「……はぁ、マジかよ。せっかくのナンパ日和が……」


 大河は、うなだれていた。
 モンスターの襲撃も一段落し、学園内にものんびりとした穏やかな雰囲気が漂っている。
 つかの間の平和。
 破滅の動きも心配ではあるが、そんな平和を精一杯楽しもうと、このところ学園の内外で明るい話題が飛び交っている。
 大河の言葉通り、恋の花咲く話題ももちろんのことだ。
 しかし、彼がうなだれているのは、ナンパに行こう! と決めて行動しようといきり立ったときだった。

「学園の医療施設の為の薬の買出しを…お願いしますね?」

 ばったり出会ってしまったダウニーに、おつかいを頼まれてしまったのだ。
 言葉どおり、薬の買出し。
 迫る破滅襲来に備えてのことなのだろうが、渡されたメモを見て絶句。
 ……全校生徒の分と、備蓄分。
 量からすれば相当なものだったりする。

「しゃーねーな。セルかでも誘って、ちゃっちゃと終わらせちまおう」

 そのついでにナンパだ!
 はその手の話に疎いようであまり関心がないようだが、自分がナンパをすることに文句とかは言わないから。
 まぁ、いざとなったら学園まで荷物も持っていってもらおう。

 完全にパシリ扱いである。
 ちなみにセルには寮の入り口で断られた。
 なんでも、未亜とデートらしい。
 慌てて追いかけようとしたのだが、セルが異常な速さで未亜を連れて行ってしまっていたので、追いかけようにも間に合わなかった。




Duel Savior -Outsider-     Extra.3-A  -side  Avater-




「だからさ。なんでそんなに怒ってるんだよ」
「うるせ。どーでもいいだろ」
「買出しには付き合ってやるから、機嫌直せって。そんなんじゃ誰に頼んでもヒくって」
「お、おお…そうだな! せっかくだから、街でぱーっと騒ごうぜ」
「よっしゃ。まぁ、その前に買出しを終わらせてな」

 というわけで、大河は二つ返事で了承の答えをもらっていた。
 でまどろみの中にいたわけだが、大河の不機嫌っぷりにぱっちり目が覚めてしまったからというのは内緒だ。
 2人で意気揚々と寮を出たところで、

「あ、未亜とセル」

 グッドタイミング、と言わんばかりに2人が中庭を出て行くところだった。
 大河はにか、と笑って走り出す。

「よお、2人とも。いいところにいたな」
「あ、お兄ちゃん」
「げ」

 なにが、げ、だ。
 そういいたいのを我慢して、大河は笑顔を顔に貼り付ける。

「ここで会ったが百年目。さっきは逃したが、残念だったな」
「な、なんだよ、大河……」

 大河はにか、とセルに挑発的な笑みを浮かべると、

「俺もついてくぞッ! 街にはついでの用事もあるしな!」

 の存在を忘れて、大河は声をあげて宣言した。

「ほんと!?」
「んな、馬鹿なっ!」

 対照的な表情である。
 セルからすればせっかくのデートが兄の存在で台無しだし、反対に未亜は兄がついていくということで喜びを露にしている。
 は落ち込んだセルの肩を叩くと、

「まぁ、なんだ。ショックなのはわかるが、元気出せ」
「あぁ、そーだな…って、お前なんでこんなところに?」
「大河に誘われてな。街に買出しに行くからって」

 行こうとしたところで、2人を見つけてこのありさまだ。

 そうセルに告げると、

「なんだよ…一緒にいくヤツがいるなら、ソイツと行けよぉ」

 なんていうか、セルの悲痛な心の叫びを聞いた気がする。



 その後、ベリオ、カエデ、ナナシ、リコ、リリィの順で仲間に加え、総勢9人。
 救世主クラス勢揃いの上に、プラスアルファで傭兵セルビウム。
 彼はせっかくのデートがこんな大所帯になってしまったことで、その原因である大河を恨んでいたが。

「落ち着けセル。よく考えろ、君は今、救世主クラスの女の子たちと一緒してるんだぞ?」

 実にらしくないセリフだが、彼を立ち直らせるにはこういった方法を用いるのが一番だということを、今までの生活の中から学んでいたのだ。
 めざといと言えば、そこまでなのだが。

