道なりに進んでいくと、黄金に包まれた遺跡が眼前に飛び込んできていた。
 柱には豪華な装飾が施され、鍾乳洞の奥には地底湖が広がっている。
 湿っぽい匂いはそのままだが、そこが遺跡の深部であることが理解できていた。
 しかし、そこからいくら歩いても先がまったく見えてこない。
 さらなる奥へ進むための洞窟すら見えてこず、補充したはずの体力も徐々に削られていった。

「なんか……変だぞ?」
「どうした?」

 先刻も、同じような場所を通った記憶がある。
 まったく同じ形状の建物が続いたため感覚が狂っているのか、そうなるように魔法をかけられているのか。
 どちらにしても……

「とりあえず、アレをなんとかしねえとダメみたいだな」
「またアンデッドかよっ! しかもなんて数だよっ!?」

 すでに一個師団に近かった。
 それだけ多い、幽霊やアンデッドのモンスター。

『返セエェェェ〜〜〜〜』
『オレノ……体ヲ返セエェェェ〜〜〜』
『アタシノ……カラダヲカエシテェェェ…………』

 モンスターたちがうなり声を上げる。
 その声はまるで生きている者……自分たちへの呪詛のよう。
 武者震いか恐怖かはわからないが、膝が笑っていた。
 でも。

「……俺が切り開く。その隙に2人は先へ」
「大河!?」
「いくらトレイターがあるとはいえ、この数を1人で相手にするのは無理だ!」

 そうまくし立てる2人に顔を向けると、にかと笑う。
 コレくらい切り抜けられないで、救世主になれるわけないでしょ、と。
 そう口にしたときだった。

『ヒイィィィ〜〜〜』
『ウアアアァァァ〜〜〜』
『キャアアァァァァ〜〜〜〜』

 幽霊たちが一斉に騒ぎ始めていた。
 その声は、今までのような恐怖心を煽るようなこえではなく、ただただその言葉に恐怖しているようにも見える。
 その言葉とは……



Duel Savior -Outsider-     Act.63



『キ、救世主ウゥゥゥ〜〜〜』
『救世主ガクルウゥゥッ!!』

 救世主、という単語だった。
 他の世界では特に気にならない言葉でも、この世界では絶大な影響力をもつたった3文字。
 人々を救うはずの救世主に、幽霊たちは怯えているのだ。

「こいつら……俺たちの言葉が聞こえるのか?」
「そうだよ……大河が、救世主がお前らの苦しみを救ってくれる……だから……」

 剣を携えたまま近づき、セルは叫ぶ。

「行かせてくれっ!!」

 救世主はきっと自分たちを救って、破滅を打ち倒して、世界を平和にしてくれる。
 そう信じていたからこそ、出てきた主張だった。
 もちろん、セル自身も救世主伝説を信じていた。
 『アヴァターに迫る破滅を打ち倒し、世界を救ってくれる』という、時間によって捻じ曲げられた伝説を。

『…………』

 セルの言葉に黙り込んだ幽霊たち。
 彼の目に希望が浮かんだ、そのときだった。

『キイィィィ――――ッ!!』
『救世主ガアァァッ!』
『救世主グアアァァァァッ』

 そんな希望は、見事に打ち砕かれていた。

『オノレエェェ……救世主ゥゥゥ……ヨクモ我々ヲ謀ッタナアアァァァ!!』
『祟リ殺シテクレルゥゥゥ』

 声を上げ、幽霊たちは明らかに憤慨していた。
 信じていたはずの救世主を、殺したいと強く憎むほどに。
 生前、一体なにが起こったのだろう?
 そう考えずにはいられないが。

