「クロノくん、どこへ!?」 アースラ、ブリッジへと続く長い廊下の真っ只中で、戦闘準備を終えたクロノと、ついさっきまでブリッジにいたなのは、ユーノと母に拒絶されショック状態のフェイトを抱えた彼女の使い魔アルフがばったりと顔を合わせていた。 鋼が剥き出しの廊下の壁には付け焼刃に近い電灯が灯り、ブリッジに近づくにつれてどこからか赤い光が漏れ出して、内部を染め上げている。 「現地へ向かう。元凶を叩かないと」 さらに彼は時空管理局に属するアースラで唯一の執務官。 武装局員も同乗しているはずなのだが、彼らはついさっきプレシアと合間見え、コテンパンにのされて回収されたばかりだった。 今、戦うことのできるのは彼と、民間協力者のなのはと、その友人ユーノのみ。 だからこそ、 「私も行く!」 「僕も!」 一緒に行く、と揃って口にした。 「さっきのあの子にはああ言っちゃったけど、フェイトちゃんのことをお願いします、アルフさん」 「ああ、もちろんさ」 彼女はフェイトの使い魔。 本人からすれば、母親と同じようなものなのだ。 気を失っている母を心配しない子供がどこにいるというのだろう。 もっとも、その母にフェイトは拒絶されてしまったわけだが。 「あの子……?」 「うん。ついさっきまでブリッジにいたんだけど、プレシアの話を聞いた途端に『ぶっ飛ばす』って」 そう答えたのはユーノだった。 名前すら知らない少年だったけど、彼はフェイトの為に涙を流していた。 フェイトが可哀想すぎると、告げた言葉が。 リンディに向かって振り向いたときの彼の涙が、ユーノに強い印象を与えていた。 「うん、小っちゃいメガネを掛けてた、クロノくんと同じくらいの男の子」 「……あいつか」 クロノと同じ、あるいはその付近の年齢の少年といえば、時空管理局には1人だけしか存在しない。 初めて出会ったときはそのものぐさぶりに一抹の怒りを持ったこともあったが、両親がいないと聞いたときにはその怒りは吹っ飛んでしまっていた。 なのはと同じ世界、同じ国の出身。しかし、彼女と違うのは家族と言える存在がいないことだった。 なぜいないのか、どんな経緯で1人だったのか。 それはわからない。 なぜなら、彼自身が覚えていないから――― ―――当時、何もない空き地で1人たたずんでいた。 雨が降ろうが雪が降ろうが、彼はその場を離れることはなくて。 煤けた瓦礫の中には食器や電気製品の部品、少し大きめな鉄製のタンスなどが転がり、以前その場所に何があったか理解できた。 そんな彼をたまたま仕事で巡回していた武装局員が発見、保護したのだ。 本来なら警察に届け出るべきだったのだが、彼らにもどうしようもなかったらしく、放置していたのだ。 人としてどうかと思うその行動。それは、1ヶ月以上も前からその場を動かない、聞かない、しゃべらないというどうしようもない状況で、途方にくれていたところだったのだ。 結局その武装局員が餓死寸前の彼を時空管理局まで強引に連れて行き、今に至っているというわけなのだが。 まぁ、至るまでにも結構な経緯があったりするわけだけど。 「知ってるの?」 「ああ、イヤって程にね。とりあえず、今はそれを話しているヒマはない。先を急ぐよ!」 「う、うんっ!」 アルフと別れ、3人は揃って転送ポートへと進路を取ったのだった。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #03 『Windigrand』 は彼の愛杖――クサナギの声を聞くや否や、それ自身を振るっていた。 空振りのように見えるその行動だが、クサナギが淡いエメラルドグリーンに光ると、刃部分から風の刃を飛ばしていた。 彼自身の魔力が上乗せされて濃いエメラルドグリーンに染まっており、目の前の鎧――傀儡兵に向かっていった。 風の刃は眼前ではじけ飛ぶが、その隙をついてか一気に間合いを詰めたがクサナギを振りかぶり、 『Windigrand』 声と共に刃が光に包まれ、一閃。 飛ばすだけでは威力の低い風の刃を、クサナギそのものに乗せて斬撃の威力を高めたのだ。 傀儡兵の首から上が跳ね飛び、からんと音を立てて地面に落ちている。 すでにその数は、20を越えていた。 「くそ、これじゃラチがあかないじゃんか……」 任務から帰ってきたばかりで、なんの準備もなくアースラへ直行していたので、彼が使う杖、ベルカ式アームドデバイス特有のシステムを考えながら使わねばならない状況に陥っていた。 今、時空管理局で主流となっているミッドチルダ式と勢力を二分していた魔法体系で、遠距離戦・複数戦闘をある程度切り捨てることで近接系による個人戦闘に特化しているという代物。 そのベルカ式は、ミッドチルダ式であるストレージデバイスやインテリジェントデバイスのような魔法杖のデバイスを使わず、アームドデバイスという武器型のものを用いているというのが、個人戦闘に特化している理由。 