一行は王都を出た。
 学園を出てからしばらく探したのだが、結局には会えずじまい。
 本来なら引っ張ってでも連れてこなければならなかったのだが、時間も余りに少ない。

「中央突破を計るっ! 命を惜しむなっ!!」

 迫り来るモンスターの軍勢に、王国の残存兵力は突撃を始めた。
 ガルガンチュワを中心に布陣されたモンスターから、真下にいるホワイトカーパスの州軍。
 敵は腐るほど存在していた。
 しかし、自分たちの目的はあくまでガルガンチュワの中。
 ヘタに迂回などしているヒマはないのだ。

 街の難民たちも武器を取り、たどたどしくもモンスターと刃を合わせているが、さすがに訓練不足は否めない。
 しかし、それを補うように複数で1体のモンスターの掃討に当たり、召喚器と心を交えた未亜と彼女たちの護衛を自ら名乗り出たセルの前に、複数のモンスターたちが立ちふさがる。
 味方の囲みを突破してきた一団だった。

「みんな、私たちの後ろに集まって! ……掃討しますっ!」

 具現したままのジャスティを構え、未亜は声をあげた。
 無数の矢を一斉に放ち、近づけまいと連射する。
 その矢の悉くには魔力が詰まり、敵と接触した瞬間に轟音を上げて爆発していた。
 白の主として覚醒し、ジャスティが進化したことにより、その秘めた能力がケタ違いに上がったのだ。

「未亜さんにゃ、指1本触れさせねぇぜっ!」

 大剣を構え、未亜の援護を受けながらセルは敵の渦中へと突入した。
 高速で迫り来る槍や、魔力弾。
 今まで体験してきた全てをもってこれを躱し、受け流し、敵を打ち倒す。
 気合の篭もった掛け声と共にセルはモンスター複数体をまとめて斬り上げ、吹き飛ばした。

「味方がかなり手薄になってる……油断しないで!!」

 最後衛で戦うことのできない救世主候補たちを、ミュリエルは守っていた。
 ターゲットは、セルと未亜で仕留めきれなかったモンスターの掃討。
 もっとも、次元を渡ることすら可能な世界最高の魔術師。手負いのモンスターなど、敵のうちには入らなかった。
 彼女が使う魔術は、リリィのそれと同等か、あるいは凌駕している。
 目の前の敵には巨大な氷柱を落とし、爆発を繰り返しながらゆっくりと敵を押し戻す爆撃魔法。
 そして、特筆すべきは彼女を中心に大爆発を起こす魔法だった。
 詠唱、発動共に高速。
 世界を代表する魔術師の名は、伊達ではなかった。





Duel Savior -Outsider-     Act.72





「はぁ、はぁ……」

 いくつかの波を越えて、未亜は息を切らしていた。
 新たなジャスティは、使用者の体力をも酷使してしまうらしい。
 無理な戦い方をしていれば、疲れてしまうのも当然といえた。
 しかし、ガルガンチュワは目前。立ち止まってなどいられないのだが。

「ホワイトカーパスの州軍かっ!!」
「でも、あれは……あの人たちは……」

 ベリオだけでなく、誰が見てもわかる。
 ガルガンチュワの真下に布陣した彼らの表情には、苦悶の色が宿っていた。
 原因は他でもない、破滅の種子によるもの。
 場所が場所だったせいか、未亜の渾身の射撃でも打ち抜き切れなかったらしい。

