さて、やってきました高町家。 和風の門と母屋。離れに同じ作りの道場。 そんな敷居をまたいでみれば。 「いらっしゃ〜い♪」 そこでは満面の笑みを浮かべた女性が両手を広げて立っていた。 一緒に入ったなのはすら驚いているところを見るに、彼女も今の状況を把握しきっていないらしい。 目を丸めて、目の前の女性を凝視して。 「お母さん、なにやってるの?」 「なにって……決まってるじゃないのなのは♪」 見当がついていない様子のなのはさん。 頭上にハテナマークを浮かべて、首をかしげていた。 無論、隣のも事情なんか知るわけもない。 仕事に対して少しばかりの情報をもらってこの場所にいるだけだから。 今日はもういいや、と言わんばかりに下宿先――つまりこの高町家を訪ねたのだから。 目の前の女性――なのはの母上殿は。 「ホームステイよ、ホームステイ。お母さんのレティさんから聞いてるわ……って、なのはには言ってなかったかしら?」 ……つまり。 の下宿先がやはり高町家で、しかもホームステイという名目で。 「今日から一週間、よろしくね…… くん♪」 いろんな意味で、はまたしてもレティ提督に謀られたらしい。なのはの住まいを知るリンディ提督までもがグルになって。 しかも、レティ提督と自分が母子の関係になっている。 ……情報を捏造したな、あの人。 ああ、レティ提督の高笑いが聞こえてきそうだ。 ――クロノくん、なぜ彼女たちの陰謀を止めてくれなかったのかな……? 魔法少女リリカルなのはRe:A's #10 内心でげんなりしつつ、高町家へお邪魔したは、寝食を共にする家族の皆さんを紹介された。 まず玄関でずっと待っていたらしい女性がなのはの母、高町桃子さん。 で、案内された居間で新聞を読んでいた男性が彼女の父、士郎さん。 「よろしく。君のホームステイを歓迎するよ」 で、彼とほとんど変わらない髪形の、まだ彼よりも年若い青年は兄の恭也さん。 丸メガネの似合う女性が、姉の美由希さん。 2人とも剣術家で、兄と妹という立場であると同時に、師匠と弟子な間柄らしい。 「短い間だが、よろしくな」 「家族が増えたみたいで、私も嬉しいよ」 ……と、家族全員がの訪問を歓迎してくれていた。 顔を少しばかり引きつらせながら笑みを見せると、頬を赤く染めて。 「あ、あの……よろっ、しく……お願いしますです」 無駄に身体を固くして、慌てながらも深く一礼。 こうして、短い期間ではあるものの、彼は高町家の一員になった。 ……慌てるのも、仕方ないだろう。 なにせ、は家族の存在に恵まれないまま、今まで生きてきたのだから。 正直、対応に困っただけなのだ。 (そうか……あの2人の狙いはこれか) そんな中、は理解した。 頑なに家族の存在を拒んできた彼に、その温もりを教えるためなのだと。 ……否、拒んでいたわけじゃない。ただその必要を感じていなかっただけなのだ。 しかしながら、実際に彼は2人の思惑通り、それを強く感じていた。 温かな食事に、にぎやかな笑い声。 それらすべては、が今まで必要としてこなかったものだから。 「…………おいしい」 「そうだろ、そうだろ? 母さんのご飯は絶品だからな!」 の言葉に同意を示す士郎さんの声が耳に入ってくる。 きっと彼も、恭也さんも美由希さんも。そして、なのはちゃんも。 心から幸せなんだろうな、とは思う。 ……これからも今のままでいいと思っていた。 衣食住。そのすべてを自分1人でこなしてきて、無難に過ごしてきたから。 だからだろうか。 「くん……?」 心が強く、嬉しさを感じているのは。 「……泣いてるの?」 箸と茶碗を手にしたまま、流れる涙が止まらないのは。 茶碗を置いて、袖口で目尻の涙を拭って、こみ上げるなにかを吹き飛ばすようかのようにぶんぶんと首を振る。 「ぐしっ……なんでも、ないよ。なんでも……」 自分を見つめるその視線が、自分を少なからず心配していることがわかって。 それすらも嬉しくて。 「ただちょっと……感極まっただけだから」 自身に与えられた食事をかき込んだ。 ● 「知らない天井」 さて、時は流れて日付は変わって。 照らされた光の眩しさに、は目を覚ましていた。 