「我が纏いし魔力に応え、楽園より来たれ……」
2粒のサモナイト石をサバイバーの装備された左手に握りしめ、共界線から引っ張ってきた魔力を注ぐ。
緑と赤の石は強い光を帯びて明滅する。
サバイバーは蒼い光の帯を周囲に纏わせて、螺旋を描くようにゆっくり回転している。
すべては『楽園』リィンバウムへのラインのためのもの。
今、自分を囲んでいる召喚獣たちを打倒するために。
なにより、数が多すぎる。
四界からそれぞれ4体ずつ、計16体。
「……っ」
おまけに全員が厄介な召喚獣ばかり。
この世界には存在しない銃器を用いる機械兵士。
腕力が高く接近戦が十八番の鬼人。
守りが堅く、その牙であらゆるものを噛み切る蟻のような形状をしたジルコーダ。
紫の淡い光を纏い背から羽を生やし、瞳を真紅に染め上げた悪魔。
このアヴァターという世界には存在しないモノだ。
「来たれ…っ!!」
ここは、俺が……俺たちがしのがなければ。
サモナイト石を掲げ、2人の仲間を召喚した。
「、来たよっ!」
「…………っ!」
の2人の仲間は、出てきて早々に目の前の召喚獣たちを見て眉を吊り上げたのだった。
Duel Savior -Outsider- Act.48
「カエデ、大丈夫か!?」
「リリィ殿、大河殿……っ!?」
カエデを囲んでいたモンスターたちを退け、荒い息を整えながら大河は彼女に声をかけた。
彼女は多少なり傷を負っていて、黒曜の装備された手でその部分を押さえていた。
上手く立ち回っていたからか、致命的な傷はない。
「問題ないでござる。それより……」
「この辺りの敵は…なんとか掃討したな」
「にしても…おかしいわよ。ここも待ち伏せされていたみたい」
大河の初戦は、奇襲だった。
しかし、それ以外はすでに自分たちの存在がバレていたせいか物陰に潜んで待ち伏せによる奇襲攻撃ばかり。
「ハメられたでござるよ」
「カエデ?」
カエデはまず、このゼロの遺跡…ひいては拠点にしている村すべてに、元から住人などいなかったということを告げた。
それを確信したのは、壊れた民家を調査したことにより発見した日めくりカレンダー。
6年前の冬の日付が表示されていたのだ。
つまり、その頃からこの村には人っ子1人いなかったということになる。
王宮に連絡が入ったのは、魔法で警備隊の目をごまかしたか、心を操って信じ込ませたか。
アヴァターでは魔法も公になっているし、大河や未亜のいた世界でもがいたリィンバウムでも催眠術のように人に物事を信じ込ませる術は存在していた。
「となると…」
リリィのつぶやきに大河がうなずき、
「今回もまた、こいつらの背後に知恵袋がいるってことだ」
モンスターに知性はない。
しかし、先日のモンスター襲撃事件のときのようにバックにその群れのリーダーがいれば話は別だ。
とにかく、嫌な感じばかりが頭の中を支配していた。
「けど、今一番の問題は…」
「ここをどうやって切り抜けるか…でござるな」
現れたモンスターの集団に対し取った手段は、一点集中突破。
ここにいても意味がないことがわかった以上、長居は無用だ。
「残りの仲間と合流するため、村へ戻るでござる」
拠点にしている村へ。
来たときはモンスターの気配はなかったが、この状況だとおそらく連絡係として残してきた未亜とナナシが危険だ。
「…採用」
3人はそれぞれの武器を握りしめ、
「行くぞっ!!」
集団の中に飛び込んだのだった。
「ユエル、ハサハ。状況、理解できたか?」
「なんで…ここにアイツラがいるの!?」
「……(こくこく)」
聞かれたところで、にわかるわけもない。
でも、ユエルからすれば聞かずにはいられない状況だ。
ここアヴァターに、本来なら存在しないはずのリィンバウムを含めた四界の召喚獣たちがいるのだから。
「1つわかることは相手が人間じゃない以上、俺1人じゃもたない上に、建物とかを壊さないようにって条件があるから、まとめて倒すこともできないんだ」
だからこそ、2人を喚びだしたのだ。
頼れる仲間を。
相手を知り尽くし、うまく立ち回れるであろう2人を仲間を。