「っ!!」

 未亜は疲労の大きい身体にムチを打って、ジャスティを天へと向けた。

「ダメよ! そこまでの力を使ったら、この先戦うことが……」
「約束、したの……」

 それは学園の中庭で助けた、親子の願いだった。
 あの中にいるかもしれない少女の父を、女性の夫を助けて欲しいと。
 その願いに、未亜はうなずいた。きっと助けると。

「だから……」

 キッ、と未亜は天を見上げた。

「ジャスティ……」

 体力は限界に近く、これを射ってしまえば戦うことなどできなくなるだろう。
 でも、やらねばならない。

「お願い……力を貸してっ!!」

 未亜の切なる願いを聞き届けるように、ジャスティから再び光の柱が天へと立ち上った。
 黄金の光雨は呪縛に苦しむホワイトカーパスの人々に降り注ぎ、取り付かれていた破滅の種子を打ち抜く。
 表情から苦しみが消えたところで、未亜は両膝を地面についてしまっていた。

「よくやってくれたっ!」
「ハァ……ハァ……えへへ」

 嬉しそうに笑う。
 これで約束が果たせると、体力を根こそぎ持っていかれたにも関わらず、彼女は笑みを零していた。
 しかし、破滅のモンスターたちの数は多く、王国の軍勢に襲いかかる。
 彼女たちの周りは丸裸で、護衛などないに等しかった。
 次に狙われれば、未亜を含めた世界の希望が危険に晒される。
 それだけは阻止せねばならない。
 戦えるのはセルとミュリエルのみ。
 そして、迫ってくるのは味方の一角を落としてきたモンスターの軍勢だった。

「くそっ!!」

 余りに多い、敵の数。
 そのすべてが自分たちに向かってきているなんて、信じたくはない。
 でも、事実だった。

「……っ」

 力があるのに。
 戦えるはずなのに。
 召喚器がなければ戦えない自分たちに、救世主候補たちは表情を歪めた。

 そのときだった。














「天を穿つ、一子相伝の剣……」
















『っ!?』
















 すでに聞きなれた、トーンの低い声。
 知り合って1年も経っていないのに、この声にどれだけ励まされてきただろう。
 戦闘における先輩として、信頼できる仲間として。
 どれだけ当てにしてきたかわからないほど、頼もしい声。


















「…………天牙―――穿衝っ!!」


















 斬、という音と共に、あれだけいたモンスターたちがまとめて斬り裂かれ、消えていく。
 モンスターを屠ったのは、彼の持つ最大殲滅の奥義。
 10万の軍勢に対し、その半分近くの進軍を食い止めた『壊す者』の真骨頂。

 鍔鳴りと共に、現れた青年はその白き刀を鞘に納め、仲間たちへとその顔を向けた。


「悪い、遅くなった」


 青年―― は、きょとんとしているメンバーに向けて、笑いかけたのだった。




 …




 ……




 …………




「……む」

 遠くで聞こえる無数の剣音に気づいて、は目を覚ましていた。
 荒れ果てた地面を踏みしめる音と、聞こえてくる怒号。そして、無数の甲高い金属音。
 それは、自分が眠っている間に世界の運命をかけた最後の戦いが始まっていることを意味していて。

「…………」

 無言で、壁に立てかけられていた刀を手に取る。
 どうせなら始めから関わっていたかった、などと考えつつも無駄と悟り、一歩一歩確実に地面を踏みしめる。

 自分が、何を為すべきか―――持ちうる“破壊”の力の全てを以って、破滅を打倒する。
 なんのために、ここにいるのか―――戦うため。ここにはいない仲間たちを、守るために。
 なぜ、戦うのか―――自分が守りたいと心の底から思える仲間たちを、守るために。

 全ての答えは得た。
 あとは、行動あるのみ。

「うん……いい感じだ」

 活力に満ち溢れている。
 眠っていたからか体力も申し分ないし、今ならきっと存分に戦える。
 先刻の破滅との大規模戦闘以上に動けると、間違いなく言える。
 先ほどまでの鬱な気分が、まるで嘘のようだった。

