「おオおぉォォ――っッ!!!」
中ほどで折れた漆黒の剣先は支えるものを失って、重力に従い地面へと落下する。
折ると同時にの刀と大河の戦斧が同時にオルドレイクをの身体へ傷を作ったのだが、彼の雄叫びに似た叫びは止まらない。
そして、地面に落ちた瞬間。
「っ!?」
「なんだ……ッ!?」
地面が、空が。宙に浮かんだ巨大な岩が。
そしてその上に立っている2人は、身体全体で感じ取っていた。
揺れていると。
地面と、その上に立つ自分たちだけでなく、この世界全体が揺れているのだと。
「はアァぁ……っ! はァぁ……っ!」
オルドレイクは淡い光のみ漏れ出すヘルハーディスの柄を手放すと、自身を抱きしめるがごとく両手を回す。
その身体は小刻みに震え、心臓が高鳴っているかのように時折跳ねる。
そして、漏れ出すのは蒸気のような白い煙。
オルドレイクの口から、鼻から、そして耳から。
体内のありとあらゆる部分から噴出し、頭上に立ち込めては消えていく。
「……大河、いったん離れよう。何があるかわからないから」
「あ、あぁ……」
オルドレイクに背を向けることなく、2人は彼との距離を開けた。
Duel Savior -Outsider- Act.96
「ぐ、ぐふぅ……ぅあぁぁ……」
……苦しそうだ。
素直に、そう感じた。
とめどなく流れる汗が地面を濡らし、白い蒸気のようなものが立ち上れば身体は小刻みに震える。
時折、身体全体が鳴動しては意識を一瞬吹き飛ばす。
大河を包んでいた神の意志とはどこかが違っていると、神の呪縛を抜け出した大河は直感していた。
「…………」
トレイターを構える。
大剣状態のそれを両手で握りしめ、その切っ先を苦しむオルドレイクへ。
ゆっくりとした動作であるものの、纏っているただならぬ空気に、は瞠目していた。
まだなにかするつもりなのか、と。
大河にでなく、オルドレイクに向けて尋ねたい言葉だった。
永い長い年月の果てに現れた『人類の』救世主が歯を立て、武器を構え、苦しみ続ける敵に刃を向けているのだから、そう思うのも無理はない。
でも。
「……大河?」
聞かずにはいられなかった。
なぜ、そんなに警戒するのかと。
なぜ、トレイターをそんなにも強く握っているのかと。
なぜ、汗が噴き出ているのかと。
長く戦いの中に身を置いてきた人間として、なにも感じることがなかったというのもまた、彼の名を呼んだ理由だった。
「今のうちに……やっちまったほうがいい」
俺の中のなにかが、そう言ってんだよ。
大河は、神がもたらした圧倒的な快楽に打ち勝った。
だからこそわかる、今のオルドレイクの異常性。
『救世主』の意識を刈り取る過程が“圧倒的な快楽”ならば……これは異常だ。
だから動くことすらままならない今のうちに。
「……終わらせるッ!!」
地面を蹴り出した。
構えたトレイターを動かすことなく、身体を傾げ、滑るように。
流れる汗を吹き飛ばし、それでもなお曲がることなく。
「そうか……」
目を閉じ、誰にともなく呟く。
今こそ、最大で最高のチャンスなのだ。
すべてを、終わらせるための。
幾千、幾万も回数を世界を創りだしては壊すことを繰り返してきた神の所業を。
その過程で犠牲になった、たくさんの救世主たちのためにも。
『破滅』との戦いで命を落とした、罪もない人たちのためにも。
薄く笑う。
片方の唇を吊り上げ、どことなく嬉しそうに。
消えつつある左手にはまった蒼い篭手が強く光を帯びる。
目を見開き、
「そうだな」
一つの言葉を口にした。
同時に流れ込む、蒼く澄み切った魔力。
これを使えば、きっと俺は消える。
この世界から。
人々の記憶から。
それが、サバイバーの運命。
抗うことはできず、ただ流されることを受け入れる。
でも、一つだけ。
「ことが終わりを迎えるまでは……どうか」
ここにいさせてください。
途中退場なんか、認めない。
関わったからには、最後まで付き合う。
世界のみんなのために、この世界で得た仲間たちのために。
そして何より、自分のために――
「オオォォォッ!!!」
大河は剣を振り上げる。