木造の天井に、いつもと違う布団の感触。 見慣れない窓からは朝日が差し込み、の顔を照らし出していた。 「……そうだ、ここは高町家」 いつのまにやら、ホームステイ先になっていた高町家。 レティ提督とリンディ提督がグルになって、なのはの家族に交渉したのだろう。 彼女の母・桃子さんは、昨夜の少しの時間だけでもわかったことがあった。 この人は、元凶の2人と同じ人種だ、と。 上半身だけ起き上がって気だるげに頭を掻くと、しょぼしょぼした目で枕もとの時計を見やる。 ……時刻は6時。いつもなら、まだ寝ている時間。 「場所が変わったからかな」 大きくあくびをすると立ち上がり、「恭也のお下がり」だというパジャマを脱いだ。 着の身着のまま訪れてしまったためか、少しばかり迷惑をかけている。 それを笑って許してくれた桃子さんには感謝だ。 「おはよう」 「あ、おはようございます」 あてがわれた部屋を出て最初に会ったのは、恭也だった。 動きやすそうな黒いシャツにズボン。 手には木刀を持っていて。 「訓練ですか?」 は彼らが剣術家であることを聞いていたから、こんな問いかけができたのだ。 毎朝の日課だ、と恭也は応えつつの顔を少しばかり眺めると。 「見ていくか?」 そんな一言を尋ねていた。 はその言葉に目を丸めて、ばつが悪そうに目をそらすと。 「それじゃ、少しだけ」 ――少しばかり寡黙だけど、いい人だ。 ● 冷たい床に、刺すような冷気。 夏も終わり秋も深まる今日この頃。そんな中で、しかも薄着で2人は稽古にいそしんでいる。 正直、からすれば面倒くさいことこの上ないのだけど。 「えいっ、えいっ!」 「美由希、もう少し腰を使え。剣は腕だけで振るうものじゃない」 「はいっ!」 兄妹という立場であっても、今この時間は師匠と弟子。 稽古に真剣みを帯びるのは当たり前。 しかし、美由希の素振りを見ていた恭也は、道場の端に正座するを視界の隅に映し出していた。 微動だにせず、弟子の一挙一動をその網膜に焼き付けようという鋭い視線。 普段の彼を知っていれば、そんな視線ができることを驚くところだろう。 しかし、恭也は今の彼しか知らない。 ……だからだろうか。 「君も剣を?」 「えぇ!? な、なんでまた……」 「そんな目をしているのだから、誰にでもわかるさ。実力の程はさておき、な」 彼らは、とある流派の継承者たちだ。 現代に生きる剣士として、要人のボディガードなんかも請け負えるほど。 2人ともたった一発で人の命すら奪える拳銃を前に刀一振りで立ち向かえる、超がつくほどの実力者なのだ。 だからこそ、普通に剣道をたしなむ人間では到底彼らに敵わない。 しかし、の場合は少しばかり違った。 「聞き捨てなりませんね」 彼は日ごろから鍛えていたし、剣を模したデバイスだって使っていた。 局員の中でも片手で数えられるほど少ないベルカ式デバイスの使い手に相手をしてもらったことだって多い。 剣の扱いはそこそこ、といったところだが、戦いの経験は誰よりも多いと自負できる。 「上等です……俺の実力、見せてあげますよ」 彼の性格は面倒くさがりである以前に、なんちゃって温和。 負けず嫌い、というわけじゃないはず……なんだけど。 正直勝ち目のない相手だ。 でも、彼の力はデバイスあってこそ。 だから。 (サポート頼むよ、アストライア) (Please leave it up to me, my master) 首に下げた小さなそれに頼るのは、至極当然のことなのだ。 ……メチャクチャ卑怯な気はするけど。 「ほほう、それは楽しみだな」 「俺をただの子供だと思っていたら……大間違いですよ、恭也さん?」 そんな天の声をあっさり無視して、は恭也と視線を交わす。 2人で視線をぶつかり合って、その真ん中ではどこかバチバチと火花が鳴りまくっている。 「くくくくく……」 「ふふふふふ……」 「あの……恭ちゃん? くん? あ、あれぇ〜?」 その間に立たされた美由希は1人、その光景におろおろとしていたのは、言うまでもない。 |
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