「どうすればいい?」
言葉を放ったのはネスティだった。
背後には結界で覆われた王都、前方にはモンスターの大群。
目の前まで迫っている大軍を見て、バノッサはにんまりと笑って舌なめずり。
「へぇ。てめえにしちゃ、随分と苦戦してるみてえじゃねェか」
目にはすでにモスターの大群しか映っておらず、戦ってくれと頼む前に1人で突っ走ってしまいそうな勢いだ。
「僕たちには、ここの土地勘はない。君の指示が頼りだ」
「は約束どおり、ユエルを喚んでくれた。だから、できることならなんでもやるよ」
「ハサハも、おにいちゃんにかえってきてほしいから……」
前方の敵を掃討するのか、背後の崩れた街を守るのか。あるいは。
「ぐだぐだ言ってんじゃねえよ。で、どーすんだ」
「……前方の敵の駆逐と、あの巨大要塞の真下にある『無限召喚陣』の破壊。それを、君たちに頼みたい」
「はどうするの?」
そんなユエルの問いに、は黒く広がる城塞を眺めて。
「無限召喚陣を破壊次第、あそこへ行く」
そのためには、空を飛べるなにかを調達する必要があったのだが。
「それなら全員で行こう。僕と彼でここを受け持つ。はユエルとハサハを連れて、無限召喚陣とやらを破壊して来るんだ」
「へへへ、上等だぜ」
さぞ嬉しそうに、バノッサは言葉を発した。
事件が終わってからは街の人々ともなんとかやっていたようなのだが、根本的な部分はまったく変わっていないらしい。
しかし、それが今回は素晴らしく頼もしい。
「僕たちは召喚獣に乗って君たちを追いかける。そのままあそこへ侵入しよう」
「よし、それじゃ……よろしく頼む」
行くぞユエル、ハサハっ!!
Duel Savior -Outsider- Act.74
は2人を引き連れて、敵の渦中へと駆け出した。
その道を作るために、ネスティはサモナイト石を掲げる。
またこのようなことがあるのではないかと常に携帯していた、中位の召喚石。
範囲は狭いがその分威力は大きい。
……っていうか、召喚して戦ってもらう。
「来たれ、オペレイクス!!」
黒いサモナイト石が光を帯び、敵を押し潰しながら1体の巨大ロボが出現した。
手の巨大な鎚を振りまわしモンスターたちをなぎ払っているが、どこか壊れそうなのは気のせいだろうか?
「なんだ、てめぇそんな小っせえのしか召喚できねえのかよ!? こっちはコレだぜ!!」
バノッサの手にある、紫の石が強烈な光を発する。
次の瞬間には虚空に1体の悪魔が召喚されていた。
身体つきこそ女性のものだが、真紅の双眸やその表情が、とても女性のものとは思えない。
手に持っている一振りの槍が、その悪魔の存在感を強めていた。
「あの連中をまとめてぶっ潰せ、ガルマザリア!!」
主の命に従い、ガルマザリアと呼ばれた悪魔は槍の切っ先を地面へと向けた。
そのまま急降下し、地面に突き刺すと同時に発生する、大きな地震。
その強さに自身のシステムに問題が発生したのか、オペレイクスは口からありえないほどの大きさのミサイルを打ち出そうとして……
ぼとん。
その場に落ちた。
ミサイルの推進力を生み出すためのエネルギーが、なぜか底をついていたのだ。