「ハサハ、召喚術を使うときは気を付けろ。ここはリィンバウムじゃないから。あと…使うときはなるべく周りを壊さないように規模の小さいヤツを」
「…うん」
ハサハは傀儡戦争の際、主に召喚術を用いて戦っていた。
も今のように2人を召喚できているのだから、おそらくハサハも可能だろう。
所詮は予想でしかないのだが、とりあえずそう伝えた。
突然の召喚を気にすることなく、敵集団はゆっくりと自分たちに近づいてくる。
……話しているヒマはなさそうだ。
「よし、それじゃ行くぞっ!!」
白兵戦を得意とするとユエルはそれぞれに散り、ハサハはその場にとどまって召喚術の詠唱を始めた。
この場がそれほど狭くない場所だったのが運のツキ。
比較的広めのこの場所なら、ハサハの召喚術も範囲が広めのものを使っても大丈夫そうだから。
「ひなさん、シロトトさん……お願い…っ」
狙いは魔力攻撃を得意とする悪魔たち。
それもこれも、が魔力ダメージにめっぽう弱いせいもあったのだが、厄介であることは確かだ。
だから普段より多く魔力を消費して、少しよろけながらも召喚術を発動させた。
の相手は主に機械兵士だった。
銃器とドリルを武器にする彼らは、爪を武器にするユエルでは無理があると判断したからだ。
相手に攻撃させる前に、こちらが動いてすべて斬り伏せる。
とにかく無力化させることが大事だから。
走る勢いを加速させ、飛び交う銃弾を気で覆った刀で防ぎながら、とにかく1体ずつ銃器部分を斬り飛ばした。
ユエルは攻撃の単調なジルコーダと交戦していた。
ジルコーダの武器は主にそのなんでも噛み切ってしまう牙。
硬い身体は攻撃を重ねればいずれは倒すことが可能。だからこそ、手数の多いユエルが相手をしていたのだ。
ジルコーダの中に混じっている鬼人の攻撃を巧みにかわし、爪を突き入れる。
鎧で覆われているとはいえ、鋭い突きを繰り出されれば一点にかかる力は相当なもの。
だからこそ、堅いはずの鎧もさっくりと貫かれていたのだった。
機械兵士に混じって攻撃を繰り出してくるのは鬼人だった。
力自慢の彼らは腕力にものを言わせて斧や刀を振り下ろす。
はユエルよりも身体が大きいせいもあるのか、かすり傷を負いながらも刀を振るって斬り伏せていく。
「くそっ、数が多いな…」
こちらは条件付で戦っているというのに、向こうはそんなものお構いなしだ。
不公平にもほどがある。
少し広めとはいえ、その中に召喚獣たちがうじゃうじゃいるのだから、無理はないのだが。
「ユエルっ!」
「ダメだよっ、今手が放せないっ!」
両手の爪を振り回して、守りの堅いジルコーダに確実にダメージを与えていくユエル。
その表情に余裕というものは存在しなかった。
ハサハの召喚術が悪魔たちを巻き込み、まとめて送還させていっている。
本人を見やれば、予想以上に魔力を消耗したせいか少しふらつき気味。
そんな状況に、は思わず歯噛んだのだった。
「未亜っ! 大丈夫か!?」
襲い掛かってくるモンスターたちを退けて、辿り着いた村では。
「人質にとられてるっ!?」
ベリオ、未亜、リコの3人がリリィの言うとおり人質になっていた。
前後を魔術師のようなローブをかぶったモンスターに囲まれ、身動きが取れない状態になっている。
「マスターっ!」
3人の姿にいち早く気づいたのはリコで、大河の姿を確認すると思わず声をあげた。
動こうにも動けない状況にあるようだ。
身体を拘束されているわけでもないのに、動けない。
「気をつけてください…彼らは、スタンの魔法を使ってきます…」
スタン。
魔法の一種で、対象を麻痺させる効果をもつ。
3人はこの魔法のせいで拘束されずとも動けない状況に陥っていたのだ。
「なんてこった…」
窮地だ。
人質を取られていては、動こうにも動けない。
『コノ女ノ命ガ惜シカッタラ武器ヲ捨テロ』
発される声はモンスターからのもの。
自分たちの思惑通りにことが進んで、さぞ満足なのだろう。
まったく動くことのできない状態で、モンスターたちの声を聞いただけでも笑われているように感じられた。
あまりに無力だ。
「リリィ、カエデ……」
「無理…連戦で魔力が尽きかけてる」
「済まぬ…拙者の体力もいささか心もとなく」
