自身の持つ過去最高の斬撃が、堕ちゆくガルガンチュワを粉砕していく。
 神の座を、行く先々でなにかしら起こっていた広い部屋を。
 そして、空に浮かぶ要塞そのものを支えるシステムを。
 すべてが粉砕、消滅していく。
 自身が持てる最高の剣技である殲滅剣技と解放した絶風の力を最大限にまで破壊の力に利用した、まさにこの世界でしかできないような至高の斬撃が、ガルガンチュワそのものを殲滅していく。
 木っ端微塵というのはまさにこのことかもしれないと、は今の状況を見ながらも考えていた。
 そして、ふわりとした浮遊感を感じ、眼下に荒野の姿を確認。

 ……ああ、落ちるな。

 なんて考えつつも、体力はすっからかん。
 ゆっくりと、そして真っ直ぐに落下していった。
 このままいけば、間違いなく地面に激突する。でも、回避行動を取るような体力は残っていない。
 風を感じながら、目を閉じる。

「か、還れるかなぁ……」

 そんな一抹の不安を感じていると。

「あ……」

 の身体は、光の粒となって消えてしまったのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.93



「はぁ、はぁ、はぁ……ちっ」

 大河は地面から突き出た岩の影で、乱れまくっていた息を整える。
 額にはおびただしい量の汗が浮かび、服の至るところに汚れがついていた。
 大きな怪我がないのが、まだ幸いといえるだろう。

 ……大体、色々とおかしすぎだ。
 破壊の力だけなら神と同等の力を持つ自分が、敵の力に押されているのだから。
 原因は間違いなく『剣』の恩恵だ。
 神の意志を押さえつけ、かつその力を自分のものとする漆黒の武器の。
 その不確定要素が、大河自身の力を上回る一番の要素となっていることは間違いない。

「どうする……?」

 黄金の剣を眺めながら、考える。
 敵は漆黒の魔力を迸らせながら、自分を探している。
 もはやあの男の目には、自身と同等以上の力を持つ大河の存在しか映っていないだろう。
 荒れ狂う神の意志のかけらにあてられてしまったのだ。彼は。
 でも、アレでいてあの男は強い。
 神の意志なくしても、充分に強い力を持っている。
 剣技、体術。そして、魔術に代わる力である召喚術。
 本来繋げることなど出来ないだろう異世界とのトンネルを、神の力で強引に開けているのだ。
 ゴリ押しで一度殺したものの、この世界では神は死ぬことはない。
 永遠に戦いつづけなければならない理由がこれなのだけど、それは元々承知の上。
 そんな感じなのだが、大河は少々困っていた。

「なんか、水を得た魚みたいな……」

 場所がアヴァターじゃないからか、神の力そのものが強まっているのだろう。
 ゴリ押しでようやく一度殺したのだ。こっちだって強くなってるはずだ。それなのに、力押しでようやく一度だ。
 まさかここまでつらいとは思っていたのだが。

「負けて、られるか……ッ!!」

 トレイターを構え、立ち上がった。
 大丈夫。俺には、たくさんの仲間がいる。
 アヴァターに残してきた彼女たちや無数の召喚器たち。
 そして、互いの背を預け共に戦場を駆けた親友が。
 魔術でなく、召喚術が牛耳っている世界からの来訪者。
 その世界の神的存在を守護する者。










 …………















 あれ?
















 ポケットへ手を伸ばす。
 指先に触れる、ゴツゴツとした感触。
 子供の手でも包み込める程度の小さな石を握りしめ、取り出した。
 眼前で握りしめていた手のひらを、ゆっくりと開く。

「まだ、だな」

 そう、まだだ。
 戦う力は、まだ残っている。
 手のひらに乗っている乳白色の石を見て、薄く笑った。


 ――なんだ、これ?
 ――餞別、だな。もし、本っ当に危ないときが来たら、それに念じるんだ。『助けてくれ』ってな。
 ――はぁ? こんなモンなくても大丈夫に決まってんだろ。
 ――強く、強く念じれば……奇跡が起こる………………はずだ。


 つい2,3日前のそんなやり取りが、妙に懐かしく感じてしまう。

「……っ!?」

 無数の漆黒が大河を襲う。
 速度も速く、一撃一撃に重みのある速効性に長けた力だ。だからこそ、彼は幾度となく利用する。
 確実に勝利を……否、殺しそのものを実感するために。
 一度殺したときも、この斬撃を躱して懐に入るのに苦労したものだ。
 盾にしていた岩は粉々に砕かれ、見る影もない。
 当たれば致命傷。そんな一言がありありと脳裏に浮かんだ。

「なりふり構っちゃ、いられねぇか」

 何が出てくるかはわからない。でも、やらなければならないと思う。
 勝つために。勝てるなら、なにをしたって構わない。

「くくくく……どうした、我を打倒するのではなかったのか?」

 この戦いに、礼節マナー規則ルールなど存在しない。
 やるかやられるかの瀬戸際で、死闘だ。
 少しの気の乱れが生じれば、あっという間に天国行き。
 生きるためなら。アヴァターでみんなが笑っていてくれるなら。

「こい……」

 かつん、とトレイターに乳白色の石を当てる。
 真っ直ぐオルドレイクを見つめ睨みつけ、つぶやいた。

「こい……!」

 思い出すままに、言われるままに念じる。力を貸せ、と。
 あの男に勝てる力を。
 神に匹敵する破壊の力を持ちながら、それ以上の力を持っているあの男と対等以上に戦う力を。

