PT事件から1ヶ月。 時空管理局本局に帰還したアースラスタッフを待っていたのは、事件の事後処理に追われる毎日だった。 報告書の作成から、重要参考人であるフェイトを待っている裁判の資料作り。 アースラの整備やら各種資材の発注・補充。 本局内の医療施設へ移動したのケガも、それぞれの事後処理が終息を見せたのとほぼ同時期に完治していた。 ……で。 「あぁ……太陽がまぶしいよ……」 太陽なんてないくせに、医療施設の建物の前で頭上に手をかざしてみる男が1人。 、本日をもって退院しました。 げんなりした表情で、しかも至極残念そうにため息をついた。 「まったく、レティ提督も人使い荒すぎだと思う」 彼の退院の期日を聞きつけて、同時に仕事を押し付けてきたのだ。 もっとも、仕事の内容はさほど難しくない。 簡単な調査任務だ。 病み上がりとはいえ新しいデバイスの試運転に、と気を利かせて用意してくれたのだろうが、ぶっちゃけ誰かとのトレーニングでもよかったと思うわけで。 「誰か、代わってくれないかなぁ……」 とぼとぼと建物を背に歩き出す。 ……ああ、残念だ。ホンットーに残念だよ。 一度振り返り、再度のため息。 ただ寝ているだけで食事が出てきて、こちらから頼めばできる限りのことをしてくれる。 そんな素敵ライフを捨てきれずにいたりする。 医療施設というある種の天国に、ずいぶんと囚われてしまっていたのだ。 「あーあ、まだ入院しててもよかったのに……」 仕事なんてめんどいしなぁ。 面倒くさがり、ここに極まれりだ。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #09 とはいえ、ケガの治療という名目で入院していたのだから、仕方ない。 引きずられる思いをそのままに、は転送ポートへと歩き出していた。 彼がいる医療施設から目的地までは、少しばかり距離がある。 飛んでいけばすぐなのだが、押し付けられた仕事の期限はまだ結構あったりするわけで。 何の変哲もない道を、のらりくらりと歩いていたわけだ。 もちろん、知り合いにばったり、なんて展開はほとんどない。 知り合いといっても、の存在は管理局のほとんどの人間が知っているから、つまるところ道を誰も通っていないということになるわけだけど。 狭い世界の中にたった1人。そんな状況に黄昏るだけでも面倒なのに。 「あっ」 という間にたどり着いてしまった。 時間にして30分程度。 距離的にはそこそこ歩いてきたはずなのだが、疲れを感じる暇もなかった。 「あれ、君久しぶり!」 ポート内に入った彼に気づいたのが、メンテナンススタッフの1人であるアマネだった。 青く長い髪をポニーテールにしてまとめて、整った顔立ちに縁のないメガネ。 白衣がなぜかよく似合う、頭よりまず行動派の女性局員だ。 数台あるポートのうちの1台を調整していた彼女は現在、作業用のつなぎ姿。 ……よく似合っているのが意外と言えば意外なのだけど。 「ケガしたって聞いたよ。大丈夫なの?」 「うん、今までずっと入院してた」 今回はちょっとヤバかったよ、なんて言って肩をすくめる。 「そっかそっか……で、今日はお仕事だよね。レティ提督から聞いてるよ」 大変だねー、なんてあっけらかんに言ってのける彼女に、一瞬殺意が芽生えたのは内緒だ。 せっかくなので、この場を借りてレティの他愛もない悪口を言いまくり、本気に取れない陰口を叩いて、その間にアマネは転送先を設定する。 年上の彼女……否。年上だからこそ、の陰口など適当に聞いて流せる器量がある。 も平然と流してくれる彼女に感謝しつつ、とにかくグチを零してみせるのは、いつものことだったりする。 「人徳だよ、人徳。君の存在が、管理局全体に影響を与えているのだー……っと、はいできた」 「さんきゅー、アマネ」 じゃっ。 気だるげにひらひらと手をふると、ポートの中へ。 同じように笑顔で手を振ったアマネは、転送開始のキーを叩いたのだった。 ● さて。話は変わり、ここは日本の海鳴市。 事件が終わり、普通の小学3年生に戻った高町なのはは、学校での勉強だけでなく魔導師としての訓練をも、毎日欠かさず行っていた。 朝っぱらから野外での魔法練習に、私生活でも魔力を消費するようレイジングハートが負荷をかけ、学校での授業中でもイメージファイトを行い、戦闘経験を積む。 で、家の手伝いや塾がなければ夕方からも、そして夕食後も練習。 最初はつらかった、と話す彼女だが、今ではぐったりするまで練習している。 魔法の練習が楽しくて仕方ない、というのが使い魔……もといパートナーであるユーノの言。 それを聞いてクロノが呆れていたことは言うまでもないだろう。 そして、今は夕方。 「いくよ、レイジングハート!」 『All right, my master!』 