地面をこすることで勢いを殺し、『アリシア』の眠る試験管の手前でプレシアは止まった。
 頬を赤く腫らせて、口の端から一筋の血があごへと伝い落ちる。
 しかし彼女の表情に変化はなく、口の中に溜まった血液の塊を吐き出した。

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

 反対に、プレシアを思い切り殴りつけたはずのは激しく息を荒げていた。
 白いバリアジャケットもボロボロで、長年の相棒クサナギも今は待機状態。
 とても使い物にはなりはしない。
 だからこそ武器は己の身体のみ、なんて状態になっていた。

「くそ……」

 衝撃の瞬間に防御壁を張ったのだろうか。
 プレシアは何事もなかったかのようにすっくと立ち上がる。
 杖を持たない右手をへ向けると、忌々しげに目を細めた。

「貴方に……貴方のような子供に……」

 小さな魔法陣が展開する。
 彼女の脳裏によぎったのは、過去の幸せだったあの時間。
 自分とアリシア。
 あの子に父親はいなかったけど、人生の中で唯一、そして一番幸せだったあの時間が。
 目を細める。

「すべてを失った、私の気持ちなど…………わからないっ!!」

 眉間にしわをよせ、その手から複数の光弾が放たれた。
 速度は速く、にこれらを躱す術はない。

「……っ!!」

 自分を襲う光をにらみつけながら、衝撃で背後へと飛ばされる。
 悲鳴を上げることなく、崩れかけた壁に激突したのだった。



   
魔法少女リリカルなのはRe:A's   #05



『プレシア・テスタロッサ』

 一つの声と共に、空間全体の鳴動が止まる。
 その光景に目を見開いたのは、ただ一人……プレシアだけだった。

「ぐっ……提、督……」

 地面に崩れ落ちるの身体。
 聞こえた声に、彼はつぶやく。聞こえた声が、よく知った声だったから。
 彼女の魔法の力は巨大。次元震を止めたのは、彼女に間違いないだろう。

 そんな彼の思ったとおり、リンディは『時の庭園』の入り口で巨大な陣を展開していた。
 髪の色と同じ、エメラルドグリーンの魔法陣。
 二対の羽を背に、彼女は庭園中に聞こえる声を発していた。

『終わりですよ。次元震は、私が抑えています』

 なのはとユーノが襲い掛かる敵を蹴散らし、小さく息を荒げるなのははレイジングハートを手に、ゆっくりと駆動炉へと向かっていく。
 クロノは走る足を止めず、まっすぐこの場所へと向かってきている。
 迫る敵を蹴散らして。

『忘れられし都アルハザード。そしてそこに眠る秘術は存在するかどうかすらも曖昧な、ただの伝説です』
「……っ、違うわ。アルハザードへの道は次元の狭間にある」

 時間と空間が砕かれたとき、そこに道が具現する。
 時間を越え、死者を蘇らせる禁断の秘術の眠る地への唯一の道が。
 伝説にしか残っていない、確証などない。
 しかし彼女はかの地と、そこに在る術に縋るしかなかった。
 夫を別れ、娘を失い、そして地位を失った。あるのは膨大な知識と、魔法の力のみ。
 だから、彼女は前へ進むのだ。
 すでに失った、たった一つの幸福を、手にするために。

『ずいぶんと分の悪い賭けね。貴女はそこに行って、いったい何をするの?』

 失った時間と、犯した過ちを取り戻す?

 プレシアは、それを肯定した。
 すべてはアリシアのため。彼女の幸せのため。未来のため。

「私は取り戻すの……『こんなはず』じゃなかった、世界のすべてを!」

 声高に叫んだ。
 『こんなはず』じゃなかった。
 自らの身体を犠牲に『アリシア』を復活させようとして、結果的に『フェイト』を創ってしまった。

 だから失われた秘術の眠る世界『アルハザード』の存在を信じ、前に進むしかなかった。
 時間を操る術で、死者を蘇らせる術で。『こんなはず』じゃなかった世界を取り戻したかった。
 そのために、フェイトにジュエルシードを集めさせた。

「だから……フェイトを捨てるのか……」

 痛む身体にムチを打って、壁に手をつき立ち上がる。
 自分と同じ思いを、彼女にさせたくないから。

「あの子は、アンタの道具じゃない!!」

 本来、人は生まれるもの。
 それを鑑みれば、確かにフェイトはプレシアにとっては娘ではないのかもしれない。
 あるいはアリシアじゃないから、フェイトを娘と思わないのかもしれない。