そのまま、オペレイクスの目の前に落下したミサイルは巨大なキノコ雲を発生させ、大爆発を引き起こす。
地震と大爆発によって、大半の敵はその身体を消滅させていた。
「ンだよ、他愛もねえ」
「君はバカか!? このままでは、あっという間に魔力が底をついてしまうじゃないか」
「ケッ、るせえよ。俺様に指図しようなんざ、100年早え」
「もう少し、魔力の操作方法を学ぶべきだ!」
「うるせェ、指図すんな!」
この2人、前途多難。
「ちょっと危なかったけど、2人は上手くやってくれたみたいだな」
とユエル、そしてハサハ。
3人は、拓けた荒野をただ真っ直ぐに駆けていた。
ガルガンチュワの真下、無限召喚陣を目指してひたすらに走っていたのだが、ネスティとバノッサの召喚術から逃げ切ったモンスターたちは、3人を見つけるや否や、こぞって襲い掛かってきたのだ。
を先頭に蹴散らしながら進んではいるものの、先ほどよりもスピードは格段に落ちてしまっている。
ここでさらに力を使うわけにはいかない。
スピードを落とさずに進めればよかったのだが、どうやらそういうわけにもいかないらしい。
「天を穿つ……」
「ダメ!」
殲滅しようと言葉を口にしたを妨げたのは、少しばかり息を切らしたハサハだった。
ぴょこんと立った耳を機敏に動かしているが、真っ直ぐにを見つめている。
「おにいちゃんは……あそこにいくんでしょ? ……だったら、ハサハにまかせて」
次の瞬間。
彼女を光が覆い尽くし、成長した姿――と同じ年くらいの身体に変化していた。
紺色の着物は身体に合うようにサイズが変わって、膨みのある胸元に水晶を抱えている。
水晶は、強い純白の光を発していた。
「ハサハ」
「大丈夫だよ。ここはハサハが食い止める。ユエルと2人で先へ行って、ね?」
見惚れるほどに綺麗な笑みを見せて、ハサハは光を放つ水晶を天に掲げた。
「……お願いっ! お兄ちゃんたちを、守って……っ!!」
言葉と共に、水晶は天にまで上るほどの強い光を発し、広範囲に無数の剣を作り出した。
戦場を主とともに駆け抜け、得た力。
前はほとんど役に立たなかったが、魔力みなぎる今なら……
「剣舞・轟天……っ!!」
天いっぱいに広がる剣群。
それらすべてがハサハの指揮でモンスターを穿ち、斬り裂き、なぎ払っている。
普段だったら、せいぜい2,3本がいいところなのだが。
水晶に魔力が篭もり、今の姿をとっているからこそできる芸当だった。
「ユエル、行くぞ」
「でも……」
「ハサハが行けって言ったんだ。あの子の心意気を無駄にはできない」
無数の剣が乱舞する中、とユエルは血塗られた道を駆け抜ける。
もう、無限召喚陣は目の前まで迫っていた。
「邪魔だァっ!!」
装備した爪を振るい、ユエルは無限召喚陣を守っていた魔術師を象ったモンスターを吹き飛ばした。
陣を守っていた術師たちの均衡が崩れ、地鳴りとともに亀裂が走る。
「絶風、第一開放!!」
ユエルに術師たちの掃討を任せ、刀を開放する。
使える魔力に限りがある。
開放できるのはコレが最後になりそうだが、戦うこと自体はまだまだできる。
だから、ここで使ってしまおう。
開放するは大地の力。
ゴーレムすらも貫く矛をもって、陣を破壊する……!