「セル……退けっ」
「なんだってんだよ、一体!?」

 そんな叫びとは裏腹に、一斉に襲い掛かってくるモンスターの軍団。
 その光景に歯噛み、大河はトレイターを握りしめた。

「当真君っ!!」

 声を上げたのは、ダウニーだった。
 一目散に駆け抜け、2人の前へ踊り出ると。

「……ぐっ」

 突然現れた幽霊の一撃を、モロに喰らってしまっていた。

「ダウニー先生っ!」
「大丈夫……ですね。私は教師です。生徒を守るのは当然の義務でしょう」

 そう口にしたときだった。

「……く、……しく……しく……」

 すすり泣いている、少女の幽霊だった。
 銀髪に翡翠の瞳の少女。身体は透けており、奥の柱が見えている。

「……どうして?」

 幽霊なのだが、まるで普通の人と話をしているように、その声がはっきりと聞こえてくる。
 瞳に涙をいっぱい溜め込んで、それでも溢れて頬を伝っている。

「え?」
「どうして、あたしたちを殺すの?」

 なんのことだか、さっぱり分からなかった。
 自分たちはただ、鎧を破壊しに来ただけなのだから。

「人違いだ。俺たちは君を殺しに来たわけじゃない」
「……どうして救世主は、お父さんやお母さんを殺すの?」
「!?」

 衝撃だった。
 救世主は万物を救う存在だと、聞いていたから。
 殺すのは『破滅』なのではないかと、ただの聞き違いなのではないかと耳を疑ったのだが。

「どうして救世主は……世界を滅ぼそうとするの?」
「っ!?」
「みんなが悪いことをしたから罰を下すの?」
「お、おい……」
「私が悪い子だから、その剣を振り下ろすの?」

 違う、違う、違うっ!!
 ここは、恨みの思念が蔓延する危険な遺跡。
 この子も思念が積み重なって具現化しただけ……のはずなのに。

 なんで、こんなにも具体的なんだろう?

「いや、やめて……怖い……助けてぇ……」

 瞳が、自分たちを見て……大河を見て、怯え、父や母を呼び叫ぶ。
 頭を両手で包み、狂ったように振り乱す。

「いやあぁぁ――ッ!!」

 絶叫と共に、アンデッドたちの集団に混ざりこんでいく。
 助けて、殺さないでと口々に言い並べ、アンデッドたちは徐々に迫ってくる。

「にしても、この数。先に私たちが死者の仲間入りをすることになりそうですね……」

 そう言いつつ、アンデッドをセルと共に牽制するダウニー。
 冷や汗が流れていて、今の自分たちの状況を物語っているようだった。
 なにか、策を考えねばならないだろう。

「……そうだ! あれが……聖水があったぜ!」
「聖水?」

 学園長から餞別にもらった、ガラス瓶に入れられた透明の液体。
 王都の大聖堂で得別に聖別してもらったという、いかにも効果ありげな液体だった。
 身体にかけて使えと、念を押されたが。

「……そんなんがあるなら、早く使ってくれよっ!」

 気づくのが遅い、といわんばかりにあきれたようにセルは口にする。
 それをど忘れしてた、の一言で済ませて、蓋に手をかける。

「んじゃ、早速使わせてもらうぜっ! 確か自分にかけるんだったな」

 ふぬ、と蓋を開けようと力を込める。
 ……が、なかなか開かない。

「自分にかける……聖水? あり得ない……っ!! 待て、当真君!!」

 ダウニーは何か確信したのか、声を上げた。
 それを横目に大河は蓋を開ける手を緩めず、きゅぽ、という音と共に蓋をやっとこさ開けた。

「自分の身に振りかけて使う聖水なぞ、ないっ!」
「へっ!」
「貸したまえっ」

 険しい表情のダウニーが、大河の手から聖水の入った瓶をむしりとるように取ると、中を確認して驚愕へとその表情を変えた。

「一体なんだってんですっ?」
「……見なさい」

 ダウニーは自身の服の袖を引きちぎり、それに向けて瓶を傾ける。
 中から聖水が一滴たらすと、その布は……

「あぁっ!?」

 シュウシュウと音を立てて、見る見るうちに灰褐色の石に変わっていった。
 完全に石になってしまった服の袖を放る。

「これは石化の呪薬です……ミュリエル、まさかここまでやるとは……」
「ダウニー先生……今なんて?」
「説明しているヒマはありません! 今はとにかく戦って、切り抜けなくてはっ!!」

 ダウニーは魔術の詠唱を唱え始めたのだった。



 …………



 ……



 …




 ゴーレムを砕き、魔術師モンスターを切り裂いて、骸骨モンスターをバラバラにする。
 大河とセルで前衛を守り、ダウニーが魔術を行使するという息の合った連携で、なんとかモンスターの大群を退けていた。
 幽霊たちは消え、バラバラになってしまったモンスターたちから離れて、大河はダウニーに詰め寄っていた。
 信頼していた学園長が、自分を石にしようとしていたということが、信じられなかったのだから。

「あの聖水は、石化の呪薬でした。学園長の陰謀を証拠付けるものですね」
「陰謀って……おいっ!」
「何がどうなってるんだよっ!?」

 もはや、なにがなんだか分からなかった。
 鎧破壊のために出向いてきたはずなのに、味方であるはずの学園長になぜ命を狙われなければならないというのだろう?