「あの子は生きてる。フェイトとして、この世界を生きてんだぞ!!」
「フェイトは、アリシアじゃない。私がいたい世界は、フェイトという少女のいるこんな世界じゃないの」

 『こんなはず』じゃない世界。
 彼女にとってそれは『今』の世界だった。
 だから、彼女は望む。フェイトにせものの代わりに、アリシアほんものがいる。
 そんな世界を。

「〜〜〜〜っ!!」

 ああ言えばこう言う。

「過去に縋って、得られるもんなんかない! 『アリシア』がいないことを、なぜ受け入れられない!!」

 自分が、まさにそうだった。
 家族のいない自分。たった一人の自分。
 知りたかった……自分の過去を。思い出したかった……家族みんなの笑顔を。
 でも、それはかなえられない願いだった。
 今の自分には未来しかないのだと、わかってしまったから。

 彼女は過去だけを見て、に戻りたいがためだけに今まで生きてきたのだろう。
 しかし、万一それが成功したところで、先にあるのは時間の止まった世界。
 
のない世界だ。

「幸福は、過去だけにあるわけじゃない。『こんなはず』な世界を取り戻すなんて……そんなのただのワガママだ」
「私はあの娘のすべてを取り戻すために、生き長らえてきたの。誰にも……」

 プレシアは目の前に手をかざした。
 生まれるのはボールペン程度の大きさの棒のようなもの。
 魔力を具現化させているからか、手を横に移動させると連続して具現する。
 紫の輪郭を描き、とがった切っ先はへ向けられた。
 杭のようなそれらを視界に納めて、冷や汗を流す。

「邪魔はさせない」

 そんな一言と共に、無数の光の雨が降り注ぐ。

「クサ、ナギ……!」

 右手が光を帯びた。
 彼の魔力光。淡い緑色をしたその光は、柄のみしか存在しない薙刀へと変化を遂げた。
 端から見ればただ変な重りのついた棒。
 は残りわずかの魔力を注ぎ、

『Steig-eisen』

 彼の目の前を守る盾を作り出した。
 ノイズの走るクサナギの声が耳に飛び込む。
 緑の宝石は重りの先に埋めこまれていて、の声にあわせて弱い光を放っていた。
 展開されたのは緑に輝く正方形。
 紫の光の杭は展開された盾に突き刺さり、貫通して勢いを止める。
 盾は串刺しになっても、の身体まで届くことはない。

「私はすべてを取り戻すの…………そのために、今まで生きてきたのだから……っ!!」

 降り注ぐ光が勢いを増す。
 魔力が圧倒的に足りなかった。次第に身体中から力が抜け始め、立っていられなくなる。
 それでも、立っていなければ。そうしなければ、自分の命がない。
 ……だから、踏ん張れ俺。
 そう自分に言い聞かせ、言葉どおり踏ん張っていたとき。

「……っ!?」

 背後から轟音が聞こえた。
 というか、自分がいるのが壁際なわけで。

「なぁ―――っ!?」

 プレシアの魔法を吹き飛ばし、の背後の壁を吹き飛ばし、ついでに本人も吹き飛ばされた。
 爆風で彼の身体はふわりと浮かび、数メートル飛んだ。
 プレシアの正面にべしゃりと落下した。
 もともと距離があったから、まだまだ彼女とは離れている。
 目の前に落ちていたら、あっという間に息の根を止められていたかもしれない。
 ある意味、運がいいとも言えた。

 煙の晴れた先に浮かんだ影は、クロノだった。
 黒い杖を右手に、足を一歩踏み出した形で荒れた息を整えている。
 短い髪の間から見える赤は、彼の血だ。

「世界はいつだって……『こんなはず』じゃないこと、ばっかりだよ!!」

 そして叫んだ。まるですべての会話を聞いていたかのように。
 ……もしかしたら、とプレシアの会話も全部筒抜けだったのかもしれない。
 のことなど気にすら留めておらず、彼の視線はプレシアに向かっていた。

「ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ!!」

 クロノの声を聞きながら、プレシアは目を丸めた。
 すでに見慣れてしまった金髪を……ふわりと降り立つ一人の少女と、その使い魔の姿を。

「こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ!」

 少女――フェイトととその使い魔アルフはクロノと、プレシアの間に降り立った。
 つまるところ、クロノに吹き飛ばされたが突っ伏している場所へ。

「だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間まで巻き込んでいい権利は……どこの誰にもありはしない!」

 ぴくぴくと痙攣しているを見て、アルフはびくりと肩を震わせ表情を崩す。
 ……哀れみの視線を向けられているのは、気のせいだろうか?


