「はーい。みなさん準備はいいですかぁ? では、これからゼロの遺跡に出発しまぁす」

 ガイドさんの旗を見失わないでねぇん。

 ちっちゃな旗を手に持ったダリアは、いつぞやと同じようにピクニック気分だった。
 もちろん、救世主クラスは修学旅行でも社会見学でもピクニックでもなく、破滅討伐に行くわけだが。

「ナナシ、遠足はじめてですの〜。とっても楽しみですの〜」

 今回はダリアをつけあがらせるゾンビ娘が一緒なのである。
 「だから、遠足じゃねえっての」なんて大河がつぶやいたところで、当の2人は元より聞く耳持たず、

「はぁ〜い、それじゃガイドさんの後についてきてくださいねぇん?」
「はーいですの〜♪」



「予想はしてたけど……」
「実際に目の当たりにすると、やっぱ脱力だな…」

 意気揚々と馬車に乗り込む2人を眺めて、残りの救世主クラス一同は顔を見合わせてはあとため息をついたのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.47



「大河、あの子…遠征に連れて行ってホントに大丈夫なんでしょうね?」
「ナナ子の事か? んー、まぁ今回は後方待機だろうな」

 ゼロの遺跡へ向かう馬車の中で、リリィと大河は本人の前で堂々とひそひそ話をしていた。
 元々リリィはナナシのクラス編入を反対していたし、能力試験でも結局何が起きたかわからずじまい。
 全面的に信じてはいなかった。

「まぁ、戦闘能力に関してはあの力も含めて及第点だと思うよ」
「アンタも私も、ワケわかんないうちにやられたものね」

 肩に刀を立てかけて座るが割り込むと、リリィは大きくため息をついた。
 自称主席の自分がゾンビに負けて、よっぽど悔しかったのだろう。
 自身も彼女に負けたクチだから、あまり大きなことは言えないのだが。

「いきなり実戦というのはちょっと荷が勝ちすぎると私も思いますよ」

 ベリオの言葉と共に、4人は当の本人を見やると。

「わ〜、お水がいっぱいですの〜♪」
「湖、見たことないの?」

 未亜がガイド役を努めていた。
 和気藹々と妙に仲がいいのはご愛嬌だ。

「それよかベリオ。これから行く遺跡ってのはどんな所なんだ?」
「詳しくは知りませんが、その昔、今の場所に移ってくる前の王都だそうです」
「俺も話を聞いた後にちょっとばかり調べてみたんだけど、前回の救世主戦争の影響らしいな」

 ベリオに割り込み、がそう答えた。
 はダウニーから出撃の話を聞いた後、図書館に足を運んで歴史書を読み漁ってきたのだ。
 もちろん、今回の遠征に関することだけなので、ほかのことなんか知ったことじゃない。

「破滅と救世主の戦いが王都の中心で起こったんだそうだ」
「それで街が全滅したから、今の王都に移ったわけか」
「ああ」
。アンタ、いつの間に…」
「もちろん、ゼロの遺跡に関することだけだよ。他は知らん」

 がそう口にした直後、山道が下りに差し掛かり、ゼロの遺跡が目の前に迫っていた。












「ここか…」
「建物とかは、結構しっかり残ってるのもあるんだな」

 まるで中世ヨーロッパを彷彿させる建築物。
 人の住んでいた形跡はあるものの、気配自体はまったく見当たらない。
 それどころか門や壁などといった建物は長い年月のせいか風化で崩れかけているものも見て取れた。

「この先が、ゼロの遺跡でござるな」

 立派なつくりの門の向こうに、神殿のような大きな建物が崩れた跡が見える。
 原型自体は留めておらず、かろうじて残っていた数本の柱から見た推測に過ぎないのだが。

「話によると、モンスターたちはこの村を占領して根城にしつつ、遺跡を掘り返して何かを探しているようです」

 ベリオの言葉から、自分たちが何を為すべきなのかを理解した。
 この場所に居座るモンスターたちを掃討、殲滅である。
 そして、敵が何を探しているのかもわかればなおよし。

「あとは遺跡や証拠を、できるだけ破壊しないように、という条件がありますね」

 そんな条件があるからこそ、少数精鋭かつ戦闘に長けた救世主クラスに依頼がきたのだ。
 遺跡は国の重要な財産。できる限り失いたくはないのか、あるいは敵の情報を探るためか。
 どちらにしろ、ここに派遣されたからにはやることは1つだ。

