名前を呼んだ。 それが『友達になる方法』だからと聞いたから。 私は彼女、幾度となくぶつかりあってきた。時にはひどいこともしてしまったかもしれない。 なのに、あの子は『私』と友達になりたいんだと言ってくれた。 ……嬉しかった。 私を『アリシア』ではなく、『フェイト』として見てくれていたから。 そして、わかったことが1つ。 「友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ」 ということを。 そう思えたことが嬉しくて。そして、『私』にとっての人生で初めての友達ができたことが嬉しくて。 「ありがとう、なのは。今は離れてしまうけど、きっとまた会える」 会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。 だから、困ったことがあったら、私の名前を呼んで欲しい。 そうしたら、今度はきっと私が助けるから。 そして。 互いの髪を結わえたリボンを交換した。 思い出にできるものは、これしかないからと。 でも、手に取ったピンクのリボンはきっと、私の宝物になるだろう。 転送陣の中心で、彼女に向かって小さく手を振る。 そしたら、彼女は笑顔で大きく手を振り返してくれた。 ――君と出会えて、本当によかった。 心の底からそう思えた。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #08 「おう、おかえり」 なのは、ユーノと別れたフェイト、アルフ、クロノの3人がアースラに戻ってみれば。 松葉杖をついたがそこにはいた。 ぐるぐる巻きだった包帯はほとんど取れていて、杖を突きつつも自由に出歩けるようになるほどにあの大ケガが回復していたわけだ。 もっとも、まだ巻かれていた包帯の上から白いシャツを羽織っており、見ているだけで痛々しい。 きょとんとした一同の中で、あからさまにイヤそうな顔をしたのがクロノだったりしたわけだけど。 はそんな視線をすっぱり無視してフェイトに向き直ると、歯を見せて笑って見せた。 「挨拶がまだだったよな。だ。よろしくな、フェイト」 手を差し出す。 向けられたフェイトはきょとんとした表情のままでの顔と手を見比べる。 「握手だよ、握手」 「あ、うん」 差し出された手を握った。 数瞬の間、握っているだけの握手。 交差していた視線を外して、 「そっちは、アルフさんだったよな」 「あ、あぁ……よろしく」 彼女は彼女であっけにとられていたらしい。 「ところで、君はなんでこんなところに?」 「ああ、メシだよメシ……まだまだ血が足りないんで」 血が足りない、などとあっけらかんに理由を話し、はひらひらと手を振りつつ3人に背を向けた。 意味もなく両足をずるずると引きずって、2本の松葉杖だけで歩きはじめた彼にはある意味驚き……というか意味わからん。 「わからんとか言うな。自己鍛錬」 面倒くさがりな彼が自己鍛錬などとよくもまぁ言うものだ。 そんなお小言を零しながら、カッツンカッツンずるずるずる。 彼の全体重を両腕と松葉杖だけで支えているのだから、その筋力の強さが伺えるというものだが、これもまた彼の努力の結果なのだ。 魔法だけが、戦闘のすべてじゃない。 フェイトやなのは、クロノに比べると見劣りする魔力量を補うために、面倒くさがりながら鍛錬を続けてきたわけだ。 ……というか、面倒くさがりの彼にそこまで長続きしたことがまさに奇跡の所業だったわけで。 その割に、いかつい姿をしていないのがまた不思議だ。 フェイトはその背中を数刻眺めて、 「クロノ」 「?」 長い金髪を下ろしたままのフェイトが告げた。 ……そう、私は。 ずっと、彼と話をしたいと思っていたんだ。 「私、お腹空いちゃった」 そんな一言を聞いたクロノは、やれやれと言わんばかりに大きくため息をついたのだった。 ● 「いや〜、相変わらずいい腕してるよな。ここの給仕さん」 「そ、そうなんだ……」 「……ってか、俺もここ以外の場所で食事したことないからわからないんだけどな」 すごい勢いで料理をがっつくと向かい合わせに座ったフェイトは、とりあえず苦笑していた。 血が足りないからこそ、それを補うために彼はただひたすら食べる、食べる、食べる。 