 そんなは放っておいて、物語は進む。
 病魔に蝕まれた身体。それを押して、ここまで計画は進んだ。
 プレシアは苦しげに咳き込み、血を吐き出す。
 それを心配して駆け寄ろうとしていたのは、彼女の娘のフェイトだった。
 しかし、彼女はフェイトを娘とは思っていない。
 体のいいお人形。
 だから、プレシアはたずねた。
 「……何をしに来たの?」と。
 その言葉に、フェイトは足を止める。

「消えなさい……もう、貴女に用はないわ」

 苦しげにうめくプレシアを目にして、フェイトは整った眉をハの字に寄せた。
 それでもなお、自分を見る目……にせものを見ている目を見て。
 彼女は告げた。

「貴女に……言いたいことがあって来ました」

 それは、自分をはじめるために。
 今までの自分はスタートラインにすら立っていなかったから。
 だから、それを告げにここまで来た。

「私は……私は、アリシア・テスタロッサではありません」

 
今までの自分アリシアと、さよならをするために。

「私は貴女が創りだした、ただの人形なのかもしれません」

 胸の前で両手をつなぐ。
 自分の中にある気持ちを、言葉にするために。
 言葉にするための……勇気を出すために。

 それはこの計画が始まってジュエルシード集めの任務を受けても、彼女は常に母であるプレシアを思っていた。
 どんな仕打ちをされても、いかなる罰を受けても、そばにいることをやめなかった。
 彼女に必要とされること。それが、生きる意味だと思っていたから。
 でも、それは違っていた。
 だから彼女は……フェイト・テスタロッサは告げる。

「だけど私は……貴女に生み出してもらって、育ててもらった……貴女の娘です」

 フェイトが、プレシアの娘なのだと。
 しかし、彼女は笑った。
 フェイトの母親がプレシアであるかなどと言うことは、プレシアにとってはどうでもいいことだった。

「だからなに? 今更、貴女を娘と思えと言うの?」
「貴女が……それを望むなら」

 そんなフェイトの答えに、プレシアは目を見開いた。
 フェイトの目に。赤みがかった瞳に、確かな光が宿っていたから。
 ……人形の癖に。
 そんな言葉がプレシアの脳裏を掠める。

「それを望むなら、私は世界中の誰からも……どんな出来事からも……」

 それは自立した彼女の、母に対する気持ちそのもの。
 彼女自身の素直な気持ち。

「……貴女を守る」

 その言葉に、プレシアは目を細めた。

 ……私に必要なのは、『フェイト』じゃない。

「私が貴女の娘だからじゃない。貴女が……私の母さんだから……!」

 あの子はただのお人形。アリシアを蘇らせるために私の言うことを聞くお人形。
 必要なのは、私の本当の娘……『アリシア』だ。
 だから……

「そのようなこと……どうでもいいわ」
「えっ……?」

 プレシアはそう答えを返す。
 彼女にとってフェイトの主張などどうでもいいことだった。

「……っ」

 フェイトの表情に悲しみが宿る。
 伸ばした手の平を見つめ、目じりには涙が浮かぶ。
 華奢な身体が硬直し動けなくなった。
 もうすでに一度、拒絶されているはずなのに。それを乗り越えて、ここまで来たというのに。
 モニター越しではなく、面と向かって言われると……つらい。

「そう、どうでもいいことなの…………そうね」

 確信めいたように、プレシアは笑う。
 フェイトを視界の中心に納めて、杖の先を彼女へ向けた。
 杖の輪郭が淡く光を帯びる。

「かあ、さん……?」
「アルハザードへ行く前に……お片付けをしていかなくちゃ…………ね、アリシア?」

 アリシアの浮かぶカプセルへ顔だけを向けて、プレシアは微笑む。
 フェイトには向けたことのない、愛情に満ちた微笑。
 そんなプレシアを見て、フェイトは目をぎゅっと閉じた。
 あきらめちゃいけないと。泣いちゃいけないと自分に言い聞かせて。

 杖の先に、紫色の魔法陣が広がる。
 光が爆ぜた。猛る魔力が溢れ、稲光を引き起こす。

「フェイト……!!」

 アルフは一歩を踏み出した。
 主を守るために。大好きな友達として。

「消えなさい!」

 稲妻が、二人を襲う。
 アルフはフェイトを抱えようと振り向くが、間に合わない。
 彼女を守るように抱きしめて、極力当たらないようにしゃがむと目を閉じた。
 しかし。

