「ただいま戻りましたぁ〜……あの、レティ提督? あんまり大変なの俺に押し付けないでくださいよ〜」 「あら、お帰りなさい君。早速で悪いけど、もう1回行ってきてくれるかしら?」 「はぁっ!?」 ――短めの茶色い髪を束ねて、小さなメガネをかけた少年だった。 たった今、任務から戻ってきたばかり。非常勤の嘱託魔導師である。 腰の部分には細長いキーホルダーをつけており、明かりに反射して光を帯びている。 「リンディ提督が、アースラで出ているわ。転送するから、手伝ってあげてちょうだい」 「リンディさんが……ロストロギアだとかっていうジュエルシードの事件ですか」 めんどくさいなぁ……と内心で思う。 なにせ、今一番危険度の高いミッションだ。好き好んで出て行くような物好きはいないだろう。 しかも彼自身、今別の任務から戻ってきたばかり。 ……非常勤の人間に、そこまでさせるかフツー? 「いぃじゃない。貴方はまだまだ若いんだから……何事も経験よ」 「あの。俺、一応任務終わらせたばかりなんですけど」 そんなの呟きはもちろん却下。 デスクワークをこなしていたレティ・ロウラン提督。 彼女は時空艦『アースラ』の艦長リンディ・ハラオウンの同僚兼友人で、お茶飲み仲間。 メガネの似合うお姉さまである。 主な仕事は時空管理局の人事。人員や艦船の配置などを取り仕切っていた。 「……つまり、俺に拒否権はないと?」 「あら、そう聞こえなかったかしら?」 ………… 大人ってヒドイ。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #1 「まったく……あの人はいつもコレだよ」 時空管理局本局の転送ポート。 アースラへと向かうために、はうなだれながら向かっていた。 転送自体はあっという間なのでいいのだが、問題はその先。 大規模な戦闘の真っ只中に転送されては面倒なことこの上ない。 彼は元々面倒くさがりで、厄介事は願い下げ。 本来なら、この(押し付けられた)仕事も関与したくなかったのだが。 「まぁ、クロノ君も行ってるみたいだから、テキトーに手伝ってちゃっちゃと終わらせちゃおうかな」 よしっ!! むんっ、と気合を入れると、 「ども〜、嘱託魔導師・ です〜」 意気揚々と、転送ポートへ足を踏み入れたのだった。 『もうダメね、時間がないわ。たった9個のロストロギアでは……』 中空に浮かんだ画面の向こうで、黒髪の女性が1人の少女が入っている水槽にすがりながら、誰にともなく口にしている。 地面を引きずってしまいそうな長い裾に漆黒のドレスを着ており、紫の口紅を引いた女性――元時空管理局中央技術開発局の第3局長という肩書きを持った自称『大魔導師』プレシア・テスタロッサ。 茶色の髪をツインテールに結わえ、白い服を身に纏った少女――高町なのはの隣りで手錠をかけられている金髪の少女――フェイト・テスタロッサの母親である。 プレシアはフェイトにロストロギアであるジュエルシードを収集させていた張本人で、フェイトはついさっきまでなのはと戦っていたばかり……もっとも今はアースラで拘束されているので、なのはに敗北を喫したことになるわけだが。 反対に、高町なのははまだ魔導師になりたての小学3年生。 ジュエルシードの発見者ユーノ・スクライアのためにとインテリジェントデバイス『レイジングハート』を譲り受けた少女だ。 潜在魔力は彼女のいた世界では稀で、著しく高い。 つい先日まで戦い方すら知らなかった彼女が、今ではAAAクラスの魔導師にまで成長を遂げていた。 そんな彼女は今、フェイトを支えながら悲しげな表情を浮かべている。 それはなぜかと問うならば。 『でも、もういいわ…終わりにする。この子を亡くしてからの安鬱な時間も、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも……』 たった今、これから。 水槽の中の少女をうっとりと見つめているプレシアの口から、とんでもない言葉が発されようとしていたからだった。 フェイトが瞠目し、背筋を凍りつかせる。まるで、これから発される言葉が分かっているかのようで。 「フェイトちゃん……」 なのはは心配そうな表情を彼女に向けていた。 そんな中、ブリッジの出入り口が開き、1人の少年が姿をあらわした。 彼はどんよりとした雰囲気に思わずきょろきょろと周囲を見回すと、 「はぁい、どもです。