『ギャアアァァッ!!!』

 最後まで残っていた鬼人を斬り伏せ、は肩から息を荒げていた。
 召喚獣たちは倒れていくと同時に光に包まれて消えていく。

 は刀は右手に握り締めたまま、両手を膝につけて前かがみになっていた。

 ……なぜだろう?

 そんな考えが頭をよぎっていた。
 リィンバウムでなら、召喚獣相手にここまで苦労しなかったはずだ。
 周囲をあまり壊して回るな、という条件があったとしても、考えて戦えば大河に怪我をさせずに済んだはずだった。
 なのに、彼を危険に晒してしまった。
 後ろにベリオがいなければ、今ごろどうなっていたことか。

 ……召喚術のせいか?

 そんな言葉が頭をよぎるが、本当の所はまったくわからない。

「どうしちゃったんだよ…」

 刀を納め、震えの止まない両手を見てひとりごちたのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.50



、大丈夫?」

 ユエルは周囲に敵がいなくなったことを確認して、荒々しく息を切らすに駆け寄っていた。
 彼女も身体中に傷を負っていたのだが、疲れ自体はほどではなく、まだまだ元気と言わんばかりの表情で心配そうにを見つめていた。
 そんな彼女に苦笑しつつ、大丈夫だと告げる。
 そうは言ったものの、彼はアザや小さな傷を多く受けて、大きく息を切らしていた。
 とても、大丈夫とは言いがたい。

君!!」
「あ、確か…ベリオ、だったよね? コッチ来るみたい。それじゃ、ユエルは戻るね」

 ベリオが駆けてくるのを横目に、光を帯び始めているユエルを見やった。
 小さな手をの肩に置いたユエルは、真っ直ぐにを見つめている。

「また喚んでもらえて…嬉しかった。ハサハも、きっと同じ。だから……」

 やがて表情は柔らかに、ほのかに赤らみ、笑って、

「また、頼ってくれると嬉しいな」

 発されていた光を強め、送還されていった。







君!」

 名前を呼ばれ、かがんでいた身体を起こす。
 ベリオを視界に納めて身を起こすと、

「ゴメンな、援護に来てくれたんだろ?」
「いえ…結局、足手まといになってしまいましたけど……さっきのモンスターは」
「あれは…後でみんなと合流したときに。大河も交えて話をするよ」

 汗が顔を伝い、地面にぽたりと落ちていく。
 身体全体に傷を負っていながらも、その表情に苦悶の色はない。

「たぶん…みんなにも、関係のあることだから」

 ベリオの問いに、はただそう答えを告げたのだった。
















 大河を撃ち抜いた銃弾の傷は、ベリオの治癒術によってほとんど完治。
 大丈夫かと尋ねれば、少し動かしにくいだけで痛みはないという。
 ゼロの遺跡から戻ってきた救世主クラスは、学園長やダリアを含めて一同に会していた。


 敵に捕まっていたメンバーの中になぜナナシがいなかったのかというと、

「だってぇ〜、退屈だったんですの〜」

 とかで、探しに行こうとしたところで捕まってしまったのだとか。
 つまり、元を正せば彼女のせいだったのだ。
 大河に小突かれて涙していたのはまぁ、仕方ないといえば仕方ない。
 馬車で始めから昼寝を決め込んでいたダリアよりはマシだ。
 『ロベリア』という名前にリコは眉をひそめていたが、そんな彼女には誰にも気づくことはない。
 そんな会話を学園へ戻る馬車の中でしていたのだが、だけはその輪に入ることなく無言を貫いていた。

「それで、大事な話とは…なんですか?」

 全員の視線はに向かい、学園長の一声に深くうなずいた。

「敵の…破滅のことです」

 ゼロの遺跡で遭遇した、召喚獣という名のモンスターたち。
 それらの存在の種類と特性、さらにはその強さをまず告げた。
 そして、それらをアヴァターへ召喚した人間が、破滅に存在していることを。

「じゃあ、俺の受けた攻撃は…」
「敵の機械兵士の銃撃だ。この世界で銃を見たことないから説明しづらいんだけど……」

 大河や未亜はよく知っている。
 所持することこそ許されていないが、他国では戦争に用いる兵器として使われているのだから。
 一般人ですら手に入れることのでき、小さな弾一発で人の命を簡単に奪える代物だ。
 つまり、大河は運がよかったとも言える。

「この世界の治癒術は効き目が強いから、すぐに治る」

 大河にはそう告げる。
 元々、話のメインはそこではなく。

「話から察するに、敵の中に貴方のいた世界…リィンバウムの召喚獣と呼ばれる者たちがいる、と」
「そういうことです」

 学園長の言葉にうなずいたところで、自分がいて本当によかったと思う。
 いなければ、対処はおろかその存在すらわからないまま戦うことになっていたのだから。

 でも、リィンバウムを旅してきたからこそ『破滅』にかの世界の召喚師がいることが事前にわかったのだ。
 苦戦はすれど、召喚器を持つ救世主クラスなら、問題なく戦える。

「敵の存在がわかっているとしても、この世界のモンスターとは違う。みんなも先生たちも、充分に警戒しておいてください」

 そんな言葉を最後に、その場は解散となったのだった。














「まいったわね…」

 破滅のモンスターの他にその存在を確認した、召喚獣とそれらを召喚した人間の影。
 破滅を統率している存在を『破滅の民』と呼ぶらしいが、おそらくはこの人間も同じなのだろう。
 そのいでたち、本来の強さ。
 それらはまったくの不明。唯一わかることは、召喚術に用いるサモナイト石と魔力を大量に所持しているということだけだ。
 世界を越えて召喚するには、大量の体力と魔力を必要とするのだ。
 それを考えると、リリィのつぶやきは最もだった。

「『破滅』の他に、敵がこの世界にいるなんて…」
「いや、『破滅』は『破滅』だろ。まとめてぶっ倒せばいいんだって」
「その敵に一発で戦闘不能にさせられたのはどなただったかしら?」
「………」

 ぐうの音も出ないとはこのことだ。
 自身満々に言ってのけた大河も、撃ち込まれた銃弾一発で動けなくなってしまっていたのだ。
 元々銃弾なんて代物を受けたことがない上に、彼がいた日本という国には『銃刀法』というものが施行されているので、そんな場面に立ち会うことは滅多にない。
 初めて受けた鋭い痛みに、頭がパニックに陥っていたのも仕方のないことだ。

「大丈夫。確かにこの世界のモンスターとは戦い方からなにから違いが多いけど、倒せばそれで終わりだ」

 君たちなら、問題ないと思うよ。

 最後尾を歩いていたは全員に目を向けると、にかと笑って。

「さ、とりあえず今日はこれで終わりだし。休めるときはしっかり休まないとな」

 全員に向けてそう告げたのだった。







というわけで、ナナシ編終了です。
そして、この話をもって第1章は終了。
間章を挟んで第2章へと続きます。

やっとココまできましたよ。
折り返しですけど、この後は最後までホントにシリアスと戦闘が続きます。


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