ネスティに散々バカにされ、貶められたあと。
 激しく切れていた息を整えることができていた。
 の持つ最大にして最強の殲滅剣技『天牙穿衝』による息切れだ。

「で、アンタはコイツに喚ばれて『リィンバウム』から来たままってワケなのね」
「……そういうことになるな」

 魔力が切れれば送還されるはずのネスティだったのだが、なぜかまだこうしてここ、アヴァターの王都郊外にいたりする。
 彼自身によって地べたに正座させられたままのは放っておかれているためなのか、なぜか身体をプルプルと震わせている。
 今まで襲ってきていた敵とは一通り戦った後、なぜか。
 まるでタイミングをはかっているかのように一気に撤退していってしまったのだが。

「なるほど、その『破滅』とやらに君たちが負けてしまうと、僕たちの世界にまで影響が及ぶのか……」

 ふむ、とあごに手を当て、なにかを考えるように小さくうなったネスティは、大きくため息を吐いた。

「……で、がここにいるということは、君はまた巻き込まれたのか」
「巻き……込まれた?」

 リコがきょとん、とした表情でネスティを見やる。
 そんな視線を感じながらもぎろり、とを睨みつける。
 視線こそ刺々しいものの、どこか諦めすら感じられていた。

「この男は、天性の巻き込まれ体質なんだ」
「は……」

 あまりに、突拍子もない、ネスティの発言だった。



Duel Savior -Outsider-     Act.60



「……バカ?」
「ぐぐ……」

 ネスティの話を真に受けて、リリィはどこか呆れたような視線をに向けた。
 今までの経験に至る経緯や、行ってきた行動。
 さらには取ってきた行動による結果まで、ネスティはすべてを救世主候補たちにぶちまけていた。
 仲間のためなら自身の命を二の次に考えてしまう彼の思考や、リィンバウムにおける彼の立場。
 所業を網羅した上で、リリィは一言、彼に告げていた。

「なんていうか……」
「なかなかに波乱万丈……でござるな」
「天性のものだから仕方ないのかもしれないが、巻き込むことだけは遠慮して欲しいものだ」
「むぐぐ……」

 返す言葉もないとは、このことである。
 仲間の海賊たちがのまん真ん中で立ち往生しているということで意気揚々と出かけたはずなのだが、嵐に遭って気づけば向こう岸。
 しかも、それがどこなのか方向音痴な上に地図すらないためわからず。
 ある意味被害者なのだが、ネスティの中には彼が『被害者』であるとは認識されていなかった。

「ネスティ……さんは、身体は平気なんですか?」

 そんな未亜の問いに、ああ、と思い出したかのように口にするネスティ。
 彼は、高位の召喚術を3体も出現させて敵を殲滅したのだ。
 とても普通の人間にできることはないのだが、彼自身大きな戦いに参加してその能力を底上げされている。
 だからこそ……

「問題ない。すまないな、気遣ってもらって」

 そう口にした。


 ……


「でも、アレをまた使ってもらえば、レベリオンなんて必要ないんじゃないの?」
「レベリオン?」

 聞きなれない単語に、ネスティはそんな声をあげていた。
 元々、作戦としては破滅の軍勢を王都に入れないように戦い、レベリオンのエネルギーチャージが終わり次第発動、殲滅というシナリオだったのだ。
 しかし、とネスティの活躍で現状の敵の半分を殲滅。
 さらに第2波をしのいで、敵は撤退。
 レベリオンを使わずして、敵戦力の大半を削り取ったのは事実だった。

 ヴァルハラ、機竜ゼルゼノン、ヘキサアームズの3点セットで、その威力は申し分ないのだが。

「すまないが、すでに魔力は空に近くて、これ以上の召喚術の行使は僕が保たない」

 大きな力ほど発動できる回数も少なく、代償も大きい。
 それはレベリオンも同様だった。
 山の形をも変えてしまう兵器でさえ、王都全体のマナをすべて搾取してやっと発動できる代物なのだ。

「やはり、レベリオンの助けは必要なようですね……」

 そうリコが呟いた。
 ネスティもも巨大な力の行使によって余力もない。
 数で圧倒的に劣っている王国軍が戦ってこれたのも、彼らの功績といっても過言ではないだろう。
 しかし、撤退している敵に対し反攻に出る余力を救世主候補たちは持ち合わせておらず、休むことに徹することができて正直助かっている、という状況なのだ。

「あと、半日持ちこたえれば……いいのよね」
「王宮から、合図があるはずです」
「目がグルグルですのぉ〜」
「王都の城壁まで下がって、味方の態勢が立ち直るのを待ちましょう」

