「見えた! ここまでくれば……」
幾多の命の犠牲の末に、一行はガルガンチュワの元までたどり着いていた。
あとは、レビテーションを用いて中に侵入するのみ。
「みんな、行くわよっ!」
「私とダリア先生がみなを運びます。クレアさまはすぐに撤退してください!」
ダリアとミュリエルで、レビテーションの詠唱に入る。
「行けっ! 後ろを振り向くな!」
そう、クレアが声をあげたときだった。
「!?」
囲みを抜けてきた敵が、クレアに襲いかかろうとしている。
とっさのこととだったのだが、の身体はすでに動いていた。
足に気を纏わりつかせて、一歩で最大の加速を得る。
「君っ!?」
ベリオの声を胃にすることなくクレアと敵の間に入って、振るわれた武器を刀で受け止める。
甲高い金属音とともに救世主候補たちは光の膜に包まれて上空へと舞い上がり、ガルガンチュワへと消えていった。
「、お前……」
「これから先、国を治める存在が……こんなところで死んでどうするんだ……!!」
力任せに刀を振るい、クレアに襲い掛かろうとしていた敵を斬り裂く。
胴の部分から血を吹き出させ、仰向けに倒れ伏す大人ほどの大きさの敵を一瞥して、無傷のクレアに向き直った。
「ほら、君はやるべきことを。それまで、俺たちが君を守り抜くから」
俺は、1人じゃない。
ポケットに手を忍ばせる。
指先に感じるは、ゴツゴツとした感触。
それらをすべて握りしめると、ソレは強い光を帯びた。
「早くっ」
「う、うむ! 目的は果たした……全軍、撤退だ! 急げっ!!」
「クレア様っ……」
彼女に付き従っていた壮年の男性も、息を切らしてはいるもののまだ動くことができる。
彼らに襲い掛かる敵をすべて、が狩っていたからだった。
黒、紫、緑、赤の召喚石。
すべてを握りしめたまま、は自分のすべてをかけて戦場を駆け回る。
クレアに敵が近づけばそのことごとくを斬り伏せ、味方が死にかけていれば助けに走り、魔術師に治療を頼む。
全軍に命じられた撤退命令は瞬く間に全体に広がりを見せ、敵の攻撃を防ぎながら王都へと撤退を始めていたのだった。
Duel Savior -Outsider- Act.73
「大丈夫か?」
「あ、ああ……問題ない。しかし、お前がここにいては意味がないではないか……」
しんがりを努める王国軍を心配そうに眺めながら、クレアはそんなことを口にしていた。
はリィンバウムそのものからここへ召喚された存在で、敵将の1人を討ち果たすためにここへ来たのに。
自分のせいで侵入に遅れてしまっていては、元も子もあったものじゃない。
「悔しいな……守るべき民を戦場へ駆り立て、行かねばならない者を自分の都合で押し留めて……」
「気にすることはない。俺がそうしたかっただけだから……」
気づいたら身体が動いていた。
思考を再開するまえに、身体が本能的に動いていた。
敵のお膝元に侵入を果たす以前に、自分のためだけに動いていた。
所詮は自己満足だから。
「だから、君は気にすることはないさ」
にか、と笑って見せると、追いかけてくる敵に対し奮闘している王国軍を見やる。
最初からかなり無理があったのだ。
戦闘訓練をしている軍人は先の戦闘で負傷あるいは死亡していて、人手が圧倒的に足りないからと民衆まで巻き込んだのに、頭数だけでも差がありすぎた。
無限召喚による影響が、やはり多いのだろう。
破滅の種子による大規模な魔力行使をする必要のなくなったため、再び無限召喚へ力をまわしているのだ。
「根本を何とかしないと、戦闘は終わらないか……」
すでに王都の入り口までたどりつき、あとは王国軍が中に入りさえすれば結界を発動させて事なきを得ることができる。
しかしそれをするには、圧倒的な数のモンスターたちを撃退しなければならなかった。
「無限召喚陣の場所、わかるか?」
「は、はいっ! この場所からまっすぐあちらの方向……ガルガンチュワの真下ですっ!」
巨大すぎる目印だった。
これならばいくら方向音痴のでも、難なくたどり着くことができるだろう。
そうと決まれば、さっそく行動を起こそう……!