2人を見やっても、そろって首を横に振った。
無理もない。カエデが囲まれていた場所からここへ来るまでに戦闘ばかりしてきたのだから。
…こんなときに、アイツがいてくれたら。
この場にいないのことを思い、歯噛む。
彼の体力は無尽蔵に近いし、こんなときでも上手く立ち回るはずだから。
「はっ…イカンイカン。いないやつのこと気にしてても始まらん」
慌てて思っていたことを振り払った。
だって今、必死になって戦っているはずだ。
あのリリィが「やめておいたほうがいい」などと弱気なことを言うくらいだ。
なにか…なにか打開策は。
なにかないかと必死に瞳を動かしていたとき。
「っ……!?」
見つけた。
リコの後ろ。
なぜかふらふらしている少女が1人。
ピンクの大きなリボンが目立つ、彼女は。
「ほらよ…武器、捨てたぜ」
『ナラバ次ハ…ソコノ男ノ両手ヲ、他ノ2人デ縛レ』
用意周到なこって。
打開策を見つけたからには、俺たちの勝ちは確定だ。
頭の中でシミュレーションして、それが確実かつ最高の救出方法だと導き出される。
……いける、いけるぞ。
「仕方ない…リリィ、カエデ。俺を後ろ手に縛れ」
「大河」
「大河殿…」
2人が心配そうな表情を大河に向けるが、彼は普段の自信に満ちた表情を変えずにくい、とあごをで奥を見るようにと促す。
その先を凝視していると。
「あ…」
「そういえば…」
2人は奥を見やって忘れていた彼女のことを思い出し、互いに顔を見合わせてうなずいた。
背中に取り付き、モンスターからは見えないように手を縛るふり。
『ソレデイイ…予定ドオリダ…南ノヤツラモウマク動イテクレテイルヨウダナ…』
「南って…」
ベリオが目を丸めた。
なにせ、彼に指示を出したのは彼女なのだから。
耳をすませてみると、かすかに轟音が聞こえている。
今も、戦闘中である。
『グフフフ…コレデ、ロベリア様ニ…』
「…ロベリア?」
モンスターの目の前でそれを聞いたリコは、驚いたかのように目を丸めた。
さらに、向こうのヤツら。
これはが現在も交戦している召喚獣たちのことを指す。
ゆっくり、ゆっくりと2人は縄を動かしていく。
時間稼ぎだ。
未だ自由に動ける彼女に目で作戦を伝えようと大河は彼女の姿を探したのだが。
「って、あれ?」
「…どうしたの?」
「…いなくなった」
リリィの問いに簡潔に答え、なんとか彼女の姿を見つけようと視線を動かしているのだが……見つからない。
「マズいな…もうちょい時間稼げないか?」
「こ、これ以上はさすがに怪しまれるわよ」
長い時間、作業をしているので痺れを切らしたのか、ワニのような風貌で鎧と盾、剣を装備したモンスターが単身で3人に近づいてきた。
…非常にマズい。
せっかくの起死回生の切り札が、このままじゃダメになってしまう。
これまでか、と大河は目を閉じたのだが。
そのとき。
「そうはさせないですの〜」
どこからか、声が轟いた。
どこか間の抜けたような、少女の声。
これは。
『ナニ? ダ…誰ダッ!?』
きょろきょろと周囲を見回すが、声の主は見当たらない。
周りではないとすると……
大河を含め3人は、頭上を見上げると。
「点がよぶ、血がよぶ、火とがよぶ!」 (※間違いではありません)
彼女―――ナナシは、壊れかけた柱の上でポーズを取っていた。
どんなポーズかというと右腕を斜め上に伸ばし、左腕は右下、肘から180度曲げて手の先が同じ方向に伸びている。
つまり言うところの、仮面○イダーの変身ポーズである。
「ダーリンをすくえとナナシがよぶですの〜」
なんとも予想外。
堂々と姿を見せてしまっては今まで立ててきた起死回生の作戦がパァだ。
「あ〜あ…」
カエデのつぶやきが示すように、その場にいる全員を代表した呆れてかえっていた。
「アンデッドハンター、ナナシ。ここに来ちゃったですの〜!」
ナナシの声が高らかに叫ばれたのだった。
ナナシメインの話、特に書きたかった部分です。
点がよぶ、血がよぶ、火とがよぶ!
……どうですか?(意味不明)
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