「しかし……」

 リリィの物言いには笑える。
 わざとクラスメイトの悪口を並べて『監視』の名目の上でついてきているのだから。
 ……一緒に行きたい、って言えばいいのに。



「ひゃ〜、すっごい数の人でござるなっ!」
「そりゃ王都ですもの。カエデは外に出たことないの?」
「お休みの時はもっぱら修行してたでござるよ」

 そんな会話を聞きつつ、も周囲を見回す。
 大きな街道のはずなのだが、見渡す限り人ヒトひと。
 脇のところに露店やら屋台やらいろいろと見て取れるが、人ごみのせいでなかなか前に進めそうにない。

 街道を行く人々の顔は笑顔ではなく、緊張感漂う表情をしていることから、破滅との戦いの情報が流れていることは間違いないだろう。

 人ごみにはぐれないように、と大河は主にナナシに向かって注意を促していたのだが、彼女はそれを勝手に愛だと判断して満面の笑みを浮かべていた。

「それじゃ、とりあえず最初に目的だけ達成しちゃうか」
「でもせっかく王都まで出てきたのに、買出しだけっていうのもあれですね」
「そういえば、ちょうど昼飯時だよな。みんなで飯にでも行くか?」

 そんな大河の意見に反対したのは誰でもないリリィで。
 用事は最初に済まさなければ気がすまないタチなのだろう。
 「カチンコチンのダメ魔術師め」なんてグチったところでリリィが魔法を発動しようと右手に光が集まっていくのが見える。
 ……アレじゃ、『監視』の意味がまったくないんじゃなかろうか。
 そう考えたのはだけではないだろう。

 結局、大河の発言でリリィは激昂。
 予備動作も何もなく、彼女の右手から魔法が放たれて。
 街が…阿鼻叫喚。


 結局、大河がわざと魔法を受けることで収束したが、気絶した大河を運ぶ役目は、に回ってきていたりする。
 街の人たちが不審な視線を向けている中を、そそくさと病院へ向かったのだった。


 大河が目を覚ましたのは、目的地である病院についたときだった。
 待ち人用の長椅子に寝かされていた大河は気だるげに目をこすり、状況を確認しようと周囲を見回す。
 本気で心配していた未亜とは裏腹に、

「ある意味、ちょうどよかったでござるな」

 なんてのほほんと口にするカエデだったが。
 彼女は彼女なりに、理解していたのだろう。
 今まで幾度となくリリィの魔法を受け続けた彼が、あのくらいでどうにかなってしまうほど軟弱ではないだろうと。

 大河はいまだにぼんやりしたまま、身体を起こす。
 買出しをしようと立ち上がると、カウンターのところから赤が飛び込んで。
 リリィが買出しをしてるんだ、と理解する。

「よかったな、大河。荷物持ち、なさそうだぞ」
、それはほんとか…?」
「病院と交渉して、買出しのリストにあるものを学園に運んでもらうって話になってるみたい」
「……すっごい反省してるみたいよ」

 最後にそう付け加えながら、ベリオはくす、と笑みを浮かべた。
 戻ってきたリリィはわざとらしく咳をすると、先刻のことについてを素直に謝罪。
 大河は大河で、それを受け入れていた。
 謝罪に聞こえなかったのは、きっとだけではないだろう。

「にしても、時間が余ってしまったでござるな」
「みんなで遊びに行くですの〜っ!」
「みんなで…ってのはナシにして、別行動って言うのは…」
「それじゃ、わたしお兄ちゃんと一緒にいるね、心配だし」

 セルの発言は、そんな未亜の一言で見事に打ち砕かれていた。
 「みんなで一緒って、いいっすよね!?」なんて取り繕うセルに、思わず同情の視線を向けてしまった。

「大河君、これからどうするの?」
「ん〜、予定外に早く用事が片付いたし、みんなで飯でも行くか?」

 というわけでみんなで食事と相成ったわけだけど。
 ナナシというゾンビの存在があったためか、レストランは無理そうだという結論に至った。
 周囲を見回せば、いくつかは休業中。
 さっきの騒動の余波…かもしれない……いや、まちがいない。

「レストランがダメなら、屋台とかでいろいろ買ってさ。外で食べるってのもいいんじゃないか?」
「そうだな、それじゃそれぞれで適当になんか買って、公園とかで食うか」

 というわけで、みんなそれぞれに散って屋台を見物しているのだが。

「師匠! 拙者、このほっとどっく、とかいうものを食べてみたいでござるよっ!」

 はカエデに捕まっていた。
 腕をしっかと掴んで、子供のようにはしゃぐカエデの姿に思わず苦笑してしまったり。
 ホットドッグなんてこの世界にもあるんだな、とか思いつつも、はとある白い物体に目をつけた。
 それは……

