『かんぱ〜い!!』
という元気な声と共に始まった壮行会だったわけだが……最初に飲んだ飲み物がお酒というぶっ飛びっぷりだ。
ちなみに、今食堂に集まっているのは一部を除いて全員がまだ10代。本来なら酒は違法である。
もっとも、それは日本でのみ適用されるのだが。
飲み物係だったカエデは、満面の笑みを浮かべると、
「あはは〜、地下の食料庫から一番高そうなものをかっぱらってきたでござるよー」
なんて口にした。
つまり、許可も得ずに勝手に持ってきたのだ。
「しかし、酒ってのはさすがにマズくないか?」
「そ、そうですっ! ましてや、黙って盗んでくるなど言語どうだ……」
「まぁ、俺は別にいいけど。結構うまいし」
ベリオの叫び声とも取れる主張は、の一言であっさり陥落していた。
っていうか、すでには数本の瓶の内の1本を空けてしまっている。
いつの間に、と考えたのはみな同じだったのだが、それ以上に。
「今日は無礼講ってことでいいじゃないか。せっかくの壮行会なんだからさ」
まったく酔っているように見えないのが不思議だった。
Duel Savior -Outsider- Act.56
ベリオの誠実っぷりは、
「ベリオ殿は幽霊だけではなく、酒も苦手であったでござるな?」
そうカエデが口にしたことであっさり砕け散っていた。
「もーいいですっ!」なんて言ってコップになみなみと注がれた酒を一気飲みする彼女を見つつ、悪いことしたかなぁ、なんて思う。
すでに、顔は真っ赤。結構酔いやすいタイプなのだろう。
なんだかんだ言って、結局みんなして飲みまくってしまっていた。
リコはコップ1口であっという間に陥落し、今は大河にしなだれかかっている。
カエデとベリオはしゃっくりしつつ大声で笑いあっている。
その後、2人が大河に寄りかかったことで驚きの声を上げているのが未亜。
そして、モラルに反する! とかで鼻息荒くしているのがリリィである。
「ちょっと、お兄ちゃんっ…」
「うわ、待てっ! 酔っ払いの所業は、俺には止めようが……」
「そう、そうなんだ……相手が酔っ払いなら何をしても許すんだ……」
「は? おい、ちょっと……未亜さん?」
気づけば、未亜は瓶ごとラッパ飲みしていた。
あれでは、ヘタしたら急性アルコール中毒になりかねない…………もっとも、この世界の酒にアルコールが使われているのかは定かではないのだが。
「未亜っ、お前ッ……!? お兄ちゃんはお前をそんな娘に育てた覚えは…!」
そう声を上げている大河だったが、背後からナナシに飛びつかれて、身動きが取れない状態にまで陥っていた。
「……げっ、温かいって? ナナ子お前、まさか発酵してんじゃねえかっ!?」
「てへっ、ナナシも酔っ払って、肌が火照っちゃってますのぉ」
「火照るためには血管が……とにかく、屍体じゃありえな〜いっ!!」
「う〜ん、酔っ払いに理屈は通じないですのぉ〜〜〜っ!」
ナナシを振り落とそうともがく大河だったが、それは酔っ払いの前では意味をなさない……酔っ払い最強説が浮上した。
「バカ大河っ! あんた、私の愛する救世主候補クラスを、いったいどうするつもりなのよぉ〜〜っ!!」
リリィは目の前の光景を嘆き、怒りの視線を大河に向ける。
すでに手にはパチパチと爆ぜる光球が生成されていて、いつ発動されてもおかしくない状況だったのだが。
「待てリリィ、電撃は無しっ! 今攻撃すれば、お前の愛する級友たちが巻き添えに……っ!」
「くっ、人質とは卑怯な…っ!」
人質ではなく、逆に大河が捕らわれてしまっているわけですが。
そこはリリィにとってどうでもいいことなのである。
「リリィ、踊るアホウに見るアホウ。踊った者の勝ちですよ?」
「なッ……!?」
なんともベリオらしからぬお言葉。
「そうそう。リリィ殿も、素直になればいいでござるよ…?」
「くすっ……マスターの膝枕は温かいですよ?」
「……」
リリィはヤケになったのか、「もうやってられないっ!」と叫びながら両手に1本ずつ瓶を持ち、そのまま口に流し込んだ。
「おおおおい待て! ここでお前まで理性なくしちゃったら、いったいっ……!?」
「バカ大河っ! あんたのせいで飲まざるを得ないんだから、ちゃんと責任は取りなさいよ!!」
つまり、これから何が起こってもすべての責任は大河が負う、ということなのだろう。
大河の顔を、つつつ、と冷や汗がにじみ出る。
もはや、彼女たちを止める者は誰もいなかった……と思いきや。
……まだいるじゃないか! こいつらを止める最強のストッパーがっ!!