「いける……俺は戦える……」

 赤黒い瞳を爛々と輝かせ、黒い城塞を見上げる。

『壊しがいのありそうなモンが、たくさんあるじゃねェか』

 そんな『自分』の声が、頭の中を反芻する。
 同じ姿、同じ声。吸い込まれそうなほどに赤い瞳。
 それは彼のものであり『俺』のものでもある。

 ……俺たちは、2人で『1人』だ。

「一緒に行こう……戦おう」

 右手を殴られて黒ずんでいる頬に当てる。
 鈍い痛みと共に、彼が自分の前にいたことを改めて実感し、眉を吊り上げた。
 出口は目の前。
 外ではすでに激しい戦闘が繰り広げられており、その真っ只中で仲間たちが今も必死になって戦っていることだろう。

「リィンバウムはエルゴの守護者、…………参る」

 だんっ、と地面を蹴り、駆け出した。
 目指すは敵軍の真ん中。仲間たちの所へ――――




 …………




 ……




 …





、よく来てくれた」

 遅れた理由諸々を聞くでもなく、クレアはまず礼を述べていた。
 自分たちの窮地をまるで吹きぬける風のようにあっという間に救い出してくれたことに。

「アンタ、今までいったいどこに……」
「ま、まぁ……いろいろあったんだ。それより」

 行くんだろ、あそこに。

 は天空にたたずむ黒い城塞を見上げた。
 アレの名前を、彼は知らない。
 でも、アレは自分たちにとって……ひいては今後のアヴァターでは必要の無いものであることだけはわかる。
 広大な街を一瞬で吹き飛ばすような兵器をもっている『あんなモノ』など。
 だから、

「そこまでの道は……閉じちゃってるな。よし」

 だからこそ、立ち止まっている余裕など有りはしない。
 一度セルとミュリエルに視線を合わせて、力強くうなずくと。

「走れ。一気に行くぞ!!」

 は刀を鞘に納めたまま、敵陣に向けて走り出した。
 前傾姿勢を保ち、這うように大地を駆ける。

「セル! 横……いや、後ろから来てる!」
「よっしゃあっ!!」

 セルに指示を出しつつ、自分は道を作り出すために刀に気を流し込む。
 すべてはイメージだ。その強さが、そのまま力に比例する。

君っ!」

 ベリオの声。
 モンスターが目の前まで迫っていることを伝えたかったのだろうが、はすでに気づいている。
 ギリギリまでひきつけているのは、自分の戦い方を鑑みた結果だった。
 無論、足を止める必要などありはしない。

「そのままっ! 走れ走れ走れ走れ…………っ!!」

 そして、勢いをつけて抜刀。
 内包されたエネルギーが爆発し、前方一直線に敵を真っ二つに斬り飛ばしていく。



「ぎゃ〜〜〜、血ぃ〜〜〜〜!!??」



 なんて声が聞こえたりするが、気にしない。
 走るスピードを落とすことなく、一行は新たに作られた道をひた走る。

君、道が閉じてしまうわ!」

 びっくり。
 なんかいつもと違うナナシの声に、思わず首をひねって彼女を見やっていた。
 姿形自体に変化はないようだが、どこか纏っている雰囲気が別人を醸し出している。

「よそ見してる場合じゃないでしょっ!?」
「おっと、そうだった」

 リリィの喝を耳にして、今度は刀を鞘の横へつける。
 納刀の時間がもったいないので、短縮したのだ。
 そのまま再び振りぬくと、刃は再び発生していた。しかし、威力は先ほどよりも低い。
 だからこそ。

「ふぅ……っ!!」

 強く息を吐き出しつつ、刀を数度に渡って振り抜いていた。
 威力こそ低いもののそれを複数回重ねれば、強くなる。
 一重の刃に、さらに刃を上乗せしたのだ。

「うわっ、あぶねえっ!?」

 セルの声が響き渡った。
 複数の巨大な影が、自分たちを行く手を塞いでいたからだった。
 以前闘技場で戦わされた黄土色のゴーレムと、青紫、紺でそれぞれ作られた最初のものとはデザインの違うゴーレム。
 後者の2体の方が動きがしなやかで、戦闘力だけなら前者を軽く凌駕しているのだろうと勝手に推測。
 はそれを眺めて、さらに城塞を見やる。
 目的地までは、未だ遠い。
 だったら、ここで立ち止まっているヒマはないだろう。

