「ダーリン! ナナシが来たからにはもう安心ですの〜」
「アホかお前は〜!!」

 今まで立ててきた作戦が音を立てて崩れていた。
 縄を縛る手も止まり、人質の3人ももう唖然。

「せっかくの切り札が…とっておきの秘密兵器が…自分から居場所バラしてどうする〜!」
「…終わった」
「師匠〜、どこにおいででござるかぁ…」

 たすけてくだされ〜…

「そうですの〜、ナナシはひみつ兵器なんですの〜、じつは最強だったんですの」
「お前の脳に、少しでもシワが残ってると思ってた俺が浅はかだったよ…」

 はぁぁぁ、と深くため息。
 秘密兵器も自分から居場所を敵に教えて、さらには……

「安心するですの〜! 今あなたのもとへ〜…とうっ」

 飛び下りやがった。
 乗っかっていた柱はかなりの高さ。
 普通の人間ならあっという間に天国行きなのだろうが、彼女はすでに死んでいる身なので。

『………』
「あーん、着地失敗ですのぉ〜」

 パカーン、と音を立てて両手足と頭が胴体から離れ、身動きが取れなくなっていた。
 …最悪だった。



Duel Savior -Outsider-     Act.49



「……ん?」

 バラバラに散った両手足を眺めて、思いついた。
 縄自体はほとんどゆるく縛られていたので、はらりと解けてしまう。
 つかつかとナナシの頭に歩み寄ってしゃがむと、

「ナナ子…」

 モンスターたちに見えないように、サムズアップ。
 ナナシ自身はなんのことやらわからないようで、きょとんとしているが、大河はしゃがんだままナナシの両腕を引っつかんだ。
 そして。



「おおおりゃああぁぁぁっ!!!!」



 モンスターたちのところへ思い切り投じた。
 もげた両の腕が宙を舞い、人質を拘束している魔術師モンスターの足元にぽとりと落ちる。

「トレイター!!」

 向こうには人質がいるにも関わらず、トレイターを喚びだし、振りかぶった。
 目の前の高速な展開についていけず、リリィもカエデもぽかんとしていたのだが……

「突撃ぃぃぃっ!!」

 力の限り叫び、地を蹴り出した。
 まるで長剣を持っていないかのような素晴らしい速度でモンスターとの間合いを詰め、剣を振るって吹き飛ばした。

『グアアァァァ……っ』

 大河の縄を結ぼうとしていたモンスターを吹き飛ばし、さらにその勢いで魔術師モンスターをも斬り飛ばした。
 元々肉弾戦など得意ではないモンスターだ。
 襲った剣にあっさり捉えられて、ぴゅー、と飛んでいってしまっていた。

「カエデ、未亜たちを守ってやってくれ! リリィ! 回復魔法くらい使えるか!」
「そ、それくらいなら…けど」
「一体どうしてこ奴らは動かなかったので…?」

 相変わらずきょとんとしている2人に、大河はナナシの腕を拾い上げた。
 これこれ、と言わんばかりに手を揺らす。
 端から見ればあまりにおぞましい光景だが、大河の満面の笑みがそれを吹き飛ばしている。

「大殊勲だぞ、ナナ子!」
「ナナは力持ち、ですの〜」

 大河の持っていた手が動き、ひらひらと手を振ってきた。
 ……想像もしたくない光景だ。

「う、動かせるんですか? あの腕…」
「まぁ、トカゲの尻尾みたいなもんじゃん」
「それは…違うと思うんだけど」

 リリィが回復魔法を唱えている間に、そんな言葉が交わされる。
 ゾンビとはいえ、離れた腕まで遠隔操作できるナナシの腕。
 あまりに滑稽を通り越して、おぞましい。

「大河! 全員回復したわ」
「よっしゃ…ベリオ! すぐ行けるな? 俺について来てくれ!」
「え?」

 名指しされたベリオが回復したことを確認すると、きょとんとした表情をそのままに首をかしげた。
 なぜなら、このままモンスターを倒してしまうものだとばかり思っていたのだから。