 周囲を見回したリリィはそう告げた。
 王国軍はすでに城壁によるべく、撤退を始めていたから。

「ほら。アンタも来なさい」
「あ、あぁ……」

 のそのそと気だるげに立ち上がる。
 身体中のエネルギーを持っていかれているためか、立ち上がり歩くのがやっとだった。

「なんにしても、一息つけるわね。みんな、今のうちに怪我の治療を……」

 そうベリオが口にした、そのときだった。



「!?」

 轟音を上げて、地面が揺れていた。
 大地の下から、何かに押し上げられているような、大きな縦揺れ。

「大きいわよっ! みんな伏せてっ」
「ネスティっ!!」

 リリィとの声が重なり、全員が地面に伏せ、光を纏ったネスティを見やった。
 真白い光に包まれ、足元から次第にその身体が薄まって消えていく。

「送還されるだけだ、心配ない」

 そう口にしたネスティは、安堵したかのような笑みを浮かべた。
 自分がいても足手まとい。なら、いないほうがいい。
 実に合理的な考え方だが、実に機界ロレイラルの融機人らしい考えだ。


「?」

 ネスティは消え行く身体を気にもとめず、真っ直ぐにを見据える。
 彼らしい真剣な表情に、身体が強張ってしまう。
 無言のプレッシャーに近い、重たい雰囲気を放った彼は、

「君は、僕たちリィンバウムの住人の代表だ……君の肩に、リィンバウムの全てがかかっている」

 破滅に負ければ、リィンバウムもまとめて消える。
 抗おうにも、それすらできない。
 だからこそ仲間として、リィンバウムに住まう1人の生き物として。

「絶対に……負けるな」
「ああ、もちろんだ」

 その答えを聞いたネスティは満足そうな笑みを浮かべると、右手に拳を作ってぐっと前方に突き出す。
 「がんばれ」という想いを込めて。
 彼は、リィンバウムへと送還されていった。

 そして、もう1人。

「……あ」

 激しい振動の中、リコは地面に身を伏せるでもなく、中空を見上げて小さく呟いていた。

「マ……マスター……」

 表情には悲しみの色が浮かび、その場を動かない。
 地面の揺れに巻き込まれているかのように、彼女自身の身体も地面と共にぐらぐらと揺れていた。
 それは、まるで彫像のようで。

「リコ……どうしたの?」
「うああっ……」

 さらに、未亜は両手で頭を抑え、うずくまってしまっていた。

「未亜、どうしたの……未亜っ!」

 リリィの呼びかけが聞こえていないかのように身体を震わせて、うずくまったまま動かない。

「痛いっ……頭が、割れるように……ッ」

 そのまま、激しい苦痛に表情を歪ませて。

「未亜っ……ねえ未亜っ!」

 地面に崩れ落ち、意識を失った。

「うわあっ! リコ殿がっ」
「まさか……」

 カエデの指差した先。
 次第にその輪郭を薄れさせ、空気に溶け込んでしまうかのように消えていくリコの姿があった。
 赤の精であるリコが消える。
 つまり、それは彼女の役目が終わったか、彼女の主になんらかのトラブルが起きたか。

「き、消えていく……逆召喚?」

 リィンバウムの送還の光とは違う、強烈な光が発せられ、リコの姿は忽然と消えてしまっていた。
 魔法の類じゃない、とリリィは声をあげる。
 さらに、その次の瞬間には、全員が驚きの声をあげることとなっていた。

「ライテウスが……消えていくっ!?」
「ああ、黒曜がっ!」

 リリィとカエデの手から召喚器……ライテウスと黒曜が、リコの放っていた光と同じような光を発し、消えていく。
 ベリオのユーフォニアや、未亜が取り落としたジャスティも。
 そして。

「サバイバーまで……」

 の左手に装備されていた篭手型の召喚器サバイバーも、その姿を消していって。
 地平線の彼方に、巨大な質量が浮かび上がり始めていた。
 主を得たその巨大な質量……建造物が、ゆっくりと。まるで地平線から朝日が上っていくようにゆっくりと浮上していく。
 視界のすべてを覆うほどに巨大な、黒き城塞。
 千年という、長い眠りから目覚めた城の名前は……



 …………




「鎧の封が破れし今、このガルガンチュワを縛り付けるものは、何もない」

 移動要塞ガルガンチュワ。
 その中心にある玉座の間で、黄金の鎧が中央のイスに腰掛け、うつむいている。
 部屋全体が振動で小刻みに揺れ動き、その場に存在している数人の人間たちが浮遊感を感じ取っていた。

「本当に……飛びやがるぜ、このデカブツ」
「戒めを解かれ、大空へ向かって飛翔する……なんとも夢があってよろしいですね」
「行き着く先は破滅……多くの夢見る者にとっては悪夢かもしれないがな」