「ダリア先生、学園長! みんなを軽くレビテーション!!」

 レビテーションの魔術ついては、講義で軽く習っていた。
 大河と未亜が初めてアヴァターに来たときに、ダリアのレビテーションで空から王都を眺めたことがあるという話を聞いていたのを思い出したのだ。

「え!? え、えぇ……」
「そっ、そんなくん、人使い荒ぁ〜い」
「わがまま言わんといてください! ……一気に仕留めます!!」

 その言葉に、2人は目を丸めた。
 先刻使ったモンスターの悉くを屠る、あの力―――『天牙穿衝』だろうかと。
 しかし、あの力では周囲の王国軍を巻き込む危険性がある。
 ここで使うべきではないのではないかと考えるのが普通なのだが。

「「…………」」

 自信を持って前を見つづけている背中を見て、彼なら本当に仕留めてしまうのではないかと思えてしまう。
 だからこそ、2人はその場にいる以外の全員に軽くレビテーションをかけていた。

「師匠!!」

 カエデの声。
 敵の真っ只中に彼を置いて、一行は地面から約5メートルほど浮かび上がった。


「絶風、第一開放!!」


 声と共に、彼の刀……絶風が咆哮を上げた。
 同時に白い光が刀身から溢れ、周囲の全てを震撼させる。

「なに、この魔力……?」

 そして、呟いたリリィを含む魔術師たちが感じたのは、膨大な魔力だった。
 魔術を使わない彼から……否、彼の刀からなぜ、あれほどの魔力が溢れ出ているのか。
 それは、次の瞬間。目の前で起こる出来事によって理解することになる。

「世界よ、大地よ! その力をもって、敵を貫け!!」

 それは、魔術の詠唱に近いフレーズだった。
 声が終わると同時に刀の周囲を黄色い光の帯が具現し、ゆっくりと回転をし始めていた。
 刀を逆手に持ち替えて、切っ先を地面へと突き刺した。
 刃を刺したとは思えないほどの大きな音と同時に、浮かび上がる黄色の魔法陣。
 陣には矢尻の羽のような抽象的な絵が描かれており、中心……のいる位置に収束していた。
 高速で描かれた魔法陣が完成すると、

『あ……!!』

 地鳴りと共に大地が抉れ、巨大な土の槍がゴーレム3体を貫いていた。
 土の槍はゴーレムを貫くとボロボロと崩れ落ち、大地へと還っていく。3体のゴーレムは立っているためのつっかえ棒をなくして、前方へと倒れこんで動かなくなっていたのだった。

君、貴方は一体……」
「学園長、今はそれどころじゃないでしょう? 障害はなくなりましたから、急ぎましょう」

 ミュリエルの問いをあっさりと却下し、苦笑しながら地面に降り立ったメンバーを促す
 それは、自分の力による追求から、逃れようとしているようで。
 彼が目的地へ走り出してしまったので、追いかけざるを得なくなってしまっていた。
 確かに、今自分たちには時間がないから。
 だからこそ、一同は敵のいなくなった大地を蹴りだしたのだった。



 目的地は……もう、目の前。






絶風開放。
やっと、設定にも(反転して)書いたスキルをここで使わせることができました。
もともとネタバレというのは1連載での内容が多かったため。
だから絶風の力をしっかり明確にする前に、こちらで出すわけには行かなかった、
というのがこのスキルを隠しにした理由です。

さて、このまま一行はガルガンチュワへ突入することになります。
せっかく合流するも、ここで一時的にまたパーティから外すつもりです。
っていうか、少々オリジナル要素が入ります。

どういう形になるのかは、次回をお待ちくださいな。


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