あれから、いろいろな事が終わりました。 ケガの治療を始め、事の次第の報告。 『功績を称えて』なんて、感謝状までもらっちゃいました。 ……とっても緊張してしまいました。 それから、途中から事件に関わっていた男の子は…… 「…………」 今、医務室で眠っています。 一度意識が戻ったので、大丈夫だってお医者さんは言ってたけど、すごい大ケガだったから……やっぱり心配です。 クロノ君と互角以上に戦える、メガネの男の子。 ……早く良くなりますように。 そんなこともあって、ここ数日はあっという間…………だったんだけど。 私こと、高町なのはが一番気になっているのは……きれいな目をした、あの子のこと。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #06 「…………」 護送室。 普段使われることのないこの部屋に、二つの人影があった。 きれいな金の髪の少女と、その使い魔。 細い手首には行動を制限するために手錠をつけられ、少女は使い魔の膝を枕に、そしてそのふくよかさにまどろんでいた。 「……あの子、だいじょうぶかな」 唐突に発されたのは、名も知らない少年の安否だった。 最後まで自分を拒絶し、“片付け”と称して自分を消そうとした、母の魔法から守ってくれた男の子。 おぼろげではあるものの、彼の身体はボロボロだったんじゃないかと少女は思う。 でも彼は、自分のことを守って、母を説得してくれた。 ……そうする理由はまったくわからない。 だから、話をしてみたいと思った。 『言葉にしなきゃ、伝わるものも伝わらない』から。 でも、今はできない。自分は自由に動けない。 ……仕方ない。 自分は何も知らずに、それだけ大変なことをしでかしてしまったのだから。 …… 「…………」 が再び意識を取り戻すまで、丸一日かかった。 医務室のベッドの上で方をすくめて、その脇に座する二人の上官を見やる。 戦艦アースラ艦長のリンディ・ハラオウンと、彼女の息子にして時空管理局執務官であるクロノ。 そして、リンディの部下でありデバイス等のメンテナンススタッフであるゼスト。 彼の手には緑色のキーホルダーが握られていた。 「あの子を自分と同じにしたくない……貴方のその気持ちはよくわかります。ですが、勇敢と無謀はまったく別物なんですよ?」 簡単に言えば、説教中なのだ。 場が混乱していた上に思わず許可を出してしまったから強く言うことはできないが、いち戦艦の艦長として……一人の母親として言わずにはいられない。 彼女なりにの心配をしていたのだ。 もちろん、彼自身反省していないわけじゃない。 しかし、思うところもある。言葉を返せば話がこじれるからと、彼は萎縮していたのだ。 ……こじれたらこじれたで、面倒なことこの上ないから、というのは内緒だ。 「今回はケガで済んだからよかったものの、これでもし意識が戻らなかったらどうなるか……わかっていますね?」 「はい……」 眉をハの字に寄せて、視点を下げた。 リンディは満足したように息を吐き出すと、 「それじゃ、次の用事に入りましょうか」 話題を変えた。 内容は、ゼストの持つデバイスのことだった。 プレシアとの戦いの際に半壊した、の相棒。 「ゼストさん、クサナギの状態を」 クロノに促され、ゼストは「はいよ」とフランクに返事をすると、手に持った緑のキーホルダーをに手渡した。 形状は普段のような薙刀ではなく、丸い宝石。 レイジングハートの待機状態と酷似していた。 「メインフレームは完膚なきまでに破損……ってか、ボディそのものが完全に消えちまったからなぁ。修復は絶望的だ」 原因はデバイスの暴走。 主の素直な気持ちに感化され、それに応えるためにクサナギが自身そのものを犠牲に引き起こした、奇跡に等しい所業だった。 『時の庭園』が崩れる寸前に見せた、彼の持つ最大威力の砲撃魔法。 それを使うほどの輝きを放てたのも、それが影響していたのだ。 ローソクは消える寸前が燃え盛る。 クサナギの輝きは、まさにそれだった。 「……そっか」 「クサナギに感謝しとけよ。コイツが踏ん張ってくれたから今のお前があるんだぜ、」 彼が守ってくれたから、今の自分がここにある。 それは、自身がよく理解していることだった。 今までだって、自分の危機を幾度となく救ってくれたのだから。 彼の『単独任務達成率100%』という偉業も、クサナギのおかげだと言っても過言ではないだろう。 「コアもダメージが大きくてな。今の技術はコッチのリカバリも無理だ」 つまりそれは、暗に『デバイスの新調が必要だ』と言っているようなものだった。 デバイスの新調は手続きがほとんど不要。元のものを修理するよりも、よっぽど楽。 自分にあったデバイスさえ見つかれば、それでいいのだが。 「メンドくさいなぁ」 はげんなりとした表情で、ため息を吐き出した。 「たいした作業じゃねえんだ。ガキのくせしてジジくさいこと言うなって」 ゼストの言うとおりである。 さらに、彼は時空管理局の局員。デバイスに関する知識も余りなく、戦うことしかできない自分からデバイスがなくなるのは、ジャガイモのない肉じゃがのようなものなのだ。 根が面倒くさがりの彼だからこそ、ジジくさい言動は今に始まったことじゃない。 ゼストはそれを良く知っているからこそ、の意見を即却下していたのだった。 「ま、いち技術者としてはちょうどいいタイミングだったんだけどな」 「……は?」 ゼストの一言に、一同は首をかしげる。 彼はおもちゃをもらった子供のように満面の笑みを浮かべると、 「お前に試してもらいてぇデバイスがある。イヤとは言わせねえぞ」 そんなことを口にして、ゼストは作業服のポケットから一つのキーホルダーを取り出した。 クサナギとよく似た形状で、白をメインとした槍を模してある。 白とは言うものの、微妙にオレンジが混ざっているようで、かなり薄い山吹色の方が正しいかもしれない。 受け取った瞬間、の魔力に反応したのか微妙に光を帯びた。 「お前専用に調整してある。お前、ベルカ式のデバイスで砲撃とか平気でやっちゃってたからな。調整に苦労したぜ?」 びし、とかるくチョップを入れてくる。 ベルカ式の魔法には本来、砲撃魔法は存在しない。 それなのに彼は砲撃魔法を使っているため、その特殊性が伺える。 これは、彼の周りにベルカ式魔法に関する深い知識を持った人間や書物が存在しなかったからだったりする。 『世界の記憶を収めた場所』と称される無限書庫ならばなにか見つけることができるかもしれないが、性根が面倒くさがりの彼にとって、本ばかりのあの場所は鬼門だ。 「カートリッジシステムはもちろん積んであるぜ」 それを聞くに、このデバイスはが今まで使っていたようなアームドデバイスにしか見えない。 しかし、その中身はまったくの別物だった。 「インテリジェントデバイスを基本として、の実戦データを元に接近戦にも対応できるように調整された、インテリジェントでもストレージもアームドでもない……まったく新しいデバイスの試作品」 つまるところ、インテリジェントデバイスでも接近戦ができるように調整された、いわゆるインテリジェントデバイスの兄弟デバイスとでもいうのだろう。 遠距離専門と、近距離専門。 二つの顔を併せ持つ、時空管理局の技術の粋を集めた新たなデバイス。 「デュアルデバイス。勝手が難しいかもしれないが、お前なら使いこなせるだろうよ」 『I'm pleased to meet you. My master』 聞き慣れないトーンの高い電子音声が、医務室に響き渡ったのだった。 |
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