「おにぎり……」

 白飯を三角状に固めて、その真ん中に梅や昆布といった具を入れて苔でくるむ、アレである。
 中身も同じようで、品書きに具の内容まで書かれていた。
 なので。

「おっちゃんっ! おにぎり! 梅っ! たくさんっ!!」
「よしきた。こりゃまた威勢のいい兄ちゃんだな! ちょっと待っとけ!」

 スキンヘッドのおっちゃんに頼むと、屋台の下にもぐりこんでごそごそとやっている。
 しばらくすると、両手にいっぱいのおにぎりをに渡した。

「それじゃお金……」
「お。お前さん、旅人か何かかい?」

 腰にある刀に目をつけてか、おっちゃんはにそう尋ねていた。

「え? あぁ…フローリアの学生ですけど」
「それじゃ聞きたいんだけどよ。ホワイトカーパス州が破滅についたってのは…本当なのか?」
「っ!?」

 初耳だった。
 学園内で救世主クラスという立ち位置にいながら、そんな情報はまったくなかった。
 意図的に隠していたのか、伝える必要が無かったのか。
 どちらにしても、これで敵の中にモンスターだけではなく『人間』も混じり始めたということになる。

「俺も聞いた話だからな。よくはわからねえんだが…王都の外から来た商人たちの話を聞いちまってな」
「…………」

 苦笑しつつ、おっちゃんはさらに言葉を口にしていく。
 破滅の軍に味方した人間は、すべて滅んだ後でも生かしておいてもらえるとか。
 表だって破滅に味方する人間は少ないが、今後の情勢によってはどうなるかわからない。
 そのすべてが初耳で。

「兄ちゃん?」
「えっ……あ、えーと、その話は初めて聞いたけど、大丈夫だと思う。もし王都が危険になっても、救世主クラスの人たちが絶対に守ってくれるよ」
「…ハッハッハッハ! そーだな、俺たちにゃ救世主さまがいたんだった!」

 おっちゃんは高々に笑うと、バンバンとの肩を強く叩き始めた。
 希望を失ってはいけない。
 例え『救世主』という伝説が偽りだったとしても、『救世主クラス』はここにいる。
 世界を破滅から救おうと、日々先頭に立っている人間たちがいる。
 不安がっている一般の人たちにを、安心させたかった。

「師匠! 大変でござるよ、ホワイト…」
「ああ、俺も今聞いた。おっちゃん、色々ありがとう。ほい、お金。足りてるよな?」
「おう! オッケーだ。毎度!!」

 ホットドッグを抱えたカエデが神妙な表情で口にするのを制して、もといた場所へ戻ると。


「こいつらはな、救世主の候補生だよっ!」


 セルの力強い声が響き渡っていた。

「大河! リリィ!」
、カエデ……」

 シリアスな場面に、おにぎりとホットドッグを抱えた男女が現れてどうかと思うが。

「そうさ。こいつらはな、身体張って破滅の化け物たちと戦ってるんだ!」

 人々の視線が、自分たちに突き刺さる。

 この人たちが…救世主?
 こんな子供が?

 そんなヘンなものでも見るかのような視線。
 そんな中でおにぎりを抱えているのを見たらうそっぽいことうけあいだが、

「自分の生まれたわけでもないこの世界と、他ならぬあんたたちの為に、命がけで戦ってるんだ!!」

 セルは数人の男性たちをにらみつけると、

「そんなこいつらの前で…よくもそんな台詞が吐けるな、おっさんッ!!」

 言い放った。
 元々ここが集合場所だったので、それぞれに散ったはずの仲間たちが集まるのも無理はないのだが。
 さらに、セルの声に反応して、街の人々まで集まってくる始末。

「なぁ…あんたら、破滅の化け物と戦ったのかい?」
「え? あ、あぁ……」

 急に尋ねられて、引き気味になりながらもうなずく。
 クラスの周囲に集まって、口々に尋ねてくる。
 不安に駆られながら毎日を送っているのだから、無理もない。

「ねぇ、おねえちゃんもきゅうせいしゅさまなの?」
「えっ?」
「おねえちゃん…きゅうせいしゅさまなんでしょ? みんなをたすけて…せかいをすくってくれるんでしょ? …リアのおとうさんも、たすけてくれる?」