そして、特有のシステムというのが、カートリッジシステム。 魔力の籠もった弾薬――カートリッジを消費することで、一時的に爆発的な力を発揮するシステムで、ベルカ式アームドデバイスの最大の特徴ともいえるシステムだった。 「カートリッジはあと4発……アイツぶっ飛ばすのに残しておきたいんだけどなぁ」 現在、時の庭園の入り口にいた。 紫の雷光が轟き、周囲は無数の巨大な柱。それらはすべて根元、あるいは中ほどから折れており、使い物にならないものばかりが転がっている。 さらに、大きく存在感の強い門を守っているのが無数の傀儡兵たち。 金の兵を20体を越えて倒しているのだが、相手の数はあまりに多く、さらに巨大なものから飛んでいるものまでいるため、足踏み状態となっていたのだ。 ここを抜けるなら、使わなきゃダメっぽいな。 そんなことを考えて、 「クサナギ、カートリッジロード!!」 『Verdammter!』 無機質な機械音と共にリボルバー型のマガジンが回転し、カートリッジを取り込む。 『Lanzenreiterform』 同時にクサナギ全体が光を帯び、薙刀から4メートルほどの突撃槍へとその姿を変えた。 エメラルドグリーンの、頂点に円を持つ正三角形の魔法陣を前方に展開。 槍の切っ先を前方に向けると、魔法陣に飛び込んだ。 『Elysion』 莫大な魔力を纏ったは、魔法陣を通り抜けることで一気にトップスピードまで加速。 直線上に位置する兵たちを蹴散らし貫きながら、一掃して見せた。 ………… 「やっぱり……っ」 時の庭園へやってきたクロノとなのは、ユーノの3人だったが、目の前の光景に唖然としていた。 もっとも、そうしていたのはなのはとユーノの2人だったのだが。 「っ!」 徐々にスピードの緩め、その場で反転したに向けて、クロノは声を上げていた。 傀儡兵たちはほぼ全滅。3人は無駄足を踏まずに中に入れたはずなのだが…… 「あ、クロノくんだ。やっ……」 「ほ〜、じゃないっ! いつまでもこんなところでなにをやってるんだ!?」 「え? だって、見たとおり敵が……」 「強引に門をこじ開けて中に入ればよかっただろ!!」 つい今しがた彼が使用した突進魔法を使えば、楽に穴をあけて入れたはずだった。 もっとも、そこまで頭が回らなかったのは、笑顔でいて怒っていたせいだろう。 彼女の、プレシアのフェイトに対する発言に。 「あははは……」 そんな彼に苦笑するなのはだったが、 「じゃあさっさか開けちゃうから、先へ行ってよ」 今だ淡い光に包まれているは、前方に魔法陣を展開させた。 三角形の頂点に円を持ったその魔法陣を潜り抜け、 「でええぇぇっ!」 叩き壊しながらも分厚い扉を開いていた。 「早くっ!」 彼らの背後には、まだ傀儡兵たちがいる。 突進魔法は一直線のみで、曲がることができなかったために残ってしまった兵たちだ。 「すまないっ!」 クロノはによって作られた道をなのは、ユーノと共に通り抜けていった。 なのはがココにいるということは、フェイトには大きなお姉さんがついているのだろう。 もちろん、大きなお姉さん、というのはアルフのこと。 名前を知らないため、第一印象をそのまま彼女の名前にしなければいけなかった。 「俺はここを片付けてから行くから、クロノくんたちは先へ。やらなきゃいけないこと、やりたいこと……あるんでしょ?」 「あ、あのっ! 私は……」 「いーよ、なのはちゃん。メンドクサイから話は後でまとめて聞くよ。君が友達思いなのは、よくわかってるから」 さ、行った行った! しっし、と追い払うように手をひらひらさせたは、薙刀形態――ボルゲフォルムに戻すと、足元に魔法陣を展開させた。 ……本当ならあのプレシアってヤツをぶっ飛ばしてやりたいところだけど、今この場を離れたらクロノくんやなのはちゃんたちに被害が及ぶ。 ……だからこそ、こいつらはここで全滅させるっ!! 『Alleseindringen』 彼の周囲に具現する光弾。 その数は、全部で4つ。1つ1つから稲妻のような青白い光を発し、パリパリと音を立てて小さく爆ぜる。 彼の魔力を具現化し、目標を撃ち抜く射撃魔法だ。 「Go Ahead!」 高々と掲げていた薙刀を振り下ろし、目の前の敵軍へ向ける。 すると、それに呼応するかのように光が増し、それぞれが敵軍の真っ只中へと走っていった。 ………… 一方、先へと進む3人は、崩れた床の上をひたすら奥へと走っていた。 もっとも、床というには崩れている部分が多すぎて、橋といったほうがしっくりクルかもしれないが。 踏みしめている床から見える先、白い画用紙を黒や紫で塗りたくったような部分が渦を巻いているが、雰囲気的にあまりいいものだと感じられない。 