『Steig-eisen』

 紫の稲妻が、彼女たちに届くことはなかった。

「……あ、あれ?」

 目を開けたアルフの前に、一人の少年が立っていた。
 表面はすすけて黒ずみ、裾はビリビリのボロボロ。左手は力なく垂れ下がり、両の膝はガクガクと笑っていた。
 それでも、彼は立っていた。
 さっきまでぴくりとも動かなかった彼が。
 ひび割れたメガネをかけた、茶色い髪の少年が。
 足元には逆三角の魔法陣が浮かび、ゆっくりと回転していた。

「もう一度言う。この娘は……フェイトはアンタの道具じゃない!!」

 右手に持った錘つき棒は、元々は薙刀だった。
 しかし、今は刃がほとんどない。プレシアとの戦闘によるものだ。
 それでも、彼は力を込める。
 認めさせたい。
 自分と同じようにはさせたくない。
 だから。

「なんで、そこまで彼女を拒む!」

 止まない攻撃を防ぎながら、声を上げた。
 答えなどわかりきっている。
 それでも、聞かずにはいられない。

「……アリシアじゃないからよ」

 手にかかる衝撃が強まる。

「アリシアもフェイトも、同じアンタの娘だろ! なんで……」
「私の娘はアリシアだけ。だから、私はアルハザードへ行くの」

 すでにわかりきっていることだけを答え、彼女は攻撃の手をさらに強めた。
 盾に小さなヒビが入る。
 稲妻が止み、続いて彼女の周りに浮かぶのは無数の光弾。

「……ごめんな、クサナギ。もう少し、がんばってくれるか?」
『ja!!』

 ノイズの走る電子音と共に、緑の宝石は淡く明滅する。
 同時に柄にまるで帯電したかのように光が爆ぜる。

 それは、魔力が爆ぜる音。
 自分と同じ境遇に立たされようとしている彼女を救いたい。
 そんな思いに、クサナギが共鳴したのだ。

「ありがとう、クサナギ」

 爆ぜる光を認め、は薄く笑みをこぼす。
 まるで彼のすべてを見透かしているように、クサナギは一言。

『Es gibt kein Problem (問題ない)』

 それだけを告げたのだった。

「……っ!」
『Alleseindringen!』

 展開した盾はもう保たない。
 だから、今度はプレシアと同様に光弾を具現させた。
 淡く緑に輝く球体は四つ浮かび上がり、の周囲を飛び回る。

「私はすべてを取り戻す。過去も未来も……たった一つの幸福も!」

 杖尻で床を突く。
 巨大な魔法陣が展開すると同時に、止まっていた地鳴りが再発した。
 九個のジュエルシードの力を暴走させ次元震を強引に再発させたのだ。
 震動を抑えていたリンディは突然の揺れにバランスを崩す。
 展開していた魔法陣も消えうせ、もはやプレシアを止める手立てはなくなった。
 そして、彼女の周りに浮かんでいた光弾が飛来する。

「行けぇっ!!」

 迎撃せんと周囲の光に命令を下す。
 圧倒的な頭数の違いが、フェイトとアルフを守れる場所へ移動したに飛来した。
 直射型の魔法だから、相打つならば一撃で仕留めねばならない。
 プレシアの放った光弾に使われている魔力はさほど大きくない。
 だから……全部撃ち抜ける。
 タイミングを見計らって、クサナギを振るった。

「二人とも、早く逃げろ。ここはもう崩れる!」

 フェイトとアルフに向けて声を上げた。
 まっすぐ立っていられない。ゆれが膝を襲い、はその場にしりもちをついた。
 それが幸いしてか、対処し切れなかった複数の光弾が頭上を越えていく。

「アンタはどーすんのさ!?」
「俺のことはいいから!」
「でもさ……」
「早くしろって!!」

 応対するアルフに向けて、怒鳴る。

『Verdammter!』

 刀身に残ったリボルバーから白煙が上がった。
 クサナギは自身の判断で、残り一つとなったカートリッジをロードしたのだ。
 ノイズ混じりの声が、実に頼もしく感じる。

『Nothung form……!!』

 今までより強い光が爆ぜる。
 周囲に満ちる魔力を無意識にかき集め、作り出されたのは淡い緑の光の剣。
 彼らにできる、最大にして最高の火事場の馬鹿力。
 鍔に位置する緑の宝石が今までにない、強い強い光を放つ。
 その切っ先を、自分が来た方向へと向けた。
 これでも、自分の方向感覚には自信があったりする。