「とりあえず、ココは広い。手分けして事に当たった方がいいな」
「そうね。1つにまとまってたら日が暮れるだろうし」
「どうやら、この村には気配がないでござるな」

 カエデの言うとおり、村自体には生物の気配がない。
 そんな理由から、遺跡に入って手分けして調査する、ということに決まった。
 瓦礫などが多いから、1つにまとまっていては歩きづらいことこの上ないし。

「じゃあ、未亜さんとナナちゃんはここにいて、みんなからの連絡を取り次いで」

 そう告げられたナナシは「ダーリンと一緒がいいですの〜」と駄々をこねたのだが、救世主クラスに入ったということは自分たちはチームメイト。
 チームの和を乱す行為は許されないということをベリオが諭して事なきを得た。

「…やるわね、ベリオ」
「ああ…いまさらだが、なるべく逆らわないようにしよう」

 なんてリリィと大河のひそひそ話が聞こえたが、確かにともうなずいた。
 余談だが大河曰く、フローリア学園の校則は全36条なのだとか。

「それじゃあ始めましょう」

 大河は遺跡の西からでリリィは北。
 カエデが東でリコはベリオと共に村の探索。
 そして、

君は少し遠いですが南側をお願いしますね」
「ん…了解」

 敵発見時はよほどの自信がない限り仲間との連絡をとりに戻ること。
 これが今回のミッションで当てられた任務だった。
 顔を見合わせてうなずくと、それぞれの持ち場へと散っていく。
 は1人先行して、南側へと向かっていったのだった。
 今回は村を目印にして戻ればいいので、いくらが超ド級の方向音痴でも迷うことはないだろう。
 はただひたすらに、目的地へと駆けていったのだった。






























「よっしゃー、初物ゲットぉ」

 大河は1人、モンスターたちを退けてガッツポーズをとっていた。
 もちろん、見ている人物などいはしないが、それも余裕の現れである。
 今までの訓練が生かされていると考えてもいいだろう。

「この調子なら、もちっと奥まで足を伸ばしても大丈夫そう…・…んなっ!?」

 彼の耳に飛び込んできたのは爆音。
 再び耳を澄ませて発生源を探ると、それが北の方面であることがわかり、

「リリィかっ!」

 大河は慌てて北へと向かったのだった。




「く…このっ!」

 リリィは敵に囲まれ、今にも襲い掛かられそうになっていた。
 彼女がここに来ることを見越してか、待ち伏せしていたのだ。
 白い人狼やスライム、果てには魔法使い風のモンスターすらもリリィだけを狙って徐々にその距離を詰めてきている。
 ライテウスに光を纏わせて、どう切り抜けようかと模索していたときに、

「リリィ!」
「たっ…大河!?」

 敵の背後から斬り飛ばした大河に驚きながらその光景を眺めていた。
 大河のおかげで退路は確保できたが、なにぶん敵が多い。
 待ち伏せされていたことから、まだどこかに敵が潜んでいると考えてもおかしくはない。

「話は後だ! 片付けるぞ!!」

 そんな大河の声と共に、再びライテウスに魔力を込め始めたのだった。


























「えーと、このあたりでいいかな」

 は1人、いつ敵が現れてもいいようにと刀を抜き、遺跡の南側に辿り着いていた。
 気配はなく閑散としていて、建物なども村とほとんど同じ状況。
 冷たい風にまかれて砂や砂利がただ飛んでいくだけだった。
 しかし……どこか落ち着かない。

「なんだろうな…これは」

 どこかで感じたことのあるような気配。
 気配などないはずなのに、なぜか感じてしまう。
 が眉をしかめて胸元の服を握りしめた、そんなときだった。

「……っ!?」

 なんだ。
 なんでだ。

 ここは危険だと本能が警鐘を鳴らす。
 しかし、辺りにはなにも見当たらない。
 それでも……

 なにかよくない”モノ”が、ここにはいる。

「あぁ……っ!?」
「GyaGyaGya……」
「ウコケケケケェっ…!!」

 の視線の先。
 そこには、この世界には『あり得ない』モノがいた。

 蟻のような形状で、口元の牙であらゆる物を噛み切るソレは。
 背から黒い羽を生やし、紫の光を纏ってふよふよ漂っているソレは。
 刀や戦斧を手に、戦国時代風の鎧を身につけているソレは。
 両の腕を銃器に変え、目となっているアイセンサーを光らせたソレは。