「聞きたいですか?」
「……聞かせてもらいたいですっ!」

 是非、と大河はダウニーを見つめた。

「ミュリエル・シアフィールドは……」
「…………」
「救世主の誕生を、恐れている」



 ……



 ダウニーの話は、とても信じられないものばかりだった。
 すべてを救うはずの救世主の誕生を恐れ、それにもっとも近い大河を殺そうとしているなんて。
 最初に鎧破壊の任を受けたのはだというのに、まるで拒否することをわかっていたみたいに石化の呪薬の入った瓶を用意したりして。
 彼女はもしかしたら、セルの言っていた召喚器が使用者に及ぼす悪影響というものを知っていたのかもしれないとも、口にしていた。
 使うたびに使用者の身体を消そうとする召喚器。
 リコやリリィが図書館のどこを調べても、どこにも載っていなかったという代物。
 なぜ、それを彼女が知っているのだろう?

「信じられませんか?」
「……ああ、信じられない」

 ダウニーは、「そうでしょうね」と口にして、苦笑する。
 いきなり信じていたものすべてを覆すようなことを言われて、信じろというのも無理な話だ。
 だからこそ。

「おそらくもうすぐ、目的地でしょう。そこで詳細をお話しましょう」
「…………」
「私が知る全てを。救世主とその全てを……ね」

 そう口にすると、ダウニーは外套を翻して奥への道を進んでいったのだった。




 …………



 ……



 …




「これが……」

 荘厳な雰囲気が漂っていた。
 黄金で包まれた巨大な祭壇の上に安置されている、これまた黄金の鎧。
 鎧という割には普通の人では着ることなどできないほどに巨大で、どうやって着るんだろうかと思ってみたりもする。
 さらに目を引いたのは、胸部分に肋骨のような凹凸が浮き出ていたことだった。
 すこしでも近づけば、それが開いて取り込まれてしまうんじゃなかろうかと、背筋を怖気が走り抜ける。

「これが……救世主の鎧?」

 感じるのは、とても名前の通りとは思えない禍々しいオーラ。
 遺跡を包む空気よりも、よっぽどよろしくないものだと直感的に思う。
 鎧を戒めるための鎖や、近づくことを許さない柵もない。
 ……今にも動き出しそうな雰囲気を醸し出していた。

「正確には……救世主になれなかった者たちの鎧」

 ダウニーが呟きながら一歩を踏み出す。
 まるで授業をしているような、そんな感じの歩き方だ。
 教科書を片手に歩いていれば、完璧だろう。

「当真君、先ほど言いましたね? 全てを話すと」
「あ、ああ……」
「その前に……」

 ダウニーは頭を振った。
 普段の彼とは思えないほどに低い声色で、

「姿を現しなさい、『破滅の将』たちよ」

 告げた。
 すると、物陰から現れた5つの影。
 それは。

「久しぶりね、赤の主」

 イムニティ。

「また会えたな、小僧」

 ムドウ。

「……命長らえていたようですね」

 シェザル。

「ふふっ、この前の借りを返させてもらうわね」

 ロベリア。

「……他愛もない。これほど簡単にかかってくれるとは」

 さすが教師をやっていただけのことはあるな、主幹?

 そして、オルドレイク。
 破滅の将たちが今、大河とセルの前に肩を並べていたのだった。

「主幹、て……ダウニー先生、まさかっ!?」
「察しがいいですね、当真君」

 破滅の将と向かい合っていたダウニーが、無防備なまま踵を返して向き直る。
 笑みを浮かべると、



「私が破滅の将を束ねる主幹、ダウニー・リード」



 彼自身の口で、彼自身の本名を告げた。








完全に原作そのままです(核爆)。
だって、夢主いないから、こうなっちゃうのはしょうがないと思いますっ!!
うわああぁぁぁんっ!!(泣)


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