吹き付ける魔力の暴風をその身に受けながら、それでもなお倒れない。
彼の剣には、世界中の生命が……幾千、幾万の救世主たちの運命が乗っているのだから。
「絶風……」
だから、これで最後。
大切な人たちを長い間待たせるのは、よくないことだぞ。
自分のことを棚に上げて、そんなことを想う。
自分と同じようなことをさせないためにも、ここで、自分も。
「……第一解放」
剣に秘められた力を、発動させた。
魔力の充足を感じる。
引き出すのは、この世界を包む大気そのもの。
何が起こるかわからないからこそ、動けない今が狙い目だ。
オルドレイクを目の前に剣を振り上げた大河へのサポートのために、干渉した大気は振動を起こす。
発生したのはオルドレイクの回りにある暴風をも突き抜け、旋回。
彼を取り巻くようにして纏わりついた。
「ぐグ、ガ……ゴぉッ!」
「らあぁぁぁ―――っ!!」
変貌し苦しむオルドレイクと、の助けを借りつつ光を帯びたトレイターを振り下ろす大河。
オルドレイクの身体は徐々に肥大化しているものの、トレイターはその身体に刃を食い込ませ、強烈な光を放った。
ジャスティとの融合の際に色付いた黄金そのままの色の光を。
「が……」
オルドレイクのうめきが止まる。
『反逆者』の名を冠する召喚器が突き刺さった今、オルドレイクの中で暴れていた神の意志は。
「ぐ、ううぉぁぁぁあああ……!!!」
雄叫びに似た声を上げて、仰向けに倒れ込んだのだった。
動きを止めたオルドレイクを見下ろしつつ、光の収まったトレイターを引き抜く。
その表情に笑みすら浮かべて、
「っ!」
嬉しさのためかへ向かって振り向き、走り出していた。
当のもとどめを刺したのを見てか表情には笑みが浮かんでいる。
やり遂げた。
そんな思いが2人の頭の中を支配していた。
しかし、トレイターに変化はない。
終わりがないはずの戦いが終わったはずなのに、まるで“まだだ、まだだ”と伝えようとしているかように明滅する。
「おい、トレイター……」
大河が語りかけようとした、そのときだった。
どくん。
いつか感じた、地面の鳴動。
どくん。
それは大河が斬り裂いたはずの、あの男から。
どくん。
倒れたまま動かないオルドレイクを中心に、地面に向けて線のようなものが伸びる。
伸びる速度は早く、色は七色。
まるで糸を張り巡らせたクモの巣のように、神の世界を侵食していく。
「まだ、みたいだな」
「ああ。もうひとふんばりだ」
武器を構えた2人の先で、ぴくりとも動かないオルドレイクの身体が浮かび上がる。
床がせり上がっているかのようにふわりふわりと高さを上げていく。
見上げる程度で動きが止まると、腰を視点に直立へと向きを変える。
うなだれた彼の顔が、2人を見ているような状態。
動き出すのかと思いきや、彼の目に光は灯らない。
『漸く、動くことが出来そうだ』
そんな中、一つの声が響きわたる。
オルドレイクの口が開いているが、トーンからして彼のものではない。
『器は死んだ。我はこれで、この身体を使役することができる』
まったく、面倒な圧力をかけてくれる。
そんな声が響いた瞬間、オルドレイクを白い光が包み込んだ。
あまりに眩しかったため、思わず目を閉じる。
「な、なんだっ!?」
「っ!!」
影すら作らない光が納まると、そこにいたのはオルドレイクではなく。
「なっ……!」
「なんだ、あれは……」
一対の透き通った羽を持つ、一つの人影だった。
アゲハ蝶のようなピンクの羽に、白を基調とした甲冑で膝下までと両肩、両腕に胸元、さらに頭までを隠し、太ももと二の腕は肌が露出している。
頭を包んだ甲冑は、中の人の顔を隠すように蒼い額当てのようなものが装着されていた。
神々しいその姿。
それはまるで―――
「神様降臨、か……」
神の意志が人の姿を為した結果だった。
オルドレイクは、これで出番は終わりです。
またしてもあっけない結果に終わりましたが、個人的にはよく頑張ったんじゃないかと思います。
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