「おいっ、ユエル! しっかりしないか!?」
「うぅ…む?」
目覚めた場所は、戦友の邸宅。
“邪竜事変”で壊滅状態に追い込まれたこの街は、目の前にいる一組の男女を中心に再建されていた。
しょぼしょぼとした眼をこすりながら起き上がると同時に、襲い掛かる虚脱感。
それは、形だけの召喚主と共に戦い抜いた結果によるものだ。
「……ソウシ、カリン」
虚脱感に負けじと目の前の2人を見やり、ユエルは名前を告げたのだった。
Duel Savior -Outsider- Extra.2 -side The rebuilt town, Vandor-
「大丈夫かい? アンタ、突然消えて突然現れたんだよ」
女性――カリンはすでに言っていることがメチャクチャだ。
長い時間が経過しているにも関わらず、見てくれはあのころ(オリジナル連載)となんら変わりはない。
男性――沖田 総司という名の男性は、この街、召喚獣と人間の共存を可能とした街ヴァンドールの初代領主だったりする。
領主、というとあまりよくない印象がまとわりつくこのリィンバウムという世界だが、彼は特に悪政を強いるわけでもなく。
民衆と対等に接することで街を成り立たせている人間だ。
特筆すべきは、彼の指揮力にある。
人間と召喚獣との間のいざこざも、彼が介入すればたちまちなりをひそめてしまうということで、街の人々も彼を高く評価しているらしい。
もっとも、彼自身はそんなこと頭の片隅にすらありはしないが。
それらに関してはこの街に来たときにすでに思っていたことだったのだが、今はそれはどうでもいい。
「に…会ってきたの」
「…は?」
「どういうことだ、ユエル?」
どういうこともなにもない。
自分は今まで、と一緒に戦ってきたところなのだから。
最も、彼は「訓練だ」といっていたのだが、相手の男性があまりに失礼だったので、意味もなく思い切り戦ってきた。
自分の実力にかなり驚いていたようだけど。
「って…アイツ、故郷の島にいるんじゃ?」
そんなカリンの問いにユエルはふるふると首を横に振り、否定の意思を示す。
彼は今、島にはいない。
どのような経緯があったのかは知らないが、今は『アヴァター』なる異世界にいる。
彼女自身、おつむが微妙に足りないのであまり理解を深めることはできなかったが、が今、リィンバウムにはいないということだけは理解できていた。
「今ね、は『あばたー』っていうところにいるの。で、『はめつ』っていう敵と戦ってるの」
「あばたー?」
「はめつ?」
……すいません、よくわかりません。
元々破滅という言葉は、固有名詞として用いる言葉ではない上に、普通は集団などの名称にはなりえない。
だからこそ、2人は頭上にハテナマークを飛ばして首をかしげていた。
「と、とにかく…は今、その『はめつ』とやらと戦っているというのだな?」
「うん。ユエルはなんか訓練のために喚ばれたらしいけど。なんか、『しょーかんきの実験』って言ってた」
「……まぁ、実験とはいってもこの子を悪いようには使わないでしょ。ユエル、どこか身体に違和感はあるかい?」
「ううん、ちょっと疲れてるだけ。向こうで戦ったから疲れただけだから、他にはぜーんぜん」
ぴょんぴょん飛び跳ねて、自分が元気であることをアピールしてみせるユエル。
空元気でもなく、普通に見えるのがどこか不思議だ。
自分の主が同じ世界にいないのだから、心配くらいはすると思うのだが。
「だいじょうぶだよ、ソウシ」
「…………」
「ユエルね、約束したんだ。“必ず戻る”って。最高のハッピーエンドを迎えて、戻ってくるって」
だから、心配はしないの。
彼女はが生きて戻ってくるって、信じているから。
2人は互いに顔を見合わせ、苦笑。
……こちらの心配はご無用、ということか。
彼らの長い間で培ってきた信頼感は、他人が干渉したところで意味をなさないらしい。
「はは、妬けるねぇ」
カリンはそんなことを口にして、からからと笑ったのだった。
「まぁ、とりあえずユエルは島に戻った方がよさそうだな。きっと、向こうの連中はの助けになろうと躍起になっているはずだからな」