「どうして…」
のトコだ! アイツ、ヘタしたらボロボロかもしれねぇ!!」
『ええぇっ!?』

 大河はリリィの言葉を間に受けて、回復魔法を得意とするベリオに応援を頼んだのだ。
 彼はさらにそれぞれに役割を言い渡した。

 連戦で疲れているリリィとカエデは退路の確保。
 リコと未亜でこの場のモンスターたちの応戦。

 大河というマスターを得ているからこそできる布陣だった。
 マスターを得た書の精霊は強い。
 この場のモンスターたちなら瞬殺が可能かもしれないから。

「よし、行くぞっ!」
「はいっ!」

 大河はベリオを連れて遺跡の南へと向かったのだった。
















「くっそ、しんどい……」

 正直、かなり苦戦していた。
 は前衛で、白兵戦に特化している。
 しかし、この場にいる召喚獣たちは防御の強い者ばかりで、一撃のもとに倒すことができないのだ。
 機械兵士たちの銃器については無力化したのだが、換装とかされたらそれで厄介だ。
 しかも、周囲からの攻撃に必死だったので、あまり深く思考することができないでいた。

〜、こっちあらかた終わった! そっちに行くよ!」

 ユエルはジルコーダと鬼人の相手をしていたのだが、ハサハの召喚術の助力をもってなんとかこれらを撃退していた。
 普通よりも消費の激しい召喚術によってハサハはもうへろへろだ。
 なんとか直立に立っているが、力を抜けば今にも倒れそうな勢いだ。
 それなのに、まだ召喚術を使おうとしているところがからすれば嬉しいことなのだが。

「ハサハ、もういい! 君は休んでてくれ!」
「でも…っ」

 振り下ろされた斧を受け止め、力を込めて弾き返したは首だけを彼女に向けて微笑んだ。

「…大丈夫。あとは俺とユエルでなんとかなるから」

 戦力外通告っぽい物言いだが、彼女自身魔力が限界に達していた。
 普段より多く魔力を消費する召喚術を何度も行使したため、もうその場から動くこともできないほどに消費しているのだ。
 なにせ、世界を越えて召喚するのだから、無理もないというものだ。

 数自体は、まだ結構いる。
 それでも、『まけてたまるか』の精神でがんばる。
 まだ…戦えるから。

 刀を右手に握りしめ、目の前の召喚獣たちをにらみつける。
 アレから、数は半分弱に減った。
 ジルコーダと悪魔。そして、鬼人の半分。
 ……これなら。

「は……」

 刃を自身の横に移動させ、腰を落とす。
 前にかがんで、視線だけは召喚獣からはずさない。
 地を蹴りだそうとして、

っ!!」

 背後からの声に驚き、振り向くと。
 息を切らせた大河とその後ろにベリオがたたずんでいた。

「助太刀に来たぜ!! 今そっち……」
「っ!? ……来るなぁっ!!」

 換装したのか、元から無力化し忘れたのか。
 わからないが、今はどうでもいいことだ。
 慌てて振り向いて、叫んだところで遅かった。

 機械兵士の腕に装着されている銃口が大河に照準を合わせて、銃弾を打ち出していた。




 パァンッ!!




 乾いた音が周囲に響き渡る。

「ぐっ…あぁっ!!!」
「大河っ!!」

 打ち出された銃弾は大河の右肩を射抜いていた。
 小さな穴からは血が吹き出し、止まる気配を見せない。

「うそっ…今、何を………大河君っ!?」

 突然の出来事に、ベリオは目を見開いてばかりだった。
 背後に吹き飛ぶ大河を受け止めて、流れ出す血を見つめて我に返り、回復魔法をかけようと手を伸ばした。

「あっ…ベリオ、ちょっとストップストップ! ユエル、しばらくココを頼む!!」
「えぇっ…あんまり長くもたないからねっ!」

 大河の元に駆けて行き、傷口を見やる。
 彼が受けたのは小さな銃弾だ。貫通しているならまだしも、体内に残したままでは非常にマズイ。
 あっけに取られるベリオを押しのけて、背中まで傷を診る。

