それは、突然の出来事でした。

 私の勘違いで帰ってこない彼の心配をしていた矢先の出来事で。

 彼が召喚した少女ハサハちゃんが、島から消えてしまったのです。


 彼の所在すらわかっていないのに。

 それ以前に手がかりだって全然見つかっていないのに。


 彼女は“一時的に”島から消えてしまった。

 戻ってきた彼女はひどく衰弱していて、うわごとのように、


「おにいちゃん、おにいちゃん」


 と口にしていて。

 彼女が彼と一緒にいたことは、彼女が突然戻ってきた瞬間に出くわした全員が理解できていました。

 …………

 今、貴方はどこにいるんですか?
 何をしているんですか?

 無事で――いるんですか……?



Duel Savior -Outsider-     Extra.1  -side  The forgotten island-



「う……」
「あっ! センセ、カイル。目、覚ましたわよ」

 機界集落ラトリクスはリペアセンター。
 傷だらけ、というよりは魔力切れで衰弱していた彼女の治療のため、自分たちの前に突然戻ってきた彼女を大急ぎで運んだのは2日ほど前のことでした。

 とりあえず、ひどかったんですよ?
 なにしろ、全身は無数の小さな切り傷があって。
 命に別状はないってアルディラは言っていましたけど、もっとひどいのは彼女の弱りっぷりだとも言っていました。

 ハサハちゃんが消えてしまったときも、先日戻ってきたときも。
 彼女を覆っていた光は『召喚術』だというのはわかっていたんです。
 二重誓約(ギャミング)なら本来『戻ってくる』なんてこと、あるわけないのですが……

「アティ…せんせい?」
「はい、アティですよ。大丈夫でしたか、ハサハちゃん?」

 ハサハちゃんは私の声を聞くや否や目尻に涙を溜め込んで、

「っ!!」
「えっ、ハサハ…ちゃん?」

 がば、と私に抱きついてきていました。
 普段感情をあまり表に出さない彼女の、切なる涙。
 一体、どこで、誰と、何をしてきたというのだろう?

「で、実際のトコどーだったんだよ?」
「はい…ハサハさまは、極度の緊張状態と共に召喚術を限界まで行使した結果による衰弱状態と思われます」

 ですが、もう心配は無用です。

 ハサハちゃんの看病をしていたクノンは相変わらず無表情だけど、彼女なりに心配をしているようで。
 私のことではないのに、なぜか嬉しく感じてしまった次第です。

「さて…それじゃ、起きたトコ悪いんだけど…話、聞かせてもらえるかしら?」

 スカーレルの言葉に、ハサハちゃんはこく、とうなずいた。
 私も、聞きたいことです。病み上がりとはいったものの、気になることは確かなので、止めはしませんでした。


「ハサハね…おにいちゃんによばれたの」

 ハサハちゃんの話は、こんな出だしから始まりました。
 やっぱり、私たちからすれば待望の彼の情報。
 彼女を通じて彼の安否が確認でき、さらにその場所がわかれば大進歩というものです。

 彼が消えた経緯はまったくの不明。
 でも、辿り着いた場所は『アヴァター』という世界。
 そこで、『破滅』という軍勢と対立し仲間と共に戦っている、という話。
 リィンバウムには隣り合う4世界しかないと思っていた私たちにとって、その話はあまりに衝撃的でした。
 なにせその『アヴァター』という世界は、いくつもある世界(多重世界って言うらしい)の根の部分に当たる世界らしいのですから。

「つ、つまり…はその…あばたー? っていう世界に召喚されたってこと?」

 そんな確認を取るようなソノラのセリフに、ハサハちゃんはちいさくうなずいています。
 すると、拭い去ったはずの涙が再び目尻に目立ちはじめて、

「おにいちゃん、『俺は元気だから』って……でも、おにいちゃん傷だらけで……っ!!」

 彼は、いつまで戦いつづけるのだろう。
 先日、『遺跡の調査』という名目で訪れたヘイゼルさん―――もといパッフェルさんを含む聖王都ゼラムの方々が、彼も仲間として一緒に戦っていたと。
 そう言っていました。
 聞けば、3年程前の“無色の派閥の乱”にも関わっていたという話だし、島を出てすぐに起こったという“邪竜事変”にも関わっていたのだとか。
 さらに今回の一件と、かなりシビアな戦いを彼は何度も繰り返していることになります。
 島に戻ってきて、やっと安息の時間が過ごせるとばかり思っていたのに。
 ここにきて彼の体質だという『巻き込まれ体質』が発現したようです。

 彼ら……パッフェル以外の人たちはもうゼラムへ帰還してしまいましたが、彼女は今もここに。
 『償いがしたい』と言っていますが、私たちとしては彼女が幸せでしたらそれでいいわけなのですが……
 島での事件のときに与えられた時間を、彼女が大事にしている証拠だと、私は思っています。

「たっ、大変ですよっ! なんとか、助けには……いけないですよね〜」

 彼のこととなると慌て出すパッフェルさん。
 あの一件(3連載参照)で彼に助けられた恩が、彼女の中では1番に占めているらしいので無理もないといえばそこまでなのですが……ちょっと複雑です。

「…無理ですね。私たちの使う召喚術は、『リィンバウムと、隣り合う4世界へ干渉して喚びだす術』です。干渉する世界が既知であるからこそ完成する術ですから、まったく未知の世界に、しかもこちらから赴こうなんて…向こうから干渉でもされない限りはできるわけありませんよ」

 この島唯一の召喚師(護人を除く)のヤードさんが、残念ながら、と矢継ぎ早に口にし、今の私たちにはどうしようもないという現実が。
 仲間が窮地に立たされているというのに、助けにいけないとは。
 ……正直、ツラいことこの上ない。

「アイツは何かと無理するヤツだからなぁ……」
「心配かけたくないっていう気持ちはわからなくもないけどねぇ…」

 戦友として戦場を駆け回っていた頃を思い出すカイルとスカーレル。
 それでも。

「心配なのに、変わりはないです。彼は、私たちにとっても『仲間』なんですから」
「…ああ、そのとおり。なんとか、そのアヴァターとやらに干渉できる術を探そう。まずは、そこからだね」

 私の隣りで、レックスが今後の方針を口にし、みんながうなずいています。
 貴方には、こんなにもたくさんの仲間がいるんですから。




















 もっと……頼ってくださいね、




















 ちなみにこのあと、またハサハちゃんが一時的に突然いなくなってしまうということなど、私たちはまだ知る由もなかったり。







間章その1。
島でハサハが召喚された島サイドのその後の話です。
メインの話も区切りがついたので、ここいらでサモン的な話を入れておこうかと考えた次第です。
ちなみに、時間軸的には3連載の番外編後ということで、パッフェルいます。
色々と勝手に話を進めていますが、突っ込みなどはしないでいただけると嬉しいです、はい。


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