なのはがクロノについていきつつ、その不思議な世界を横目に入れていると、 「その穴、黒い空間のある場所は気をつけて!」 「……ふへ?」 「虚数空間。あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ」 言い換えると、発動した魔法が打ち消されてしまう空間。 ユーノの説明に付け加えれば、魔法が使えなくなるということは飛行魔法も使えない。 つまり、ひとたび落ちれば帰ってこられなくなる空間なのだ。 「ねえ、クロノくん」 「なに?」 道中、なのははクロノに尋ねていた。 さっき、自分たちのために道を作ってくれた、彼のこと。 なのはもユーノも、出会ったばかりで彼のことを何も知らないのだ。 だから、知っておきたい。 「 。Aランクの時空管理局嘱託魔導師だ」 魔導師としては武装局員の隊長クラスで、あまりに普通な彼の魔導師ランクだが、それは彼がめんどくさがりなせいだったりする。 滅多なことじゃ本気にならないわりに、単独で任務に出れば達成率は高い。 しかし、ひどく気だるげな表情で帰ってくる。 そんな彼がなぜ嘱託魔導師として時空管理局に所属しているのかというと、彼が持つアームドデバイスの影響が大きい。 遠距離戦・複数戦闘をある程度度外視し、近接戦闘のみに特化している彼のデバイスが、彼を嘱託たらしめているわけだ。 もっとも、嘱託魔導師認定試験ではボロボロのギリギリで、なんとか腕一本でぶら下がって合格したようなものなのだが。どちらかというと、お情けに近い。 「Aランクって……」 僕と同じだ、とユーノは口にした。 彼はミッドチルダの生まれで、遺跡発掘をして流浪の旅をするスクライア一族の少年で、彼らが発掘したのがジュエルシード。 その輸送中に事故でばら撒かれた21個のジュエルシードを集めるために、なのはに協力を求めたのだ。 彼自身は捕縛、治癒、結界魔法の優秀な使い手で、ランクにするとAクラス。 だからこそ、同じだと口にしたのだ。 ちなみに、魔導師ランクとは保有資質や魔力量で決定される魔法使いを順位付けるもの。 上はSSSクラスから、下はFクラスまで存在している。 また、Aクラス以降は特別で、AA、AAA、S、SS、SSSとなっており、さらにAAAクラス以上となると1ランクごとの幅が広いため、+や−をつけることで区別している。 ここではなのはとフェイトがAAA、クロノがAAA+というランクづけだったりする。 「さらに……認めたくないが、時空管理局きっての近接戦闘のエキスパートでもある」 僕でも未だに本気の奴と戦ったことはないんだが、それでも互角以上に戦うよ。 クロノはそんなことを口にした。 Aランクの魔導師が、AAA+のクロノと、どうすれば互角に戦えるんだろう? そう思うのは2人も同じことだった。 「詳しいことは改めて奴に聞くといい。それよりも今は……」 目の前にそびえる巨大な扉を蹴り開けて、 「ここから2手に別れよう。君たちは、最上階にある駆動炉の封印を!!」 そう告げた。 彼本人はココを突破し、プレシアのもとへ。 「それが僕の仕事だからね……」 彼の持つストレージデバイス『S2U』の先端を部屋内に存在する傀儡兵に向けた。 「今、道を作るから……そしたら!」 「……うんっ!」 ユーノの手を取り、なのはは両の足にピンクの翼を展開する。 彼女の飛行魔法だ。 それと同時に、クロノの構えたS2Uの先端から青白い光球が生成され、 『Blaze Cannon』 女性の声とも取れるデバイスの電子音声が発されると同時に、収束していた光球を開放。 前方の敵を一直線になぎ払っていた。 ユーノを伴って浮かび上がったなのはは、クロノを見やる。 「クロノくん、気をつけてねーっ!」 誰にでも優しい。 クロノの安否を気遣うことなど、彼女にとっては普通のこと。 大丈夫だ、と言わんばかりにクロノは余裕に満ちた笑みをなのはに向けると、階段上へ消えていく2人を見送った。 「さて……悪いが、君たちの相手をしている暇はない。だから……」 目の前に広がる敵軍を流し見て、クロノはそう口にした。 S2Uの杖尻で床を軽く叩くと、カツン、という音と共に薄い青色の魔法陣が浮かび上がった。 ストレージデバイスは、ミッドチルダ式魔導師の大半が扱っているデバイスである。 インテリジェントデバイスと違い、人工知能を搭載していないため、処理速度が早い。 術者次第で高速勝つ確実に魔法を発動できるデバイスである。 「一発で決めさせてもらうっ!」 杖を通して魔力をデバイスへ送る。 先端に取り付けられた筒が光を帯びた。 『Stinger Snipe』 先端を外側に大きく振るうと、青い魔力刃が一直線に傀儡兵へと向かい、粉砕していったのだった。 |
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