激闘が繰り広げられている。
2対1という圧倒的有利な展開であるにもかかわらず、オルドレイクは自分に対する不利をものともせず剣を振るう。
変幻自在にその姿を変えるトレイター。
あるときは連結剣となり、あるときは敵を貫通するナックルになる。
ジェットを噴出し突き進むその姿は、さながら極限にまで速度を高めた暴走列車のよう。
威力を拳の一点に集中し、目にも止まらぬ速度で繰り出される拳撃をオルドレイクは剣の腹で受け止めた。
乾いた音が響きながらもなおトレイターは突進力を弱めることなく、つかまれた腕もろとも吹き飛ばさんとする。
しかし、オルドレイクはそれをさせない。
懐から取り出される黒い石。
それを口にくわえた上で、トレイターの反対側から振り下ろされる絶風を見切り、掴み取った。
手のひらに刃が食い込み真紅の血液が腕を伝うが、傷口からは蒸気のような白煙が立ち上り、瞬く間に傷は忽然と姿を消す。
度重なる戦いで疲労した2人の額に浮かぶ汗を見、オルドレイクはくわえていた黒い石をそのまま下へと落としていた。
「死ネ」
一言。
その瞬間、石は眩いばかりの黒の極光を放った。
「コの世界より消エ去るガいイ! 神なラザる者タチよ!!」
具現したのは漆黒の闇に包まれた機械竜だった。
鋼に包まれ見上げてしまうほどに巨大な体躯と、動くたびに耳に入るモーター音。
地面に足がつくたびに身体の芯から飛び上がらせるほどに巨大な質量。
その背に装備された巨大な砲塔が、天に向けられた。
照準は天高くに浮かぶ反射衛星。
機械竜と同時に召喚されたそれは反射角と威力、到達時刻を計算し、それに合うように特別製の板の角度を変える。
掴まれた絶風を強引に引き抜くと、は頭上を見上げて。
「マズいっ!!」
声を上げた。
術者のオルドレイクならばさておき、大河や自分がこれからくる衝撃を受けてしまえば、オルドレイクの言うように塵になって消えてしまうだろう。
リィンバウムでの召喚術の中でも高位に位置する機界の召喚獣・ゼルゼノン。
天に向けられた砲身から二条の光の柱が、放たれたのだった。
Duel Savior -Outsider- Act.95
「くっそぉっ! 大河ぁっ!!」
ヘルハーディスを持つオルドレイクと技比べをしていた大河の名を呼ぶ。
しかし、彼は彼で一心不乱にトレイターとヘルハーディスをぶつけ合っている。
「急いでそこから離れろ、時間がない!!」
「あァ!? ンなこと言われても、こっちだって必死だっつの!!」
回避行動を取る暇もなく繰り出される黒い剣先。
「あ゛〜〜〜〜〜っ!」
吐き捨てるように悪態つくと、両の足に気を纏う。
一歩踏み出すと同時にその姿を掻き消すと、大河とオルドレイクの間に割って入り、水平に薙ごうとしていたヘルハーディスを受け止めた上でそのまま大河もろとも背後へバックステップ。
1メートル程後ろへ距離を取るとくるりとオルドレイクに背を向けて大河を肩に担ぎ上げると、一目散に走り出した。
「お、おいッ!」
「だまってろ、舌噛むぞ!!」
と、そのとき。
なにかの爆発音とも取れる轟音が2人の耳を貫いた。
の背中の部分に大河の顔が位置していたため、彼はその音に驚き顔を上げると。
「うっ、わああぁぁぁっ!!??」
上空からの爆撃による閃光が、目の前に迫ってきていた。
「おい! もっと速度上げろ!!」
「冗談言うな! これでも全速力なんだぞ!!」
「精一杯でもいいからもっと速く走れ!!」
「無理言うな!」
「無理でもやれ!!」
ちりっ
「うわぁ、鼻先掠めたぞ!! 見ろ、ちょっとこげてんじゃねえか!!」
「うっさい! 俺だって必死で逃げてるんだ!! あんなの喰らったら、即死だからな!!」
は体質なのか魔法的な力にめっぽう弱い。
だからこそ今も必死になっているのだが、火薬たっぷりの爆弾をゆうに越える威力でと大河に襲い掛かる白い閃光の方が速度が速い。
大河の鼻先を掠めて軽いやけどを負ったのがいい証拠だった。
ちりちりちりちり……
「だあぁぁっ! 俺の髪が焼ける、焼ける!! この年で円形ハゲなんぞこさえたくないぞ!!」
「……ちっ、仕方ない! こうなったら破れかぶれだ!!」
しっかり受身取れよ!!
