魔力が余りに膨大だからこそ、バリアジャケットがあっという間にボロボロにされたのだ。
 疲れたと言わんばかりに座り込んでみる。
 そんな光景になのはは苦笑しながら、

「それじゃ、帰ろっか。お母さんのおいしい朝ごはんが待ってるよ」
「うん、そうだね」
「お〜う」

 そんなこんなで、4日目が過ぎていく。
 ちなみにその日は、は一歩も外に出なかったことをここに記しておこう。
 原因は無論、朝の模擬戦である。

「あ〜、平和って幸せだよね♪」





強引にこれで間章終わりです。
次回よりA's編へ入ることになりますが、次回の冒頭で
少しばかりホームステイの最後だけ触れておこうと思ってます。


←Back   Home   Next→
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送