「、どうするつもりだ?」
「無限召喚陣、壊しに行くよ。そのまま、ガルガンチュワに乗り込む」
運のいいことに、目的地は同じなのだ。
王都も守れて、そのまま本来の戦いに向かうことができる。
「無茶だ。相手はあの軍勢だぞっ!」
「君は、今まで俺の何を見てきた?」
「っ!?」
闘技場でたくさんのモンスターたちをすべて倒し、10万の軍勢を相手に大立ち回り。
そして、手に持っている色とりどりの小さな石。
その石たちは強い光すら放っていて、どこか綺麗だとこの状況で考えてしまっていた。
「合図をする。きっとわかるはずだから、それが見えたら王都全体に結界を張ること」
「しかし……っ!」
「俺を……君の救世主の力を信じろ」
まるで、先ほどまでの話を聞いていたようで。
あの時はいなかったというのに、すべて理解しているような様子すらも窺える。
「今まで、ありがとう。楽しかった」
そして、今生の別れのようにすら聞こえる彼の言動。
きっと何らかの方法で、何もかもわかってしまっているのだろう。
あるいは、身体の違和感がそれをしらせているのかもしれない。
はそれだけ口にすると、くるりとクレアに背を向ける。
左腕を横に突き出すと、腕全体を光が帯びていた。
見惚れるような蒼い光。
「サバイバーっ!!」
それは、天に広がる空のようだった。
轟音と共に具現するは蒼天色の篭手。
同時に握りしめた4つの石が強い光を帯び、それすらも天へと伸びていく。
トレイターから聞いた、サバイバーの力。
それを行使しようとしているのだとクレアは悟っていた。
伝えねばならない。
その召喚器が、自身に何をもたらすのか。
強大な力の代償として、なにが差し出されるのか。
「っ!!」
叫び、駆け出す。
しかし、それは隣の侍従長である男性に止められていた。
「爺……っ、なぜ止めるのだっ!!」
「なりませぬ、姫様」
それだけは、なりませぬ。
彼女の腕を掴み、静かに首を横に振った。
「あの召喚器のこと……、お前も聞いていただろうっ!」
「無論、存じ上げております……ですが、今あの方をこの場に留めてはならないのです」
最初から、全部分かっていた。
サバイバーを使うことによる代償も、自身になにが起こっているのかも。
『裏の自分』が出てきたのも、自分という存在がこの世界で希薄になっている証拠。
この世界にいられなくなって、なにが起こるかは分からない。
でも、今のこの状況。使わざるを得ない。
「あの方は、姫様がなにをおっしゃられようとも……戦場へ身を投じるでしょう」
「しかし……っ」
「目の輝きが、それを物語っておりました。姫様がいくら声をかけようとも、今の彼の歩みとめることはできませぬ」
クレアの身体から力を抜けたのを確認すると、男性は掴んでいた腕を開放した。
その場に跪き、
「この身のご無礼を、お許しください」
そう告げて、目を閉じたのだった。
…………
……
…
「さて……今日二度目だけど」
一度使ったというのに、身体中に活力が溢れている。
サバイバーが力を貸してくれているのか、それとも他の要因かはわからない。
でも、この機を逃すことはできそうにない。
『我は、生き抜く者。そなたと共に、最後まで戦場を駆けて見せようぞ』
サバイバーの声が聞こえる。
今ならきっと、彼らをまとめて喚び出すこともできるだろう。
……紫の石は、まだ使ったことないけど。
「それじゃ、まずは目の前の連中の掃討からだな……」
数的には、自分ひとりで問題なさそうだ。
真に破滅をもたらせるだけの力を振るうことが、きっとできるだろう。
崩れかけた門から飛び出す。
全身の気をもって刃を形成すると、大地もろとも敵をなぎ払った。
「あ、貴方は……」
「俺のことはいいから、撤退急げ!!」
王都に面した敵のことごとくを斬り、なぎ払い、吹き飛ばす。
どの部分から結界が発生するのかは分からないが、敵がどんどん倒されていくことでとりあえず味方を中へと押し戻した。
「らあぁぁぁぁっ!!!」
そして、最後の一振りと言わんばかりに不可視の剣を思い切り振り下ろした。
地面が裂ける音と轟音が響き渡り、砂塵が舞い上がる。
「っ!! ……これが合図か。結界を張れ!!」
内部にいるクレアの声と共に、王都全体を結界が形成されていた。
白い膜が覆い尽くし、以外の人間を中に押し込めたまま敵の侵入を阻んでいる。
「ケガ人を最優先で学園へ運べ! 地下に充分な治療用具がある!」
疲れきっている王国軍にさらに命を下す。
少しでも休ませてやりたいところなのだが、状況はそうも言っていられない。
今は、1人でも多くの人の命を救わねばならないのだから。
「姫様! 青年が1人、結界の外に!!」
「大丈夫だ、彼はこの学園における最強の救世主候補だ!」
信じなければならない。
人々の誰もが無理だと叫んでも、私だけは信じてやらなければ。
『リィンバウム』の誇る守護者である、彼を。
だから、今は自分にできることをするだけだ!
「皆の者、よく頑張ってくれた!!」
「……よし」
結界は張られた。
丁度境界にいたモンスターたちはその膜に切り裂かれて絶命してしまった。
これで、王都の中の人々は大丈夫だろう。
ならば、今のがやるべきことは1つだけだった。
「……古き英知の術と我が声によって、今ここに召喚の門を開かん……」
今、無駄にエネルギーを消費しているヒマはない。
活力に溢れているといっても、結局のところ限界はあるのだから。
「我が纏いし魔力に応え、楽園より来たれ……」
だからこそ、頼るのは異世界の仲間たち。
左手に握った4粒の召喚石に魔力を注ぎ、4色の光が天へと立ち上った。
「新たなる盟約の名の下に、守護者たる がここに告げる……呼びかけに応えよ……!!」
次の瞬間。
強い閃光と共に、4つの人影が具現し形成されていったのだった。
「っ!!」
「おにいちゃん……!」
「また君か、だから巻き込むのはやめろとアレほど……まぁいい」
ユエル、ハサハ、ネスティ。
今までに自分が喚んだ3人と、もう1人。
「おい、てめえ。ここはどこだ。俺様になにさせようってんだ!?」
魔王の器にして、敵として戦った間柄。
目の前にたたずむ白髪の青年は。
「急に喚び出してすまない。今は……力を貸してくれ」
そう口にして、真っ直ぐに青年を見つめて。
「バノッサ」
名前を告げたのだった。
サモキャラ再登場話。
最後の召喚石により召喚されたのは、現在1連載にて敵としての役回りを果たしている
バノッサくんでした。
というわけで、1連載にて彼の生き残りは確定ですね。
そして、なにげにクレアのお付きの侍従長出張ってます。
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