レティ提督…か…ら…………えっと、今取り込み中ですね。すんません、後にします」 「君……?」 そう。 ついさきほどレティ提督から任を押し付けられた魔導師、である。 彼は居心地悪そうに苦笑し頭を掻くと、前方の画面を凝視した。 『せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、私のお人形』 その言葉に、アースラ通信主任兼執務官補佐のエイミィ・リミエッタは自身の指を絡ませて顔を伏せる。 彼女は今、通信室でブリッジ同様にプレシアの言葉を聞いていたのだが。 とても、母親としての言葉ではないその一言が、フェイトの心を揺さぶっていた。 「……最初の事故の時にね、プレシアは実の娘…アリシア・テスタロッサを亡くしているの」 彼女が最後に行っていた研究は、使い魔とは異なる…使い魔を超える、人造生命の生成。 つまり、彼女の目の前にいる少女を、生き返らせようとしている。 魔導師がパートナーとして行動を共にする使い魔ではなく、1人の人間を、自らの手で作り出そうとしているのだ。 「そして、死者蘇生の秘術…フェイトって言う名前は、当時彼女の研究につけられた開発コードなの」 エイミィは、みなに言い聞かせるように告げた。 つまり、目の前にいる少女フェイトは、彼女の『アリシアを生き返らせる』という目的のためだけに作られた生命であるということだ。 よく調べたわね、とプレシアは口にする。 とても賞賛しているようには見えない。もちろん、彼女に賞賛などするつもりもないのだろう。 「…………」 は、アースラに来た早々に、怒りを感じていた。これが母親か、と。 彼自身、天涯孤独で家族はいない。 今だって、魔導師の仕事でなんとか一人暮らししているくらいだ。 彼はまだ12歳。親に甘えている年頃だ。でも、その両親がいない…その温もりに甘えることはできない。 フェイトは唯一の母親に拒絶され、甘えさせてもくれない。 それがどれほど悲しいことか、はよくわかっていた。 『だけど、ダメね。ちっともうまくいかなかった。作り物の命は所詮作り物。失ったものの代わりにはならないわ』 プレシアは画面の向こう…つまりアースラにいるフェイトに視線を向けた。 その瞳には彼女を自分の子供として扱うつもりのない、狂った光が宿っている。 『アリシアは優しかった。アリシアはときどきわがままも言ったけど、私の言うことを良く聞いてくれた』 「やめて………」 なのはが画面を眺めて弱々しく口にする。 彼女とフェイトの間に何があるのかはにはわからないが、なのはがフェイトを心配していることだけは理解できる。 いい娘なんだな、と、は素直にそう感じていた。 でも、そんななのはの声も届かず、プレシアはさらに言葉を紡ぐ。それは、フェイトの存在自体を否定するかのような、そんな響きが込められている。 『フェイト』 振り向く。 『やっぱりあなたは、アリシアの偽者よ』 その言葉に、フェイトは背筋を凍らせた。 実の母親からの拒絶。それは子供にとっては絶望を感じてしまうものだ。 ……つらい。そして、あの女は人じゃない。 は歯軋りをしながら、怒りの篭もった視線を画面の向こうのプレシアへと向けた。 今まで何があったのか、彼は知らない。 でも、彼女の気持ちが……彼には分かる。 だからこそ、面倒くさがりの彼が、怒りを露にしていたのだ。 『せっかくあげたアリシアの記憶も、あなたじゃダメだった』 「やめて……やめてよ……」 徐々になのはの声が荒くなっていく。 その声には悲しみが混じり、先ほどと同様に弱々しい。 『アリシアを蘇らせるまでの間に、私が慰みに使うだけの……お人形』 「やめろ……」 もう、我慢できない。 あの女はなんだ。フェイトは自分の子供のはずだ。なのに、その言い草はなんだ!! 肩を小刻みに揺らし、両手に強く拳を握る。 『だから、あなたはもういらない……どこへなりとも消えなさい!!』 アースラの画面に向けて。 憎い敵を追い払うかのように、その手を振るっていた。 「お願い、やめ……」 「艦長、アイツ…ぶっ飛ばしてきていいですか?」 そう口にする彼の表情には。 「?」 額に青筋を浮かばせながらも、満面の笑みを浮かべていた。 |
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