「世界よ、大地よ! その力をもって、彼のものを穿ち貫け!!」
地面に切っ先を突き立てると、爆音に近い音と共にせり上がり陣を貫く大地の槍が発生した。
中央、端。建設された召喚陣全体を再生不能となるほど完膚なきまでに破壊する。
中途半端に壊して、途中から作り直されたらたまったものではないから。
「……よし」
「、こっちも終わったよ!」
バラバラに壊された召喚陣と、絶命したモンスターたち。
その光景を眺めつつも、1人残してしまったハサハの援護へと向かったのだった。
…………
……
…
ダリアとミュリエルのレビテーションによって、救世主候補一行はガルガンチュワに降り立とうとしていた。
一行が思うのは、眼下で戦っている仲間の青年のことだった。
漸く合流できたのに、再び離れてしまった。
クレアを助けるためにその身を敵へと向けて駆けていったのだが、離れてしまった今となってはもはやどうしようもない。
「アイツ……」
「君は、元々ああいう人ですから」
人が死ぬのを見ていられなくて。
近しい人たちが苦しんでいるのを放っておけなくて。
でも、自分には壊すことしかできなくて。
それでも、目の前の人たちを守りたくて、剣を振るう。
「ナナシの記憶を通して、私も知っているわ。彼が、どれほど自身を犠牲にして戦っていたのか……」
ゼロの遺跡、破滅軍に対する大規模殲滅。
それらがすべて、彼が自身の意思で決めて、行動していたから。
「師匠は、きっと後から来るでござるよ」
それは、間違いではないだろう。
彼は空を飛ぶことはできない。でも、彼ならきっと何とかしてここまで来るだろうとカエデには確信できた。
黒く染まった風の中を、ただ真っ直ぐに上昇していた。
「後ろを振り向いている時間はないわ……もうすぐよ」
眼前に迫る、城塞ガルガンチュワ。
とても宙に浮かんでいるとは思えないほどの巨大な質量は、その大きさを救世主候補たちに思い知らせてしまう。
「お、大きい……」
「あの上に降りれるみたいよ〜ん」
ゆっくりと城塞に近づいていく。
強い風に顔を覆い尽くしながらも、
『クケ――――ッ!!』
そんなモンスターの雄叫びを耳にしていた。
有翼の魔物の群れ。
それらが自分たちを落とそうと、束になって襲ってきたのだ。
自由に動くことのできないこの場所では、間違いなく落とされる。
ジャスティによる狙い撃ちも、もはやその担い手に余裕がない。
召喚器があれば、と悔しげに歯を立ててしまうのは、無理もなかった。
そんな中で。
「ん〜、みなさぁ〜ん、ここでお別れねん」
「ダリア先生っ!?」
ダリアはニッコリと笑みを浮かべて、一行の側を離れていった。
いきなりかかる負荷に声をあげてしまうミュリエルだったが、それでも持ちなおす。
足場はもう目の前で、後はゆっくりと降りていくだけだったから。
「後は降下するだけ。学園長先生のお力なら楽勝ですわん」
「そんな、着地して一緒に戦うでござるっ!」
「いつ、最後の時が始まるか知れないのよ? もう、一刻の猶予もないわん」
こんな状況だというのに、この場で自分は死んでしまう可能性が高いというのに、口調はいつもの通り。
その強い胆力に、尊敬の念すら抱いてしまう。
彼女だって、死ぬのは怖いだろう。
それでも、大事な世界の希望を……自分の教え子たちを守るために、彼女はモンスターの大軍と相対していた。
「学園長先生、最後に謝らせてくださいね。ごめんなさぁい」
自分のことを隠していて。
この場を離れてしまうことに対して。
そして、自分がここで犠牲になることに対して。
ダリアはそのすべての念を込めて、ミュリエルに向けて頭を下げたのだった。
「それじゃ、行くわ。リリィちゃん、カエデちゃん、ベリオちゃん、未亜ちゃん、ナナシちゃん、セルビウムくん……みんな、大好きよ?」
あんたたちは死なせないから……
世界の……アヴァターの希望を。
そして、大切な教え子を。
彼女はくるりと大群に向き直り、眉を吊り上げた。
『先生ッ!!』
生徒たちの自分の身を案じてくれる声。
教師として、彼女たちの中に自分が息づいているんだなぁ、と肌で感じて、嬉しかった。
「あはは〜、今での私のこと先生って呼んでくれるんだ……ありがと……そして、さよならっ!!」
別れの言葉。
自分はここで死ぬんだと、覚悟して。
ダリアは目に見えるほどの魔力を放って、
「大河くんと、くんによろしく言っておいてねん。もう宿題わすれないように……って!」
最後にそれだけを告げて、一行から離れたのだった。
モンスターの大群は、目の前。
ダリアはそこでスピードを緩めて、行かせまいと両手を広げた。
「ここから先は、通さないわよ……? かかってらっしゃいッ!!」
暗い空に、轟音と共に閃光が走り抜けたのだった。
サモキャラ活躍話。
ハサハの使った「剣舞・轟天」については、2連載をお待ちください。
ヒントは、彼女がゲームで使っていた通常攻撃だったりしますけどね。
そして、ダリア先生唯一の見せ場がここ。
自分なりに解釈して台詞以外を付け加えてみました。
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