はその場で急ブレーキを試みながら、左手をその白へと向けた。
展開される蒼い魔法陣。
同時に右手を突っぱねて大河を軽く放り投げると、衝撃はすぐにやってきた。
「……ぐうぅぅぁぁっ!!!」
リィンバウムでも最高位に位置する召喚獣の力に、『暴走召喚』による威力を上乗せ、さらにヘルハーディスの魔力でその力を底上げしているのだ。
以前王国軍の最前線である橋を攻撃した暴走レヴァティーンよりも、その威力ははるか上をいっていた。
それに対しこちらの左手にかかる衝撃と、サバイバーの力を行使したことによる副作用がそのままへとのしかかる。
走る激痛と襲う疲れに、は思わずその場で膝をついていた。
光は盾に阻まれて上下左右へと分かれ、大河の数メートル後ろで収束している。
つまり、盾によって爆発のドームに穴を開けている状態だった。
「くそっ!!」
左手に痛みが走る。
さらに、襲い掛かる衝撃で押されかけている。
展開された魔法陣にすら、ヒビが入り始めていた。
(これじゃ弱すぎる! もっと……もっと強い盾を!!)
展開された盾の強さは、術者の意思力に比例する。
強く思えば思うほど、その分盾は強度を増す。
だからこそは今までないほどに意識をサバイバーへと送りつけた。
その意思を汲んだのか、サバイバーは自身が発する光をより強め、盾に走ったヒビを修復していく。
(早く、早く、早く、早く、早く、早く……!!)
召喚術の威力が増すか、あるいはコチラの意思の力が勝るか。
ここから先はガチンコ勝負だ。
はただ嵐が過ぎるまで、ひたすら耐えつづけた。
…………
「はぁっ! はぁっ!! はぁっ!!!」
光が消え去った。
周囲に残るのは地面に存在する無数の砂利と、そこかしこから立ち上る黒い煙。
遠くに離れすぎて豆粒のようなオルドレイクと、今にも割れてしまいそうなヒビだらけの魔法陣を展開したまま息を荒げているが、大河の目の前でぺたんと腰を抜かしたように座り込んでいた。
2人とも服はもはやボロボロ。
は汗を滴らせながらも息を整えようと大きく酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐き出す。
そして、の身体にはさらに変化が訪れていた。
「、お前……っ、左手!!」
「え……っ!?」
サバイバーをはめた左手の手首当たりまでが光の粒となって見事に消え去ってしまっていた。
というよりは、左手の手首が何らかの境界線を越えた先へ行ってしまっているような感じだ。
手首だけ水に突っ込んだ状態というのがいい例かもしれない。
「…………っ」
時間も、もはや残り少ない。
サバイバーが、の存在そのものをこの世界から消そうとしている。
決着を、急がなければならなくなってしまった。
「……大丈夫だ。それより」
大河に告げる。
時間がないことを。
この世界にいられる時間が、残り少ないということを。
このままでは、ハイネルと同じ道を辿ってしまうことだろう。
物語の終わりを見る前に、物語そのものから強制退場させられる。
しかし、あのオルドレイクを急いで倒す方法など、あるのだろうか?
「正直な話、な……奴相手に、俺1人で戦っていくのはきっと無理だ」
大河は告げた。
神の存在だけでも厄介なのに、それに加えてあの黒い魔剣と召喚術。
もはややりたい放題だ。
だからこそ聞く、大河が吐き出した初めての弱音。
大河は今や神の如き強さを持っている。しかし、それをさらに超越した存在と相対すれば彼はちょっと力のある凡人へと成り下がる。
「それでも、俺は戦っていくつもりだけどな」
戦わないわけにはいかないのだ。
仲間が、戦友が、愛しい女たちが笑って生きていけるなら。
「……死ぬまで戦い抜いてやる」
それは、大河の覚悟だった。
しかし大河がそう思っていても、からすれば強制退場は正直困る。
もっとも、それはの都合なわけだけど。
例えそれが我儘であろうとも、今回ばかりは最後の最後まで関わりたいとは思う。
敵が、あのオルドレイクなのだから。
だからこそ、次の衝突で打倒できる策を練りたい。
幸いなことに、今はオルドレイクと随分距離が離れている。
「問題は、あの剣なんだよなぁ……」
あれさえなくなってしまえば、オルドレイクは神の意志に取り込まれる。
推測の域にしか過ぎないが、ただの人に神の意志を抑えることなど出来はしないだろうから。
足りない部分を補うために、外部から力を供給する。
その外部が、ヘルハーディスだ。
「…………あ」
そうか。
剣がなければいいんだ。
「大河」
「ん?」
「あの剣……折るぞ」
大河はその一言に目を見開いた。
オルドレイクと融合しもはや離れることのない漆黒の剣を折る。
そうすることで、オルドレイクが封じていた神の意思を蘇らせ、内側から彼を殺すのだ。
間接的に、という言葉が先につくけども。
その後は、荒れ狂う神の意志と大河が戦えばいい。
元々の目的はそれなのだから、勝つことまで望んでしまうのは高望みというものだ。
「そうすれば、きっと……少しは楽になる」