ヴァンドールには……ひいては自分の周囲には召喚師が存在しない。
街に入った人間は、種族問わず平等に接する。
これが新生ヴァンドールの暗黙の了解だったりする。
そんな理由から召喚獣を使役する召喚師という存在は、この街をあからさまに避けていくのだ。
そこへ……
「おう、ユエルじゃねえか。こんなところでなにしてんだ?」
「レナードさん!?」
ギブミモ邸で召喚術の勉強をしているはずの元ロサンゼルス警察官レナードがたばこを口に立っていた。
彼は、先の『傀儡戦争』で派閥とは独立して活躍した集団の1人。
も同じ集団に属していたので、ユエルもレナードとは既知の仲だったりする。
「おう、領主さんがた。ごぶさただな」
「こんにちは、レナードさん。もしかして、この子の知り合いかい?」
カリンが笑顔で尋ねると、「こないだの一件でな」と頭を掻いた。
レナードが傀儡戦争に関与していたというのは、すでに2人とも知っている。
…っていうか、以前街に入った瞬間になぜか身柄を拘束されて、一直線に彼らの屋敷に連れて行かれたのだ。
街のしっかりとした復興直後に傀儡戦争が起こったので、敵の襲来に備えていたという部分もあるためだ。
敵でないことがわかると、平謝りしながら開放したことを未だに彼は鮮明に覚えていた。
ちなみにこのときの彼の目的は、以前から聞いた『人間と召喚獣の共存する街』を見てみたかったというものだった。
今では居心地がよすぎて今のように街の外れの家を借りて暮らしてしまっていたりするのだが。
もちろん、元の世界に帰るという目的も忘れてはいないのだが。
「もしかして、お前さんたちもユエルと知り合いだったのか?」
「ああ、昔の仲間でな。もちろん、もだが」
の名前を聞いたとたん、レナードは周囲を見回して彼がいないことを確認する。
「で、そのはどうしたんだ? 一緒じゃねえみたいだが……」
「は…」
「今ね、ここじゃない場所でユエルたちのために必死になって戦ってくれてるの」
「は?」
なにを電波なことを、と普通の人なら思うだろう。
それはレナードも例外ではなかったのだが、ユエルの瞳には嘘がなく、真っ直ぐにレナードの黒い瞳を射抜いていたからこそ。
「…そうか。しかし、アイツも相変わらず巻き込まれてるみてえだなぁ」
ははは…と、頭を掻きながら苦笑してみせたのだった。
ユエルはそんなレナードの声を聞きながら、空を仰ぎ見た。
ここからではわからないが、今も必死になって戦っているのだろうか?
また、自分を頼って喚んでくれるのかなあ?
そんなことを考えつつ、
「さてと。ユエルは、これから島に戻るね」
「おいおい、もうすぐ日没だぞ。いいのか?」
「うん。帝都はすぐそこだし、今から呼べば港に来てくれると思うから」
肩から提げている大きめのカバンをあさり、取り出しましたるは携帯電話……もとい、携帯型通信機。
折畳式で、ぱかと開くとボタンは2つ。
以前が島との連絡のために使っていたものを、ラトリクスで改良したものだ。
「まぁ、お前は強いからな。はぐれと出会ったところで死ぬことはなかろう」
「気ぃつけて行くんだよ」
ソウシとカリンに手を振って、背を向けると。
「ユエル、俺様も同行させてもらっていいか? が言ってた『島』ってトコ、一度行ってみたかったんだよ」
頼むぜ、な?
両手の平を合わせて、レナードはユエルにお願いしてみると。
「別にいーよ。それじゃ、行こっか!」
こっちだよ!
街を出て、見慣れた帝都への道をさくさくと歩き始めたのだった。
レナード登場&オリジナル連載サイド編です。
とにかく、色々としょんぼりな部分とかありまくりですが、とりあえずこんなもんで。
ゼラム編については、書きません。
なぜなら、主人公はゼラムの人間を召喚していませんので。
もしかしたら、島サイドも含めてこの先彼らの登場がありうるかもしれませんね。
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