『だから、あなたはもういらない……どこへなりとも消えなさい!!』 過去の記憶が、頭をよぎる。 小さい頃、プレシアに……母に花の冠を作ってもらったこと。 嬉しくて、笑顔がこぼれてしまったこと。 言いつけられたことを守れず、両手を拘束されてお仕置きと称して鞭で叩かれたこと。 頬に手を添えられて、不敵な微笑を見せられたこと。 ……小さな時のような、笑顔を見せてくれなかったこと。 「…………」 フェイトの目に大粒の涙が溜まっていく。 『フフ…いいことを教えてあげるわフェイト。あなたを作り出してからずっとね……私はあなたが……』 わかる。 わかる。 その先に、何を言おうとしているのかが手に取るように。 「…………よせ」 一歩を踏み出す。 小さな声で、そう告げる。 しかし、彼女は無情にも。 『大嫌いだったのよ』 憎悪すら篭もった口調で、そう告げた。 その言葉に、フェイトは目を見開く。 それは、完全なる拒絶の言葉。相手の気持ちを踏みにじる、ひどい言葉だ。 かしゃん、と手錠が音を発して、彼女の小さな手から黄色い何かが落ちて…割れた。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #02 母親という唯一の心の拠り所を無くした。 この現実は……子供には、辛すぎる。 フェイトは目には涙を溜め込んで、その場に座りこんでしまった。 …まるで、目の前の現実を拒絶するかのように。 「フェイトちゃん!」 「フェイト…」 なのはと金髪の少年――ユーノで彼女を支えて声をかけるが、まったく反応を見せない。 「局員の回収、終了しました」 「…艦長」 クルーの報告とほぼ同時に、はリンディに声をかけていた。 彼女もアースラのクルーたちも、がなぜここにいるかを知らなかったのだから。 「あぁ…君。あなた、どうしてここに?」 「レティ提督からこちらを応援しろと言われてきました。最初はめんどいのでテキトーに終わらせてちゃっちゃと帰ろーとか、思っていたんですけど」 その言葉に、リンディは軽く苦笑して見せた。元々、彼は自分が面倒だと思うことが嫌いだったから。 強く握りこんでいた拳を開放すると、ぽたりと床に赤い点が作られた。 手のひらから、血が流れ出ていたのだ。 それほどまでに、彼女――プレシアが許せない。 しかし、彼の表情には満面の笑みが浮かび上がっていた…………額に青筋を浮かべて。 「そういうわけには、いかなくなりました。アイツ……ぶっ飛ばしてきます。いいですよね?」 その言葉と同時に、エイミィの声が響き渡った。 彼女のいる屋敷の中に、魔力反応が多数出たとのこと。 中空に浮かんでいる画面には屋敷内が映しだされ、床から鎧のようなものが出てくるのが見えた。 黄土色の鎧に槍のような武器を持ったものや、紫色の鎧。 さらに、青の重装備に巨大な斧を持っているものも見える。 それらは自らの足で降り立つと、顔の部分を赤く光らせた。 時空間に浮かぶ『時の庭園』に多数の魔力が感知され、エマージェンシーコールが鳴り出した。 「……行きます」 「君!」 転送装置に向かう彼を追いかけたのはリンディだった。 急ぎ足で装置へと向かう彼の肩に手をかけて振り向かせると。 「!?」 彼の目からは、涙がとめどなく溢れていた。 「このままじゃ、あの子が可哀想すぎる。アイツのトコに行って、一言言ってぶっ飛ばしてやります」 行かせてください。 涙の流れ出るその瞳には、強い光が宿っていて。 自分では止められそうにない、と彼女なりに理解して、彼を開放した。 「えっと…そこの君」 「わ、私ですか……?」 反応を見せたなのはにうなずいてみせる。 軽く苦笑すると、 「自己紹介は後でするよ。今は……!?」 そこまで告げたところで、アースラ全体が揺れ始めた。 時の庭園。 プレシアは少女の入った水槽に手をかざし、固定していた拘束具をはずす。 すると、水槽は重力に逆らって浮かび上がり、踵を返したプレシアに付き従うように動き出した。 玉座の間まで歩み出て、両手を広げる。 「私たちは旅立つの……」 呟いた瞬間に、収集された9つの蒼い宝石――ジュエルシードが浮かびあがり、円を書くように彼女の周囲を回転し始めた。 それは回転を止めないままに徐々に高く上がっていく。 「忘れられた都…アルハザードへ!」 ジュエルシードは、次元干渉型のエネルギー結晶体。 シリアルナンバーが21まで刻まれており、その数が多ければ多いほど『願いが叶う』規模が増す。 しかし、彼女の目的は違った。 「まさかっ!?」 声を上げたのはクロノ。 広い広い空間内で9個のジュエルシードが強い光を発し……地鳴りとともにアースラごと揺れが強まっていく。 「次元震です! 中規模以上!!」 彼女の目的は、ジュエルシードに込められたエネルギーを無差別開放することで大規模な次元震を起こして、次元世界の狭間に存在すると言われる失われた秘術の眠る土地『アルハザード』へ行くことだった。 「振動防御、ディストーションシールドを!」 リンディは慌てることなくクルーに指示を出す。 さらに報告されるジュエルシードの反応に、眉をひそめながらもさらに指示を出した。 「とと、ごめん。えっと……」 「あ、高町なのはです」 「そか…なのはちゃん。君はその子についていてあげて」 「もちろんです!」 その言葉に、素直に嬉しいと感じてしまった。 高町なのはという少女は、友達思いの優しい子だ。きっと、悪いようにはならないと思った。 だからこそ。 「それじゃ、行ってきます。エイミィ、聞こえる? ゲートお願い」 『えぇっ、君!? なんでそこに……ってクロノ君!?』 そこまで聞こえていたが、すでにはゲートに向けて走り出していた。 「…………」 は、無言で廊下を走り抜ける。 満足に明かりのない中、ただ一直線にゲートを目指した。 自分の子供を突き放すヒドイ母親。 最悪だと思う。 彼自身両親を亡くしてしまったがために、今こうして敵地へ向かおうとしている。 ただの自己満足だ。 自分が気に入らないから、ぶっ飛ばしに行く。 でも、放っては置けない……置いてやらない。 仕事を押し付けてくれたレティ提督に、感謝していた。 「行くよ、クサナギ」 は腰のキーホルダーをはずす。 それは、彼の愛杖。 『Verstandnis』(了解) その声に、キーホルダーから声が響き渡った。 トーンは高めだが、男性的な声だ。 同時にキーホルダーが光を帯びて、一振りの薙刀へと姿を変えた。 彼の愛杖『クサナギ』。 とても杖には見えないが、これはベルカ式アームドデバイスというれっきとした魔法の杖だ。 長い棒に白に近いエメラルドグリーンの刃が取り付けられており、その根元にベルカ式の特徴である白いリボルバー型のカートリッジシステムがくっついている。 「……ただじゃ置かない」 転送装置のゲートまではすぐそこだ。 忘れられた都『アルハザード』のことなど、今はどうでもいい。 今はただ、彼女をぶっ飛ばす!! 急いで走りゲートに辿り着くと、再び七色の光を発しながらその身を画面に広がる『時の庭園』へと飛ばしたのだった。 |
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