「よし、貫通してる。ベリオ、回復頼む」
「え、ええ……っていうか、なんなの。あれ?」

 ユエルが交戦している彼女から見れば未知の生物。
 モンスターとは違う、別の生命体。

「話は後。俺はアイツらを片付けてくるから……あ、大河の治療が終わったら、彼女のこと…守ってやってくれないか? 俺の大事な仲間なんだ」
「え? ええ……」

 ハサハを指差してそう口にすると、は振り返って駆け出した。
 打ち出される銃弾を刀で弾きながら、間合いを詰めていく。

「飛んでけっ!!」

 納刀し、気を練り上げ、刃へ。
 自身が走っていくより、この方が早い。
 創り上げた気の刃は、あらゆる物を切り裂く。
 鍔鳴りと同時に抜刀。

 発生した不可視の刃は、一直線に大河を撃ち抜いた機械兵士に向かい、真っ二つに斬り飛ばした。
 さらに速度を落とさずに走り、鬼人たちとの間合いを詰めていく。

「もう……壊さないようにとか悠長なこと言ってる場合じゃないんだ…悪いけど、全力で行かせてもらうぞ!!」

 走りながら体内で気を練り上げる。
 鬼人の肩口からこれでもかと言わんばかりに斬りつけて、に向かって倒れていく寸前でその姿を掻き消した。
 次に現れたのは無力となっていた機械兵士。
 目の前で斬り上げ、停止した胴体を掴むと奥の鬼人に投げつける。

 気で強化しているからこそできる芸当だ。
 彼本来の腕力ではとても機械兵士を投げることなどできはしない。
 投げられた機械兵士は崩れた柱や壁をぶち壊しながら目標にヒットしたのだった。




「だぁぁぁぁっ!!!」

 ユエルは片方の爪で武器を受け流して、残りの爪をその胴体へ振り下ろした。
 背後へ倒れていく鬼人を踏みつけて跳躍。銃弾による攻撃はの居合で最後だったので、身動きが取れずとも問題ない。
 目標は眼下の鬼人2人。
 ユエルを目標に定めてそれぞれの武器を振り上げているが、彼女は両腕を大きく広げた。

「ガアァァァッ!!」

 小さな牙を剥き出しにして、ユエルは咆哮を上げる。
 その大声にひるんだのか、鬼人の動きが一瞬固まっていた。
 好機とばかりに2体の中央に着地と同時に広げた両腕を振り下ろす。
 それぞれ肩口から斜めに爪が食い込み、彼女の前につき下ろした。











 ベリオはその光景に唖然としていた。

 や、ユエルという名の少女の戦いぶりに。
 さらに、見たこともないモンスター(仮)についても。
 大河とはかなりの距離があったはずなのに、どうやって攻撃したのかもわからない。
 銃という概念がない以上、なんらかの魔術としか考えられないのだから。

「わ、カワイイ……v」

 大河の治療を終えて、に頼まれた紺の着物を着た少女を保護しにいったのだが。
 頭からウサギのような耳が飛び出ていて、その容姿はまだ小さな少女だ。
 状況をわきまえず、ついベリオは口に出していた。

 ベリオは、ハサハのことを知らない。
 以前召喚したときは図書館探索の最深部付近だったので、ベリオはすでに学園へ帰還していたのだから。
 彼女を知っているのは、今のところリコだけ。
 だからこそ、

君て、そっちの気でもあるのかしら……」

 なんてつぶやきながらも少女を抱き上げた。
 その瞬間。

「え!?」

 少女の身体が光を発し始めていた。
 その様子にベリオは瞠目していたのだが、かすかに目を開いたことで慌てて笑いかける。

「……おにい、ちゃんは?」
「えっと…君のことね? 大丈夫。無事ですよ」

 そんなベリオの答えに満足したのか、少女は軽く微笑むと光に包まれてベリオの手から忽然と姿を消してしまっていた。

「消え、ちゃった……」

 もうなにがなんだかわからない。

 ……どうしようどうしよう。
 君になんて言い訳すればいいのだろう?

 が最後の召喚獣を撃破したのと同時に、ベリオは頭を抱えつつ大河の元へと戻ったのだった。








ハサハ送還。
あまり活躍らしい活躍はしませんでしたね。
管理人的に、どうやら肉弾戦のほうが書きやすいようです。


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