 ムドウ、シェザル、ロベリア。
 破滅軍の中枢となる、破滅の将たちだ。
 それに加えて、長身痩躯の男性の姿が1人、将たちと向かい合っている。

「それで……『救世主』はどうしている?」
「神の座に安置してあります」
「へっ、アレが救世主……ねぇ?」

 ムドウが鼻を鳴らし、見やった先。
 広間の一段と高く作られた祭壇の上に位置する玉座に座する、黄金の鎧。
 それはうつむいたまま、動くことなく鎮座していた。

「『その時』が来るまでに、いらぬ邪魔が入るとやっかいだ」

 ロベリアがそう口にした、そのときだった。

「主幹。主砲の準備が整った……いかがする?」
「よし……王家の魔導兵器……起動する前に潰しておくとしようか」

 低く、太い声にうなずいた男性が、そう口にした。
 微笑と共に発された声は、温和で優しげ。
 しかし、放った言葉は『破滅』をもとめる者のそれだった。

「目標、王都アーグ」

 シェザルの声に呼応するかのように、部屋全体が淡い光を帯びる。
 タイルとタイルの隙間にはカラフルな光がその中心に向かって流れつづけている。

「……ガルガンチュワ、発進」

 中空に浮かび上がった巨大な移動要塞『ガルガンチュワ』は、その進路をゆっくりと王都へ向けたのだった。



 ……


 …



「なんだ……アレは?」

 は浮上した質量に対し、誰にともなくそう言葉を紡いでいた。
 巨大な航空機の上に城のような建物が見て取れる。
 その様相はまるで、空飛ぶ城だった。
 敵か味方かで答えるなら、間違いなく敵だと誰もが答えるだろう。
 このような兵器があるのなら、いち早く救世主クラス全員に知らされるはずから。
 その彼女たちが知らないということは、間違いなくアレは敵だということになる。

「破滅の軍勢でも、もう手一杯だっていうのに……」

 破滅の軍勢との戦いで負傷者も多く、救世主クラスのメンバーも疲弊している。
 特には、己が内にあるエネルギーをほぼ全部使って戦って、今さっきまで休んでいたのだ。

「あ、未亜さん……大丈夫?」
「わたし……気を失ってたの?」

 焦点の合わない瞳を動かし、未亜はベリオを視界に納めて、さらに視線を空に向けた。
 目の前に浮かぶ質量に驚き、声をあげた。
 地平線の遥か向こうにあるはずなのに、それでも巨大に見える城塞。
 それに、未亜は動揺を隠せずにいた。

「リコが……リコさんが、いないよ?」
「いきなり消えたの……みんなの召喚器と一緒にね」
「ユーフォニアも、カエデさんの黒曜も。君のサバイバーも一緒よ」

 手元にジャスティが周囲にないのを確認し、未亜とベリオは唇をかみ締めた。
 救世主候補は、召喚器を以って奇跡を起こす。
 召喚器のない彼女たちは、戦う術を完全に失ってしまっていた。
 そんな中で唯一戦うことができるのが、篭手の召喚器を持っていただけ。
 しかし彼は彼で、先刻の戦闘で力を出し切ってしまい、全力で戦うことはできない。
 今、破滅軍に攻め込まれたら、自分たちは無力だった。

「あ……」

 水晶球から浮かび上がった学園長に向けて、リリィが話し掛けようとしていたのだが。
 ナナシは顔から表情を消して、何かに気づいたかのように空を――黒い城塞を見上げた。

「……ナナシさん、どうしたの?」
「ナナシ?」

 そんな未亜との問いかけに、彼女は応じない。
 普段の突き抜けたポジティブさはどこへやら。
 放心しきったような顔で、城塞だけを真っ直ぐに見つけていた。

「……ダメですの。それを使っちゃ……いけないですの」

 彼女がそう口にした瞬間。

「うあっ!?」

 地平線が眩い光に包まれ、轟音が一同の耳を貫いた。
 黒い要塞の先から発されるのは反対色である真っ白な光の帯。
 それは瞬く間に頭上を通り越し、一直線に王都へ吸い込まれていく。
 そして完全に光が吸い込まれ、消えた瞬間。

『!?』

 爆音、破砕音、轟音。そして、凄まじい衝撃。
 そのすべてが、王都から発された。
 目蓋を開けられないほどに強い光の中、地面が抉れ、木々が吹き飛び、撤退していた兵士たちが一瞬にしてかき消されていく。
 世界全体が揺れ動いているかのような強い衝撃が一同を襲い、周囲に砂埃を吹き上げた。

 吹き荒れていた砂塵が吹き荒れた烈風により晴れていく。
 咳き込みながらも薄く開けた目を動かし、周囲を見回したのだが。

「……なんだよ、これ……」
「ッ!」
「どうしたの、ベリオ……?」

 何もなかった。
 王都があった場所には黒煙が立ち上り地面は焼け爛(ただ)れ、所々が抉られている。
 そびえたっていた城も、見上げてしまうほどの大きな城門も、たくさんの建物も。

「なんなんだよ……」

 そして、撤退をしていたはずの王国軍の兵士たちも。

「王都が……街が……」
「な、なくなっちゃったですの……」

 ナナシが目を丸めて、誰もが口にしなかったその言葉を……口にした。







ネス送還。
そして、救世主候補たちの最後の戦いの場となる、移動城塞ガルガンチュワも登場。
物語も、佳境へと突入を始めました。
大河がどうなっていくのか、夢主の行動は!?
そしてゾンビと認知されていたナナシの正体が明らかに!!


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