「しかし、まさかアンタが命令を拒否するとはね」
「仕方ない。重要な作戦っぽいから、失敗できないじゃないか」

 王宮を出て学園行きの馬車に乗ったかと思ったら、リリィはに向けてそんなことを口にしていた。
 大河が作戦を請け負うことで片がついたはずだったのだが、あまりにも危険だからという理由でダウニーが反対したのだ。


 …………


 救世主の鎧は、過去の救世主たちが身にまとったことで暴走し、大勢の人々の犠牲を払って自らと共に破滅を終息させた。
 さらに、その鎧に幾多の救世主たちの怨念が取り憑き、身にまとった者を破滅に導くと言われるまでになってしまった。
 しかも、何度破壊を試みても、発見されるのは破壊に行ったはずの者の死体ばかり。
 つまり、生き残れる確率はあまりにも低いということなのだ。
 ダウニーが危険だと声高に叫ぶのも無理はない。
 しかし、彼の『反対』という言葉には、もう1つの意味があった。

 それは、救世主の鎧を破壊ではなく利用すること。
 数多の救世主候補達が破壊に赴き、失敗を重ねるほどに明確な大きな力を持っているのなら、破滅に対抗するために利用するべきではないかと。
 つまり、鎧の破壊自体に反対しているのだ、彼は。

 鎧の破壊はすでに話し合いを終えており、破壊するという結論に至っていたようだが、彼自身は納得しきれていない部分があるようで、破壊することを散々渋っていたのだが。

「…わかりました。わたしもこの任務に同行しましょう」

 構いませんね?

 ダウニーは、これ以上は譲れない、と言わんばかりに学園長を凝視していたのが妙に印象的だった。



Duel Savior -Outsider-     Act.55



 ダウニーの同行については、クレアの鶴の一声で決まった。
 いかに大河が強くても、自分の背中まで守ることは出来ないだろう、と。
 学園長は複雑な表情をしていたが結局折れ、ダウニーが大河に同行することとなっていた。



「アンタの力は、ここにいるみんなが認めてる。大体、魔力的攻撃に弱いなんて…聞いたこともなかったわよ?」
「当たり前だろ、言ってないんだから」

 学園まで向かう馬車の中。
 じとりとを見つめているリリィの視線をよそに、さらりとは答えを返した。
 今まで、彼が魔法による攻撃を受けたことは数えるくらいしか知らない。
 能力測定試験の時だって、リリィの魔法をくらってダメージを受けていたわけではないのだから。
 せいぜい図書館探索の時くらいだろうか。
 死にかけの身体にムチ打って、イムニティと激戦を繰り広げていたのだから。

「とりあえず、大河。悪かったな、代わってもらって」
「な〜に、気にすんなって。そうだな…あとでちょっと付き合ってくれれば、それでいいぜ?」
「? あぁ……お安い御用だ」

 からからと笑って見せる大河に一抹の不安を感じながらも、先ほどから顔色の優れない未亜を見やる。
 兄である大河を危地に行こうとしているのだ。
 唯一の肉親が死んでしまうかもしれないと思えば、塞ぎこむのも仕方ないというものだ。

 あとできっちり片をつけておかないと。

 明朝までに起こるひと騒動を前に、は決意をしたのだった。














「ふぁ〜…王宮からここまで馬車で護送とは恐れ入ったぜ」
「それだけ私たちが期待されてるってことでしょ?」

 校門前で馬車を降りると、大河は大きく身体を伸ばした。
 狭い馬車の中に8人。
 窮屈なことこの上ない。

「そう言えば、部屋を出るとき、大河殿だけ呼び止められていたでござるな」
「ん? ああ」
「なにか内密の話でもあったの?」

 そう尋ねるリリィに苦笑して頭を掻くと、つい先刻へと思考を飛ばした。


 ……


 破滅の将たちが破滅の救世主を誕生させると言っていた。
 つまり、裏を返すと今はまだ破滅側にも世界を滅ぼすための決定的な要素が欠けているということにもつながる。
 ……鎧は、絶対に渡すわけにはいかない。
 どんな犠牲を払ってでも、それを止めなくてはすべての宇宙から命という命が消える。