「……ああッ!」
ゆっくりと立ち上がる。
左手はすでになく、感覚自体はあるものの、何かを掴んだり触れたりすることは出来ないだろう。
運がよかったのは、利き腕である右手がまだ残っていることだ。
どういう消え方をするのかは定かではないが、これならばまだ自分は戦える。
足手まといになることも、ない。
「「…………っ!」」
2人は無言で一歩を踏み出した。
左に大河、右に。
並列に、かつ同じ速度を保ちながら、オルドレイクとの距離を詰めていく。
豆粒くらいにしか見えなかったオルドレイクの輪郭を、肉眼で確認できるようになるまで距離を詰めてくると、オルドレイクの頭上が赤く光っているのが見えた。
「暴走召喚か……大河、大きく迂回しよう」
「よっしゃっ!」
平行して走っていた2人はここで二手に分かれ、ぐるりと迂回する。
暴走召喚は先ほどまで2人がいた場所に炸裂し、黒い煙をもくもくと上げている。
……だんだんと距離が詰まってきた。
表情までが確認できるまで近づき、それでもまだひた走る。
オルドレイクは剣を掲げ、その先端で黒い球体が蠢いている。
『重力の檻』だ。そう気づくことに、苦労はしなかった。
標的は。リィンバウムのシステムを理解している彼をまず動けなくすることで、召喚術の有効性を上げようとしているのだろう。
大河があの世界の住人でないからこそ、できる戦法だ。
「何度も同じ手を…………」
もう、二度もこの目で見た。
どのようなものかもその効力も、すべてわかっている。
だからこそ、その力がすでに無駄であることを証明するのだ。
この身をもって。
「喰うかよ……ッ!!」
は走るスピードを上げた。
先ほどのように両足に気を纏い強化し、一気にスパートをかける。
やがて、目の前に黒いドームが展開した。
姿はほとんど見えていないはずなのに、的確にを捉えていた。
しかし、彼はスピードを緩めない。
この力は、展開されればその場に固定される。
多少効果範囲が広くても、自分の持つ最大の速力ならば……
「あああぁぁぁ……っ!!!」
抜けられる―――!
はドームの端へと体当たりを敢行した。
自分の身体が一気に重くなっていくのを感じながらも、壁を突き破らんと地面を強く蹴り出す。
半球状だったドームの一部分がゆっくりと膨れ上がり、そして。
「ぁぁぁ……っ!!」
穴を穿ち、外へと飛び出していた。
強力な重力を受けたからか、古傷がいくつか開き白い服に赤い斑点をつける。
その痛みに表情を歪ませながらも、はオルドレイクへ向けて走った。
……もう、目の前。
は刀に気を送った。
共界線から持ってきた魔力は、もうあまり使えない。
使えば、消える時間がより近くなるから。
「おらあぁ――――ッ!!」
先にオルドレイクの元へとたどり着いたのは大河だった。
が『重力の檻』から抜け出たことに驚いてか、慌ててヘルハーディスで大河の攻撃を受け止める。
しかし、大河の攻撃は予想以上に重たいものだった。
上段から振り下ろすならば、扱いやすい剣が適しているはず。
だが彼は、一撃に最大の威力を求めたが故に、へと注意が向いているうちに大きく跳躍。
振りかぶったときに巨大な戦斧へとトレイターを変化させたのだ。
鼓膜を穿つような甲高い音と眩しいほどに大きな火花が散り、それと同時に。
「うおおぉぉ……っ!!」
が自慢の速力を生かして大河の隣まで移動し、刀を振りかぶっていた。
気を両腕と刀身へと送るイメージを描く。
大きな存在感を持った絶風は空を斬り裂き、ヘルハーディスと激突する。
狙いを定めて、大河の戦斧と同じ箇所を狙って。
「これで……終わりだ!!」
神の如き力を持つ青年と、世界そのものを守る守護者。
これほどの巨大な力を、たった1人で受け止められようか。
「「いけえぇぇぇ――――ッ!!」」
純粋な腕力そのものを、それぞれの武器へと送る。
余すことなく、己のすべてをこの剣に。
培ってきた経験を、思い出を、心を賭して。
そして、互いに背中を預け戦い合ってきた信頼感を感じながら。
「ヌうっ…………グぅァ…………っ!?!?」
びき、びき、びき。
黒い剣に、ゆっくりと亀裂が入っていく。
「ま、マさカ……ヘルハーディスに、ひビが……」
オルドレイクからすれば信じられない光景だったろう。
絶対の自信を持っていた剣に、ヒビが入るなんて。
内に秘めた狂気を吸い、より強力になっていくはずなのに。
ビキ、メキキ……ギチ……
「吸え、吸い取るのだヘルハーディス! 我が無限の狂気を……!!」
声を上げるも、ヘルハーディスに変化はない。
漆黒の光が発されるだけで、ひび割れていく剣は元には戻らない。
「バカ、な……」
ばきん…………!!!!
ヘルハーディスは、音を立てて粉々に砕け散ったのだった。
はい、折れました(爆)。
強引過ぎて色々とよくないような感じもありますが、これでいこうと思います。
さて、問題はこの後どうするか。
……どうしよう(爆)。
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