一抹の希望をもって、その最終兵器を見やる。
彼は、机に5本の空き瓶を乗っけているにもかかわらず、まったくシラフの状態で自分を見て嬉しそうに笑っていた。
は目の前に広がっている光景を眺めながらちびりちびりと酒を喉に通していた。
すでに目の前の机に空の瓶が5本並んでいる。
つまり、今いるメンバーの中で一番多く飲んでいるというのに、まったく酔っているそぶりを見せていないのだ。
「、お前酔ってないよなっ……助けてくれっ!」
一抹の希望をも含んだ視線。
しかし、
「何言ってんだ。たくさんの女の子に言い寄られて、嬉しいくせに…………よかったな、ハーレム万歳♪」
「ばっか、この状態見てハーレム万歳じゃねーだろ! こいつらは酔っ払いなんだぜ!?」
「それでも今、目の前にいるのは君の大好きな女の子。当初の願いが叶っちゃったじゃないか。それなのに、君は俺に助けを求めるのか?」
「そりゃ、ハーレム万歳はある! 女の子だって大好きだ! でもな、ちょっとおかしいだろ、この状態はぁ!!」
「まぁ、みんなして酒飲んでる状態なわけだから、おかしいのも分かるけど……」
そんなの口調に、大河の表情に光が差し込む。
助けてくれるのか!? と、そんな期待のこもった視線がに送られてきたのだが。
「……残念。もう手遅れだ」
の呟きと同時に、
「ぷはっ、お兄ちゃ〜ん、私……酔っ払っちゃったぁ〜」
「ちょっとあんたら、私にも場所を空けなさいよぉ〜っ!!」
大量の酒を胃に流し込んだ2人が、瓶を投げ飛ばしながら酔っ払いの狂宴に参戦していた。
史上最強の救世主候補6人娘が、大河の周囲で押しくら饅頭。
本来なら喜びたいこの状況。しかし……どこかおかしいのは目に見えてる。
「悪いな大河。俺、邪魔しないから。とっとと退散させてもらいます……では、アディオスっ!」
「うぉいっ! ちょっと待たんかいっ!!!」
しゅた、と大河に手のひらを見せ挨拶すると、はここぞとばかりに置かれていた酒を数本手にとって、つかつかと食堂を出ていってしまった。
……ああ。
これで何もかもが終わってしまった。
あと大河にできることは、ことが早期沈静化することを願うだけだった。
…………
……
…
「くあぁ〜〜……」
中庭で大口開けて、あくびを1つ。
右手の各指に挟まっている酒瓶は全部で3本。さらに左手にも3本。
計6本の大盤振る舞いである。
空を見上げれば、そこにあ真白く輝く月が顔を出し、学園全体を照らし出している。
学園長が手塩にかけて育てているという花壇の脇に腰を落ち着かせると、瓶を1本手に取り蓋を開ける。
「……みんなの無事を祈って」
瓶を持った右手を、月に向けて掲げる。
彼なりの、仲間たちへの応援のつもりだった。
面と向かって言えないのは、今の食堂が色々とスゴイことになっているだろうから。
ことが沈静化すれば、大河はここに来るだろう。
鎧破壊の任を代わってもらうかわりに、彼が提案したこと。
あとで付き合ってくれれば、とは言っていたが、おそらくここを通るはず。
それを待つことにした。
「あれ? じゃないか」
「おお、セルか。どうだ、一緒に」
封を切っていない瓶を手に取ると、差し出す。
彼はにか、と笑うと、の横にどっかと腰を下ろした。
「大河はどうしたんだ?」
「向こうでみんなと仲良くやってる。まぁ、もうすぐくるとは思うけどな」
「そか。ほれ、乾杯しようぜ」
かつん、と瓶同士を軽くぶつけ合った。
セルとはあまり交流がなかったのだが、こうして酒に付き合ってくれている。
イイヤツだ、と内心で思った。
「そういや、明日単独行動するんだったよな、大河の奴」
「俺に代わって、だけどな」
「なんでだ? あいつら、みんなしてお前が救世主クラスで最強だって言ってたんだぜ?」
は元々、魔力的な攻撃に弱かった。
だからこそ、リィンバウムに召喚されてからはすばやい動きを可能とするために脚力を主に鍛えていたのだが。
まぁ、躱しきれない魔法だってあることは、承知の上だ。
能力試験の際にリリィと戦ったときは、たまたま運が良かったとも言えた。
「へえ、お前にも弱点ってあったんだな」
「当たり前です。君は俺をなんだと……」
「まぁいーじゃねえか。こんなふうにぶっちゃけて話するのも今日だけだろ? 軽く流しとけって」
そう言ってからからと笑うセルに、思わず苦笑した。
くい、と酒をラッパ飲みし、視界に月を映す。
「俺さ」
「ん?」
セルは表情に翳りを見せて、口にした。
唐突で、脈絡もない。
何かを告げようとしているような口ぶりだった。
「俺さ、大河について行こうと思うんだよ」
彼が大河について行こうと考えた理由は、たった1つのことだった。
その願いを叶えるために、いるべき場所である王宮を抜け出してまで学園に出向いたのだ。
『大河を守ってくれ』
それが、彼の大切な人の願いだったから。
「それにさ。アイツは俺の友達で……力になってやりたいんだ」
「そうか……いいじゃん、一緒に行ってやれよ」
の答えは淡白なものだった。
それ以外にどういえばいいのか分からない、というのもあったわけだけど。