「これは、あなたへの私からの餞別です」

 学園長が渡してきたのは、蓋まで硝子で出来た小瓶だった。
 彼女曰く、王都の大聖堂で選別した聖水入りの小瓶らしい。
 明日赴くダンジョンは、かつて鎧に取り殺された者たちの恨みの溜まり場。
 いざという時に身体に振りかけて身を守れ、と。
 彼女はそう大河に告げていた。


 ……


「いや、大したことじゃないよ。気にしないでいい」
「そう……」

 リリィにそう告げて、大河は苦笑したのだった。








「そうだ、それじゃ今晩、みんなで壮行会しない?」

 唐突に口にしたのはベリオだった。
 明日から大河だけ別々に行動するということで、寂しいという話になったのだ。
 今まで一緒に戦ってきた仲間なのだから、そう思うのも無理はない。
 本来なら部屋に戻って休むのがベストなのだが、

「…悪くないな」

 彼女の提案に最初に賛成したのはだった。
 大河のことは信頼している。
 でも、何が起こるかわからないから、せめて応援を形にしたかったのだ。

「大河君1人で危険な任務に行くんでしょ? わたしたちだって、大事な任務に行くんだし。みんなの無事と、再会を祈って……」

 実にベリオらしい考えでもあった。
 クラス全体の士気を上げるにももってこいの提案。

「賛成でござるっ!」
「うん、わたしも賛成」
「良い考えだと思います」
「楽しいことはいいことですの〜」

 口々に笑みを浮かべた。
 唯一賛成の声を上げなかったリリィも、多数決ですでに決まってるようなものだから、などと口にしていたが、内心では嬉しいに違いない。

「それじゃ決定。今から料理とか準備しよっかな。未亜さん、手伝ってくれる?」
「はい、もちろん!」
「俺も行こう。材料斬りなら任せなさい」

 ぐっとは刀の柄を目の前に上げて見せた。
 2人は多少ひき気味ではあったが、他にやることもないので首を縦に振っていた。
 カエデは飲み物の手配を。
 リリィは場所の確保を。
 リコとナナシで、その他の雑用を。
 それぞれ仕事を割り振って、事に当たることになった。
 ちなみに、大河は役立たずなので部屋で待機だったりする。





「それじゃ、手早くやってしまいましょうか。君は、料理は?」
「サバイバル的なものなら。結構旅ばっかりしてたからな」
「そうですか…じゃあ、とりあえず私の指示どおりに材料を切ってください」
「よし、まかせろ」

 ちゃき、刀に手を添えて、グッとサムズアップ。
 ベリオは苦笑していたが、の知るところではない。
 それじゃあ材料を取ってくるから、とベリオは学食の奥へと消えてしまい、と未亜が取り残されていた。

「「…………」」

 無言。
 は先ほど決意したばかりなのに、どこか気まずい。

「「あの……」」

 互いの台詞がシンクロする。
 なんていうか、今のような展開にはありがちなことだが、

「……そちらから、どうぞ」
「いえ、君から」

 こんなやり取りも、実にありがちである。
 さらにしばらく無言が続いたのだが、

「あの…ね? その、さっきはごめん」
「………?」

 先にしゃべり始めたのは未亜だった。
 このままでは埒があかないと踏んだのだろう。
 コンロを目の前に少しうつむき加減で、整った眉をハの字にしながら口を開いていた。

「王宮で、その……」
「……いや」

 同じことを考えていたのだ。
 先刻の王宮でのやり取りのことを。
 唯一の肉親である大河が危地に赴くということで、家族として気が気でなかったのだ。
 に詰め寄るのも無理はないだろう。

「あれは、俺が悪いんだ。大事な兄貴に無理やり…」
「ううん、わたしも気が動転してて……」

 ヘンなやり取りだ。

「お互いにごめんなさいってことで、水に流そっか」
「……君がそれでいいなら」
「じゃあ、決定」

 互いに顔を見合わせて、笑った。
 うなずきあい、料理の下準備を始める。
 調理器具を洗浄してみたり、ベリオの手伝いをしに向かったり。
 途中でどこからか飲み物を調達してきたカエデが合流し、「つまんないですの〜」と愚痴りながら学食の机にナナシが突っ伏していたり、リリィが投げた野菜をが斬り刻んで盛大な拍手をもらって照れていたり。
 軽口を叩きながらも、和気藹々と準備は進んだのだった。






55話、壮行会イベントでした。
PC版ならここで年齢指定のシーンが入るわけですが、なんとか回避させます。
我がサイトは健全です(爆)!!


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