 作ろうとしているのは、アースラまで最短経路。
 一直線にたどり着ければ、みんな助かる。
 エイミィが見つけてくれれば、それで問題ナッシングだ。
 だから、彼らの持ちうる最高の砲撃魔法をぶつける。
 震動で崩れたりしないだろうか、などという深い考えまでは及ばない。

「……っ、母さんっ!!」
「フェイト……っ、行っちゃダメぇ!!」

 床が崩れていく。
 プレシアとアリシアは共に、虚数空間へと消えていく。
 追いかけようとするフェイトを押しとどめたのは、誰でもないアルフで。
 崩れた床の端からゆっくりと落ちていく母親の姿を、フェイトはただ見ていることしかできなかった。

「ゲホッ、ゲホッ、ゲボッ……ッ!」

 プレシアとの戦いでの胴を見舞った掌底の影響が彼を蝕む。
 そっと触れただけ。その触れたという事実が、彼の内側に大きな傷を残していた。
 血液の塊が床に張り付き、伝う。
 それを気にすることなく、水平に構えた切っ先を動かそうとはしなかった。

 足りない魔力を具現させた刀身で補い、巨大な魔力球を生成する。
 剣先の魔力球は徐々に肥大化していく。
 本来カートリッジを四発必要とするその砲撃魔法。足りない分は、生成されていた光の刀身が補っていた。
 傷が痛む。身体中が悲鳴を上げている。でも、このままじゃみんなきっと助からない。

「なんで……、わかってくれないんだ……っ!!」

 はプレシアの消えた虚数空間を視界に納め、悔しげに眉間にしわを寄せた。
 涙が溢れる。
 同情しているわけではなく、自分と同じ立場に彼女たちを立たせてしまったから。
 ぎゅっと目を閉じ、溢れる涙を振り払う。
 崩れかけている壁に照準を合わせて、

「解放……!!」

 発射の合図を叫んだ。
 水平に構えた刀身の周囲を環状魔法陣が包み込む。
 剣先との背後に逆三角の陣が展開し、それぞれの頂点を光が走る。
 前方に、激しい竜巻が展開した。
 雷のごとき白い光を纏いながら渦巻く。
 竜巻は進行方向を塞ぐ瓦礫を貫き、壁をぶち抜いた。

「いっけぇ―――ッ!!」
『Beispiellose Katastrophe……!』

 渦巻く閃光は風を伴い、庭園に風穴を作り出す。
 それは、多少の震動ではびくともしないような大きなトンネルだった。

「い、急げ……って、うわ!」

 一際大きなゆれがを襲う。
 その震動の影響でアルフはフェイトを手放してしまう。

「フェイト……、フェイトォォォ!!!」

 叫んだところで、彼女とフェイトの距離は縮まらない。
 むしろ、どんどんと離れてしまう。
 フェイトは瓦礫にしがみつき、なんとか虚数空間に落ちずにいたのだが、こうも孤立してしまっては動きようがないし、何より母が虚数空間へ落ちてしまったことへのショックが大きく、動けずにいた。
 ……私も、このまま落ちてしまおうか?
 そんな思いすらも脳裏をよぎる。
 しかし、それは一人の少女の声で吹き飛んでしまっていた。

「フェイトちゃん!!」

 天井を破壊して現れた、白い服の少女。
 ピンクの羽を足元に具現させ、自分の元へ向かってくる。
 彼女は、必死にフェイトに向けて手を伸ばしていた。

「飛んで、こっちに!!」

 その声を聞き、一度虚数空間を見やる。
 私はあの子にひどいことをいっぱいしてきた。
 そんな私が、今彼女の手を取っていいのか。取る資格があるのか。
 そんな思いが渦巻く。
 しかし、あの子はこっちに必死に手を伸ばしてきている。

 ――友達に、なりたいんだ!

 そんな声がフェイトの中でリフレインした瞬間、彼女はなのはの手を取っていた。



 …………



「アリシア……」

 共に落ちていくカプセルを見ながら、プレシアは言葉を発する。
 微笑と共に、その言葉をつむぐ。








「一緒に行きましょう……今度はもう、離れないように……」








はい、第05話修正版でした。
最後の方は修正前のものをコピペしまくりでしたが、全体的にはかなり展開を変えています。
それでも、あんまり修正されていないような感じはありますけども(苦笑。


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