 小さな、本当に小さな声だったが、往来のざわめきの中でもはっきり聞こえた、女の子の声。
 どう答えていいものかわからず、助けを求めるかのように未亜は視線を大河を含むクラスメイトたちに向ける。
 しかし、誰も助け舟を出すことはない。
 なぜなら、救世主クラスの誰もがその問いに答えられるような立場ではないのだから。

「おねえちゃん?」

 女の子は泣きそうな表情で、未亜を見やる。
 未亜はそれを見て、彼女に視線を合わせるようにしゃがみこむと頭を撫でた。

「うん、きっと助けるよ。リアちゃんのお父さん、見つけたらきっと助けるよ」

 それは、まるで自分に言い聞かせているようにも聞こえた。



「あ、そこの飯抱えてる男…知ってる。こないだ学園の闘技場でゴーレムを真っ二つにしたヤツだ!」

 1人が声をあげる。
 視線は、に向いていた。
 どぎまぎと周囲に助けを求めようとするが、それぞれも無理と首を横に振る。
 だから……

「あ、あははは……」

 苦笑して見せた。





 の存在が救世主候補だとわかると、彼が一緒にいる仲間たちも救世主候補ということになる。
 そんな式を成り立たせているのか、全員の視線が救世主クラス8人に向かっていく。
 大河は目を閉じて、一歩前に出ると、

「破滅との戦いは既に始まっている。楽な戦いじゃないだろう…でもっ!」

 でも、のところで目を見開くと、くい、と自らの仲間たちを見やる。

「この世界を守ろうとする人たちがいる。みんなを守ろうと戦う人たちがいる。そして……」

 王国軍の兵士たちや、学園の学生たち。
 みんなこのアヴァターという世界を守ろうとしているのだ。
 もちろん、救世主クラスも。

「召喚器に選ばれた俺たちだって全力を尽くすっ!」

 『召喚器』という言葉に、人々が反応を示す。
 召喚器は、救世主がもつ奇跡の武具。

 自分たちよりも若いこの男女が。
 奇跡の武具・召喚器をもつことが信じられない、と視線が多い。

 ならばと言わんばかりに大河は手を頭上に掲げる。

「来いっ! トレイターッ!!」

 空間のゆがみから具現する一振りの大剣。
 柄を握り締め、前方…自身の正面にヒュ、と音を立てて振り構えた。

「おおっ! 召喚器だっ!」

 広がる歓声。
 湧き上がる希望。

「破滅は容赦ない敵だ! でもきっと勝てるっ! 戦う前に気持ちで負けてちゃ…いけないっ!」

 実に彼らしくない言葉が、次々と飛び出してくる。
 そんな彼に視線を向けていると、ふいに先刻のおっちゃんが視界に入った。
 ぽかんと口を開けて呆けているが、そんな表情に苦笑して。
 はよろけながらもおにぎりを片手で抱えなおすと、おっちゃんに向けてサムズアップ。
 すると、おっちゃんも笑ってサムズアップして見せた。

 人の輪が大きくなり、広場の人々が決意と共に大きくうなずいているのに。

「ぐぅ〜〜〜〜〜」

 彼の腹の虫が盛大に雄叫びを上げた。




 …………………





「はっはっはっはっはっ!」

 一抹の沈黙の後、広場に笑いの神が降り立った。
 大河は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしているが、生理現象とはいえど自業自得だ。
 もちろん、クラスメイトの方々も苦笑。

「よろしければ、コレを……」
「えっ?」

 渡されたのは、こんがり焼けたパンだった。

「腹が減っては戦はできないって言うだろ?」
「そーそー。遠慮するんじゃないよ」

 そう言って、次々と渡してくる屋台の主たち。
 を見やった人々は抱えたおにぎりの上からパンとか乗せてきたので、思わず落としかけてしまう。

「…すいません」
「なに、気にするんじゃないよ。いつも私たちのために戦ってくれてんだろ? これはそのお返しさ」

 ドネルケバブを乗せた女性はからからと笑って屋台に戻っていってしまった。

「……まるで、欠食児童だな」
「俺もそう思ってたところだよ、セル」

 つつつ……とにじり寄ってきたセルに苦笑を返す
 山のように抱えた救世主クラス一行は、その場をそそくさと離れて人の少ない公園へと急いだのだった。






というわけで、閑話サイドアヴァター編でした。
これはゲーム中の第8話をほとんどまんま使っています。
なんていうか、オリジナルを入れるにしてもどこに入れようかなとか、
それ以前にネタがなかったんですよね。

それでもまぁ、適当に入れてみましたので、楽しんでいただけたのなら幸いです。


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