実際、彼はここぞというとき以外はあまり口を開かないタイプだったりする。それが、言葉を選ぶっていうことができない要因でもあるわけだけど。
「俺からも……頼むよ。大河を守ってやってくれ」
「……お前」
「うまく言葉にできないけど、あのクラスには大河が必要なんだ……と思う」
最近は、軽口を叩きあいながらも互いの仲はすごく良好。
リリィとは時々大きなケンカをするけど、その時間もめっきり短くなった。
すりつくナナシをたまにうっとおしそうにしているが、実際はそうでもないのかもしれない。
あの救世主候補たちには彼がいなければ、と。
そう思ってもいいくらいになった。
「大河を失ったら、きっと戦えなくなる。だからさ」
頼む。
まるで、自分が死んでしまうような言い方だ。
腰掛けたままだが、それでも深く下げる頭が、セルにはどこか小さく見えて。
「お前、バカだろ?」
「……なっ」
そう口にした。
「だってそうじゃねえか。まるで自分が死んじまうような言い方しやがって。あいつらには大河が必要? 失ったら、戦えなくなる? バカみてえ」
いきなりの怒声に近いセルの声。
思わず顔を上げてしまい、視界にセルの蔑んでいるような表情が映し出される。
「お前がそんな弱腰でどーすんだよ。お前だって仲間なんだろうが!!」
「そりゃあ……」
「確かに、今の救世主クラスには……っ、アイツがいなきゃダメなんだろうけどよ」
セルの言動の切れが悪くなる。
アレほどまでに好意を見せていたにもかかわらず、彼の思い人は今は大河のところにいる。
その部分も含めて、の言動は守りたい人々を死ぬことで投げ出そうとしているように聞こえたのだ。
「自分がこれからいなくなっちまうような言い方すんじゃねえよ」
「いなくなるんだよ」
「はぁ? お前何言って……」
「まだ、確証はない。でも……近いうちに俺はきっとこの世界から『いなくなる』」
そう口にしたの目は、真っ直ぐにセル向かっていた。
これから来るだろう困難に、必死にあがこうとしている強い視線。
敵将の中に、以前が戦ったことのあった人間がいるということは知っていたが、まさかソイツと刺し違える気なのかとも思えたが……
「もちろん、俺だって死にたくない。みんなで戦って、勝利を治めたいさ」
拳を握り、視線を落とす。
「でも、俺はきっと最後までいられない。これは事実だ」
さっき、会議室にいたんだろ?
そう尋ねて、うなずかれたところで自分が任務を拒否したことや身体に異常をきたしていることを改めて口にした。
異常があるからこそ、彼は大河と任務を交代したのだから、腰抜けというよりは勇気ある撤退といったところだろう。
「最近な、召喚器を使うたびに身体の一部が消えかけるんだよ」
「な……」
それは、驚愕と言ってもよかった。
使うたびに身体の一部を消してしまう召喚器なんて、聞いたこともなかったから。
召喚器の能力ゆえか、召喚器自体の特性ゆえか。
検証のしようがないので、不明としかいえないわけだけど。
「最近じゃ、もう左手から肩の部分まで侵食してる」
左手を握って、開く。
どこも異常など見えないようだが、それは召喚器がないからだろう。
「だから、ここで大河と別れてしまえば、ほぼ確実に最後まで会えないままになると思う……もちろん、そうならないように保険はかけておくつもりだけど」
が『召喚獣』であることを逆手に取った、保険というよりは大博打。
もっとも、それは大河が出発する寸前にかけるつもりなので、この場ではあえて口にはしなかった。
「だったら、お前も一緒に行けば……」
「それができればやってるさ。でも、人員をそこまで割けないって話だし、俺としても、大群を相手にしたほうが効率がいい」
彼の持ちうる剣技の中で、最も威力の高い奥義。
父から教わった、彼の秘密兵器だ。
リィンバウムで起こった傀儡戦争でも、彼はこの技をを用いて数多くの敵を殲滅したことがあった。
時間もあまり持たず、使えば一気に疲れきってしまう諸刃の技だが、ここぞというときに使えねば意味はない。
だからこそ、明日……10万という敵の大群に対し、打って出るのだ。
「……しょーがねえな。未亜さんにも言われたことだからそれはいいけどよ。お前、1つだけ間違ってるぜ」
「は?」
それは、の背後。
気配すらも消して巧妙に隠れてはいるが、たまにちょこちょこと顔をのぞかせていたため、セルからはモロバレだったのだ。
「さっき、お前は『あのクラスには大河が必要だ』って言ってただろ? 必要なのは、あいつだけじゃねえってことだよ」
後ろ見てみ。
そう告げたかのようにあごをしゃくる。
背後を振り向くと、そこには。
「し、師匠ぉ……」
カエデがひらひらと手を振っていた。
セル君久々? の長丁場でした。
今まで夢主との絡みがまったくなかったので、ここいらで入れておこうかと思った次第です。
言動に、というか表現が強引な部分が多々ありますが、すいません。
私の文章力不足です……
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