今日もトレーニングに余念のない彼女。 レイジングハートも彼女の教育に燃え、やる気はマンマン。 メニューは、砲撃魔法の実践訓練。 そんな中、とある公園に転送陣が具現した。 である。 今回の任務はここ、海鳴での調査。 なんでも、この世界を中心に周囲の世界、任務に派遣された武装局員が魔力の源『リンカーコア』を奪われるという事件が多発しているという。 丸ごと抜かれたわけではないため、死者はいなかった。 しかし、何らかの関連性があるからという理由で、原因を調査するためにが遣わされたのだが。 「正直、病み上がりの人間にはひどい仕打ちだと思うなぁ」 転送陣が消え闇に包まれた空を見上げて、大きくため息をついた。 春のぽかぽか感はなりを潜めて、蒸し暑い。 そのせいか周囲に人はおらず、噴水から出る水の音だけが響いていた。 この世界の『魔法』という概念はない。 だからこそからすれば都合がいいことこの上ないが、ともあれ。 「……今日はもうめんどいからいいや。えっと、この辺りの局員の詰め所は……と」 もはややる気など皆無だった。 まったく、今この時間も訓練を黙々と積んでいるなのはとは真逆だ。 医療施設で渡された地図を頼りに、は一路、とある建物を目指し歩き始めたのだった。 ちなみに、今回の滞在期間は一週間。 少しばかり気の長い任務だった。 ● 「なのはー、そろそろ帰らないと夕飯に間に合わないよ」 「うん、わかった! それじゃ、最後に一発いくよ?」 『All right』 ユーノの声がかかり、本日の仕上げ。 シューティングモードに変化させたレイジングハートの先を夜の空に向けて。 「ディバイン……」 『Divine』 生成される桜色の魔力球を見て、その視線を空へと向けて。 「バスター!!」 『Buster!!』 その光を、夜の空へと放った。 もちろん対象なんかいないから、ただ空へと上って霧散するだけ。 結界だって張ってあるから、一般の人々はなのはが魔法の練習をしていることにだって気づかない。 ダクトから蒸気を噴出し、なのはは息をつく。 時刻は17時。 帰れば夕食だ。高町母の料理はいつも絶品だから、すっごい楽しみだ。 ユーノの前に降り立って足元の桜色の羽を消すと、 「帰ろっか、ユーノくん」 フェレットモードのユーノを肩に乗せて、帰路についた。 ……のだが。 「…………」 その帰り道で、挙動不審な少年を見つけて唖然としていた。 それが誰なのかは、聞かずともわかるだろう。 少年は茶色の混じった黒い髪を後ろで束ねて、グレーの薄手の襟付きシャツを羽織り、デニムのズボンを履いている。 「……あれ、ここだよなぁ? ってか、レティ提督ももうちょっと詳しい地図を書いてくれればいいのに」 「か、くん……?」 頭上にハテナマークを浮かべた少年に、なのはは声をかけていた。 少年は突然かけられた声に振り向けば。 「お、久しぶり」 なんて、平たい挨拶を交わしていた。 …… 「くんは、どうしてここに?」 「任務だよ。病み上がりなのに、押し付けてきたんだよ……」 彼女からすれば当たり前すぎるような答えだが、実際そうなのだから仕方ない。 観光とかだったらまだよかった、なんて思うのだろうが、彼は生粋の面倒くさがり屋。休みの日は家でくつろぐのが普通だから、まずありえない答えだったりする。 反対になのはに同じことを尋ねてみれば。 「魔法の練習」 なんて、笑顔で答えられた。 なんて嬉しそうなんだろうね……眩しいよ。その笑顔が、今の俺には眩しいよ。 内心でそんなことを考えたのは、言うまでもないだろう。 「まぁ、もう暗くなるからさ。任務は明日からにしようかと思って」 ここに行きたいんだけど、迷っちゃってさ。 そんな一言を付け加えて、苦笑した。 なのはに手書きで書かれた地図を見せると、なのはとユーノは目を丸める。 北海道、本州、四国、九州。 小さな紙全体にでかでかと日本が描かれて、その一部分――海鳴市辺りに赤い印がつけられていて。 「あのさ、くん。これ……役に立たないと思う」 「あ、やっぱり?」 気づいてたなら、連絡くらい取ろうよ。 そんなことを考えて苦笑したなのはとユーノだった。 渡された紙を眺め、裏面を見てみれば。 「あれ、住所が書いてある……」 郵便番号から書かれた、まるで手紙でも書いたような宛名書きが記されていた。 その住所を見て、再び……今度はなのはだけが破顔した。 「よかったね、くん」 「へ?」 「これ、きっと私の家だから」 「……へ?」 さ、案内するね! 意気揚々と歩き出すなのはの後姿を見て。 「………………へ?」 はただ状況を把握できず、アホみたいな顔をして立ち尽くしていた。 っていうか。 「詰め所……?」 |
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