「こい……!!」

 大きくなっていく声と同時に、乳白色の石が光を帯びる。
 大河のものではなく、トレイターの力を媒介としているらしく、黄金の剣となったトレイターも同色の光を放っていた。
 眩い光が視界を覆い尽くし、大河は思わず目を閉じていた。

「ぬう……なんだ、この光は!?」

 オルドレイクの黒い魔力もあっという間に真っ白に染まり、次に。

「いてっ!?」

 どさりという、誰かが落っこちてきた音が耳に飛び込んできた。
 痛みと同時に発された声は大河にとっては嬉しくも頼もしい声で、驚きよりも先に笑みが浮かんでいた。
 そして、オルドレイクは驚愕で目を丸めていた。
 まさか、なんの変哲もないただの人間が。ちょっと人より力を持つだけの存在が、まさか。

「召喚術を使うなど……っ」

 あり得ない、話だった。
 しかし。

「この世界での最初で最後の大博打。俺にとっては大勝利だったかな……なぁ……大河?」
「……ははは」

 もう、笑わずにはいられない。
 どこまで巻き込まれれば気が済むというのだろう、と言いたくなるほどに、彼はボロボロの服をそのままに、悠然と立ち尽くしていた。
 身体ごと大河へと向けて、苦笑している。

「お前……」
「みなまで言うな。ずっとあの場所にいたんだから、全部わかってる」

 ゆっくりと歩み出し、大河の前へ立つと無言で彼に跪いた。
 もちろん、これに慌てるのは大河の方で。



、お前なにやって……」
「異世界『リィンバウム』が守護者、 。呼び声に応え、参上した………………命令を」



 顔を上げて、軽く笑う。
 リィンバウムに存在する、暗黙の了解。
 それは、召喚された存在は誓約によって主を守り抜くこと。
 無論、それも使役する人次第なワケだけど。
 今回の場合は、彼が大河に召喚されたことになるわけだからして。



我が主よマイマスター



 一時限りの神をも打倒する、最高のタッグが誕生した。









 ……








「……馬鹿野郎。マスターなんて呼ばれ方、リコだけで充分だっつの」

 大河は呆れたように笑う。
 そりゃそうだ、と笑い返す

「それに今は、話をしてる暇はねぇぜ?」
「ああ。わかってるさ」

 青年が2人、オルドレイクへ視線を突き刺す。
 彼は彼で伐剣覚醒の姿をそのままに、余裕すら見て取れている。
 真の救世主の力ですら圧倒する彼にとっては、仲間の1人や2人増えたところで大した脅威だとは感じていないのだろう。
 なにせ、彼は『死なない』のだから。

「ふん。雑魚ガ1人増えタとコロで、何にナるとイうのダ?」
「お前、まだわかってないんだな」

 仲間の大切さを。
 互いに信頼しあうことの尊さを。
 背を預けることで生まれる安心感を。
 それらをまったく理解しない……否、しようともしない彼に、思わずはため息をこぼす。
 人は、1人では生きていけない。
 誰かの手がなければ、生き長らえることなどできはしない。
 それは、どの世界でも同じはずなのに。

「……可哀想な奴だよ、お前は」
「貴様、我を……神たルこのオルドレイクヲ、愚弄スるカ!?」

 黒い斬撃が疾る。
 高速で飛来する刃に対し、は大河を守るように左手を突き出した。
 蒼い篭手が光を帯び、盾として展開される魔法陣。
 快音とともに刃と盾が衝突する。
 刃は霧散したものの、しかし盾は壊れない。

「愚弄してるんじゃない……哀れんでいるんだ」

 たった1人、世界を手中にするために力を求め、結局こうして追い込まれている。
 手にすべき世界からも拒絶され、この場にいることがそれを物語っている。
 そう、オルドレイクは追い込まれているのだ。

「これがお前の望んだ結果か?」
「否、否いナ否いな否否イナ否aァぁァっ!!!!」

 さらに複数の三日月がとその後ろの大河を襲う。
 金属音とはまた違う、爆竹が破裂するときのような音がさらに鳴り響き、灰色の煙が2人を包み込む。
 纏わりつく煙を吹き飛ばしたのは、荒れ狂う魔力の風。
 瞳の色を真紅に染め上げた、を中心に吹きすさぶ暴風だった。

「なっ……なんだと……?」

 オルドレイクの顔が驚愕に包まれる。
 ガルガンチュワではまったく歯が立たなかった彼が、自分の攻撃をいともたやすく防いでいるのだから。

、お前……」
「俺にもよくはわからん。でも……」

 突き出していた左手を下ろし、顔だけを大河へ向ける。
 その顔には、小さな笑みが宿っていて。

「力がみなぎる」

 そう口にした。
 ガルガンチュワで、彼は力を使い果たしたはずだった。
 でも今、こうして大河の前で力強く立っている。
 原因はさておき、これならまだ戦うことができると、目が語っている。
 大河は口の端を吊り上げ笑うと、の横へと並んだ。


「?」

 彼の右拳が突き出される。

「さっき言ってた大博打って話。俺も、当たりだったと思うぜ…………さて、いくか」

 その言葉で彼の意図を理解したのか、は篭手が装備された左手に拳を作り、ゆっくりとその手を伸ばす。

「ああ……いこう」

 ごつん。
 互いの存在を確かめるように、2つの拳が重なり合ったのだった。






夢主、仲間たちとの別れの場面でした。
そして、大河は神の世界でオルドレイクと正面衝突。
物語もこれでほぼ終了になりますね。
完結まであと少し! 頑張ります!!


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