「冗談だろ……」

 ジルコーダ。
 悪魔。
 鬼人。
 機械兵士。

 リィンバウムを囲む4世界に存在する召喚獣たちだった。




 しかも。




「グルルルルル……」
「(Ad$iJ#&d”p*do@/――)…」
「げ……」

 見つかった。
 機械兵士のセンサーに捉まったのだろう。
 召喚獣軍団がすべて自分に振り向く。

「クソ……ッ!! サバイバー!」

 見つかってしまえば逃げることも不可能だ。
 となれば、戦うしかない。
 しかし、相手はリィンバウムの召喚獣たちだ。1人では手に負えそうにない。
 だから。

「古き英知の術と我が声によって、今ここに召喚の門を開かん……」

 頼れる味方を召喚しようと、赤と緑のサモナイト石を取り出した。



























「ごめん…助かった」
「よほどの自信がない限り、仲間に連絡を取りに戻れって言われてただろ? ったく、自信過剰な奴め」

 2人を取り囲んでいたモンスターたちを掃討し、大河とリリィは息をついた。
 力自体はあまり強くなかったのだが、数が結構いたのでずいぶんとてこずってしまって。
 少しながら荒げていた息を整え、

「あんたに言われたくないわよ! そっちの戦いの音だって聞こえてたんだからね!」
「俺はいいんだよ。楽勝だったんだから!」

 とても疲れているようには見えなかった。
 戦闘後の軽いどつきあいだ。なんら問題はない。

「けど、お前あんな不利な状況で…」
「待ち伏せされたのよ」
「待ち伏せ?」
「ええ。私がここに来たときに、突然回りを囲まれて……」

 信じられない。
 壊すことしか頭にないモンスターたちが、待ち伏せしていたなんて。
 ただ突っ込むだけではなく、踏みとどまって様子を見ることをやってのけたのだから。

「俺たちの動きが…敵側に漏れていた?」
「わからない…けど」

 周囲を見回し、モンスターの消えていった跡を見つめて、

「大河」
「一度合流地点に戻った方がいいか……って、なんだよ、撤退には反対か?」
「そうじゃなくてさ…私、耳には自信あるのよ」
「はあ?」

 急に意味のわからないことを。
 大河はそんな表情で、訝しげにリリィを見る。
 彼女はそんな大河を見ながら、

「南は…やめておいたほうがいい」

 そう告げた。
 なぜかはわからないが、ただ南には大きな力が溢れているのだとか。
 さらには咆哮すらも聞こえたという。
 得体の知れない力だったが、

「一度…がアンタとリコと戦っていたときに感じた力と似てる気がする」
「ってことは……」

 今、は大きな危険に晒されているということだ。
 実力は2人の上を行っているのは確かだ。だけど、リリィの言動からその力はあまりにも危険であることが理解できる。

「なら、助けに行った方がいいかもしれないな」
「でも多分……いや、間違いなく危険よ。今の私たちじゃ、対処しきれないかもしれない」
「……何言ってんだよ。仲間がピンチなんだぜ?」
「わかってる。わかってるけど……」

 彼女らしくない。
 しおらしいというか、その力に恐れを抱いているというか。
 は確かに心配だが、このままでは埒があかない。
 そのときだった。

『ぐるるるる』
「………」
「………」

 聞こえたのはモンスターの鳴き声だった。
 互いに顔を見合わせて、発生源を探る。
 目を閉じ、聴覚神経を研ぎ澄ませた。

『ぐるるるる』

 再び聞こえ、互いに目を見開いてうなずきあうと。

『東っ!』

 近くで仲間が窮地に陥っている。
 そんな考えから、東へと進路を取ったのだった。

 もちろん、のことは信じている。
 自分たちが駆けつけるまで持ちこたえていてくれ、と。
 大河はただココにいない仲間を案じながら東へと向かったのだった。







というわけで、リィンバウムの召喚獣が大登場。
クロスらしくなってきましたね〜。次回はユエルとハサハも登場。
大活躍は間違い無しです。


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