鶏肉のから揚げをフォークで突き刺し、ドレッシングのかかったサラダを頬張り、茶碗に盛られた白飯をかきこむ。 トレイに所狭しと乗せられていた料理は、あっという間に彼の胃袋に納まっていた。 「……で?」 「で、って……」 フェイトがここにいる理由。 それは間違いなく、『食事をしに来た』というものではないだろう。 実際、彼女が注文したのは温かなレモンティーのみだった。 尋ねたときには、 「お、お腹が空いたから……」 なんて言いつつ恥ずかしそうにしていたが、嘘なのは明らかだ。 「なにか話したいこと、あるんだろ?」 だからこそ、はで彼なりに気を利かせたつもりだった。 話しづらいのならばこちらからきっかけを、みたいな感じで。 しかし彼女は口ごもり、話を切り出す気配はない。むしろ話しづらそうに視線を泳がせている始末だ。 そんな彼女に痺れを切らしたのか、 「聞きたいのはたった1つだよ」 フェイトの隣に座っていたアルフから声がかけられていた。 ラフな服装に、獣耳と尻尾。 その整った顔立ちからのぞく視線は、真剣そのもの。 だからこそ、 「……うん」 フェイトからアルフへと視線を動かして、うなずいた。 表情には先ほどまでの笑みではなく、背もたれのない椅子に深々と座って、背筋を正した。 元々彼は普段からからからと笑っていることが多い。 仕事から帰ってくればその笑みはもちろんなく、げんなりしているのだが。 「なんでアンタは、泣いていたんだい?」 アルフの中で一番印象が残っていたのは、プレシアと対峙していたときの苛烈な姿ではなく、最初に見たときに彼が見せた表情だった。 幼さの抜けない顔立ちの中を流れる滴が。 本来ならば彼は関係のない存在だったはずだから。 ――アイツ……ぶっ飛ばしてきます。 ――これじゃ、あの子が可哀想過ぎる。 まるで我が事のように泣いて見せたのが、あのときのアルフの中では強烈に印象付けていた。 はその質問に数瞬目を丸め、やがてその瞼を閉じる。 あの時彼は、その内側にただ怒りを溜め込んでいただけだったから。 真正面から拒絶されたフェイトが、まるであのときの自分とだぶって見えたから。 ただ、 「昔の自分を見てるみたいで、イヤだったんだよ」 自分と同じ道を辿らせたくない。 『たった1人』という世界を味わって欲しくない。 あのときの彼の思考は、それだけに染められていたのだ。 「根っから面倒くさがりの俺がこんなになるまで頑張ったのも、そんな個人的な理由だよ。ただの自己満足」 気にされるだけ困るというもの。 それ以上に礼を言われることすら、はた迷惑にしかならないだろう。 しかし、それを否定して見せたのは。 「でも……私は、嬉しかった」 他でもない、フェイト・テスタロッサその人だった。 「それが自分のためだったとしても……自己満足だったとしても」 大ケガをするまで戦い抜いた彼を、素直に『強い人』だとフェイトは思う。 年の差だけなら自分とは大して違いもないように見える。それなのに、自分とは明らかに違う……否、自分よりも高い所にいる存在だとも思えた。 ひとつわかることは。 「あなたのしてくれたことが、あのときの私には救いだったんだ」 『片付け』と称してフェイトを消滅させんと放たれた魔力弾の進行を防ぎ、その身を賭して母……プレシアを説得してくれた。 結局、聞き入れられることはなかったけど。 ――この娘は……フェイトはアンタの道具じゃない!! そんな一言があったから……道具としての私を否定してくれたから、本当の意味で私は『フェイト』を始められるのだと……『フェイト』というスタートラインに立てたのだと、確信できた。 そして、『友達になりたい』というなのはの思いと共に受け止めて、飛んで、と叫ぶ彼女の手を取ることができたのかもしれない。 「だから……ありがとう」 フェイトは自分にできる最高の笑みを見せ、そんな言葉を口にしたのだった。 ……普段、同年代の女の子と会話する機会がなかったからだろうか。 「わ、わかった。そっ、れは……別にいいいいーから」 「?」 「おやおや、かわいいねえ」 今、の顔は真っ赤になっていることだろう。 |
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